チュニジア : クラン・コラ・ブログ（アイルランド音楽の森）

４月17日・土

　ECM のニュースレターで Anouar Brahem が ECM デビュー30周年。Barzakh, 1991 は確かに衝撃だった。1998年の Thimar がつまらなくて、あれは日和ってるよねえ、と星川さんと意見が一致し、それに引き換え、Barzakh は凄いと盛り上がったこともあった。やはりあれが一番かなあ。The Astounding Eyes Of Rita は良かった記憶がある。もう一度、全部聴いてみるか。

Barzakh by Anouar Brahem

Anouar Brahem

ECM

Conte de L'Incroyable Amour (1991)

Madar (1994)

Khomsa (1995)

Thimar (1998)

Astrakan Cafe (2000)

Le Pas Du Chat Noir (2001)

Le Voyage De Sahar (2006)

The Astounding Eyes Of Rita (2009)

Souvenance (2014)

Blue Maquams (2017)

　2021 フィリップ・Ｋ・ディック賞は４月２日に発表になっていた。15日と思いこんでいた。結果は受賞作が

ROAD OUT OF WINTER by Alison Stine (Mira)

Road Out of Winter: an apocalyptic thriller (English Edition)

Stine, Alison

MIRA

2020-09-01

Special citation was given to:

THE BOOK OF KOLI by M. R. Carey (Orbit)

The Book of Koli (The Rampart Trilogy 1) (English Edition)

Carey, M. R.

Orbit

2020-04-14

　では、スタインの本から読むぞ。しかし、これハーレクインの Mira からの刊行で、そこがまた面白い。Michelle Sagara の Chronicles of Elantra のシリーズも今は Mira から出ている。ハーレクインは邦訳もどんどん出してるようだが、昔ながらのロマンスもの中心にごく一部のみ。ディック賞獲ったからって、出さねえだろうなあ。

　New York Times のジェフ・ヴァンダミアのインタヴューで名前の出てくる作家は見事なまでにまったく知らない。まあ、ここで名前を知って読みゃあいいわけだが、それにしても、だ。いわゆるＳＦＦプロパーの名前が出てくるとほっとする。でも、この部分はちょっとメジャーすぎないか、と思えるほど、他の人たちの名前をちらりと聞いたことすらない。いったい、どこでこういう本や書き手を見つけるんだろう。いや、もちろん、あたしなんぞとは次元が違うほど遙かに広く目配りはしてるんだろうけどさ。

　で、そのヴァンダミアが薦める The Traitor by Michael Cisco を注文。

The Traitor (Cheek Frawg's Weird Summer Reading Series) (English Edition)

Cisco, Michael

Cheeky Frawg

2013-08-26

　この本についてのヴァンダミアのブログ。

　この人は一応ホラー中心に書いてるらしい。

　散歩の供はShow Of Hands, 24 MARCH 1996: Live at the Royal Albert Hall。

Live at the Royal Albert Hall

Show of Hands

Imports

2014-01-21

　あらためて聴くとシンガーとしてのナイトリィの良さが印象的。曲としてそれほどではないものでも、歌唱で聴かせてしまう。この頃のライヴではやはりかれのヴォーカルが人気を培っていったのだろう。これを小さな会場で聴けば圧倒的ではなかったか。もちろんそれを活かし、刺激を与えていったのはビアだったわけだが、本人の精進も相当なものだったはず。

　録音がすばらしい。ということは会場の音響も良かったにちがいない。

　Galway Farmer は Skewball のヴァリエーションで、わが走れコータローのいとこでもあるが、このストーリーはやはりウケる。

　女性シンガー、すばらしい、誰だっけ、と帰ってから見ると Sally Barker だった。そういえば、最新作を買うのを忘れてた。

　それにしても四半世紀経ってしまった。（ゆ）

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　８月末に四谷・いーぐるの連続講演としてやりました「イスラームの音楽」楽曲解説の前半です。

　なお、各曲の年号は（）なしのものは録音年、（）に入れたものはリリース年です。

01. イブラヒム・チェナッカレリ、フェヴズィ・ムスル、ユスフ・ゲブゼリ、アズィズ・ハブリエリ

〈アザーン〉

《偉大なるクルアーン　イスラムの栄光：イスタンブールのコーラン朗誦》 1985-05, 11:40

　まぎれもなくイスラームから生まれたものではありますが、イスラームだから聴いたのではない、ということではこれは最たるものです。たとえアラビア語がわかったとしても、ぼくにはこれは歌としか聞こえないでしょう。

　ムスリムにとって基本的な義務のひとつに１日５回のお祈りがあります。「アザーン」はその祈りの時を告げ、お祈りしなさい、モスクにいらっしゃいと訴えるものです。アザーンをする人をムエッジンと呼びます。その嚆矢はムハンマドの時代、解放奴隷だった黒人だそうです。以来、ムスリムがいて、モスクがあるところでは基本的にどこでも毎日おこなわれているわけですが、もちろん無数にいるムエッジンがすべて名人であるはずはありません。中にはこんなんじゃお祈りする気になれないどころか、ムスリムもやめたくなるような人もいるようです。また、録音を拡声器で流すだけのところも多いと聞きます。

