クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ヒロイック・ファンタジイ

1230日・木

 The Complete Chronicles Of Conan, Centenary Edition 着。ハワードの書いたコナンものを、未発表の原稿、草稿、断片にいたるまで原形のまま集成。ハワード生誕百周年記念版。早速編者 Stephen Jones の後記を一読。友人のホフマン・プライスが語るハワードのエピソードが面白く、無気味でもある。ホフマン・プライスとその新妻を乗せて車を運転していた時、不意にスピードを落とした。道端にちょっとした茂みが見えていた。助手席のホフマン・プライス越しにドア・ポケットから拳銃をとりだし、構えてちらりとあたりを見回し、ピストルを戻してまたスピードを上げた。

「まさかそんなことはないと思うが念のためだ。自分のように敵が多い人間はいつも用心していないといけない。味方でない者は敵だ」

 こういう感覚は母親が醸成したものだったのだろうか。

 この解説のネタになっている Weird Tales の表紙を描いた Margaret Brundage、ハワードの高校の教師 Novalyne Price Ellis の存在も興味深い。Brundage の絵は出来不出来が激しいが、良いものは時代を超えている。


 


 ということで、今年もおつきあいいただき、まことにありがとうございました。

 ##本日のグレイトフル・デッドは1年一周するまで続きます。来年はいよいよ腰を据えてデッドを聴く予定。他のことをする余裕はおそらく無いでしょう。手許にある公式リリースされたショウのアーカイブ音源は現在トータル760時間強。毎日3時間聴いて250日超。公式以外にも聴きたい、聴かねばならぬものはたくさんあります。幸い、デッドのショウはいくら聴いても飽きるということがありません。というよりも、聴けば聴くほどもっと聴きたくなります。本当に良い音楽とはそういうものではあります。

 植草甚一がジャズについて書いた最初の文章は「ジャズを聴いた600時間」でした。あたしもまずは「グレイトフル・デッドを聴いて1000時間」を目指すことになりましょう。植草がジャズを聴きだした年齡からは20年ほど遅れていますが、人間の器からすればそんなものです。あれほどアメリカ文化に精通した植草もわからなかったデッドに、還暦過ぎてハマるのも、ひとつの縁ではあります。もっとも、ライヴのアーカイブ録音がこれだけ出なければ、あたしにしても、やはりわからないままではあったでしょう。植草にしても、アメリカ文化の全部をわかっていたわけではなかった。1人の人間にそれは無理です。一方で今グレイトフル・デッドを相手にすることは、アメリカの文化全体を相手にすることでもあります。

 とまれ、デッドにならって、ノンシャランと真剣にまいるといたしましょう。


 という舌の根も乾かぬうちに、正月はマーティン・ヘイズの回想録を読まねばなりません。いや、面白い。


 では、皆さま、よいお年をお迎えください。



##本日のグレイトフル・デッド

 1230日には1966年から1991年まで16本のショウをしている。この数字は28日に続く3番目。公式リリースは3本。


01. 1966 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 2日連続の年越しショウ1日目。ジファーソン・エアプレイン、クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスとデッドという顔ぶれ。2.50ドル。午後9時〜午前2時とチケットにある。セット・リスト不明。


02. 1967 Psychedelic Supermarket, Boston, MA

 前日に続く2日目。この年最後のショウ。この2日間のショウはもともとは12-08/09 に予定されていた。

 かくて、ファースト・アルバムを出し、ロバート・ハンター、ミッキー・ハートが加わった、バンドとしての本格的な始動の年が暮れる。


03. 1969 Boston Tea Party, Boston, MA

 大晦日に向けての3日連続のランの中日。


04. 1977 Winterland, San Francisco, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。第二部3曲目〈Estimated Prophet〉からクローザー〈Sugar Magnolia〉までが《Dick’s Picks, Vol. 10》でリリースされた。

 見事な演奏だが、とりわけ〈Estimated Prophet〉のガルシアのソロが尋常でない。時折りガルシアの演奏を他の全員がサポートする、通常のジャズのような形になることがある、その一つだけれど、このソロはキャリア全体を通じてもベストの一つ。〈St. Stephen〉はこの曲の最後から2番目の演奏。最後の演奏は翌年の大晦日。


05. 1978 Pauley Pavilion, University of California, Los Angeles, CA

 前売8.50ドル、当日10ドル。開演7時半。とりわけ第二部が良い由。


06. 1979 Oakland Auditorium, Oakland, CA

 大晦日に向けての5本連続のランの4本目。

 このショウでは廊下で踊る連中のために外にもスピーカーが備えられた。第二部 Space のすぐ後の〈Truckin'〉の最中、ダンスがあまりに激しく、床が抜けた。ビル・グレアム・プレゼンツのスタッフはたちまち修理し、翌日行ってみると真新しいコンクリートの表面に「〈Truckin'〉の追憶のために」という趣旨のことばが彫ってあった。


