クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ヘッドフォン

08月27日・土
 Raal CA-1a は聴いてみたい。

 初代は頭の両側に垂らす形で、試す気にもなれなかったが、こちらは普通のヘッドフォンの形。装着感は初代より遙かに良さそうだ。問題は国内販売されるのか。初代よりも1,000ドル安いが、円安のせいでほとんど帳消しになる。まともに行けば、国内価格は初代より高くなってもおかしくない。となると、ただでさえやる気の無さそうな代理店は諦めてしまいそうだ。国内販売がされないと試聴ができないのが困る。同じ代理店がやっていた Dan Clark Audio はフジヤエービックが引き継いだが、こちらはどうだろう。HEDDphone もそうだが、こういう斬新で風変わりな方式のヘッドフォンはどうしても価格が高くなることもあって、なかなか売れない。今、ヘッドフォンは、無線かゲーミング・ヘッドセットしか売れんからねえ。


%本日のグレイトフル・デッド
 08月27日には1966年から1993年まで6本のショウをしている。公式リリースは完全版が1本。

1. 1966 I.D.B.S. Hall, Pescadero, CA
 土曜日。このヴェニュー2日連続の初日。「Tour Del Mar ツール・デル・マール 自転車レースとフォーク・ロック・フェスティヴァル」と題されたイベント。コンサートは正午から午後5時まで。夜は8時からダンスとなっている。
 クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、Collosal Pomegrante 共演。金曜日からの3日間のイベントだが、デッドは土日の2日間のみ出演。セット・リスト不明。
 ペスカデロはサンフランシスコから南に75キロ、太平洋岸沿いに南下して、少し東に山に入ったところ。
 Collosal Pomegrante は地元のローカル・バンドらしい。名前のスペルはポスターにある通り。

2. 1972 Oregon Country Fairgrounds, Veneta, OR
 日曜日。前売3ドル、当日3.50ドル。開演時刻が不明だが、昼間のショウ。ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ前座。ただしガルシア抜き。
 ケン・キージィの親族の経営する酪農場の財政支援のためのベネフィット・コンサート。だが、実際には屋外で囲いがまともになかったため、チケットを持たないファンが多数入りこみ、収入は期待通りにならず、デッドは自分たちで補填した、と言われる。集まったのは3、4万とされている。まことに暑い日で、周囲に水飲み場が無く、水を節約してくれ、と繰返し呼びかけられている。給水トラックが時折り回った。あまりに暑いので、聴衆の大半がステージから見て両脇の木陰に移動した。映画では聴衆がまばらに見えるのはそのため。陽が傾むくと、ステージが正面から陽光を浴び、頻繁にチューニングが必要になった。2度目の休憩は陽光から逃げるためだったらしい。第三部は〈Dark Star〉から始めて、延々と終らなさそうだったが、ここには照明の設備が何もないので、日没とともに終演となった。
 NRPS のステージの最中、パラシュートで降りてきた男がいた。計画されたものではない。なぜ、かれがここに落下傘降下したかは不明。
 第三部、クローザー前の〈Casey Jones〉の最中、敷地の南端を通っている線路を列車が通ってゆき、汽笛を鳴らした。

 当初のスケジュールには無く、タイプされたリストに後から手書きで書きこまれている。

 全体が撮影および録音され、"Sunshine Daydream" という映画として公開される計画だったが、制作途中のものを見たバンドとその周辺はその出来に失望した。そのため、計画は変更されて、メリー・プランクスターズの「アシッド・テスト」の映像を加えた形に編集しなおされ、ベイエリア周辺で数回、試写も行われた。が、結局デッドは企画にゴーを出さなかった。したがって公式な形では公開されていないが、ビデオとしては出回っており、YouTube にも上がっていた。
 この映画の DVD と、ショウの完全録音を収めた CD のセットが《Sunshine Daydream》としてリリースされた。その前に第三部3曲目の〈Sing Me Back Home〉が《So Many Roads》でリリースされている。

 この映画はまことに面白いもので、演奏するミュージシャンだけでなく、聴衆の様子もかなり撮っている。何も無いところにステージを設営するところから始まり、PAの設置、バンドの到着、サウンドチェックなどなど、ショウの舞台裏も見られる。冒頭、ビル・グレアムと見えるが、DeadBase XI ではケン・バブズとされている人物がメンバーを紹介して、クルーのリーダー、ラムロッド・シャートリフも紹介するのは異例ではあるが、当を得たものでもある。後半が当時流行のサイケデリックなヴィジュアルになってしまうのが惜しいが、これもまた時代の記録ではある。

 演奏はすばらしい。ピークのこの年のピークのショウの1本。


3. 1980 Pine Knob Music Theatre, Clarkston, MI
 水曜日。
 この年も全体に調子が良いが、この日は即興よりもどんどん曲を演奏する感じだった。

4. 1981 Long Beach Arena, Long Beach, CA
 木曜日。このヴェニュー2日連続の初日。
 第一部9曲目〈Cumberland Blues〉がとにかく良いそうだ。

5. 1983 Seattle Center Coliseum, Seattle, WA
 土曜日。13ドル。開演7時半。
 第一部2曲目で〈Deep Elem Blues〉を珍しくもエレクトリックでやったのがすばらしかった。第二部も良かったが、ツアーが始まったばかりのせいか、まだギアが完全にはまっていなかったらしい。ガルシアは歌詞を忘れる。

6. 1993 Shoreline Amphitheatre, Mountain View, CA
 金曜日。このヴェニュー3日連続のランの楽日。21ドル。開演7時。
 なかなか良いショウのようだ。(ゆ)

07月07日・木
 Audeze MM-500 は気になる。何よりも軽そうなのがいい。1,700ドル。円安で25万は下るまい。30万少し切るくらいか。LCD-X より高いなあ。しかし、国内販売されるのか。



%本日のグレイトフル・デッド
 07月07日には1969年から1989年まで7本のショウをしている。公式リリースは3本、うち完全版2本。

1. 1969 Piedmont Park, Atlanta, GA
 月曜日。公園でのフリー・コンサート。オールマン・ブラザーズ・バンド共演。
 8曲で2時間弱のテープが残っている。クローザー〈Turn On Your Lovelight〉にグレッグ・オールマンのものらしいハモンド・オルガンが聞える由。デュアン・オールマンもめだたないように入っているらしくもあるそうな。2人がここに入っていたという証言もある。このフリー・コンサートにはデラニー&ボニー&フレンズも出たという証言もある。

2. 1978 Red Rocks Amphitheatre, Morrison, CO
 金曜日。このヴェニュー2日連続の初日。8.25ドル。開演7時半。
 《JULY 1978: The Complete Recordings》で全体がリリースされた。
 U2の《Under A Blood Red Sky》の会場として有名なここでデッドがやるのはこれが初めて。1987年08月13日まで計20本のショウをしている。収容人員9,500の屋外アンフィシアター。デンヴァーから16キロ。岩山の中腹標高2,000メートル。風光明媚な Red Rocks Park の中。ステージの上以外、屋根はまったく無い。ロケーションも最高、雰囲気もよく、デッドが最も好んだヴェニューの一つ。〈Touch of Grey〉のヒットでこのサイズのヴェニューが使えなくなったのは、デッドにとって最も悲しいことの一つだった。

3. 1981 Kansas City Municipal Auditorium, Kansas City, MO
 火曜日。
 第二部2曲目〈Candyman〉が2017年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。
 テープの損傷か、音がところどころ震える。いるはずのないドナの声が聞えると思ったら、ミドランドのようだ。コーラスのアレンジを、ドナがいた時のままにしているのだろうか、それに合わせて高い声を出しているらしい。
 ガルシアはやや突き放して、あまり感情をこめずに歌う。これはそういう歌ではある。ギターはすばらしい。曲からはかけ離れた鋭どい演奏。

5. 1984 Alpine Valley Music Theatre, East Troy, WI
 土曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。開演7時。
 第二部がことに良いそうだ。

6. 1986 RFK Stadium, Washington, DC
 月曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。20ドル。開演4時。ディラン&トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとのツアーの楽日。夏のツアーの打ち上げ。
 第一部クローザーの2曲〈It's All Over Now, Baby Blue〉〈Desolation Row〉にディラン参加。第一部はわずか5曲の、おそらく最短記録。第二部2曲目〈Playing in the Band〉のジャムにはガルシア不在。
 暑いのはワシントンの夏としては異常ではないが、ガルシアは脱水症状を呈していた。翌日、カリフォルニアに帰り、その2日後の07月10日、ガルシアは昏睡に陥る。重度の糖尿病が直接の原因だったが、幻覚症状は精神的ダメージを意味した。ガルシアが死なずに意識を回復したことに医者たちは驚いた。ここまでの重病人が死ななかったケースをそれまで見たことが無かったからだ。ガルシアは自分の回復を無数のデッドヘッドたちが注ぎこんでくれたプラスのエネルギーに帰した。
 九死に一生を得たものの、損傷は大きかった。ガルシアはギターの弾き方すら忘れていた。周囲の人びとの献身的なサポートを受けて、長く苦しい復帰をめざす。しかし10月にはジェリィ・ガルシア・バンドでステージに復帰し、12月15日にデッドとしてステージに立ったのは、むしろ早かったと言えるかもしれない。
 半年のブランクは1970年代半ばの大休止と同様の効果をもたらす。ガルシアは食事に気をつけて節制し、ケミカルもほぼ断つ。そうしてとり戻した健康によって、その後、1987年から1990年にかけて第三の黄金期を現出する。

7. 1987 Roanoke Civic Center, Roanoke, VA
 火曜日。このヴェニュー2日連続の初日。15.50ドル。開演7時半。
 第一部クローザー前の〈Bird Song〉で、サウンド・エンジニアのダン・ヒーリィが、小鳥の啼き声の効果音を加えた。

7. 1989 John F. Kennedy Stadium, Philadelphia, PA
 金曜日。開場1時、開演5時。
 第一部クローザー〈Blow Away〉が《Beyond Description》所収の《Built To Last》のボーナス・トラックでリリースされた後、《Crimson, White & Indigo》で全体がリリースされた。(ゆ)

05月31日・月
 Edifier の STAX SPIRIT S3 は実質的に Audeze のヘッドフォン無線版で5万というのは面白い。Audeze とは世界配給で提携しているが、ここまで技術を使えるとすると、資本提携まで踏みこんでいるのか。Audeze 自体はまだ無線を出す気は無さそうだ。低音強調したエフェクトを "Classic" と呼んでいるのも興味深い。クラシックのオーケストラは低音が強調されていることを、生のコンサート、ライヴに通って思い知らされているのだろう。形からするとクローズド。とりあえず、買物カゴに放りこむ。実際に買うかどうかは、後で考えよう。


 
 こういう「廉価」製品に STAX の名を使うのは、いくら親会社だといっても冒瀆だ、という意見が Head-Fi に出ている。気持ちはわからないでもないが、やはり筋違いだろう。むしろ素直にオマージュと見ていいんじゃないか。


%本日のグレイトフル・デッド
 05月30日には1967年から1992年まで6本のショウをしている。公式リリースは1本。

1. 1967 Winterland Arena, San Francisco, CA
 火曜日。2.50ドル。HALO (Haight Ashbury Legal Organization) のための資金集めのベネフィット・コンサート。共演ジェファーソン・エアプレイン、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー、クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、シャーラタンズ。ジェファーソンの Wiki によれば、全てのバンドがこの日演奏したわけではないらしい。クィックシルヴァーのイントロで Tom Donahue が「3つのバンド全部が2回ずつ演奏する」と言っているそうだ。
https://concerts.fandom.com/wiki/Jefferson_Airplane
 HALO はアシュベリー・ストリート710番地のデッドの館の通りをはさんで真向かいに事務所を構えた弁護士たち。

2. 1968 Carousel Ballroom, San Francisco, CA
 木曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。セット・リスト不明。チラシにはチャーリー・マッセルホワイトと Petris の名前もある。後者は不明。

3. 1969 Springer's Inn, Portland, OR
 金曜日。2.50ドル。開演9時。Palace Meat Market 前座。この施設は Springer's Inn または単に Springer's という名前で、ポスターでは Springer's Hall になっている。ここでは翌年1月にもう2回、ショウをしている。
 Palace Meat Market はオレゴン州ユージーンのローカル・バンドで、1968〜69年にこの名前で活動。メンバーにサックス、フルートの奏者を含む。基本五人組らしい。
http://www.pnwbands.com/palacemeatmarket.html

4. 1971 Winterland Arena, San Francisco, CA
 日曜日。ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ、R. J. Fox、ジェイムズ&グッド・ブラザーズ共演。
 第二部7曲目〈Truckin'〉が2010年の《30 Days Of Dead》でリリースされた後、第二部冒頭の2曲を除く全部とアンコールの10曲が2012年11月のレコードストア・ディ向けのアナログ盤として出た《Winterland: May 30th 1971》でリリースされた。
 R. J. Fox とポスターにはあるが、検索してもミュージシャンでは出てこない。

5. 1980 Milwaukee Auditorium, Milwaukee, WI
 金曜日。9.50ドル。開演7時。とりわけ第二部が良い由。

6. 1992 Sam Boyd Silver Bowl, Las Vegas, NV
 土曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。23.50ドル。開演2時。
 この年のベストの1本。90年代全体でも指折りの由。Space では稲妻が光り、雷鳴が聞えたが、雨は降らず、アンコール〈Knockin' On Heaven's Door〉の時、大きな虹がかかった。(ゆ)

05月13日・金
 Massdrop 改め Drop からのニュースレターで Massdrop 時代以来のベストセラー Sennheiser HD6xx を誘ってくるのでサイトで値段をあらためると240ドル。送料15ドル。船便か、と思いながらも安さに惹かれてポチ。HD650は新仕様になったとかで、この春にがんと値上がりし、今、安いところで6.5万。定価は7万。これも民生部門売却の影響か。今さら650でもあるまいと思っていたが、諸般の事情で必要になってきた。

 Proper Records からのニュースレターを見て、Ye Vagabonds の新作、Bryony Griffith & Alice Jones のデビュー作など5枚注文。アイルランド1枚、イングランド4枚。


##本日のグレイトフル・デッド
 05月13日には1972年から1983年まで7本のショウをしている。公式リリースは4本、うち完全版2本。

1. 1972 Lille Fairgrounds, Lille, France
 土曜日。ヨーロッパ・ツアー16本目。
 《Europe ’72: The Complete Recordings》で全体がリリースされた。
 リールはパリの北150キロほどの街。このショウにはいわくがある。もともとは05月04日のパリ公演の直後に予定されていた。ところがトラブルが起きる。狂信的なファンの1人がデッドはフリー・コンサートをすべきだとパリのショウが終ったところでねじ込んできた。クロイツマンに言わせれば、タダ券が欲しかっただけということになるが、とにかくこの男はホテルにまでつきまとい、とうとうクルーの1人に追いはらわれる。逆恨みした男は機材を積んだトラックのガソリン・タンクに砂糖ないしアイスクリームをぶちこんだ。おかげで翌日、トラックは動かなくなる。一足先にリールに入っていたバンドは、待てど暮らせど機材が来ないので、どうすることもできない。さらに悪いことにリールは労働運動が盛んで、人びとはおとなしくない。ショウが行われず、プロモーターは払い戻しに応じないので、騒ぎだす。ウィアとレシュが説得しようとしたが、たどたどしいフランス語で通じるはずもない。とうとう身の危険を感じて、バンドはバラ1本を楽屋の窓際に残してほうほうの態で逃げだした。そのバラに託した約束を守り、リベンジとして行なわれたフリー・コンサートがすなわちこのショウである。街の遊園地の一角に即席のステージを造ってたっぷり3時間演奏した。見ていたのは、たまたま通りかかった人びと、週末の散歩に出てきた家族連れ、アベック、学生、その他。途中で雨が降ってきて中断。止むと再開した。レシュに言わせると、辺りはフランス印象派の絵そのものの世界だった。有名なスーラの「グランド・ジャッドの日曜日の午後」というところか。ああいうところで、たとえばツェッペリンとかストーンズとかがやるのはまるで場違いだが、デッドは妙に合うような気もする。
 演奏は最高とは言わないが、このツアーらしい、きっちりしたもの。この経緯もいかにもデッドならではだが、こういうフリーの、まじめに聴いている人間がいるのかいないのかわからないような街頭の演奏でも、音楽がまったく変わらないのもデッドだ。観客がまったく皆無というのは、ミュージシャンにとってかえって解放されるところがあることは、篠田昌巳と西村卓也の1987年前橋での街頭ライヴ録音(《Duo》off note, 1996)にも明らかだが、そこはジャズとロックの違いだろうか。
DUO
篠田昌巳・西村卓也
オフノート
1996-07-21


 もっともデッドもまた、演奏する第一の目的は自分たちが愉しむためだ。たとえ誰一人観客がいなくても、期待すらできなくても、やはり同じように質の高い演奏をしただろう。ただ、デッドは聴衆との交流を好む。その反応を糧とする。その意味ではデッドにとって、聴衆は不可欠だ。たとえ、自分たちの音楽に接するのが初めてで、とりわけ関心があるわけではない相手であってもだ。そしてデッドの音楽には、そういう人間をも釣りあげる、不思議な魅力がある。このショウから40年近く経って、あたしが釣りあげられたように。
 次は3日後、ルクセンブルク。長いツアーも終盤である。

2. 1973 Iowa State Fairgrounds, Des Moines, IA
 日曜日。前売5ドル、当日6ドル。開演1時。三部制。
 第二部クローザーの〈Playing In The Band〉が2010年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。
 全部で4時間半。出来はそこそこ、らしい。