　とはいえ、本物の名人によるアザーンは圧倒的に魅力的で、これを聞いているだけでイスラームに改宗してしまいそうになるのも事実です。この録音はイスタンブールの主要モスクの名人４人によるもの。音楽として演奏しているわけではありません。また、リスナーを楽しませようという意図もかけらもありません。にもかかわらず、あるいはそれ故に、これは究極の声楽、歌謡芸術であり、最高のエンタテインメントになっています。

　仮にもイスラームの音楽という看板を掲げたので、アザーンによってまずはその場に来ていただきました。そこで、ヴィンテージ録音を２曲聞きました。一つはポピュラー音楽で声楽、もう一つはクラシックで器楽です。

02. Asmahan〈Ya Layali Sl Bichar（良い知らせの夜）〉, 1941, 5:37

　アシュマハーン、本名アマル・アル・アトラシュはウンム・クルスームと同時代にエジプトで活躍したシンガーで映画俳優です。ムスリムではなく、ドゥルーズ教徒の家に生まれています。ドゥルーズ教はレバノン、シリアに数十万の信徒がいると言われる少数宗敎です。一神教多神教を問わず、既存の大宗敎のものを全部入れこんだような教義らしい。アシュマハーンの父親はトルコ南部の地方知事で、幼い頃は王侯貴族の生活だったそうです。それが何らかの事情で母親が離縁され、母親はアシュマハーンとその兄を連れてエジプトに移り、ここでシンガーとして身を立てます。その流れで兄妹も音楽とエンタテインメントの世界で仕事を始めます。兄ファリドは作曲もしています。1944年に23歳で死ぬまで活動期間は10年ほどですが、シンガーとしての実力と美貌、奔放な生活で、当代並ぶ者のないスターであり、最初の映画スターの一人でした。長生きしたらクルスームを凌いでいただろうという説もあります。交通事故とされているその死に方は謎が多く、当時から殺されたという説が唱えられていました。当然録音はＳＰ盤しかありませんが、ほぼ全部がCD復刻されています。クルスームが荘重で崇高なら、アシュマハーンは華麗にして妖艶です。

03. Sami al-Shawwa〈raqşat al-badawiyya〉《PRINCE OF THE VIOLIN》(2015), 3:37

　サーミー・アル・シャウワー (1885-1965) はアレッポのシリア正教徒の一族出身のヴァイオリニストです。代々音楽家の家系で、父祖はトルコやエジプトの宮廷で演奏していました。この人はおもにエジプトで活躍し、西欧流のヴァイオリン奏法を本格的にこの地域の音楽に持ちこむことに成功し、アンサンブルの形やレパートリィも含め、後世に圧倒的な影響を与えています。"raqs" というのも、この人の創始になるダンス・チューンを基にした即興の形式です。没後半世紀ということで、今年その録音を集大成した四枚組のボックスセット《PRINCE OF THE VIOLIN》が出ました。これはその中の１曲。

　ここからは現代の録音を聞いていきます。ミュージシャンの出身地により、おおむね西から東へ向かいます。

04. Hassan Erraji〈Safir（道中無事で）〉《AWAL MARA（一目惚れ）》(2010), 03:45

　まずはモロッコのハッサン・エッラジ。元はウード奏者ですが、打楽器もやり、その後カーヌーンもやり、歌もうたうというマルチな人です。なお、先天的に全盲です。1990年前後に、フランス出身のベーシスト、打楽器奏者と組んで、伝統的なものとは一味違う冒険的アンサンブルの録音をたて続けに出して注目されました。その後表舞台からは引っこんでいましたが、2010年に久しぶりに出したこの録音で健在なところを聞かせてくれました。

05. Lili Boniche〈Sberne le tehen〉《IL N’Y A QU’UN SEUL DIEU: Live a l’Olympia》(1999), 07:24

　次はアルジェリアのシンガーでぎっちょのギタリスト。この人は実はアシュマハーンと同時代から活躍しています。セファルディム系ユダヤの家系の出身で、第二次世界大戦をはさんでスターとなりました。ちなみにこの辺りではアラブ名を名乗り、地元やフランスのアルジェリア人コミュニティでスターとなったユダヤ人は珍しくありません。

　リリ・ボニーシュは一時音楽業界からは離れていましたが、1980年代末に「再発見」され、ビル・ラズウェルがプロデュースし、参加したアルバム《ALGER, ALGER》がヒットして、折りからのワールド・ミュージック・ブームに乗ります。来日もしたそうです。その第二の絶頂期にパリのオランピアで録音されたライヴ。アルバム・タイトルはムスリムの義務のひとつである「神は唯一にしてアッラーの他に神無し」という信仰告白と思われます。ここではマグレブの音楽の基本形にならい、初めにソロ楽器による自由リズムによる即興が展開されてからおもむろにビートに乗って歌がはじまります。このウードとそしてピアノによる即興が聞き物です。