07. 1980 Oakland Auditorium, Oakland, CA

 大晦日に向けての5本連続のランの4本目。


08. 1981 Oakland Auditorium, Oakland, CA

 大晦日に向けての5本連続のランの4本目。


09. 1982 Oakland Auditorium, Oakland, CA

 大晦日に向けての5本連続のランの4本目。13.30ドル。開演8時。エタ・ジェイムズとタワー・オヴ・パワーがアンコールで参加。


10. 1983 San Francisco Civic Center, San Francisco, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。開演8時。オープナーの2曲〈Bertha > Greatest Story Ever Told〉が2018年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。

 〈Bertha〉の4:00直前から10秒ほど音が途切れる。なんらかの事故で音が入っていないらしい。もっとも良い AUD があれば今ならばつなぐのは可能なはず。"anymore" の繰返しは10回。GSET ではヴォーカルの裏でガルシアがすばらしいスライドを聴かせる。

 どちらも元気いっぱいの演奏で、オープナーでこれなら全体も良いにちがいない。いずれ全体のリリースを期待。


11. 1985 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA

 大晦日に向けて2日連続の初日。15ドル。開演8時。15ドル。開演8時。第二部オープナーの〈The Mighty Quinn (Quinn The Eskimo)〉が《Postcards Of The Hanging》でリリースされた。

 ガルシアの持ち歌で、デッドとしてはこれが初演。この後はアンコールで演奏されることが多い。ちなみにこの日のアンコールは〈It's All Over Now, Baby Blue〉。

 原曲は《The Basement Tapes》セッションの1曲で、その録音は《The Bootleg Series, Vol. 11: The Basement Tapes Complete》で初めて公式リリースされた。ディランの公式リリースとしては《Self Portrait》でのワイト島フェスティヴァルでのライヴ録音が初出。


12. 1986 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA,

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。開演8時。ネヴィル・ブラザーズが前座。第二部にも参加した由。 Drums にハムザ・エル・ディンが参加。

 この年、コリシアムはヒューイ・ルイスが押えたために、ビル・グレアムはこの年越しランをずっと狭いこのヴェニューにせざるをえなかった。


13. 1987 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。17.50ドル。開演7時。


14. 1989 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。20ドル。開演7時。


15. 1990 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。22.50ドル。開演7時。ブルース・ホーンスビィ参加。第一部クローザーは彼の〈Valley Road〉。


16. 1991 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。23.50ドル。開演7時。第二部半ば Drums に先立つジャムから Drums にアイアート・モレイラが参加。(ゆ)


1216日・木

 Grimdark Magazine 記事を見て、Conan's Brethren をアマゾンで購入。紙版はハードカヴァーは200ドル、トレード・ペーパーは皆無。よって Kindle 版を購入。

Conan's Brethren (English Edition)
Howard, Robert E.
Gateway
2011-04-28


 The Complete Chronicles Of Conan の姉妹篇として、同じく Stephen Jones が編集して、Solomon KaneKull of ValusiaBran Mak Morn などの、コナン以外のハワードのヒーローものを集めた1冊。編者の後記は各々のヒーローの経歴を詳細に語る。パルプ雑誌、コミックスのカヴァー多数。コナンは一通り読んだが、こちらはまったく未読。

 面白いのはコナンものもそうだが、中篇が短篇より多いこと。こういう話はやはり中篇になるのだろう。

 巻頭のハワードの「序文」が面白い。これは Harold Preece とラヴクラフトの各々にあてた書簡から抜粋して組み立てたものの由だが、スコットランドの先住民の一つであるピクト族になぜかひどく惹かれたことから、ソロモン・ケインやブラン・マク・モーンが生まれた経緯を語る。むろんハワードが惹かれたピクト族は歴史に存在した人びとが元になってはいるものの、完全に架空の、ハワードが想像した人間たちであることは本人も自覚している。一方でハワードはスコットランド、アイルランドの歴史については相当に勉強している。オタクと言っていい。

 初めはソロモン・ケインものが並ぶ、その先頭に "Solomon Kane's Homecoming" という詩が掲げられている。ドナルド・ウォルハイムが Wilson Shepherd と出した創刊号だけで終った同人誌 Fanciful Tales of Time and Space に、死の直後1936年に掲載されたものだそうだが、これがなかなか良い。ラヴクラフトの言うとおり、伝承バラッド、叙事詩の趣がある。これだけで立派な1個の短篇になっていて、しかも、この話はこういう形でしか語れないと思わせる。ヒーローの最後とはこういうものでしかありえない。