3. 1977 Auditorium Theatre, Chicago, IL
 金曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。
 全体が《May 1977》でリリースされた。なお、テープ損傷のため、クローザーの2曲〈Goin' Down The Road Feeling Bad> One More Saturday Night〉はこの年の少し後のショウのものと差し替えられている。前者は06-08ウィンターランド、後者は05-28ハートフォードのもの。どちらも先に公式に完全版がリリースされている。どちらも本来のこの日の演奏よりも若干長い。その後のアンコール〈U.S. Blues〉はこの日のもの。
 第一部8曲目で〈Jack-A-Roe〉がデビュー。伝統歌で、1995-06-25まで117回演奏。ガルシアの持ち歌で、ソロ・プロジェクトでも演奏している。ブリテンでの最古の文献は1800年前後まで遡り、そこでは〈Jack Munro〉と呼ばれている。セシル・シャープがアパラチア南部で多数のヴァージョンを収集している。ここで歌われているのもアパラチアのヴァージョンの一つだろう。もっとも全体の演奏はほとんどカウボーイ・ソングのノリ。ジェリィ・ガルシア・バンドではもう少しフォーク調になるようだ。初演のせいか、終始ガルシアだけが歌う。
 05-08の〈Morning Dew〉のような、それだけで世界をひっくり返すようなものは無いかもしれないが、どの曲も、聴くとこれはベスト・ヴァージョンと言いたくなる。たとえば〈Cassidy〉のガルシアのソロ。〈Friend of the Devil〉の鍵盤、あるいは第一部クローザーの〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉。この時期は全体にそうだが、この最後のペアはとりわけテンポが最適で、ガルシアのヴォーカルもギターも絶好調。SB の歌が終ってからガルシアはソロをとらず、ドナがセンスのいいスキャットを入れ、ベースがリードしてどんと FOTM へ転換するところ、いつもと違うのもカッコいい。そしてこの FOTM でのガルシアのギターを聴くのは無上の歓び。
 ガルシアのギターは第二部でもますます冴えて、オープナー〈Samson and Delilah〉では、定型のフレーズを変奏してゆく、その一つひとつが面白い。一方〈Estimated Prophet〉でのギターはメロディからはずれた発展形、ジャズの手法で、このソロはこの春のツアー全体でもベストの一つ。同様に美味しい 〈Drums> The Other One〉を経て、次の〈Stella Blue〉がハイライト。ガルシアのヴォーカルの力の入り方は一瞬、スピーカーが壊れるかと思うほどだし、ギターもそれにふさわしい。
 その後はテープがダメだと正直に言って、入れなくてもよかったんじゃないかという声もあり、それも一理ある。とはいえ、1本のショウとして聴く分にはあってもそれでぶち壊しというわけでもない。このつなぎは実に巧妙で、デジタル技術はまったく何でもできるとあらためて関心する。
 ツアーの次のショウは中1日置いてセント・ルイス。

4. 1978 The Spectrum, Philadelphia, PA
 土曜日。8ドル。開演7時。
 第一部クローザー〈The Music Never Stopped〉が2017年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。
 このショウが初体験だったデッドヘッドが、これから7、8年後、というから1980年代半ば、ジョー・ストラマーがデッドと同じホテルに泊まっていて、パーティーをしていたと証言している。ストラマーは1972年のビッカーショウ・フェスティヴァル、エルヴィス・コステロも見ていた同じショウを見ていたそうだが、当初パンクのファンはアンチ・デッドの先頭に立っていたことからすれば、なかなか面白い話ではある。

5. 1979 Cumberland County Civic Center, Portland, ME
 日曜日。春のツアーの千秋楽。この年は01月05日にフィラデルフィアで始動し、01月02月とツアーして、02月17日に打ち上げ。ガチョー夫妻が脱けて、ブレント・ミドランドが加わり、04月22日にサンノゼで初舞台。その次が05月03日からここまで短い春のツアー。春はいつも良いが、メンバー交替で心機一転、この5月は良いランだったようだ。

6. 1981 Providence Civic Center, Providence, RI
 水曜日。9.50ドル。開演7時半。良いショウの由。

7. 1983 Greek Theatre, University of California, Berkeley, CA
 金曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。開演7時。
 第一部4曲目で〈Hell In A Bucket〉がデビュー。バーロゥ&ウィアの曲。このコンビの曲としては〈My Brother Esau〉とともにこの年2曲目。〈Picasso Moon〉に次いで最も遅い曲。1995-06-30まで215回演奏。演奏回数順では66位。スタジオ盤は《In The Dark》収録。〈Throwing Stone〉と並んで、この遅いデビューの割に演奏回数の多い曲。オープナーになることも多い。
 会場は有名なところで、定員8,500。デッドのここでの初演は1967年10月01日だが、この時はチャールズ・ロイド、ボラ・セテとの対バン。ここでワンマンで演るようになるのは1981年09月からで、1989年08月19日まで計26本のショウをしている。(ゆ)

The Audiophile Society

0325日・金

 昨日の階段で脚が痛い。散歩に出て歩いているうちに痛みは消える。が、もどってクールダウンのストレッチをすると、腰が痛い。

 散歩していると玉川で番の燕を見る。やはりもう戻ってきている。様々な花が開いている。菜の花畑はそこから光が放たれている。近くで見ると、眼が喜ぶ。

 HiFiMAN から案内の来た David Chesky The Audiophile Society の無料サンプラーをダウンロード。3GB。2時間かかる。7曲入り。24/192のスピーカー・ミックスと24/96のヘッドフォン・ミックスが入っている。どちらも独自の3Dミックスをほどこして、空間に包まれるようにしてある由。ヘッドフォン用とスピーカー用にミックスを変えるのは理にかなっているように思える。素材としてはインドのグジャラート生まれ育ちの女性ブルーズ・シンガー・ギタリスト Aayushi Karnik に興味を惹かれる。

https://theaudiophilesociety.com



##本日のグレイトフル・デッド

 0325日には1966年から1994年まで10本のショウをしている。公式リリースは5本。うち完全版1本。


01. 1966 Troupers Hall, Los Angeles, CA

 金曜日。2ドル。開演9時。セット・リストが完全かどうかわからないが、第一部クローザー〈You Don't Have To Ask〉が2015年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。


02. 1967 Avalon Ballroom, San Francisco, CA

 土曜日。DeadBase 50 では、前日かこれのどちらかにショウがあり、〈Viola Lee Blues〉を演奏したという証言があるとしている。アシッド・テストの一つらしい。

 一方で DeadBase XI には2426の3日間、このヴェニューに出演し、Johnny Hammond & His Screaming NighthawksRobert Baker 共演としている。セット・リスト不明。


03. 1972 Academy of Music, New York, NY

 土曜日。このヴェニュー7本連続のランの4本目。5.50ドル。開演8時。ヘルス・エンジェルスが会員の保釈金を集めるためのベネフィット・コンサート。第一部は Bo Diddley の新譜披露とされて、デッドがバック・バンドを勤める。これもあって、このショウは当初 "Jerry Garcia & Friends" として発表された。実際にはデッドそのもの。第一部冒頭からの3曲とそれに続く Jam、1曲置いて6曲目の〈Mona〉までと、第二部オープナーの2曲〈How Sweet It Is〉〈Are You Lonely For Me Baby?〉、5曲目〈Smokestack Lightnin'〉が、《Dick’s Picks, Vol. 30》でリリースされた。

 ドナ・ジーン・ガチョーの東部デビューで、〈How Sweet It Is〉でガルシアがガチョー夫妻を紹介した。

 〈How Sweet It Is (To Be Loved By You)〉のデッドによる唯一の演奏。ガルシアのソロ・プロジェクトでは同じく1972年のマール・ソーンダースとのデュオ・プロジェクト以降最も多く演奏された曲で総計400回以上。Brian Holland, Lamont Dozier & Eddie Holland の作詞作曲、マーヴィン・ゲイが歌って196501月にビルボード6位。


04. 1983 Compton Terrace Amphitheatre, Tempe, AZ

 金曜日。開演7時。この年最初のショウ。

 〈My Brother Esau〉が初演。バーロゥ&ウィアの作品。1987-10-03 まで計104回演奏。スタジオ盤は《In The Dark》収録。〈Touch of Grey〉シングル盤のB面。旧約聖書創世記のエサウとヤコブの双子の兄弟の話を敷衍している。タイトルからしてヤコブの視点から語る。


05. 1985 Springfield Civic Center Arena, Springfield, MA

 月曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。13.50ドル。開演7時半。


06. 1986 The Spectrum, Philadelphia, PA

 金曜日。このヴェニュー3日連続の最終日。開演7時。

 〈Desolation Row〉の初演。1995-07-02まで計58回演奏。スタジオ盤収録は無し。Bob Weir & Rob Wasserman でも演奏された。この初演ではウィアはまだステージで歌詞を見ていた由。だが、後にはかれの最高の歌唱も生む。デッドのライヴ音源によるディラン・カヴァー集《Postcards Of The Hanging》はこの歌の冒頭の1行からタイトルをとっている。


07. 1990 Knickerbocker Arena, Albany, NY

 日曜日。開演7時半。このヴェニュー3日連続の中日。第一部の3曲、第二部のクローザーを含む5曲が《Dozin' At The Knick》でリリースされた後、《Spring 1990 (The Other One)》で全体がリリースされた。

 この日も前日の流れを継いで、全体にクールで軽快な演奏をする。ガルシアのギターは澄んだクールで軽い音。ミドランドのハモンドは時に熱くなるが、ガルシアに引っぱられてか、軽くなることも多い。3人各々の歌唱もゆったりと余裕がある。演奏を心から楽しんでいる。こちらとしては流れに身をゆだねていればいい。

 オープナーの〈Greatest Story Ever Told〉でガルシアとミドランドが掛合いをやる。3曲目〈Wang Dang Doodle〉であガルシアが MIDI で軽快なサックスの音を出すのに、ミドランドが熱いオルガンで応える。それにしてもこういうところで〈Jack-a-roe〉のような伝統歌を聴くのは嬉しい。しかもそれが他の曲から浮いているわけでもない。デッドの懐の深さの現れではある。最初のハイライトは〈Bird song〉。ガルシアは途中からフルートの音色にする。後半、全体のジャムが離陸する。基本的に明るい色調にこの歌本来の哀しみが伝わってくる。

 第二部オープナー〈Eye of the world〉ではガルシアに連られてか、ウィアのギターもミドランドのシンセも軽く浮上し、コーダにかけて、今にも終ろうとしながら終りきらないジャムが続く。くー、たまらん。続く〈Samson and Delilah〉では、ミドランドとガルシアが "I would tear this whole building down" "down" を「ダウゥゥゥゥン」というように伸ばすのがカッコいい。やはり間髪を入れずに始まる次の〈Crazy finger〉は後半スパニッシュ・ジャムになり、自然に移行する〈Truckin'〉ではガルシアのすばらしいソロからバンド全体がゾーンに入ってゆく。ウィアがリフを始めて遷移する〈Spoonful〉で、この日初めて緊張の色が現われ、ガルシアのソロもシャープになる。

 Drums ではこの日はあえて MIDI を使わないつもりらしい。クロイツマンはドラム・キットで、ハートは様々な打楽器を使う。後者の素材は竹、革、金属、木、他にもあるらしく、形状もいろいろのようだ。

 Space では一転、MIDI を使いまくる。ガルシアのバスーンに、ハートだろうか、金属音の打楽器で掛合う。やがてウィアに交替。後半、ミドランドが参加して、やはり金属音で茶々を入れると、ガルシアはトランペットに切替える。これまた前日に匹敵するほど面白い。

 Space から出る先はミドランドのベスト・ソングと思う〈I Will Take You Home〉。ドラムレスで、ミドランド自身の電子ピアノとガルシアのトランペットだけがバック。名演。一度しっかり終ってから、ガルシアが小さくビートを始めてだんだん大きくなり、ドラムス、ウィア、オルガンが加わって〈Goin' Down The Road Feeling Bad〉。快演。コーラスを繰返して盛り上げておいて、一転〈Black Peter〉。この演奏は実にパワフルで、とてももうすぐ死にそうにはない。人の思惑など気にかけず、おれは生きぬいてやると、ガルシアのソロも言っている。やはりきっちり終り、一拍置いてウィアが〈Around And Around〉を歌いだす。ガルシアのソロも電子ピアノのソロも面白い。ウィアの演技が秀逸。一度静かになり、ガルシアは小さな音でシンプルに同じ音を連ね、その後のソロが粋。

 アンコール〈The Mighty Quinn (Quinn The Eskimo)〉は終始3人のコーラスで聞かせる。

 ツアーも半ば。この2日間は一つのピーク。


08. 1991 Knickerbocker Arena, Albany, NY

 日曜日。このヴェニュー3日連続のランの最終日。22.50ドル。開演7時半。第二部4曲目〈Spoonful〉の後の〈Jam〉が2012年の、第二部クローザー〈Throwing Stones; Playing In The Band Reprise〉が2018年の、各々《30 Days Of Dead》でリリースされた。


09. 1993 Dean Smith Center, University of North Carolina, Chapel Hill, NC

 木曜日。開演7時半。このヴェニュー2日連続のランの2日目。第一部5曲目〈Lazy River Road〉が《Ready Or Not》でリリースされた。


10. 1994 Nassau Veterans Memorial Coliseum, Uniondale, NY

 金曜日。このヴェニュー5本連続の中日。27.50ドル。開演7時半。ブルース・ホーンスビィがアコーディオンで参加。第一部6曲目〈Black Throated Wind〉でウィアがアコースティック・ギター。(ゆ)


0216日・水

 Tidal Master 音源がどう聞えるか、各種設定でチェック。

イ。AirPlay M11Pro に飛ばし、DSD変換で聴く。

ロ。有線で DenAmp

ハ。有線で hip-dac

ニ。Bluemini R2R で無線。

 Bluemini R2R を試すためもあり、ヘッドフォンは当然 HE-R9。有線は3.5mm のシングルエンド。

 結果はこの順番の逆に音がいい。MQA レンダラーを備えた hip-dac の音がいいのは当然だが、Bluemini R2R は正直驚いた。しかも単に音がいいだけでなく、愉しく聴かせる。有線に比べると、人工的に作っている感覚が、ごくわずかながら滲む。プラシーボかもしれないが、無いことにはできない。しかし、それが気にならない。むしろ、実にうまく演出している。final ZE3000 が、無線にするためにアンプを備えていることで、上流の条件に左右されない音質を保っていることが指摘されていた。そのことにも通じる。つまり、最終的な音は Bluemini R2R で作られていて、それが直接ヘッドフォンに入る。音の鮮度が高い。そして、そこで理想とされている音の素姓がいい。まっとうな、生演奏をベストとし、それに近づける努力がなされた音だ。うーん、HiFiMAN、恐るべし。Edition XS にこれが使えるとはどこにも書いてないのだが、こうなると、Bluemini R2R が使えることは、HiFiMAN のヘッドフォンの場合、必須になってくる。

 一方、Himalaya DAC を備えた外付の、汎用の DAC/amp も気になる。



##本日のグレイトフル・デッド

 0216日には1982年と88年の2本のショウをしている。公式リリースは無し。


1. 1982 Warfield Theatre, San Francisco, CA

 このヴェニュー2日連続の初日。この年最初のショウ。25ドル。開演8時。ここから21日までサンディエゴ、ロサンゼルスと回る。

 1982年のショウは計61本とやや減り、レパートリィは110曲。新曲としてはまず〈Touch of Grey〉。5年後、《In The Dark》に収録、シングルカットされて、デッドにとって最初で最後のトップ10ヒットとなる曲だが、ニコラス・メリウェザーによれば、元来ガルシアのつもりではコカインから覚めた後の宿酔の感覚を歌ったもの。歌詞はデッド演奏のものと、ハンター演奏のもので複数のヴァージョンがある。

 ハンター&ガルシアは〈West L. A. Fadeaway〉〈Keep Your Day Job〉も投げ入れる。後者はデッドヘッドの反発でレパートリィからとりさげられた。

 バーロゥ&ウィアは〈Throwing Stone〉を披露し、以後、定番となる。


2. 1988 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 このヴェニュー7本連続の3本目。ドクター・ジョン前座。開演7時。

 この年、デッドは働いている。4回のツアーで全米を回り、20の州で80本のショウを行う。チケット販売数は130万枚。2,860万ドルを稼いで、アメリカで4位となる。レパートリィは131曲。新曲で最も目立つのはウィアが Gerrit Graham と共作した〈Victim or the Crime〉。後に荘厳な曲となって、最後まで演奏された。

 ハンター&ガルシアは〈Foolish Heart〉〈Believe It Or Not〉〈Built To Last〉を発表するが、最初のものを除いて、早々にレパートリィから落ちる。

 ミドランドはバーロゥと組んで〈Blow Away〉〈Gentlemen, Start Your Engines〉を書き、単独で娘のための子守唄〈I Will Take You Home〉を書く。ミドランドの在生中はどれも定期的に演奏された。

 歌の話題としては0903日、メリーランド州ランドーヴァーで突如7年ぶり、そして最後に〈Ripple〉が演奏された。1970年にデビューし、誰もが認める名曲にもかかわらず、わずか41回しか演奏されず、デッドヘッドたちが最も生で聴きたい曲の一つになっていた。この時の演奏は、病で死の床にあったデッドヘッドからのリクエストによる。(ゆ)


0212日・土

 アメリカで Apple のヘッドフォン、イヤフォンがヘッドフォン市場の半分、という調査結果という記事

 世界で Apple Sony を抜いたのが2018年で、AirPods 発売前。これには iPhone 付属のイヤフォンも含まれていた。発売されたら、あっという間に他は置いてけぼりになった。というわけだ。

 上記アメリカ国内の調査では、3位 Bose、以下、サムスン、JBLSony。日本なら Sony がもっと上で、Skullcandy LE が落ちて、オーディオ・テクニカや Shure が入ってくるかもしれない。いずれにしても Apple のシェアはそう変わらないか、もっと大きい可能性も大きい。