06. Dorsaf Hamdani & Ali Reza Ghorbani〈Eivirement（昂揚）〉

《IVRESSES（歓喜）》(2010), 6:08

　アルジェリアの東隣チュニジアはカルタゴに代わって地中海貿易のマグレブ側拠点として栄えました。文化的にもエジプトと並んで、中心地のひとつでした。音楽的にはアルジェリアやモロッコがやや重くなる傾向があるのに比べると、軽快で明朗、洒脱なところがあります。

　ドルサフ・ハムダニはチュニジア出身のまだ若い女性シンガーで、これが録音デビューになります。ペルシア（イラン）のシンガー、アリ・レザ・ゴルバニと組んだこの録音では、地域や宗派の違いを超えた融合と、そこから現れる各々の特色の分離の混在がとてもスリリングです。この後、正統的なアラブ・アンダルース音楽の録音も出しますが、ここに現れた冒険精神は健在です。

　ゴルバニもまた優れたシンガーで、ソロがあります。小泉文夫が世界最高の歌と呼んだ喉をふるわせるアーヴァーズの名手なのは当然ですが、こうした異種交配を厭わない柔軟性も備えています。

　アラブ・アンダルース音楽を基盤としたチュニジアの音楽と独自の長い伝統をもつイランの音楽が共演するのは、そう簡単なことではないでしょう。「イスラーム世界」というようなイデオロギーで見れば共通点が目につくかもしれませんが、まず言葉が違いますし、したがって音階やリズムでも違いの方が大きい。一方で９世紀の昔にジリヤーブがアラブ・アンダルース音楽を創始したのは、ペルシア音楽の要素を導入して新たな音楽を造ったために師匠の嫉妬を買い、バグダッドを追われてコルドバに移ったからとも言われます。とすれば、この２人の共演は千年前に道を分った２つの流れが再び合流したともいえます。

07. Dhafer Youssef & Husnu Senlendirici Group〈Odd Poetry〉

《2011-07-28 Schlossfestspielen, Ludwigsburg, Germany》, 9:33

　チュニジア出身をもう一人。ダファー・ユーセフはウード奏者でシンガー。地元で伝統古典音楽の訓練を受けた後、ドイツに渡り、ジャズや現代音楽に軸足を置いた活動をしています。ファルセットの一種だと思いますが、あるいはまったく違うかもしれません、ひじょうに高い特異な声を駆使します。チュニジア出身のウード奏者としては Anouar Brahem もいて、ECM からアルバムをリリースしていますが、端正なブラヒムに対して、ユーセフはワイルドで鋭い。

　ここでの相棒のヒュスニュ・センレンディリッチはトルコ出身のクラリネット奏者。もとはトルコ古典音楽の演奏家であり、そちらでも Taksim Trio の録音が有名です。

08. Talip Ozkan〈Bozlak（ディヴァン・サズによるアブダル族の音楽）〉

《TURQUIE: L'art vivant de Talip Ozkan》, 1980-09, 9:41

　エジプト、パレスティナ、シリア、イラクなどの中東地域ももちろん音楽は盛んですが、今回はすっ飛ばしましてトルコ。

　タリップ・ウズカン (1939-2010) はトルコのサズ、タールの演奏者で研究者でもありました。少ないですが歌をうたうこともあり、こちらも渋いです。この録音は全篇サズのソロ演奏ですが、サズは各種サイズのものを使っており、今回聞いたのはディヴァン・サズという大型のもの。深い響きに引き込まれます。アブダル族はアナトリア中部に住む放浪民だそうで、ジプシーとは血縁はないとされています。即興の才に富む人びとの由。この曲もどこまでが決まった旋律でどこから即興なのかさっぱりわかりませんが、楽器の響きを最大限に利用した内省的な演奏には時の経つのを忘れます。

　トルコはオスマン朝の宮廷向けに古典音楽があり、軍楽隊があり、各地の民衆の伝統音楽があります。早くから音楽産業が起こり、ポピュラー音楽も盛んで、それだけでひとつの小宇宙と言える世界です。もっとも、オスマン朝支配下だった地域、バルカンやギリシャ、東欧の音楽まで「トルコ音楽」と呼ぶかはなかなか微妙なところがあります。

　このあたりは「イスラーム世界」という枠組のいかがわしさともからむところです。クリスチャン、ムスリムは混住しており、奉ずる宗敎によって楽しむ音楽が異なっていたわけではないからです。というよりも、アシュマハーン、サーミー・アル・シャウワー、リリ・ボニーシュなどの例もあるように、宗教によって音楽が別れていたわけではありません。

　これに関して余談をひとつ。かつてノーザン・アイルランドではカトリックもプロテスタントもともにアイリッシュ・ミュージック、アイルランドの伝統音楽を楽しんでいました。ところが、1970年代以降、いわゆるノーザン・アイルランド紛争が激しくなると、プロテスタントはアイリッシュ・ミュージックの現場から姿を消していきました。

　トルコに話をもどせば、そういう中でどれを選ぶかは難問で、一時はいっそトルコは飛ばすかと思ったりもしましたが、最後の最後で思い切ってこれを入れました。自分が聞いた中では１番好き、というだけの理由です。これを「いーぐる」のシステムで聴けたのは、今回個人的には１番の収獲でした。

　ここで休憩をはさみました。（ゆ）

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