 ISFDB のハワードの項を眺めていると、あらためてその執筆量の大きさに圧倒される。小説はもちろんだが、それに加えて、ラヴクラフトはじめ、膨大な書簡を書いてもいる。詩も多い。バートランド・ラッセルが書き残したものの量の多さは伝記作者には重圧だと、その伝記を書いたレイ・モンクが嘆いていたが、ラッセルは90年生きた。ハワードの活動期間は10年だ。

 ハワードは自殺だが、短期間に膨大な量の、質の高い小説を量産したことでは長谷川海太郎に比肩あるいは凌駕する。ハワード1906-01-22/1936-06-11。長谷川 1900-01-17/ 1935-06-29、それにスコットランドのルイス・ギボン 1901-02-13/1935-02-07 とほぼ同時期。3人いれば偶然ではなくなる。20世紀最初の35年に何があったのか。



##本日のグレイトフル・デッド

 1216日には1968年から1994年まで5本のショウをしている。公式リリースは完全版が1本。


1. 1968 The Matrix, San Francisco, CA

 ウィアとピグペン抜きの Mickey Hart and Hartbeats 名義。テープにはいずれも40分前後のジャムが2本入っており、前半に Jack Cassady Spencer Dryden、後半に Jack Cassady David Getz が参加している。

 スペンサー・ドライデン (1938-2005) はジェファーソン・エアプレインとニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジのドラマー。

 デヴィッド・ゲッツ (1940-) はビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーとカントリー・ジョー&ザ・フィッシュのドラマー。

 厳密にはデッドのショウとは言えないし、テープの存在のみで知られるイベントで、サンフランシスコ・クロニクルには広告も記事も、このイベントに関するものは皆無だそうだ。


2. 1978 Nashville Municipal Auditorium, Nashville, TN

 8ドル。開演7時。


3. 1986 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA

 16.50ドル。開演8時。このヴェニュー3日連続の中日。

 第二部 Drums から〈Iko Iko〉までとアンコール〈In The Midnight Hour〉にネヴィル・ブラザーズが参加。


4. 1992 Oakland Coliseum Arena, Oakland, CA

 開演7時。このヴェニュー4本連続の3本目。《Dick’s Picks, Vol. 27》で全体がリリースされた。


5. 1994 Los Angeles Sports Arena, Los Angeles, CA

 このヴェニュー4本連続の2本目。全篇ブランフォード・マルサリスが参加。(ゆ)


7月1日・金
 
 Centipide Press や Subterranean Press はモノはいいんだが、送料がバカ高くて困る。かれらのせいではないかもしれないが、本体とほぼ同じとか、本体より高い。PS Publishing も直販オンリーだが、イングランドは大英帝国の遺産で、送料は上がってきてはいるものの、相対的に安い。

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 ファファード&グレイ・マウザーの5冊めにして、唯一の長篇。本文は複数持っているが、今回これを買ったのは付録のため。オリジナルは1968年1月、Ace Books からペーパーバック・オリジナルとして出た。この時、Ace の編集者ウォルハイムの要請で、ライバーは「エロが過ぎる」とされた個所を削除した。その顛末を詳細に綴り、削除した部分も載せたのが "Sex and the Fantasist" で、1982年に Fantasy Newsletter に2回に分けて発表。今回はそれ以来初めて活字になった。初出誌は今さら手に入るはずもなし(こういうもの、国内で揃えてるヤツなんかいるのか)、これはまことにありがたい。それにしてもこのエッセイのシリーズ、全部ちゃんと読みたいぞ。Locus にライバーが長いこと連載していたエッセイのシリーズもまとまっていない。Locus がまだタイプ原稿を版下にしていた頃からだから、電子化もままならないか。

 ここにはさらに "The Mouser & Hisvet" なるセクションがあり、ISFDB にも記載が無い。Centipede の仕事は徹底していて、ヒューストン大学図書館所蔵のライバー関係書類の中にある Swords のオリジナル原稿にもあたったらしい。すると、上記エッセイで触れられているもの以外にも削除された部分があることが判明した。こちらはまとまった削除ではなく、分散しているので、それを含む8章と13章の各々の個所を削除されたテキストをゴチックで復刻して提示したもの。マウザーとヒスヴェットのラヴ・シーン。

 もう一つ、最後の "The Tale of the Grain Ships" は書き始めて途中で放棄した長篇の冒頭部分。大長編になるはずだったらしい。後1960年に名編集者シール・ゴールドスミスのために "Scylla's Daughter" として書きなおし、ウォルハイムの要請でこれをさらに加筆改訂して本書の長篇になる。この断片は New York Review of Science Fiction, 1977年5月号に発表されて以来の活字化。

 Centipede のこのシリーズは年1冊のペースだから、あと2年。付録に何が入るか楽しみではあるが、完結まで生きていられるか。(ゆ)
 

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