 Apple がマイナーだった頃、我々はシェアを大きくすることが目的ではない、と言っていた気もするが、今は、Apple 以外のイヤフォン、ヘッドフォン・メーカーがシェアよりもちゃんと利益を上げることが大事、なんだろう。Apple のシェアがさらに増えて、4分の3を超えるようになると、そうも言っていられなくなるか。しかし、今のところ、Apple の牙城を突き崩す方策は見えない。かつての Apple の場合、市場シェアが1割に満たなくても、その独自性で存在価値を主張できた。ウインドウズ以外の選択肢があることは価値があった。ヘッドフォン市場に限ったとしても、そのシェアが9割を超えるとなると、レゾン・デートルが問われた他のメーカー、ブランドに答えはあるのか。もちろん、Apple の完全独占にはならないとしても、他はデザイナー・ブランドかマニア向けハイエンドだけ、というのも問題ではないか。

 余談だが、Apple は個人相手でシェアを広めている。Amazon Google も同じ。Microsoft も個人を重視するようになって持ち直したのではなかったか。先日、車載用バッテリーの再利用を普及する業界団体が立ち上がったが、普及の相手をまず企業だと言っていた。しかし、企業、とりわけわが国の企業は先例の無いものには消極的だ。新しいものにはなかなか手を出さない。大容量の大型バッテリーがあれだけ売れてるんだから、まず個人を相手にする方が新しいものの普及には有利ではないのか。わが国の起業がなかなかうまくいかないのは、企業や自治体などを最初のターゲットにするからではないか。



##本日のグレイトフル・デッド

 0212日には1966年から1989年まで、6本のショウをしている。公式リリースは無し。


1. 1966 Youth Opportunities Center, Compton, CA

 トム・ウルフが『エレクトリック・クールエイド・アシッド・テスト』で描いた、ロサンゼルス、ワッツ地区のアシッド・テストがこれだと言われる。こちらはクロイツマンが回想録 Deal の中でも触れていて、実際に行われた。


2. 1967 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 リンカンの誕生日記念。共演モビー・グレープ、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、New Salvation Army BannedNotes From The UndergroundCouncil for Civic Unity のためのベネフィット。2ドル。セット・リスト不明。

 New Salvation Army Banned 1967年にシアトルで結成された5人組。New Salvation Army Band として出演することもあり、キリスト教団の救世軍から訴えられもしている。サンフランシスコに移って、そのロック・シーンの一角をなした。1967年に Salvation に改称して同名のデビュー・アルバムを出し、翌年セカンドも出す。が、離陸できず、1970年解散。録音は残念ながらストリーミングにも無いようだ。YouTube に短かいクリップがあるが、音はナレーションのみで、音楽はわからない。Salvation という名のアーティストは無数といっていい程いる。

 Notes From The Underground 1968年にバンド名を冠したアルバムが1枚あるバークレー出身の5人組。メンバーの一人 Fred Sokolow はバンジョー弾きで、後、ソロで活動する。バンド名はドストエフスキーの『地下室の手記』から。2011年に出た《Follow Me Down: Vanguard's Lost Psychedelic Era (1966-1970)》に2曲収録されている。これを聴くかぎりでは、楽曲、演奏は水準は超えている。鍵盤がリードなのはドアーズに通ずる。ドアーズの前座もしていた由。

 《Notes From The Underground》というアルバムは複数あり、その1枚はメデスキ、マーティン&ウッドのファースト。というのは余談。


3. 1969 Fillmore East, New York, NY

 ジャニス・ジョプリンの前座として2日連続の2日目。DeadBase XI のブルース・コットンのレポートはこの両日のどちらか、はっきりせず、コットンが聴いたとしている楽曲も、判明しているセット・リストには無い。セット・リストはテープによる遅番ショウのみなので、早番ショウでやった可能性はある。

 遅番は〈Dark Star> St. Stephen> The Eleven〉というこの年の定番組曲から始まり、〈Alligator> Caution〉を経て〈And We Bid You Goodnight〉まで一気に突走る1時間強。原始デッドのエネルギーに溢れたものだそうだ。原始デッドが本当に熱くなった時のエネルギーは、その後2度と感じられないことは確か。


4. 1970 Ungano's Night Club, New York, NY

 この前後はフィルモア・イーストでのショウで、たまたま空いていた日に、急遽設定されたギグだったらしい。この日のテープと称されるものが出回っているが、そのテープは実際には翌日のフィルモア・イーストの早番ショウの録音だ、というのが結論になっている。


5. 1986 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 16ドル。開演8時。この日も第二部半ばの Drums 以降クローザー〈Johnny B. Goode〉までネヴィル・ブラザーズが参加。この日はネヴィル・ブラザーズがデッドの後にやり、大いに盛り上がった。


6. 1989 Great Western Forum, Inglewood, CA

 19.50ドル。開演6時。このヴェニュー2日連続の2日目。第一部クローザーの2曲〈How Long Blues〉〈Gimme Some Lovin'〉にスペンサー・デイヴィスが参加。第二部の前半オープナー〈Iko Iko〉から〈Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again〉までとアンコールにボブ・ディランがギターで参加し、〈Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again〉とアンコールの〈Knockin' On Heaven's Door〉ではヴォーカルもとった。第2部後半の〈The Other One〉に鼓童が参加。

 鼓童は後2001年に20周年記念アルバム《Mondo Head》をミッキー・ハートがプロデュースした。このプロデュースのためにハートが来日したのが、デッドのメンバーが公式に来日した唯一の例。プライヴェートでは、親族が日本に住んでいるウィアが頻繁に来ているそうな。

 〈Monkey and the Engineer〉の最後の演奏で唯一のエレクトリック・ヴァージョン。Jesse Fuller のカヴァーで、デッドの前のバンドの一つ Mother McCree's Uptown Jug Champions 1964年に演奏している。デッドでは19691219日サンフランシスコで初演。1970年の大晦日で一度レパートリィから落ち、19800905日、サンフランシスコのウォーフィールド・シアターのアコースティック・セットで復活。この時のサンフランシスコ、ニューオーリンズ、ニューヨークでのアコースティック・セットをフィーチュアしたレジデンス公演で集中的に演奏され、以後は散発的で、跳んでこの日が最後。計39回演奏。

 ショウ全体としても、油が回って、引き締まったいいものの由。(ゆ)


0210日・木

 サウンド・ジュリアのクラウン IT5000アンプのデモ動画は、設定を1,080p にしてオーディオ・チェックに使える。キーボード主体のフュージョン・バンドの演奏で、録音超優秀、演奏は一級で、楽曲が退屈なのが、チェックにはかえって都合がいい。チェックに適当な箇所も明瞭。

 最近手に入れた HiFiMAN HE-R9 とだいぶこなれてきた Tago Studio T3-01 を聴き比べる。T3-01 のモニタ用としての実力がわかる。HE-R9 の方がずっと空間が広い。反応のスピードは T3-01 の方がやや勝るか。ただ、T3-01 は音の下がりも速くて、余韻に欠けるところもある。モニタ用とはそういうもので、立上りと収束が共に速いことが必要なのだろう。


 HE-R9 Bluemini R2R も試す。iPad と有線でつなごうとすると、必要な電力が多すぎて使えないよ、と出る。Bluetooth でも、これだけで聴いていれば何の不満もない。大したものだ。Himalaya チップを使った DAC が出れば試したい。


 Dave's Picks, Vol. 41 着。19770526, Baltimore Civic Center, Baltimore, MD の全体。それに、昨年最後の Vol. 40 で入りきらなかった19900719, Deer Creek Music Center, Noblesville, IN のアンコール〈U. S. Blues〉を収録。


 アマゾンは近刊予約をしろと言っておきながら、いざすると、今度は出たのにいつまで経っても送ってこない。予約時点より価格がかなり下がると知らんぷりするらしい。



##本日のグレイトフル・デッド

 0210日には1979年と1989年の2本のショウをしている。公式リリースは無し。


1. 1979 Soldier's And Sailors Memorial Hall, Kansas City, KS

 このヴェニュー2日連続の2日目。9ドルと10ドル。開演7時きっかり。カンザス州では12回ショウをしているうち、このヴェニューが8回。この年12月にも戻っている。なお、ミズーリ州のカンザス・シティとは別。カンザス川をはさんで西がカンザス州カンザス・シティ(人口15.6万)、東がミズーリ州カンザス・シティ(人口50万弱)。ここまでミズーリ川に沿って南下してきた州境は、ミズーリ川に西からカンザス川が合流する、その合流点から直線で真南に伸びる。なお、ミズーリ州カンザス・シティではデッドはやはり8回ショウをしている。ミズーリ州では32回ショウをしていて、これはセント・ルイスでのショウが多いため。

 ここは1925年オープンの多目的ホールで、収容人数は3,500。デッドが最も好むサイズ。集会、コンサート、スポーツなどに使われている。1965年国の史的建造物に指定された。


2. 1989 Great Western Forum, Inglewood, CA

 ロサンゼルス国際空港の東にある会場での3日連続の初日。19.50ドル。開演8時。まずまずのショウの由。(ゆ)


0205日・土

 人間の耳は正直なもので、本質的に必要でないものは無くてもちゃんと聞きとることができる。空間オーディオなるものも、一時的に夢中になったり、中毒したりすることはあっても、人間の聴覚体験を一新することは無い。

 2日ぶりにインターバル速歩散歩すると、えらく気持ちがよい。やらないと調子が悪いところまではまだだが、やると気分爽快、体が軽くなったように感じるまでになってきた。

 夕方、試すと Tidal は問題なく使える。サブスクリプションが切れてるぞと出たあれは何だったのか。

 久しぶりに denAmp/Phone を使ってみる。バスパワーで CS-R1 で聴いて、いや、すばらしい。hip-dac に劣らない。MQA のマスター音源ではさすがに違いがあるが、比べなければ、全然問題ない。HiFi Master の違いもしっかり出す。この二つがあれば、もう他に USB-DAC は要らない。denAmp は販売休止中だが、春には再開するらしい。

 T60RP でも試す。音量ノブはさすがに正午まで上げるが、しかし、がっちりと鳴らす。バスパワーのくせに、何がどうなっているのか。中身は何かは明かしていないし、開ける気もないが、このサイズだから DACチップにオペアンプのはずだ。DAC チップは Cirrus だろうか。

 伝聴研の傳田さんは、あれだけ見事な自然音録音ができる人だから、耳は抜群だし、自分自身ミュージシャンで、生音も十分知っている。おかしなものは作るはずがない。あそこのものはどれも音がいいが、それにしても、denAmp は凄い。ヘッドフォン祭で一度、これを外付にして DAP と組み合わせている人を見たことがある。これは音がいいですよね、と盛り上がった。


 溜まっていたリスニング候補の音源を Tidal でざっと聴く。アルバムの各々冒頭のトラック。

Marcin Wasilewski Trio, ECM

En attendant
Marcin Wasilewski Trio
ECM
2021-09-10


Ayumi Tanaka, Subaqueous Silence, ECM



Tim Berne & Gregg Belisle-Chi, Mars

Mars
Berne, Tim
Intakt
2022-01-21


Undercurrent Orchestra, Everything Seems Different


Jorge Rossy, Robert Landfermann, Jeff Ballard – Puerta, ECM

Puerta
Jorge Rossy
ECM
2021-11-05


Maria-Christian Harper, Gluten Free


Chien Chien Lu, The Path

ザ・パス
チェンチェン・ルー
Pヴァイン・レコード
2021-08-04


Banquet Of Boxes: a Celebration of the English Melodeon

Banquet of Boxes-Celebration of the English Melode
Banquet of Boxes-Celebration of the English Melode
Imports
2011-05-10


Elton Dean Quartet, They All Be On This Old Road

They All Be On This Old Road: The Seven Dials Concert
Elton Quartet Dean
Ogun Records
2021-11-26

 

 どれも一通り聴く価値がある。

 Maria-Christian Harper は面白い。名前の通り、ハーパーで、良い意味でアヴァンギャルド。ヴィブラフォンの Chien Chien Lu も良い。Badi AssadArooj Aftab は文句無い。Thea Gilmore はもう少し聽いてみる。Saadet Turkoz & Beat Keller はウイグル族の危難に反応した録音。伝統かつ前衛。とりあえず聴かねばならない。

 Saul Rose Tidal で検索したら、 Banquet Of Boxes: a Celebration of the English Melodeon というアルバムがヒット。思わず顔がほころぶ。 オリジナル録音のオムニバスかな。これは CD を探そう。

 エルトン・ジョンの芸名のもとになった Elton Dean のカルテットも面白い。キース・ティペットが大活躍。こういう音はイングランドでしか出ないだろう。



##本日のグレイトフル・デッド

 0205日には1966年から1989年まで5本のショウをしている。公式リリースは2本。


1. 1966 The Questing Beast, Berkeley, CA%

 テープが残っているので、各種サイトではショウとしてリストアップしているが、内容はリハーサル。〈Viola Lee Blues〉を何度もやっている由。


2. 1969 Soldier's And Sailors Memorial Hall, Kansas City, KS

 アイアン・バタフライの前座として1時間強の演奏。セット・リストはこの年の典型。


3. 1970 Fillmore West, San Francisco, CA

 3ドル。4日連続のランの初日。共演タジ・マハル。こういう組合せでコンサートを企画するのがビル・グレアムの面白いところ。

 この4日間はいずれも一本勝負のショウ。オープナーの〈Seasons Of My Heart〉と〈The Race Is On〉でガルシアはペダルスティールを弾いている。

 3曲目〈Big Boss Man〉が《History Of The Grateful Dead, Vol. 1 (Bear's Choice)》でリリースされた。ピグペンの声はまだまだ衰えてはいない。


4. 1978 Uni-Dome, University of North Iowa, Cedar Falls, IA

 オープナー〈Bertha> Good Lovin'〉とクローザー〈Deal〉を含む第一部の5曲と第二部8曲全部が《Dick's Picks, Vol. 18》でリリースされた。計1時間半。

 3日のショウに並ぶすばらしい出来。全体としてのレベルは3日の方が若干上かとも思うが、こちらの第二部も強力。〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉がまずはハイライト。特に〈Scarlet Begonias〉後半のガルシアのギターを核としてバンド全体が集団即興になるところは、デッド体験の醍醐味の一つ。そして〈Truckin'> The Other One> Wharf Rat> Around and Around〉と続くメドレーを聴くのは、この世の幸せ。〈Wharf Rat〉はいつもの囁きかけるような、どちらかというとウェットなスタイルとはがらりと変わり、言葉をほおり出すようなドライな態度をとる。喉の調子がよくなく、囁き声が出せなかったせいかもしれないが、怪我の功名で、3つのパートでどん底から天空に飛翔するこの歌、とりわけパート3にはまことにふさわしい。ガルシアはギターから錆ついた響きをたたき出し、明るいマイナー調のフレーズを聴かせる。〈Around and Around〉でもガルシアが延々とギターを弾いているので、ウィアがなかなか歌いだせない。この歌は197606月の大休止からの復帰後、はじめゆったりと入り、途中でポンとテンポを上げる形になる。ここではその前半のゆったりパートのタメの取り方の念が入っているのと、後半、ウィアとドナの声が小さくなるのが早いのとで、その後の爆発のインパクトが大きい。実に実にカッコいい。

 DeadBase XI での Andy Preston のレポートによれば、〈Truckin'〉の前の音は、ステージ両側に駐車したセミトラックに仕掛けられた爆竹のようなもので、バックファイヤのつもりらしい。続いてエンジン音が大きくなるとともに、バンドは演奏に突入した。

 会場は屋内フットボール場で、片方の50ヤード・ラインにステージが設けられ、残り150ヤードが椅子もなく、解放されていて、聴衆は自由に踊れた。音がよく響き、バンドを迎えた歓声の大きさに、レシュが「実際の人数以上の音だね」とコメントした。

 第二部オープナーの〈Samson And Delilah〉で、ウィアのヴォーカル・マイクが入らず、マイクを交換する間、バンドは即興を続けた。ガルシアは苛立って、ギター・ソロが獰猛になった。マイクの面倒をみていたクルーがガルシアを見て、お手上げというように両手を挙げたので、ガルシアはギターでクルーの心臓を狙い、機関銃の音を立ててみせた。その後、マイクはきちんと作動して、歌は続いた。

 さらに機器のトラブルがあり、ウィアがかつての「黄色い犬の話」に匹敵する「木樵の話」をして、時間を稼いだ。もっともその冗談はいささか混みいっていて、聴衆の反応は鈍かった。

 この年、アイオワは百年に一度の寒い冬。


5. 1989 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 開演7時。このヴェニュー3日連続の初日。この年最初のショウ。春節記念。この3日間に続いて、ロサンゼルスで3日連続をした後、1ヶ月休んで3月下旬、アトランタから春のツアーに出る。

 バーロゥ&ミドランドの〈We Can Run〉とハンター&ガルシアの〈Standing On The Moon〉の初演。

 〈We Can Run〉は19900710日まで計22回演奏。スタジオ版は《Built To Last》に収録。

 〈Standing On The Moon〉も同じく《Built To Last》所収で、19950630日まで、計75回演奏。これについてハンターは、いきなり頭に浮かんだのをとにかく書き留めたので、何の修正も改訂もしていない、と言っている。ガルシアはブレア・ジャクソンのインタヴューに答えて、理屈ではなく、とにかくこの歌が好きで、この歌が自分の口から出てゆくのが歓びなのだ、それはできるだけそのまま出るにまかせて、余計なことはしたくない、と言う。(ゆ)


01月14日・金

 HiFiMAN のニュースレターで Edition XS のアナウンス。値段が半分以下になって中身はアップグレードというのは、いったい何がどうなっているのか。公式サイトの系統図で言えば、これはど真ん中の幹の最新モデルになる。スペック的にはインピーダンスが18Ω、というのは最低記録か。能率はいつも通り92dB しかないから、実力を発揮するにはアンプは必要だろう。試みにストアで送料を調べると34ドル。トータル533USD=60,634.08円。国内価格は7万弱か。HE-400i を愛用しているけれど、そろそろ換え時かのう。それにしてもこれは「エディション・テン・エス」か、「エックス・エス」か。どうも後者に見える。

 それにしても、あそこのサイトの重いこと、重いこと。
 


##本日のグレイトフル・デッド

 0114日には1966年から1979年まで、5本のショウをしている。公式リリース無し。


1. 1966 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 ビル・グレアムの仕切りで、San Francisco Mime Troupe のためのベネフィット・イベント。「ダンス・コンサート」と銘打たれている。寄付金名目で2ドル。開演9時、終演?時。共演は The Great SocietyMystery TrendSam Thomas  & the Gentlemen's Bandデッド Formerly The Warlocks とされていて、かれらだけポスターに写真が無い。セット・リスト不明。

 San Francisco Mime Troupe 1959年に結成された劇団で、1960年代、政治的諷刺劇(必ずしも無言劇ではなかった)をゴールデン・ゲイト公園はじめ、市内いたるところでゲリラ的に無料で演じた。これは違法とされていたから、警察との摩擦が常態となる。ビル・グレアムは当初の役者志望から演劇の制作に転じ、マイム・トゥループとも仕事をする。グレアムがアシッド・テストからコンサートのプロデュースをするようになって、ロック・シーンとのつながりが生まれる。ゲリラ公演で逮捕されたり、起訴されたりしたメンバーやスタッフの保釈や訴訟費用捻出のために、グレアムはベネフィット・コンサートを組んだ。デッドはマイム・トゥループの活動、姿勢に共感して、何度かベネフィット・コンサートに出ている。

 The Great Society 1965年から66年に活動したバンド。ベイエリアのロック・シーンの黎明期にシーンの起ち上げに貢献。グレース・スリックの最初のバンドとして知られる。当時の夫の Jerry Slick がドラムス、その兄弟 Darby Slick がギター。1966年秋、グレースがジェファーソン・エアプレインに入るため抜けて解散。

 Mystery Trend 1964年にサンフランシスコで結成した5人組。サンフランシスコ最初のバンド・ブームから生まれたものの一つ。中心の Ron Nagle(キーボード、ヴォーカル)と Larry Bennett(リード・ヴォーカル)の二人がリズム&ブルーズの大ファンで、サイケデリック・ロックに流れる他のバンドと一線を画したサウンドだった。1967年にシングルを1枚出したのみ。

 Sam Thomas  & the Gentlemen's Band の名前はこの頃のサンフランシスコ・シーンに散見されるが、実体は不明。トーマスは黒人。


2. 1967 Polo Field, Golden Gate Park, San Francisco, CA

 有名な"Human Be-In"。サンフランシスコ・ヒッピー文化の頂点の一つ。「サマー・オヴ・ラヴ」への序章。この日の午後、ゴールデン・ゲイト公園に2万から3万と言われる人々が集まり、アレン・ギンズバーグ、ゲイリー・スナイダー、ローレンス・ファーリンゲッティ、アラン・ワッツ、ティモシー・リアリーなどの講演、パフォーマンスを見聞し、ロック・コンサートや飲食を楽しんだ。イベント自体は無料。

 コンサートはポロ・フィールドに駐車したトラックの荷台がステージで、出演はデッドの他、ジェファーソン・エアプレイン、クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、カントリー・ジョー&ザ・フィッシュ、シャーラタンズ、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー、ブルー・チアーなど。

 デッドの演奏の一部のテープが残っており、中の1曲〈Good Morning Little Schoolgirl〉に、チャールズ・ロイドがフルートで参加している。


3. 1967 Fillmore Auditorium, Berkeley, CA

 昼間、上記 Be-In に出て、夜は2日連続でこのヴェニュー。共演も同じ。セット・リスト不明。


4. 1978 Bakersfield Civic Auditorium, Bakersfield, CA

 6.50ドル。開演7時半。開始早々、サウンド・エンジニアのダン・ヒーリィが逮捕されたかして、連れだされた、というのだが、エンジニア不在でショウはできないはず。詳細不明。


5. 1979 Utica Memorial Coliseum, Utica, NY

 前年1202日の振替え。外はブリザードで、終演後に出てみると15センチ新たに雪が積もっていて、車を見つけるのに3時間かかった。オープナーは〈Cold Rain And Snow〉。会場の音響がひどかった。第二部オープナーは〈I Need A Miracle〉。

 ユーティカはニューヨーク州のアップステートの街。マンハタンからハドソン河で真北に180キロ上るとオルバニー。そこからほぼ真西に向かって、エリー運河沿いにユーティカ、シラキューズ、ロチェスター、バッファローと並ぶ。ユーティカでは4回、ショウをしていて、これは3回目。シラキューズでは11回、ロチェスターでは15回、バッファローでは7回、各々ショウをしている。シラキューズから南に70キロほど下ったコーネル大学のあるイタカも含めて、この辺りはデッド・カントリーの一つ。(ゆ)


12月23日・木

 昨日は調子が悪く、とっとと寝る。掛布団を1枚増やしたら、朝にはなんとか回復。やはり、掛布団が足らずに体が冷えたらしい。足らないと寒くて寝つけないのだが、寝つけることは寝つけたが、朝になると調子が悪く、だんだんひどくなった。明け方に冷えたのか。ちょっとしたことで不調になるのは年のせいであらふ。

 ラティーナ編集部にベスト・アルバム2021の原稿を送付。もうそんなに新譜を追いかけていないので、今年は書けないかと思ったら、案外買っていて、やはり選ぶのに苦労する。

 ムアコック、Duke Elric 着。タイトル作は聞いた覚えがないと思ったら、1997年のグラフィック・ノヴェルの台本だった。これに加えて Moonbeams and Roses The Metatemporal Detective と合わせて、Michael Moorcock's Multiverse というグラフィック・ノヴェルとして、1997-98年に12冊のコミックスになった。DC/Vertigo で1冊にまとめられている。ISFDB によれば、3本の別々の話が平行して進み、最後にきちんとまとまるという。となると、読んでみたい。Duke Elric の台本だけ、たまたま残っていたのか。もちろん、絵師や編集者向けのもので、一般読者を想定して書かれてはいないが、絵と並べて読むとまた面白いだろう。

 ゼンハイザーがコンシューマー向けオーディオファイル製品の製造をアイルランドに集約するという話。昔持っていた HD-25は確か箱に Made in Ireland と入っていて、そこはかとなく嬉しくなったものだが、うーむ、だからといってゼンハイザーを買うかと言われると、へへへと笑うしかない。いや、別にゼンハイザーが悪いわけじゃない。立派なものだ。ただ、立派すぎて、今更面白みがないだけなのだ。すれっからしになってしまったということなんだろうけど、他とはここが違う、ここがウリだ、という突破口がないと、ちょいと聞いてみようかい、という衝動がわいてこない。業界標準でもあるし、一つくらい持っていてもと思ったりしないわけじゃないが、HD414があればいいや、という結論にいつもなる。414の現代版が出たらまた話は別だが、今のゼンハイザーはそんなことは考えもしないだろう。414の無線版? それは、出たら買うだろうなあ。



##本日のグレイトフル・デッド

 1223日には1966年から1970年まで3本のショウをしている。公式リリース無し。


1. 1966 Avalon Ballroom, San Francisco, CA

 2日連続出演の1日目。開演9時。共演スティーヴ・ミラー・ブルーズ・バンド、モビー・グレープ。セット・リスト不明。

 スティーヴ・ミラー・ブルーズ・バンドはスティーヴ・ミラーが音楽活動を始めた時の名前で、この年、デビューしている。翌年のチャック・ベリーの《Live At The Fillmore Auditorium》でバックを勤め、さらに翌1968年スティーヴ・ミラー・バンド名義でファースト《Children Of The Future》を出す。

 ベリーのライヴでは手堅いサポートをしている。ミラーのハーモニカがなかなかいい。白状するとチャック・ベリーの録音をまともに聴くのは初めてなのだが、なるほど、すごい。このアルバム、All Music では星2つ半だけど、どこが悪いのだろう。見事なブルーズをやってる、とあたしには聞える。もっとロックンロールをやれということか。〈C. C. Rider〉とか〈It Hurts Me Too〉とか〈Good Morning Little School Girl〉とか、デッドもやっている曲が入っているのも楽しい。この辺はブルーズのスタンダードなのね。

 スティーヴ・ミラー・バンドとしてのファーストの方はまるでサイケ。時代がもうちょっとずれていれば、プログレといってもいい。デッドのセカンド、サードの流れ。しかも、片面全部ひとつながりで、一種の組曲。これがあれだけポップになるんだから、時代の流れに敏感ということか。

 モビー・グレープもこの年デビュー。モビー・グレープが「悪魔との契約」をしたとき 、ニール・ヤングが同じ部屋にいて、終始無言、うつむいてギターを弾いていた、というのは運命の岐路の一つと見える。モビー・グレープはついておらず、ヤングはついていた。それともヤングには人を見る目があった、というべきか。


2. 1967 Palm Gardens, New York, NY

 このヴェニュー3日連続の中日。


3. 1970 Winterland Arena, San Francisco, CA

 Montessori School のためのチャリティでアコースティック・デッド、ホット・ツナ、ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ出演とアナウンスされていた。セット・リストには内容の異なるものが複数ある。最後にレシュがサンキュー、メリー・クリスマスといい、続いてガルシアがベア(アウズレィ・スタンリィ)の保釈に協力してくれた礼を言う。

 モンテッソーリ学校というのは、マリア・モンテッソーリというイタリアの精神科医の考案した外薀轡好謄爐世修Δ澄「子どもたちは生まれながらにして知ることを強く求めているもので、思慮深く用意された支援的な学習環境の中であれば、自発的に学び始める力を持っていると捉える。モンテッソーリ教育法は子どもたちを身体面、社会面、情緒面、認知面で発達させることを目指す」とウィキペディアにはある。アメリカでは全土で公立学校でもプログラムが導入されている由。(ゆ)


1020日・水

 Grado The White PHAntasy でデッドを聴いてみる。アンバランスしかない機種はむしろオリジナルの PHAntasy の方が好きだ。すばらしい。うーん、The Hemp 2 は近すぎるか。White の方がホールの感じ、ライヴ感がある。The Hemp 2 だと小さなライヴハウスで聴いている感じ。The Hemp 2 は耳のせ型でもあり、できれば散歩の時使いたいのだが、それにしてはこのケーブルが太すぎる。もう少し、細くて、取りまわしのしやすいものに換えてくれるところがあるかな。



##本日のグレイトフル・デッド

 1020日には1968年から1990年まで8本のショウをしている。公式リリースは5本。うち完全版1本。


1. 1968 Greek Theatre, Berkeley, CA

 "All Cal Rock Festival" と題するイベント。日曜午後1時から6時まで。共演は Canned HeadMad River StonehengeLinn County 他。前売3.50ドル、当日4ドル。

 1時間ほどのステージ。3曲め〈Dark Star〉が2012年の《30 Days Of Dead》でリリースされた後、《30 Trips Around The Sun》の1本として全体がリリースされた。

 数本のショウの不在を経て、ピグペンが復帰。不在はガールフレンドの看病のためと言われる。

 Mad River 1966年4月、オハイオ州イエロー・スプリングスで結成したサイケデリック・バンド。1967年3月、バークリーに移り、ここでリチャード・ブローティガンの注目するところとなって浮上する。キャピトルに2枚アルバムを残して、1969年7月解散。

 Stonehenge は調べがつかず。


2. 1974 Winterland, San Francisco

 ライヴ休止前5日間最終日。チケットには "The Last One" のスタンプが押された。この時点ではデッドがライヴを再開するか、わからなかった。復帰するのは1年7ヶ月の後、1976年6月3日、オレゴン州ポートランド。

 ショウは三部構成で、アンコールも2回。オープナー〈Cold Rain And Snow〉、第一部ラスト〈Around And Around〉、第三部2曲目〈The Promised Land〉とラストから2曲目〈Stella Blue〉が《Steal Your Face》で、第二部全部とアンコールの全部が《The Grateful Dead Movie Sound Track》で、第一部ラスト前の〈China Cat Sunflower> I Know You Rider〉が2014年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。全体の約半分がリリースされたことになる。

 第二部にミッキー・ハートが復帰する。1971年2月18日以来、3年8ヶ月ぶり。第三部では一部の曲で外れたが、アンコールでは復帰。

 この5日間で演奏された曲は延117曲。重複を除くと71曲。

 終演後、デッドヘッドの間では、半年で復帰するか、1年かかるか、賭が行われた。

 デッドがライヴ活動を休止したことは、かれらが尋常のロック・バンドとは一線を画していたことの現れの一つではある。デッドの場合、この休止は意図的に行われた。売れなくなった、とか、バンドのまとまりが保てなくなったなどの消極的理由ではなかった。

 というより消極的理由はあったが、それは理由の半分だった。消極的理由はまず Wall of Sound である。空前絶後のこのPAシステム、モンスターはライヴのサウンドの質にこだわるデッドにとっての究極のシステムだった。しかし、組立てに数十人を要して2日かかり、あまりに巨大で、使えるヴェニューが限られた。連日のショウをこなすには、2セット用意して、1セットは先行して送っておく必要があった。実際には予備も含め3セット用意されていた。当然、維持のためのコストは天文学的な額になる。結果、このモンスターはデッドの財政基盤をゆるがしはじめていた。

 消極的理由にはもう一つ、自前のレコード会社も財政的に見合うものではなくなっていたことがある。この5日間のランからはライヴ・アルバム《Steal Your Face》が作られ、これがこの最初の自前のレコード会社の最後のリリースとなった。

 積極的理由は、1965年以来、突走りつづけてきて、その疲労が蓄積していたことがある。1965年のショウの数ははっきりしないが、1966年からこの1974年最後のランまでのショウの合計は少なくとも916本。年平均100本を9年続けたことになる。全米をくまなく走りまわりながらだ。カナダやヨーロッパに遠征もした。しかも、その900本を超えるショウは、どれもがユニークなもので、演目、曲順、演奏がそれぞれに異なる。疲弊しない方がおかしい。演奏の質そのものはそれほど落ちているとは思えない。しかし、はっきり落ちはじめる前にやめよう、と決めたわけだ。プロとしてみっともないショウをするわけにはいかない、という意識でもある。

 この197410月の時点では、デッドとその直近、メンバー、クルー、スタッフはこれが最後になると信じていた。復帰できるかどうかはまったくの闇の中だった。ハートがここで復帰したのは、これが最後になるかもしれないと恐慌に襲われたためだ、という説もある。

 もう一つ、間接的ながら重要な要素がある。この時点ではまだデッドはやめることができた。回っている車輪を止めることができる程度の規模だった。1990年代、再び同様の事態になった時には、規模が大きくなりすぎて、止めることができなくなっていた。1986年のガルシアの昏睡は、いわば怪我の功名だった。半年とはいえ、バンドは休息できた。一方でガルシアはギターの弾き方をゼロから覚えなければならない、あるいは思い出さなければならなかったにせよ、それも含めてデッドはここで再度リセットできた。それが1990年夏までの第三の黄金期を生みだす。しかし、次に倒れた時には、ガルシアはついに再び立ちあがることができなかった。

 デッドのショウ、音楽は他に二つとない、すばらしいものではある。20世紀の生んだ最高の音楽、文化的産物と言ってもいいと思う。一方で、それを生みだすプロセスは、それに関わる誰にとっても、バンドのメンバー、クルー、スタッフの全員にとっても、それはそれは厳しく、きついことであった。偉大なものを生みだすには、それだけの犠牲が付随する。毎晩、ステージの上で、ああいう音楽をやっているのはどんな感じかと問われた時、ガルシアは答えた。

 「絶えず砂が流れおちてくる砂丘を、片足だけで一輪車を漕いで昇ろうとするようなもんさ」

 デッドの恩恵を受けつづけている我々はこの言葉を噛みしめるべきだろう。


3. 1978 Winterland Arena, San Francisco, CA

 ウィンターランド5本連続の中日。やはり良いショウの由。


4. 1983 Centrum, Worcester, MA

 この会場2日連続の1日目。ガルシアの調子が誰の目にも悪いとわかるショウだったようだ。


5. 1984 Carrier Dome, Syracuse University, Syracuse, NY

 開演7時。後半オープナー〈Shakedown Street> Samson and Delilah〉が2017年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。

 初め、ヴォーカルの音が皆遠い。5分過ぎ、急に大きくなる。おそろしくバネの効いたガルシアのギターを中心に、非常にイキのいい演奏。ガルシア、ウィア、ミドランドがコーラスを歌い交わすのがカッコいい。この歌のベスト・ヴァージョンと言いたなる。〈Shakedown が一度終るがドラムスが途切れなく〈Samson〉のビートを打ち出す。ウィアのヴォーカルにミドランドがハモンドで激しく突っかかる。歌の後のガルシアのギターをドラムスが切迫感たっぷりのビートを細かく打ちだして煽る。ガルシアはこれを余裕で受けとめて、いっかな演奏をやめない。

 この2曲だけ聴いても、このショウが第一級であることはわかる。


6. 1988 The Summit, Houston, TX

 17.50ドル。開演7時半。チケットに "No Smoking" とあるのににやり。この年の平均的なショウだったらしい。ということは良い。


7. 1989 The Spectrum, Philadelphia, PA

 前半ラスト〈California Earthquake (Whole Lotta Shakin' Goin' On)〉が《Beyond Description》でリリースされた。2日前のロマ・プリータ地震に対して歌われたのは明らか。後日、もう一度歌われる。


8. 1990 Internationales Congress Centrum, Berlin, Germany

 前半5曲目〈Black-throated Wind〉が2020年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。この年3月に16年ぶりに復活してこれが4回目の演奏。70年代とはかなり性格が変わっている。(ゆ)


9月16日・木

 ARCAM 再上陸はまあ朗報。選択肢が増えるのはいいことだ。どこか NAIM も入れてくれ。あそこの Uniti Atom Headphone Edition は聴いてみたい。これぞネットワーク・プレーヤー本来の姿。

 イヤフォンよりヘッドフォン向け、というのは Focal と同じ親会社の傘下で、Focal のサイトにも Focal 向けに作ったとニュースにあげてるくらいだから、当然ではあろう。Focal の輸入元のラックスマンが NAIM もやればいい、と素人は思う。一緒に売れるだろ。

 Mytek Brooklyn Bridge も II で AirPlay に対応したから、これでもいい。Brooklyn Bridge 初代の値下げは在庫をはいて、Brooklyn Bridget II を投入するためと邪推する。


##本日のグレイトフル・デッド

 9月16日は1966年から1994年まで9本のショウをしている。うち公式リリースがあるのは4本。


1. 1966 Avalon Ballroom, San Francisco, CA

 このショウのためのポスターに初めてケリィ&マウスの「薔薇と骸骨」のイメージが使われた。後に1971年の通称《Skull & Roses》アルバムのジャケットとなったもの。

 かつて《Vintage Dead》《Historic Dead》という「非公式」LPが Sunflower Records という MGM の子会社から出ていて、そこに一部が収録されたそうな。「非公式」というのは、バンドはこの音源のリリースについてレーベルと全面的に合意していたわけではない、ということらしい。収録されたショウについても翌09-1709-11との混同もあるようだ。また、このLPからのテープも出回っている由。

skull&rosesposter

2. 1972 Boston Music Hall, Boston, MA

 同じヴェニューの2日目。前半最後の〈Playing in the Band〉が2014年と2020年の《30 Days of Dead》で、後半6曲目〈Dark Star > Brokendown Palace〉のメドレーが2016年の《30 Days of Dead》でリリースされた。《30 Days of Dead》でのリリースが将来のより正式な形でのリリースを約束するわけではないが、これは期待できそうだ、となんとなく感じる。


3. 1978 Sphinx Theatre, Giza, Egypt

 ピラミッドの下、スフィンクスに見守られての3日間の最終日。《Rocking The Cradle》本体に8割、ボーナス・ディスクも含めれば2曲を除いて収められた。3日間の中ではベストのショウだったことは間違いない。ビデオも収録され、CD本体と一緒に入っている。

 全体におおらかでゆったりとしたテンポなのは、エジプトのご利益か。演奏はかなり良い。ヴォーカルには芯があるし、演奏も気合いが入っている。これならば当時であっても十分ライヴ・アルバムとして出せたと思うけど、ガルシアは何が気に入らなかったのか。

 初日、2日目から恢復したとすれば、さすがのデッドもスフィンクスに睨まれて平常心を取り戻すのに3日かかったということか。

 聴衆のほとんどはバンドを追ってアメリカやヨーロッパから飛んでいった、あるいはたまたま近隣にいたデッドヘッドだったようだが、中にはカイロで英語を習っていた教師たちに連れられて見に行った12歳のエジプト人もいた。わずかにいたエジプト人たちも踊りまくっていたそうだ。


4. 1987 Madison Square Garden, NY

 5本連続の2本め。前半6曲め〈High Time〉が2019年の、その次の前半最後〈Let It Grow> Don’t Ease Mi In〉が2013年の、後半6曲めの〈He’s Gone〉が2020年の《30 Days of Dead》で、それぞれリリースされた。

 〈Touch of Grey〉に続いて〈Scarlet Begonias〉単独というオープナー。


5. 1988 Madison Square Garden, New York , NY

 9本連続の3本め。ようやくエンジンがかかってきたらしい。あるいは意図的にスロースタートしたか。デッドといえども、同じ場所で11日間に9本やるのはたいへんだったろう。


6. 1990 Madison Square Garden, NY

 6本連続の3本め。《Dick’s Picks, Vol. 09》として全体がリリースされた。


7. 1991 Madison Square Garden, New York, NY

 9本連続の7本め。この MSG 9本連続は90年代のピークの一つらしい。


8. 1993 Madison Square Garden, New York , NY

 6本連続の初日。この日は土砂降りで、そのためオープナーはビートルズの〈Rain〉。


9. 1994 Shoreline Amphitheatre, Mountain View, CA

 3本連続の初日。良いショウらしい。

 このヴェニューは屋外のアンフィシアターで、ビル・グレアムが設計し、真上から見るとデッドのロゴ、中が真ん丸い頭蓋骨をかたどっている。1986年にオープンし、柿落しはデッドの予定だったが、ガルシアの昏睡で吹飛んだ。(ゆ)

Shoreline Amphitheatre

4月18日・日

 散歩用ヘッドフォンに久しぶりに eGrado を使ってみる。夜、少しじっくり聴こうと 428 をかますと良く歌う。これは素姓が良いのだ。ディスコンになったのは残念。SR60e を使えということなんだろうが、屋外で使うときには、eGrado のこの固いプラスティックががっちりはまるのが気持ち良いのだ。価格.com で見ると SR80e はもう無くて、SR60e の次は125e。325 も無く、GW100、Hemp と来て、RS2e になる。



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 すばらしい。ゆったりと悠揚迫らず、イングランドの歌の世界にどっぷりと浸れる。James Patterson のヴォーカルとギター。John Dipper のはヴィオラ・ダ・モーレとのことだが、ちょっといなたい、けれど気品のある響きが聞き慣れたフォークの世界と一線を画す。練りに練られたフレーズを即興に聴かせ、声を縫って、水墨画のような空間を描きだす。ハーディングフェーレほどではないが、共鳴弦が立体的な響きを生む。ソロではクラシック的な技法でノルディックの伝統曲を演るのが、やや乾いた音になるのが面白い。

 Patterson Jordan Dipper のトリオによる Flat Earth も見事なアルバムで、Ralph Jordan はどうしたのだろうと思ったら、2014年に亡くなっていたのだった。これにはそのジョーダン追悼の想いもこめられている。

Flat Earth
Patterson Jordan Dipper
Wild Goose
2003-08-11



 パタースンの歌唱は酸いも甘いも噛みわけた大人の味。激することも落ちこむこともない。ブリテンの伝統歌唱に特徴的な、感傷を排した、ちょっと聴くと単調な、その実、複雑微妙な綾を織りこんで、柔かいテクスチャの奥に硬い芯を隠した声、軽く鼻にかけた、松平さんが「鉄則」と呼んだ発声法が心地良い。

 曲は伝統歌ばかりでなく、ハーディやハウスマンの詩に曲がつけられた、元来はクラシック・スタイルで演奏されることを想定しているものもある。こういう曲も、この声で歌われると伝統歌に聞える。

 こういうシンプルな組立ての、伝統歌やそれに準じる歌をじっくりと聴かせるアルバムが、このところまたイングランドで豊作になってきた。(ゆ)

4月6日・火

 八重桜が満開。温水のヨークマートの前にあった八重桜は背後の斜面に移したのだろうか。屋上の駐車場から見ると正面に間隔をおいて4本ほど並ぶ。その奥、上の道路脇に、こちらは前からある木だろう、もう3、4本ある。どれも満開。ヨークマート隣の SEL研究所のグラウンドの落合医院側の角に5、6本並んでいて、これも満開。梨畑で花が満開。あちこち藤も開きだした。こでまりも満開。

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 SFWA からニュースレター購読者対象無料本プレゼントの当選通知。二度目。Julia C. Czerneda の新作も面白そうだが、ハードカヴァーだそうで、もう片方の電子版にする。Susan Kaye Quinn の新シリーズの1作め。この人はロマンス風 YA の作家らしい。

 Julie E. Czerneda の SFシリーズ The Clan Chronicles の最初の3冊を Book Depository に注文。この3冊は Stratification 三部作で、書かれた順番としては後になるが、話の時間軸では最も早い。チャーネイダは同い年の同じ牡羊座。とすれば、読まないわけにはいかない。今一番好きな Michelle West とは同じカナダ出身、同じ DAW Books から本を出している仲間でもある。ますます、読まないわけにはいかない。この The Clan Chronicles のシリーズは三部作が3本からなる。他にアンソロジーが1冊。同じ宇宙の別の系統の話 Esen のシリーズが三部作が今のところ2本。2本めの第三部がもうすぐ出る。プレゼント対象はこのもうすぐ出る本。

 この人のファンタジィのシリーズ1作め A Turn Of Light, 2013のために作ったという舞台になる村の3D模型の製作過程の写真が公式サイトにある。これでもメシが食えるほどの水準。
 
 
 散歩のお供は Show Of Hands, Dark Fields。冒頭 Cousin Jack から Longdog への流れ、Crazy Boy、The Bristol Slaver と名曲が揃う。Flora のタイトルがつけられた Lily of the West、ニック・ジョーンズ編曲とクレジットされた The Warlike Lads of Russia、そして High Germany の伝統歌も名演。High Germany はライヴ録音で、ゲスト・シンガーはケイト・ラスビー。まだそれほど売れない頃だが、もう自意識目一杯の歌唱。ではあるが、ナイトリィのくだけたヴォーカルと並ぶとその固苦しいところがいいバランスになり、ビアのギター、クリス・ウッドのフィドル、アンディ・カッティングのアコーディオンもすばらしく、この歌のベスト・ヴァージョンの一つ。今回聴き直して最大の収獲。それにしてもこれはいいアルバムだ。Cousin Jack では珍しくピアノが活躍する。他にも案外ゲストは多彩にもかかわらず、実質2人だけの音作りなのも、全体を引き締めている。Lie Of The Land、ロイヤル・アルバート・ホールのライヴ、そしてこの Dark Fields と聴いて、こいつらはずっと追いかけるぞと、決意したはずだ。本国での人気もこのあたりで決定的になったと記憶する。ファンのネットワークも Longdog と呼ばれていた。Show Of Hands は何から聴けばいいかと問われれば、やはりこれにまず指を折る。

Dark Fields
Show of Hands
Twah!
1999-10-26



 夜、M11Pro > 428 > HE400i で酒井さんのソロと田辺商店《Get On A Swing》を聴く。HE400i の良さを改めて認識。ヘッドバンドとイヤパッドを替えたのも良いのだろう。

  ハーディングフェーレは一つひとつの音を共鳴弦の響きが美しい。響きの量は Ether C Flow 1.1 の方が多いが、美しさはこちらの方が上かもしれない。共鳴弦の響きに耳が行く。Ether C Flow 1.1 の音は豊饒。こちらは細身。あちらが壮麗ならこちらは流麗。

vetla jento mi 〜ハーディングフェーレ伝統曲集〜
酒井 絵美
ロイシンダフプロダクション
2020-12-27



 《Get On A Swing》はこれで聴くとかなり良い。もう少しチェロとギターのからみ合いを聴いてみたい気もするが、それぞれのソロをしっかり支えるというコンセプトなのだろう。チェロのベースはドーナルのバゥロンのベースにもにて、なかなか腰がある。コントラバスのように大きく響かないのが、かえってビートを効かせる。それに HE400i では音の芯が太くなる。これも使用150時間を超えてきたからでもあろう。やはりこれくらいは鳴らしこまないと、本当の実力はわからない。

GET ON A SWING
田辺商店
F THE MUSIC
2014-12-03



 これを聴いていて、HE400i に使っている onso のヘッドフォン・ケーブルから、公式サイトを覗いてみると、イヤフォン・ケーブルの新作 06 シリーズが出ていた。ヘッドフォン・ケーブルは HD414 用も使っていて、気に入っているから、イヤフォンもひとつ買ってみるか。(ゆ)

 新しいDAPを買った。FiiO M11Pro である。実は当初 M15 を買おうとしたのだが、どこにも在庫が無く、取り寄せにも時間がかかりそうだっのでやむなく 11Pro にしたのだが、今はかえって良かったと思っている。


 

 Cayin N6ii のマザーボードとバッテリーを一体化して交換できるコンセプトにも惹かれて、ほとんどそれに決めていたのだが、最後に方向転換したのは M11Pro のDSD変換機能だ。すべての出力をDSD に変換して出す。

 Android の サンプリングレート変換を回避する Pure Music モードもあり、これとDSD変換を組み合わせると、これ以上、何もいらないじゃんという気分になる。

 Pure Music モードへ切替える方法がついにわからず、輸入元のエミライに問い合わせる。どこの画面でもいいから、上端から下へスワイプすると出てくるメニューの中に切替のスイッチがある。Pure Music モードにすると FiiO Music のみが立ち上がり、他のことは一切できない。DSD変換のオン・オフをする「設定」アプリすら出てこない。これを出すには Android モードにもどさねばならない。ゲインの切替だけは、同じく、スワイプで出てくるメニューで切替えられる。

 Pure Music モードは一度入れると戻れない。オフにすると全体にくすんで、音楽に生気がなくなる。

 M11Pro には 15 には入っていない THX が入っている。15 ではなく、11Pro で良かったと思った理由がこれだ。THX に気がついたのは、実は Benchmark HPA4 のささきさんによる PhileWeb の記事を見て、これに実装されている THX ってどこかで見たぞと思い出した次第。

 HPA4 が使っているのは AAA-888 という THX のトップグレードだけど、M11Pro に実装されているのは THX-AAA-78 で、こちらはモバイル用のトップグレードだ。THX のサイトの製品案内によれば AAA-789 になる。DAP で THX を採用したのは初めてらしい。

 THX の効果は低ノイズ、低歪み、そして低消費電力、さらにハイパワーと、ヘッドフォン・アンプにとって良いことづくめだけれど、確かに M11Pro は静かなのだ。いわゆる雑味が無いというやつで、音楽が際立ってくる。個々の音や残響やその重なり具合にピントがぴしっと合って、にじんだりボケたりするところがまるで無い。聴いていて気持ち良いのだ。音楽の一部としてのノイズもきれいに聞える。一方で、録音の良し悪しはモロに出る。良し悪しというより録音の性格、録り方とか、ミックスやマスタリングの方針とか、そういうものが剥出しになる。慣れた人なら使っている機材のモデル名まであてられそうだ。編集でつないだところも、それとわかる。

 消費電力はよくわからない。DSD変換は当然電気を食うが、一度にそう何時間も聴いているわけではないから、まあ、こんなもんだろうで今のところすんでいる。それにバッテリーの充電が速い。100%になるのに2時間かからない。

 驚いたのはパワーだ。Benchmark の HPA4 でも鳴らないヘッドフォンがよく鳴るとささきさんも驚いていたが、M11Pro のパワーも DAP の次元ではない。なにせインピーダンス 600Ω の T1 がまあよく歌ってくれる。あたしのは初代 T1 の特製バランス仕様で、バランスはパワーが出るわけだが、それにしても、この鳴り方はまっとうなヘッドフォン・アンプを介さなければ、これまでは無かった。伸びるべきところはどこまでも伸び、止まるべきところは見事に制動が効いている。もちろんハイゲイン設定だが、音量スライダは下から3分の2あたりでちょうどいい録音が多い。

 EtherC Flow 1.1 もいい気分で歌う。これもなかなか気難し屋で、ただパワーがあるだけではうまく鳴ってくれない。手許のは初代で、あまりに鳴らないので、一時は手放そうかと思って、AMP に品出ししたこともあったが、1.1 にアップグレードし、マス工房 model 428 と組み合わせてようやく実力がわかってきて、売るなんてとんでもない。エージングもいい具合になり、そろそろケーブルを換えてみるかという気になっていた。M11Pro で聴くと、これならブリスオーディオの Mikumari を奢るかと気分が昂揚してくる。

 こうなってくると THX のヘッドフォン・アンプは DAP では必須ではないかとすら思える。少なくとも、あたしは今後、これが入っていないと使う気になれない。

 FiiO Music の使い勝手はまずまずで、この辺りは HiBy と同じ。入れているマイクロSDカード 512GB の3分の2くらい使っていて、アルバム数も結構あるが、画面が大きいこともあり、スクロールして右端に出るアルファベットで跳ぶのもやりやすい。

 デメリットはまず熱くなること。公式サイトのQ&Aにもあるように、やむをえないところだろうし、ささきさんも言うように、オーディオでは熱くなるのは音がいい、というのはたいてい当っている。一度、シャツの胸ポケットに入れて15分ほど歩きながら聴いたら、かなり熱くなった。季節要因もあるだろうが、携帯するにはもっと通気のよいものに入れる必要がありそうだ。今のところ、散歩用はこれまで使っている Hiby R5 で、M11Pro はもっぱら屋内での使用。冬は持ち出してもいいかもしれない。

 DAP は世代交替が激しいし、保ってせいぜい2年でバッテリーがダメになるから、5万前後までのものにしていたのだが、DSD変換に誘われて「清水の舞台」から飛びおりてみたら、別世界が開けた。この方向で、Sony DMP-Z1 を凌ぐようなものを出して欲しいものではある。Chord Hugo 2 のような半携帯式でバッテリー駆動で THX-888 のヘッドフォン・アンプを備えて、部品にもとことんこだわった DAP。バッテリーには先日発表された K100 が採用した円筒型の電気自動車規格の21700型リチウムイオン充電池はどうだろう。半デスクトップなら、K100 みたいな不恰好にすることもないだろう。

 HiBy に比べると FiiO は DAP を作ってきた経験が長い分、いろいろな点で一日の長があるように思う。もっとも R5 も悪くない。M11Pro よりも小さく軽く、熱くなることもないし、シーラス・ロジックの DAC チップの音も好きなので、散歩用としてはまだまだ活躍してくれるだろう。

 オーツェイドの人のように擁護する向きもあるが、あたしはあの 2.5mm バランス端子がでえっきれえなので、A&Kや今度の K100 は使ってみたいと思うこともあるけれど、当面は選択肢に入ってこない。M11Pro にも 2.5mm ジャックはあるのだが、華々しく金色の枠がついている4.4mm ジャックの隣に添え物のようにちょこなんと着けられていて、ちょっと見るだけではあるのさえわからない。こんな扱いにするなら、とっぱらった方がよかったろうに。もっともこれには、両方同時に挿せないようにという配慮もあるのか。

 イヤフォンは耳の中で存在を主張されるのが苦手で近頃はもっぱらヘッドフォンで聴いている。遠出をする機会が極端に減ったので、電車に乗らず、したがってイヤフォンを使うチャンスはますます減っている。光城の Keyagu とか、オーツェイドの intime 翔とか、ファイナルの A8000 とか、使ってみたいものも無いことはないが、ステイホームのうちはヘッドフォンで遊ぶだろう。そうそう、M11Pro と HD414 の組合せが、歌好きにはもうたまりまへん。414 のケーブルもグレードアップしたくなっている。ファイナルのシルバーコート・ケーブルが使えないのは、かえすがえすも残念。

 それにしてもゼンハイザーは HD414 の直接の後継機を出す気はもう無いんだろうなあ。500や600のシリーズを使えというんだろうが、ちょと違うのよねえ。まんまの復刻でもいいんだけど。今使ってるのが壊れると替えが無いのがなんとも不安。(ゆ)

 皮膚科がようやく開いたので電話する。予想通り、なかなか通じないが、念力で通す。薬だけもらえないかと頼み、それなら今日でもOKというのですぐに支度をして出かける。無事、痒みどめの飲み薬と無くなりかけていた塗り薬をもらえてほっとする。

 慶福楼で昼食をとり、早速に痒みどめを飲んで、上京。ちょうどロマンスカーがあったので乗る。カネはかかるがこの方がソーシャル・ディスタンスがとれる。秋葉原のファイナル・ストアに試聴室の予約を入れておいた。新しく出たシルバーコート・ケーブルの HD600 シリーズ用を聴くためだ。愛用の HD414 で試す。ところが左チャンネルの音が出ない。比較のため持参したブリスオーディオの TOTORI や onso のケーブルでは問題がない。コネクタのきつさも TOTORI と同じくらい。念のため 2.5mm プラグのケーブルでも試すが、同じだ。左右を逆にするとやはり右からしか音が出ない。となると、この個体の左チャンネルのコネクタとケーブルのプラグが合っていないのだろう、とスタッフの熊五郎氏が言われるのは、その通りだろう。むむう、しかし、残念無念。

 試聴室に入ってまず TOTORI で聴いてみたのだが、その音の良さに驚いた。ソースは FiiO M11Pro で、Pure Music モードにして DSD 変換をオンにしてある。林正樹のバンド、間を奏でるのセカンド《Green Chorus》の中の〈櫂〉。録音優秀(MA Recordings の Todd Garfinkle による)、演奏もトップ・クラス、そして曲が面白い。アイリッシュ・ハープ、フィドル、エレキ・ベース、ピアノ、それに多彩なパーカッションという、音量も音の性質もかけ離れた楽器のアンサンブルで、試聴にはちょうどいい。TOTORI は試聴用に借りているもので、ここ数日聴き続けて、常用している onso との違いもわかってきていたが、この試聴室で聴くとまるで別物。これが実力か。防音ということもあるのだろうが、それだけでもない気もする。この試聴室が欲しくなる。これはヤマハ製の「マイルーム」で、家の中に造る形。サイトをみると工事費含めて60万ぐらい。オープン・タイプのヘッドフォンの場合は聴く環境もモノをいう。ヘッドフォンでも部屋は大事なのだ。本気でオーディオ・ルームを造ろうとすれば、ウン百万からかかるわけだが、ヘッドフォンなら数十万でできると考えればやはり安上がりか。

 せっかく来たので、イヤフォン・ケースの2を買って辞去。まっすぐ帰る。帰りも、うまくロマンスカーがあったので乗る。ここ数日、痒みでよく眠れず、ゆったりすわっているとうつらうつらしてあやうく乗り過ごしそうになる。

 FiiO M11Pro の Pure Music モードへの切替方法がどうしてもわからず、やむをえず輸入元のエミライに問い合わせた。どこの画面でもいいから、画面上端からのスワイプで出てくる Android モード切替で切替える。切り換えると FiiO Music のみ立ち上がり、他は一切操作できなくなる。ゲインの切替や DSD 変換のオン・オフを行う「設定」も出てこない。これをやるには Pure Music をオフにしなければならない。

 Pure Music モードへの切替の件は唯一付いているクイックスタート・ガイドにも、公式サイトのFAQにも、どこにも無い。再度エミライに問合せると、M11 のファームウェアの 1.0.6 へのアップデートの記事にある、との答え。見ると確かにあるが、ここにしかないのはいくらなんでも不親切。M11 を経由せず、M11Pro をいきなり買ったあたしのような人間は、旧機種の古いファームウェア・アップデートの注記なんぞ、見るはずがない。M11Pro は THX、Pure Music モード、DSD変換を備えて、現状最強の DAP、THXの無い M15 より上ではないかとすら思うが、とにかくマニュアルが無いのは困る。これの前に買った HiBy R5 もマニュアルがなく、沢山ある設定項目の半分は何を設定して、どうなるのか、まるでわからない。中国製品はモノは良いが、こういう周辺環境がマイナス。輸入元の人手不足か。

 DSD 変換は何でもかんでもこれにすればいいというわけでは無さそうだ。音楽のスタイルと録音の質を選ぶと思う。しかし THX と Pure Music モードはどちらも強力。後者は R5 も備えていると謳っているが、デフォルトで入っているのか、設定するスイッチはこれまたどこにも見当たらない。

 本厚木まで帰ってきて、いつも買うパン屋がすべて夏休みで閉まっているので、最近できた食パン専門店の Pan Pa Pan でパンを買ってみる。甘いのと甘くないのと2種類あるというので、もちろん甘くない方にする。が、こちらはまた味が無い。不味くもないが、旨くもない。見るといろいろ入ってもいる。「本厚木店」とあるから、チェーン店の一つだろう。検索すると「高級食パン専門店」のチェーンがブームになっているらしい。本厚木駅周辺にも二つもできるくらいだ。どちらのも食べてみたが、どちらもパンとは別のもので、これも一過性。(ゆ)

 昨日は今年初めて燕を見ました。今年も見られて嬉しい。

 恥も外聞もない宣伝です。

 本日、オーロラサウンドさんと Jaben Network の共同で「Jaben バランス・スペシャル・セット1」のプレス・リリースを出しました。

 先だっての「ポタ研」でお披露目したセットです。ベイヤーダイナミック T1 と T5p をバランス仕様にモディファイしたものと、これ専用にオーロラサウンドさんにチューニングしていただいたバランス・ヘッドフォン・アンプ BDR-HPA-02 を組み合わせ、さらに CEntrance DACport も添えました。下の写真には DACport が映ってませんが、ご想像ください。

bbotmt

 ちなみに、T1、T5p のバランス化は製品にするまではウィルソンおやじが自分でやってます。

 本製品はヘッドフォンとアンプで構成されており下記の組合せがあります。

 ヘッドフォンは Beyerdynamic 社の T5p(32Ω)とT1(600Ω)を用意いたしました。それぞれに専用のバランスドライブができるよう改造を施し特性の4ピンXLRの高信頼性コネクタを装備しました。さらにオプションとしてクライオ処理を施した交換ケーブルも用意いたしました。

 ヘッドフォンアンプ “BDR-HPA-02” は JABEN の要求により本ヘッドフォン用にオーロラサウンが特別にチューニングしたもので4ピンXLRジャックによるバランス駆動、また標準フォーンプラグによるノーマル駆動ができるようになっています。また T5p と T1 というインピーダンスや感度が異なるヘッドフォンも適正な音量で駆動できるようにゲイン切り変えスイッチを(High/Low)を備えています。

BDR-HPA02 仕様
入力           RCA アンバランスラインレベル信号
出力           4pinXLRバランスジャック x1  標準フォ-ンジャック x1
周波数特性        5Hz -80kHz
全高調波歪率THD+N   0.0046%
最大出力                     1500mW   x2   @45Ω負荷  Highゲイン時
ドライブ可能ヘッドフォン 16Ω -  600Ω     High/Low ゲイン入り変え
電源           AC100V 50-60Hz
大きさ          W230mm x D180mm x H80mm     突起物含まず


 アンプ側のバランス・コネクタは 4pin XLR 端子で、これに合わせたケーブルも同梱しています。オプションのクライオ・ケーブルの価格はまだ未定です。すみません。

 販売は 05/20 から Jaben Online の日本語ページをオープンして開始します。価格は 248,000円。税込、送料込みです。なお、念のために、これは T1 か T5p のどちらかのセットの価格です。両方欲しい、という方はご相談ください。

 もちろん、05/11 の春のヘッドフォン祭2013でも展示し、会場特価で販売します。展示は Jaben のブースとオーロラサウンドさんのブースの両方でします。

 もうひとつ、小生はあくまでも「代理人」で「代理店」ではありません。あたしには「代理店」をやれる能力も資格もございません。注文は Jaben Online で、つまり直販です。細かいことかもしれませんが、念のため。

 ということでひとつ、よしなに。

 それと、これからこの製品を含め Jaben Online ショップに関しては、Facebook の専用ページでサポートします。ご連絡もそちらにいただきますよう、お願いします。
(ゆ)

 昨日は半日、Jaben のウィルソンおやじにつきあっていました。新宿の伊勢丹で昼食を食べた際、おやじが携帯を忘れ、あわててもどってみたら、レストラン入口の椅子の上にちゃんとのっかっていました。30分はたっていたでしょう。こんなことは日本でしかありえない、とおやじはあんびりばぼーを連発し、大喜びで帰っていきました。

 先週のポタ研では、Jaben のブースにお越しいただき、御礼申しあげます。

 1週間前まではまったく参加を予定していなかったので、まるで準備不足だったんですが、展示したモノはどれも好評で、ありがたく楽しませていただきました。それでも熱気にあてられたか、ヘッドフォン祭のときよりもくたびれました。

 今回の展示の目玉はまず Hippo ProOne で、ワンBAドライバーのイヤフォンです。これも木曜日の夜、前触れもなくメールでポスターが送られてきて、これをプリント・アウトしてもってきてくれ。金曜日に無印良品でプラスティックのフレームを買って入れたのが展示したもの。サンプルも1セットしかなく、おやじが持って帰ったくらいのホヤホヤの製品です。それでも来月には発売予定です。

hippopro1


 試聴された方にはいずれもかなり好評で、1BAドライバーの音とは思えない、というありがたい評価もいただきました。価格は1万円前後の予定です。この価格に驚かれる方も多かったです。なお、ポスターにあるコンプライ流のフォーム・チップがデフォルトですが、シリコン・チップも用意されてます。

 2、3時間聴いたかぎりでは、中高域にフォーカスして、低域もしっかり出してくれます。前面にあるパートや楽器にスポットを当てながら、バランスもよくとれている、というところ。モニター的というよりは、鑑賞用。うたものや生楽器のアンサンブル向きかな。クラシックなら交響曲よりは協奏曲でしょう。もっとも癖がない、すなおな音なので、たいていの音楽はOK。ふだん重低音たっぷりのヘッドフォン、イヤフォンで聴いている音楽も、意外な面を発見できるかもしれません。

 ふたつめは xDuoo のポータブル・アンプ2機種。

 XD-01 は光、同軸、USBのデジタル入力を備えた DAC &アンプで、主に AK100 などのデジタル出力のあるプレーヤー用です。サイズも AK100 よりすこし大きいくらいで厚さも1センチほど。ゲイン切替、アナログ入力もあります。充電は USB 経由。

 XP-01 は Android 用のマイクロ USB 入力のある DAC &アンプ。こちらは厚さは XD-01 と同じで、サイズは一回り大きいです。Android のスマホに合わせてあるようです。

 これも Jaben で扱うことは決まっていますが、価格などは未定。そんなに高くはなく、たぶんどちらも300ドル以下になるだろうとのこと。

 これについてはささきさんのブログをご参照ください。ささきさんは AK100 で試聴されて、驚いてました。ぼくはこのあたりは無知なので、これから勉強します。これまで Android は無視していたのですが、こうなると未知の世界を探索する気分で面白くなってきます。

 もう一つ、お披露目したのはポタ研の趣旨からはちとはずれますが、バランス化した Beyerdynamic T1 と T5p と特製のバランス・アンプです。

 これは実は昨秋のヘッドフォン祭の産物です。たまたま Jaben のブースの対面がオーロラサウンドのブースで、そこにオーロラサウンドが「音松」のブランドで出されているバランス・ヘッドフォン・アンプ・キットの完成品が展示されていました。ウィルソンおやじがこれを聴いてみてたいへん気に入り、自分でバランス化して出している T1、T5p(もちろん公認)と組み合わせることを提案しました。オーロラサウンドの唐木さんがこれに乗ってくれまして、キットをベースに、ケース、ヴォリューム・ノブを上質のものに替え、また部品の一部もグレードアップして、音をバランスド・ベイヤー用に調整したものがこの音松アンプです。

 バランス・コネクタは4ピン・シングルで、別にシングルエンド用端子もあります。また、ゲイン切替も備えています。入力はアンバランス・アナログRCAです。

 バランス化した T1 または T5p と、4ピン・バランス・ケーブル、音松バランス・ヘッドフォン・アンプ、それに CEntrance の DACport をセットにして販売します。セットのみの通販オンリーです。バランド・ベイヤー単体は Jaben のオンライン・ショップでも買えますが、アンプはあちらでもセットのみになります。

 国内でも販売します。実際に販売開始をアナウンスできるのはもう少し先になります。価格は20〜25万円を予定しています。予約は受け付けています。氏名、住所、電話番号、メールアドレスを、こちらまでメールでお送りください。お支払いは PayPal が使えます。春のヘッドフォン祭では試聴できるはず。公式発表もそのあたりになるでしょう。今でしたら「早期予約特価」で申し受けます。

 先週月曜に、急遽出るから頼むと言われてひええと思ったら、やはり満杯だから出ない、ということになってほっとし、いやなんとかなるそうだレッツゴー、でこんなにあわただしい思いをしたのは、もう何年ぶりでした。

 来場者も多く、隣が ONKYO さんで、例の新しいヘッドフォンは興味津々だったんですが試聴できず。結局、トイレに行ったついでにミックスウェーブさんのところで CEntrance の HiFi-M8(ハイファイメイト)をちょっと聴けただけ。これは早期割引につられて予約を入れているので、とにかく楽しみ。あと2ヶ月待ってくれ、と CEntrance のマイケルさんは言ってました。

 それにしても、T5p を首にかけて来てる方が目についたのは驚きました。たしかに "p" が付いているように、インピーダンスやプラグからしてモバイル用を意識した製品ではありますし、Ultrasone の Edition 9 を頭にかけた人を駅のホームで目撃したことはありますが、これも日本ならではの現象でしょうねえ。ニューヨークあたりでは考えられない。

 白状するとバランス化した T1、T5p を聴いてベイヤーをあらためて見直しました。それにバランス化の効果は想像をはるかに超えていて、さらに音松アンプのおかげで、まさに天国、いわゆる "Nirvana" 状態に入れます。たぶんただヘッドフォンをバランス化してアンプにつなぐだけでは不十分で、その効果を十分に引き出すにはアンプとの相性が大事なんでしょう。

 ウィルソンおやじはいま還暦ですが、ヘッドフォンにとり憑かれたのは14歳の時だそうですから、年季は入ってます。コレクションもかなりのもので、かの「オルフェウス」もある由。ベイヤーのバランス化もそういう経験と熱意の賜物でしょう。他にもアレッサンドロの MS1 をバランス化したりしていますし、いくつか公認のバランス化をすすめているものがあるそうです。

 それと『ヘッドフォンブック2012』英語版ですが、なんとか国内でも販売できるようにする予定だそうです。Hippo Cricri M が付録です。"M" は "Magazine" の "M" で、これ用に調整したもの。『ヘッドフォンブック2013』も英語版を出します。春のヘッドフォン祭にはたして間に合うか。間に合ったらご喝采。

 肝心の音楽も、個人的には聴きたいものがあふれていて、Sam Lee が来るというので舞い上がったり、1941年録音の日本の伝統音楽のCD復刻が国内発売されていたり、スーザン・マキュオンの新作がやたら良かったり、ジェリィ・ガルシア・バンドのライヴ・シリーズ第一弾がハイレゾ配信で出たり、もうてんやわんやです。アルタンの旧マネージャーでその前はダブリンの Caladdagh のマスターをやっていたトム・シャーロック編集の THE OTHERWORLD: Musc & Song from Irish Tradition という、CD2枚付きのみごとな本も出てます。これはあらためて紹介したいですが、アイルランド伝統音楽のなかでも、「あの世」、超自然をあつかったものに焦点をあててます。2枚におさめた計40曲のうたとチューンについて、曲とシンガー、演奏者、それに収集家もとりあげて解説したもの。有名な録音もありますが、ほとんどはこれでしか聴けません。すばらしい写真がたくさん入ってます。一家に一冊。

 今朝はまたいちだんと冷え、雪の予報も出てますが、近所では梅が咲きだしました。(ゆ)

もちろん付録の Luxman の作ったヘッドフォン・アンプめあて。

 付録は48KHz までサポートする USB-DAC 付きヘッドフォン・アンプで、Luxman 製ということで、少し期待したのだが、甘かった。USB電源のみで、入力も USB だけ。音は焦点がぼやけてもいるが、長所もない。

 Stereo はいまだにヘッドフォンを「アクセサリー」扱いしていることからして、ヘッドフォン・アンプや PCオーディオなど使ったことのない読者にとっての入門が目的なのだろう。加えて、あたしのようなヘッドフォン・ファンを釣ることも目論んでいたはずだ。

 もっとも、この雑誌の読者はまともなヘッドフォンなんて持ってないんじゃないか。もしそうなら、ここで持ち上げられている Shure とか、表紙のオーテクあたりに手を出すのであらふ。あたしなら Beyerdynamic T1 とか Final Audio Design Piano Forte XX を薦めるところだが、まあこんなところは見ていないわな。

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 しかしなあ、Luxman のアンプってこーゆー音なの? いくら雑誌の付録とはいえ、基本的な性格は変わらんでしょう。まあ、ヴォーカルがしっかりきれいに聞こえるのはいいんですけどね。

 結論はもう少し、使いこんでからと思うが、使っていてあんまり楽しくないのよねえ。

 むしろ、いろいろ部品を交換していって、音が変わるのを楽しむアイテムというところ。んだが、そういうことをしているカネと暇があれば、1曲でも音楽を聴きたいと思う今日この頃である。


 とはいえ、こういう雑誌でも収獲はあるもので、「私の特選! ミュージック・ファイル」というコーナーで OTOTOY が配信しているハモニカクリームズの新作《IN + OUT = SEA》がとりあげられているのは嬉しい(201pp.)。ただし、筆頭にあげられている、オールマンのフィルモア・ライヴの192KHz 音源がすでに OTOTOY のサイトから消えているのは、どちらが悪いのか。HDTracks で配信されているのは 96KHz なので、192だったら聴いてみたかった。

 12/24訂正。オールマンのフィルモアを配信しているのは e-onkyo で OTOTOY ではありませんでした。失礼しました。それにしても、これは DSD マスターということなんだが、そのマスターをそのまま配信する計画はないのかね。これを DSD で聴けるなら、DSD 環境を整備するぞ。

 ところで、これには1992年にプロデューサーのトム・ダウド自身がミックスしなおして、それまで未発表だった録音も入れて出しなおした《TNE FILLMORE CONCERTS》がある。これも良い録音で、むしろ空間の広さや楽器のバランスはこちらの方が好きだが、これのハイレゾというのは無いのか。

Fillmore Concerts
Fillmore Concerts


 日本語のオーディオ雑誌を見ていつも思うけど、ソフトの扱いが軽すぎるよなあ。アメリカのハイエンド・オーディオ専門誌の雄、The Absolute Sound は全体の半分がソフトの話で、録音面だけでなく、音楽、演奏についても正面からとりあげていた。オーディオは「音」を聴くもんじゃない、聴くのはあくまでも「音楽」だ、という筋がどーんと通っていた。大部分はクラシックとジャズだったけど、ジェニファ・ウォーンズの《FAMOUS BLUE RAINCOAT》が出た時、当時の編集長自ら、シンガー本人とプロデューサーを招いて、長時間インタヴューをして特別記事を書いた。その原稿の質と量は、どんなハードウェアのものよりも多く、高かった。

ソング・オブ・バーナデット 〜レナード・コーエンを歌う
ソング・オブ・バーナデット 〜レナード・コーエンを歌う


 それはともかく、なによりもかによりも仰天したのは、「海外ブランド・インタビュールーム」の「アバンギャルド」というドイツのスピーカー・メーカーの頁(142pp.)。David Browne というインターナショナル・セールス・マネージャーが出ているのだが、


アイルランド出身で、アイリッシュ音楽の大ファン。かつて百人規模で踊るグループイベントのPA技術者として来日し、2ヶ月以上滞在したこともあるのだという。音楽業界の最前線でPAや録音機材と深く関わり、アバンギャルドの製品に惚れ込んだことがきっかけで、2011年秋セールス・マネージャーに就任。

 な、な、何だって。『リバーダンス』のPA担当者が売っているスピーカー?

 「私が購入したアバンギャルドの製品は、ウノG1 です。繊細さと生々しさに圧倒され、強く惹かれました。特に低域のレスポンスが最高、しかも小音量再生に強い。また、その音は生音にきわめて近い性質を持っていて、大音量再生中でも普通に隣の人と会話ができる。そんなことは他社製スピーカーではありえません」

 聴いているのは、当然アイリッシュ・ミュージックが多いはず。その人がこう言うとなると、気にするなという方が無理だ。おまけにだ。

 そこまで話したあと、彼は意外なCDを取りだした。まず、1956年録音のジャズボーカル・アルバム『エラ・アンド・ルイ・アゲイン』。そして、それが終わると次にジューン・テイバー『アップルズ』から「センド・アス・ア・クワイエット・ナイト」をかけた。

 ぎょえー! スピーカーの試聴にジューン・テイバー! ちなみにこの曲は《APPLES》最後のトラックで、遠めで控え目のピアノ伴奏を文字通りバックにジューンが手前でゆっくりとうたう。途中から、ハイノートのドローンが入る。第2連だけ、ヴォーカルにわずかにリヴァーヴをかけている。確かに、よい録音ではありますよ。

アップルズ
アップルズ


 代理店のエソテリックのスタッフが
「私たちが普段行なっているデモでかけないようなソフトが、かなり異なる音量で再生されました。こんな魅力もあったんですね」
と言うのも無理はない。

 写真を見ると、ホーン・システムではないか。それにサブ・ウーファーを組み合わせたアクティヴ・スピーカー。値段もハンパじゃないが、スピーカー、サブ・ウーファー、アンプがセットと思えば、そんなに無法なもんじゃない。いや、そりゃ、買えるか、となると話は別。それにこうなるとセッティングにも気を使う必要がある。

avantgarde duo Ω(omega) G2(ペア) (価格問い合わせ)
avantgarde duo Ω (omega) G2


 しかし、しかし、だ。このブラウン氏が惚れ込んで、製品の音決めにまで参加しているスピーカーとなると、聴かないわけにはいかないだろう。

 どこかで聴けないか、と思ったら、かの吉祥寺の「メグ」のシステムに使われている。「いーぐる」の後藤さんによれば、首をかしげるところもあるらしいし、「メグ」では「いーぐる」とは違って、アイリッシュをかけてもらうわけにもいかないだろうが、試聴室よりは、実際に使われている形で聴いてみたい。

 uno は G2 になっているが、エソテリックのサイトには Solo という、同軸ユニットを使ったさらに小型の製品がある。ただし、生産終了。後継機は出ないのか。(ゆ)


☆販売価格はお問い合わせください。☆avantgarde(アバンギャルド)SOLO【スピーカー】≪定価表示≫
avantgarde SOLO

 TouchMyApps というサイトにはヘッドフォンのコーナーがあって、セレクションも個性的ですが、内容も微に入り細を穿ったもので、読み応えがあります。その中に GoVibe Porta Tube+ のレヴューがあるのを、最近、発見しました。これはもう「銘器」といってよいかと思いますが、なかなか情報が少ないので、著者の了解を得て邦訳してみました。お楽しみください。なお、元記事には美しい写真がたくさんありますが、著作権の関係でここには載せられません。また、後ろの方に出てくるグラフも同様です。これらは元記事をご覧ください。

Big thank you to Nathan Wright who wrote the oritinal review for his kind permission to translate and put it up here.


PortaTube-iPhone2


 チープなことは悪いことじゃない。ぼくはチープなものを食べて、チープなものを着て、チープな冗談を言っている。もうずいぶん久しい間、Jaben がぼくのまわりに送ってきていたのは、チープなアンプばかりだった。大量生産品だね、アーメン。ところが Jaben はとうとう好みを変えたらしい。いずれ慈善事業にも手を出すことになるんだろう。いやその前にまずは Porta Tube+ だ。iPad/Mac 向けの真空管ヘッドフォン・アンプ兼DAC だ。ブルジョアが聴くにふさわしく、王様にぴったりの音を奏でる。

 どこの王様かって。GoVibe 王国のだよ。

スペック
24/96kHz アップサンプリング DAC:CIRRUS CS4398-CZZ (24/192kHz)
真空管:72 6N16B-Q
USB コントローラ:Texas Instruments TIASIO20B
一回の充電で使用可能な時間:7-10 時間
驚異的な音

 Jaben 製品ではいつものことだが、スペックを知りたいとなると、あちこちつつきまわらなければならない。探しものが見つかることもあるし、みつからないこともある。付属の文書類はいっさい無い。Jaben 製品が使っている DAC チップが何か、まるでわからない。オペアンプもわからない。Porta Tube や Porta Tube+(以下 Porta Tube/+)が使っている真空管の種類然り。事実上、わかることはなにも無い。(セルビアの Zastava のブランド)ユーゴかトヨタの部品を寄せ集めて作った1990年型現代(ヒュンダイ)自動車の車を買うのによく似ている。部品が何か、知っているのは販売店だけだ。ありがたいことに、Porta Tube/+ には良い部品がふんだんに使われている。もうひとつありがたいことに、Jaben はありえないようなスペックをならべたてたりはしていない。ダイナミックレンジが 120dB だとかぬかしているアンプ・メーカーはごまんとある。嘘こくのもいいかげんにしてくれ。いやしくも音楽信号を扱うのに、そんなことありえるか。負荷がかかれば、なおさらだ。

 先へ進む前に、Jaben の Vestamp を覚えているかな。あれも GoVibe だ。GoVibe は Jaben のハイエンド・ブランドだ。そして、こと音に関するかぎり、GoVibe はハイエンドの名にふさわしい。そうでない製品も少なくはないが、たいていはハイエンドと呼ばれておかしくはない。


造りの品質
 アルミ製のアンプというのはどれもこれも皆同じだ。Jaben も例外ではない。そう、前後は4本ずつのネジで留められている。ネジはヴォリューム・ノブにもう1本隠れている。マザーボードは2枚の波形の板にはさまれ、三連 three-cell の充電池がかぶさっている。

 出入力用ポートはマザーボードにしっかりと固定されて、3個のきれいにくりぬかれた穴に首を延ばしている。パワー・スイッチは形がいい。がっちりした金属製で、ぴかぴかの穴から亀よろしく頭をのぞかせる。

 全部で28個の空気穴が世界に向かって穿けられている。上下半分ずつだ。内部は熱くなるから、この穴がなくてはいられない。冬にはあまり頼りにならない懐炉。夏にはまるで思春期にもどったようになる。とにもかくにも、ちゃんと作動していることだけはわかる。

 Porta Tube に傷があるとすれば、ゲイン切替装置だ。こいつは例の8本のネジを延べ百回ばかり回さないと現われない。調節そのものは難しくはない。ジャンパ・スイッチのジャンパを隣のスロットに移すだけのこと。ピンセットか小さなドライバさえあればいい。左右は別々に調節できる。簡単すぎて気が抜ける。ただし、だ。そこまでいくには、フロント・パネルの4本のネジを回してはずし、次にバック・パネルのネジも回してはずし、そしてマザーボードをそっと押し出さなければならない。つまり、百回は回さなければならないわけだ。だいたいそこまで行く前に、バック・パネルにでかでかと書かれた注意書きを見て、手が止まってしまうこともありえる。
 「警告! 高電圧につき、中を開けるな!」
ブザーが鳴ってるだろ。こうこなくっちゃウソだよ。ホント、イタズラが好きなんだから。このブログを昔から読んでる人なら覚えているだろう。Hippo Box+ のツリ用のウエブ・サイト。中身が何もないアレ。ベース・ブーストとゲイン・スイッチの表示が裏返しになっていたヤツでもいい。ったく、笑わせてくれるぜ。

 ジャンパ・スイッチを前の位置に移すとハイ・ゲイン・モードになる。笑いごとではない人もいるかもしれない。いきなりネジ回しを握っても、バック・パネルで諦める人も出てきそうだ。それはもったいない。というのも、Porta Tube と Tube+ のパワーはハンパではないからだ。IEM を使っているのなら、あり過ぎるくらいで、ゲインは低く抑えたくなるにちがいないからだ。最後にもうひとつ障碍がある。ゲイン・スイッチには何の表示もない。初歩的な電気の知識をお持ちなら、プリント回路をたどればおよその見当はつくだろう。電気のことはもうさっぱりという方に、切替のやり方をお教えしよう。

 ジャンパ・スイッチを二つとも動かすと、ゲインは高くなる。ジャンパ・スイッチを「前」の位置、つまり、アンプのフロント・パネルに近づけると、ゲインが高い設定になる。他の位置では、すべて、低くなる。左右のチャンネルはそれぞれ独立に設定できる。左右の耳で聴力に差があるときは便利な機能だ。バック・パネルのジョークを別にすれば、Porta Tube にはイラつくところは何もない。そこにさえ目をつむれば、これはすばらしいアンプだ。これだけ注目されるのも無理はない。

 音量調節はどうかって。すばらしいですよ。つまみやすいし、動きもなめらか。目印の刻み目は暗いところでも、どこにあるか、すぐわかる。


エルゴノミクスと仕上げ
 ブラウザで Porta Tube+ の写真がちゃんと見えるか自信がない。このマシンは美しい。ケースのブルーは両端のシルバーとみごとな対照をみせる。ブルーの LED ライトに比べられるものは、少なくともポータブル・オーディオの世界では他にない。このライトの明るさはそれほどでもないが、夜遅く、暗くした部屋の中では、アンプの正面にテープを貼るか、またはつまらないミステリー小説かなにかでおおっておきたくなるくらいだ。

 いろいろな意味で、美しさというのはごく表面だけのことだ。700ドルの値段が付いているのなら、隅から隅までそれにふさわしくなければならない。フロント・パネルの文字はレーザーで彫られていて、硬化鋼のネジの頭はちゃんと削られて突き出していないでほしい。マザーボードに組立て工の指紋が着いていたり、フロント・パネルにすり傷がある、なんてのも願い下げだ。ゲイン・スイッチを切り替えるにはバック・パネルを開けるしかないのに、そこには「開けるな」と書いてある、なんてのもないだろう。GoVibe Porta Tube+ ではそういうことが体験できる。それもパッケージのうちだ。これにそれだけ払うだけの価値があるかどうかの判断はおまかせする。

 もっともデコボコはあるにしても、プラスもある。もう一度言うが、ヴォリューム・ノブのなめらかさは完璧だ。入出力のポートの間隔も十分で、でか過ぎるヘッドフォン・ジャックやケーブルでも余裕で刺せる。もう一つ、ヘッドフォン・ジャックが二つ付いているのも大きい。スタンダードとミニと二つ並んでいるから、音量を変えないまま、同じ音源を二つのヘッドフォンで聴ける。Porta Tube も Porta Tube+ も、少々のことでは動じない。中を覗けば、洗練にはほど遠いかもしれない。しかし、全体としては、Porta Tube+ はけっして口下手ではない。


特長
 バッテリーの保ち時間は7〜10時間、充電機能内蔵、6.3 と 3.5ミリのヘッドフォン・ジャックを装備し、それに、外からは見えないスイッチでゲイン調節ができる。Porta Tube も Porta Tube+ も、本来の機能でがっかりさせることはない。Porta Tube に700ドル出すことで、手に入るのは大馬力だ。Porta Tube と Porta Tube+ をもってくれば、ヘッドフォンの能率やインピーダンスは関係なくなる。バランス出力や静電型ヘッドフォン用ではないが、それはまた話が別だ。

 + が付く方は 24/96 をネイティヴ・サポートし、192KHz までアップサンプリングする。コンピュータで音楽を聴いているなら、これだけで買いだ。ヴォリュームの位置がどこにあっても、ノイズは比較的少ない。これだけで National アンプ をしのぐ。そして、VestAmp+ を上回るパワーを出力ポートに注ぎこむから、耳が痛くなるような音量で鳴らしても、ヘッドフォンの音が歪むことはない。そうそう、あらかじめことわっておく。Porta Tube の音はでかいぞ。


音質
 Porta Tube を初めて聴いたのは新宿のカレー屋だった。耳には頼りになる Sleek Audio CT7  をつけていたのだが、自分の顔が信じられないという表情になるのがわかった。Porta Tube の 3.5mm ジャックに伸ばした手は、何十種類ものアンプに何百回となくプラグを刺しこんだものだ。その手も、昔は一刻も早く音を聴きたくて、震えていた。んが、その日は別に特別な日ではなかったし、目の前のアンプに大いに期待してもいなかった。Tube+ も他のアンプと変わるところはない。最初は背景ノイズのテストだ。指がヘッドフォン・ジャックにプラグを刺しこむ。ヴォリュームをゼロに下げる。スイッチを入れる。ノイズはない。適切な音量になるはずの位置まで回す。ノイズはない。ヴォリュームをいっぱいに回す。ようやくノイズが洩れてきた。だが、聞こえるか聞こえないか。たぶん、こりゃカレーのせいだ。

 それが今年の1月。

 それから約5ヶ月後。届いたばかりのアンプを机に置き、窓を閉めきったぼくは唸ってしまった。これだけの馬力を持つアンプとしては、Porta Tube+ のノイズはこれ以上小さくはできないだろう。音量ゼロの時のノイズとフル・ヴォリュームの時のノイズの差はごくごく小さい。というよりも、フルの時の Porta Tube+ のノイズは The National が4分の1の音量の時に出すノイズよりも小さい。こりゃあ、たいしたもんじゃないか。

 IEM 専用アンプなら、Porta Tube+ よりノイズの少ないものはいくらもある。だけど、そういうアンプで 600オームの DT880 のようなヘッドフォンを、耳がつぶれるくらいの音量で、いっさいの歪み無しに鳴らせるようなものはまずない。

 これがどれほどたいへんなことか、おわかりだろう。IEM ユーザは苦労している。HiSound が作った、あのピカピカのゴミと、ソニーがラインナップしているりっぱなウォークマンのなりそこないを除けば、ポータブルの MP3 プレーヤーのノイズはどれもごく小さいから、その音の質を上げるはずのポータブル・アンプのノイズの方が大きいのだ。Porta Tube+ も例外というわけではない。けれど、音量を最大にしたときですら、ノイズは驚くほど小さい。異常なくらいパワフルだが、これを IEM ユーザにも薦めるのは、何よりもそのためだ。

 日本では、Cypher Labs AlgoRhythm Solo か Fostex HP-P1 に外部 DAC、アンプ、それに場合によっては信号スプリッターまで重ねて持ち歩いているマニアがたくさんいる。そこに Porta Tube+ を入れているいかれた人間も少なくない。

 もちろん問題はノイズだけじゃない。ダイナミック・レンジはどうだろう。それに空間表現も大事だ。Porta Tube シリーズの中域と高域はすばらしい。明るく、張りがあって、奥行が深い。これまで聴いた中では、タイプに関係なく、こんな明晰なアンプは他にない。明るいといっても、ぎらついたところや刺さるようなところは皆無だ。どこまでも透明で、解像度も高い。楽器の分離もすばらしく、ことに中域、高域ではっきりしている。フルオケよりは小規模コンボの方が位置関係がよくわかる。どんなヘッドフォンと組み合わせても、一つひとつの楽器の位置が手にとるようにわかる。ただ、中低域から低域にかけて、ほんの少し、にごる。このにごりと真空管特有の歪みのおかげで、温かくやわらかい音になる。

 このアンプはエネルギッシュで明るいという一方で、これはまた人なつこい音でもある。音楽性のとても高いこの二つの特性が合わさって、GoVibe Porta Tube の音は蠱惑的といっていい。

 明るさというのは、真空管特有の歪みにもめげず、高域がはっきりくっきりしている、というのが一番あたっているだろう。どんなイヤフォン、ヘッドフォンを刺しても、聞こえてくる音は実にきれいだ。高域を削ってしまうような信号やノイズをぼくは嫌いだというのは、このサイトをお読みの方はご存知と思うが、ぼくはとにかく高域に弱い。そのぼくにとっては、中域から高域へのつながりが完璧ということで、Porta Tube+ に比べられるものはなかなかない。マッシヴ・アタックの〈I Spy〉でのシンバルは、微妙な綾まで生々しい。音像は正確だ。頭の前方から出て、ゆっくりと包みこみ、後ろへ抜けるが、遠すぎもしない。つまり、中くらいの広さの部屋で、きちんとセッティングしたスピーカーで聴いている具合だ。焦点はスピーカーのドライバーにぴったり合っている。けれど、壁や家具からの微妙な反射が忍びこんで、ごく自然に硬いところがほぐれてるのだ。

 念のためくりかえすが、真空管特有の歪みと、中央にまとまって押し出してくる低域はむしろプラスに作用している。聞こえるのは、どこまでもなめらかで、ほんの少しやわらかく、気持ちよく伸びている音だ。インピーダンスの低いグラドでも完璧にドライブしてくれる。グラドでライヴの生々しさを感じとりたいと願っている向きは、Porta Tube をガイドに立てればまったく不満はなくなるだろう。ぼくのような、表情が豊かで音場の広い DT880 の大ファンにとっても、これはうれしい。DT880 はときどき高域がきいきいいうことがあるが、それがぐっと抑えられて、しかも他のアンプを通すよりもみずみずしくなる。デスクトップのシステムよりも官能的にすらなる。Porta Tube+ は、あまりに真空管真空管していないからだ。

 オーディオにはまりこんで20年になるが、その間に聴いたうちでは、Wood Audio WA3+ が、一番真空管らしい音のヘッドフォン・アンプだった。人なつこさではとびぬけているが、代償も大きい。持っているうちで、これで聴きたいと思うヘッドフォンは半分もない。Porta Tube はそれとはまるで正反対だが、良質の真空管アンプのやわらかい音は健在だ。

 音楽にもどろう。Protection のタイトル・トラック〈Protection〉では、低域ど真ん中のベースが重く正面に立ち、ドラム・マシンがシンプルにきざみ、まるで気のない女性ヴォーカルがのる。その後のトラックはどれも同じように始まるが、男性ヴォーカルが加わり、ベース・ラインはさらに重く低くなる。今度は気合いのこもった、コクのある女性ヴォーカルがゆっくりと入る。ジャズか、マッシヴ・アタックがプロデュースしているようで、リスナーはその魔法から逃れられない。これは、前にも書いたにごりのおかげだろうか。だとしても、それだけではなさそうだ。原因はもうどうでもいい。DT880 と組合せても、CK10 と組合せても、K701 が相手であってすら、Porta Tube はこの録音が秘めている艶をあますところなく描きだす。

 上にあげたのはどれもハイエンド・モデルだ。Sennheiser HD650、HD600、Fischer Audio FA-002W といった中堅どころも、Porta Tube に組み合わせる次点候補にちょうど良いだろう。これが高域のディテールを完璧に再現してくれることはもう一度念を押しておくが、その音はソリッドステートのアンプに比べれば、ほんの少しやわらかい。それをにごりと言うか、歪みと言うかは微妙なところだ。今あげた中堅モデルもこのアンプとよく合うだろう。ただし、これらのヘッドフォンのもつ、やや暗い、囲いこむような性格がいくらか強く出ることもあるかもしれない。

 このアンプには人を中毒にさせるところがあるから、一番のお気に入りのヘッドフォンでじっくり試聴されることを薦める。2、3分でも聴けば、いや2、3時間でもいいが、聴いてしまえば、この青くてかわいいやつを抱え、財布の方はだいぶ軽くなって店を出ることになるのは、まず確実だ。それだけの価値はある。


グラフについてのおことわり
 このレヴューにつけた RMAA のグラフには、iPod touch につないで、Beyerdynamic DT880 と Earsonics SM2 を鳴らした際の違いがあらわれている。ぼくの手許の装置で測っているから、他の装置で測ったデータと直接比べても意味はない。このデータはアンプのヘッドフォンやスピーカーのドライブ能力を示している。


周波数特性
 どんなヘッドフォンをもってきても、Porta Tube/+ は高いレベルの解像度で鳴らす。SM2 は質の劣るアンプだとありとあらゆる形の歪みを聴かせてくれるが、Porta Tube では何の悪さもできない。低域と高域の端が少し落ちているのがおわかりだろうが、これは元々の音楽信号がそうなっているので、アンプのせいではない。Porta Tube のせいで現われるような小さなレベル(-1.5dB)は、犬の耳でも持っていないかぎり、わからないはずだ。

負荷ノイズとダイナミック・レンジ
 Porta Tube+ のダイナミック・レンジは 90.5 dB で、CDクオリティに 6dB 足りない。ノイズ・レベルは −90.5 dB で、やはりCDレベルに届かないにしても、これはひじょうにクリーンだ。なんといっても真空管アンプなので、一筋縄ではいかない歪みとノイズが真空管の魅力を生んでいるのだ。

  真空管アンプのメリットのひとつはここにある。それで得られるのは安定した、気持ちの良い歪みで、しかも音源には左右されない。この歪みはやわらかいとか、心地良いと呼ばれることが多い。どちらもその通りとは思うけれど、Woo Audio 3 の場合とはわけがちがう。GoVibe Porta Tube の音は普通のアンプにずっと近く、ソリッドだ。入力でも出力でも歪みははるかに小さい。それでもリングはあるし、かわいらしいしみもあちこちにある。真空管の常として IMD も THD も高い。

スケーリング
 Porta Tube+ は VestAmp+ と同じ規則にしたがう。USB 入力からの信号が一番小さい。ポータブル音源からのライン入力は USB より大きい。デスクトップまたは AlgoRhythm Solo のような質の高いポータブルからの入力が一番大きく、ノイズも少なくなる。

 このアンプの増幅率はとてもいい。DT880 600Ω のようなヘッドフォンでも、入力がしっかりしてゲインが低いから、フェーズエラーはほとんど起こさない。ハイ・ゲインにするとフェーズエラーは増えるが、増えるのはとんでもなく大きくて危険な音量での話で、そんな音量で聞こうという人はいないはずだ。Porta Tube はパワーの塊だと言えば十分だろう。ALO の National とならんで、デスクトップのアンプとまったく遜色ない。

DAC として使う
 ここ2、3年、USB オンリーの DAC が花盛りだが、ぼくはあまり好きではない。ひとつには USB DAC ユニットの実装がライン入力のそれに比べると劣るからだ。実際、Porta Tube+ はライン入力の時に最高の力を発揮する。チャンネル・セパレーションも良くなり、ノイズ・フロアも低く、ダイナミック・レンジも広くなる。

 とはいえ、コンピュータとつなぐときには威力を発揮する。いやらしい USB ノイズはまったく聞こえない。プラグ&プレイも問題なく、MacBook Pro につないだとたんに認識される。USB モードでは、デスクトップを音源にする時より出力がかなり低くなる。IEM ユーザーにはグッドニュースだ。もっとも出力が低くなるとはいっても、これまでつないだヘッドフォンでパワーが足りないなんてものはひとつもない。

 面白いことに、USB 入力とライン入力は同時に使うことができる。ということはライン入力と USB 経由の音楽信号は Porta Tube+ 内部を平行して流れ、、同時に出力されているわけだ。どちらかだけを聴く時は、使わない方のソースは忘れずに抜いておこう。

iPad で使う
 Porta Tube+ を iPad 用 USB DAC として使うこともできる。ただ、ぱっとみて使い方がわかるというわけではない。iPad の USB から出力される電圧では Porta Tube+ 内蔵の DAC を動かすには足らない。これは内蔵バッテリーで動いているわけではないからだ。DAC を動かすには Porta Tube+ 付属の電源アダプタをつなぎ、 iPad をカメラ接続キットにつないでから Porta Tube+ につなぐ。つなげばすぐに使えるし、音も他と変わらずにいい。ただ、ポータブルにはならない。

 Porta Tube+ はデスクトップと言ってもいいくらいのものだから、携帯できないことはそう大きな問題ではないだろう。ただ、純粋なバッテリー駆動でクリーンな音が欲しい場合には、iPad では無理だ。ノートでは Porta Tube+ は電源につながなくても使える。

ポータブル・アンプとして使う
 正直言って Porta Tube/+ は相当に重い部類のアンプだ。かさばって、重くて、しかも熱くなる。それでもカーゴジーンズもあるし、アンプ・バッグも、肩掛けかばんもある。内蔵バッテリーは7〜10時間もつということは、このアンプさえ持っていれば、日中はだいたい用が足りるわけだ。おまけに背景ノイズは低くて、ヴォリューム・ノブのバランスもとれているとなると、能率のよいイヤフォンがあればばっちり、ということだ。

 実際、SM2 を鳴らしても、DT880 を鳴らしても、歪みや IMD は変わらない。何を刺しても、聞こえる音は同じだ。これができるアンプはめったにあるもんじゃない。Porta Tube+ は合わせるイヤフォンを選ばない。こいつはちょっとしたもんだぜ。

 少しばかり重くなることがイヤでなければ、ポータブル・オーディオとしては Porta Tube 以上のものはない。


結論
 ALO と Vorzuge という手強い競争相手はいるが、ポータブル・アンプとしてぼくは Porta Tube+ を選ぶ。闊達で人なつこいサウンドは、たいていのヘッドフォンと完璧なペアになるし、明るくてディテールを追及するタイプのヘッドフォンと組み合わせると、特に騒ぐこともなく、その実力を十二分に引き出してくれる。ご開帳ビデオで Jaben がグランプリをとることはないだろうが、連中はそれを目的にしているわけじゃない。目的を絞って、かれらはホンモノの、世界でもトップクラスのヘッドフォン・アンプ/DAC を生み出してみせた。見る目のあるオーディオ・マニアなら、これに目を丸くしないやつはいないにちがいない。


プラス
*とんでもなくパワフル
*すばらしく細かいディテール、やわらかいサウンド
*イヤフォンを選ばない
*色が美しい
*つなぐ装置をグレードアップすれば、それだけ良くなる

マイナス
*いただけない仕上げ
*無理難題な警告
*スペック、アクセサリー、マニュアルいっさいなし


 ということで、ご注文はこちらへどうぞ。

*東急の車両は走行時の騒音が大きい。田園都市線だけなのかどうかは知らないが、急行なんぞ乗った日には、スピードを出すからさらにうるさい。おまけに、この線は一つひとつは短かいけれどトンネルが多く、仕上げに二子玉川からは地下鉄になるから、乗り心地としては最悪と言ってもいい。ヘッドフォンで騒音を防ぐにしても、やわなノイズ・キャンセリングなら吹っ飛びそうだ。 DJ用の超強力遮蔽能力のものが必要だろう。

 これに比べれば小田急の車両ははるかに静かだ。東急はひたすら車両を軽くすることだけ考えて、小田急は乗客にとっての快適さとのバランスをとろうとしている、とみえる。小田急の方が営業距離が長く、乗っている時間が長いから、だからか。

 しかし、こんなうるさい電車に乗って毎日都心まで往復していたら、住宅環境がいくら良くても、どこかおかしくなるんじゃないか。慣れれば我慢はできるかもしれないが、無意識にストレスが溜まって、病気になって現れる可能性もあるだろう。


*『ギネスの哲学』のカヴァー・イラストを描いてくれた西村玲子さんが、アイルランドに1年フィドルの修業に行くことになり、壮行会代わりのライヴがある、というので中野に出かける。The Celts というアイリッシュ・バー。ここで1時間やり、そのあとすぐ近くの「タラの丘」でパート2。中野には他にもアイリッシュ系のバーが数軒あるそうな。実際、The Celts を探してうろうろ迷っている間にも、ギネスの看板を何枚も見かけた。そのうち東京のテンプル・バーになるかもしれん。初めて北側の飲食街を歩いたが、細かい路地に小さな店がひしめきあっていて、良い感じ。中野駅もすっきりして、これで放射能さえなければね。

 西村さんのフィドルに内野貴文さんのイルン・パイプ、下田理さんのギターという、いつものトリオでの演奏はご機嫌。くつろいで、良いグルーヴが出ている。いやあ、アイリッシュの醍醐味ここにあり。これに比べれば、チーフテンズがしゃちこばって聞こえる。

 内野さんは6年待ったフル・セットが夏に届いたそうで、調子が良いのはそれもあるらしい。いい音で鳴っている。最後にお客で来ていた人たちも2、3人加わって、ますます良い感じ。

 長尾さんも来ていたが、髪型を変えていたのではじめ全然わからず。向こうもぼくがわからず。ギター・ソロの録音をこつこつ作っているそうで、これは楽しみだ。帰り路が新宿まで一緒で、いろいろ話を聞く。

*Quad がちゃんと ESL の新作を出しているのを知り、実に久しぶりに、もう十数年ぶりくらいに MartinLogan のサイトを覗くと、なんとヘッドフォンを出している。Et tu, ML? と思って検索してみたら、結構前から出しているらしい。新作の Mikros 90 は先月末に発表されたばかりで、イヤフォンの 70 は発売されてるが、ヘッドフォンの 90 はまだ。どちらもクローズドで、Head-Fi には 70 のレヴューがひとつ上がっているが、なかなか良いようだ。さすがにヘンな色付けはしていない。Amazon.com では 90 が300USD、70 が142USD の値段がついている。アメリカ国内向けだけ。MartinLogan のディストリビュータは日本ではなくなってずいぶん経つが、これでどこか手をあげるかな。

 ひょっとして、と Magnepan のサイトを見てみたが、さすがにここは手を出していませんでした。昔、リボン・トウィータを使いだした初めの頃の2ウェイ、2.5R を Quick Silver Audio の モノブロックで鳴らしたのは忘れられない。音が「飛んで」きたものだ。今だと、1.7 なのかな。2,000USD って、LCD-3 より安いじゃん。しかし、アンプが要るし、置き場所もないなあ。をを、正規代理店があるぞ。

 しかし、わが列島では Quad は根強い人気があるのに、同じ平面の MartinLogan や Magnepan が支持されないのは何故だろう。でかいからかな。基本は高さ6フィート、つまり180センチ超ではある。2.5R を手放したのも、結局、その高さで部屋が暗くなる感じがしたからだからなあ。


*高音質のポータブル・プレーヤーが花盛りだけれど、だったら KORG MR-2 はもっと注目されていいんでないの。いま注目の DSD ネイティヴ再生ができる唯一のものなんだし、PCM だって 192KHz までサポートしてるし、SHCDカードも使える。それで価格は、一連のハイレゾ・サポート・プレーヤーで一番安い iRiver の AK100 よりさらに1万安い。

 それにしても MR-2 から録音機能を削ったプレーヤーを出しませんか、KORG さん。マイクがついてると、音楽を聴くだけだとちょとでかいんだよねえ。会社のポリシーに合わないのかな。

KORG コルグ/ MR-2 モバイルレコーダー
KORG コルグ/ MR-2 モバイルレコーダー

 
*ささきさんがブログで DSD の現状について面白いことを書いている。

 デジタルとしては実は PCM より DSD の方が簡単、というのはへーえ、という話で、だったら、そもそも CD 規格策定のときになんで DSD にしなかったのかしらん。技術的にわざと難しくして、もったいをつけたのか、というのは下司の勘繰りだろうが、どこか邪悪な意図を感じる。同時に CD がなぜ 16bit なのか、というのもようやく腑におちる。

 音が問題だったら、CD なんて中途半端な規格にしないで、最初から SACD の規格にしておけば、とうの昔に世の中は DSD に統一されて、LP は消滅していたかもしれない。出し惜しみしたのか、それとも「音質」をとやかく言われてあわててやったのか。いずれにしても、後から出したのは、いかにもまずかった。CD 切替の理由は結局「音」ではなかったので、そういえば録音メディアの「革新」は音質が理由だったことは一度もない。音の改善は付随した現象なのだ。

 とまれ、今、DSD の「高音質」に惹かれている人びとにとっては SACD はまったく存在しなかったか、あるいは存在を知ってはいても従来選択肢に入っていなかったわけだ。

 それにしても「音質」というのはやはり相対的なもので、たとえば収録時間とか、裏表の有無とかいう物理的条件のような絶対的なものではありえない。圧縮ファイルだって、やりようによっては十分音を「良く」できる。Hippo Biscuit + GoVibe Mini Box + Flat4粋で、もうこれ以上何も要らないと思えてしまう。

 だから、DSD も音質が良いというだけでは世間一般に普及することはない。より使いやすくする、少なくとも入口の敷居は低くしないと、結局六畳の和室に JBL の巨大なスタジオ・モニターを置くような「宝の持ち腐れ」になりかねない。

 それはそれでいいのだろう、たぶん。一般化せずとも、一定数の熱心なサポートがあればやっていけるのが、デジタルとネットワークのいいところだ。

 そういう観点からすれば、ヘッドフォン祭などもヘタにでかくしたり、整理しないで、今のような雑多な感じで続いてほしい。今回の Ultrasone や Sennheiser のような大手の洗練された空間と、Jaben のいた部屋のように、小さな個人メーカーがごちゃごちゃと乱雑に詰まっている空間が同居しているのが、一番の魅力なのだ。そこには供給側とユーザーの接点だけでなく、メーカー同士の交流もあり、コラボレーションも生まれる。


*オーチャードのチーフテンズに行く。さすがにここは音が良い。トゥリーナ・マーシャル、うまくなったなあ。最初に来た時には、終わりごろになると指が疲れていたけど、そんな気配はもう微塵もない。

 ハイライトは前半、アリス・マコーマック。出てきた最初は〈キャリックファーガス〉で、そりゃこの人がうたえば悪いはずはないが、わざわざこれをうたわせることはないだろう、パディ。とはいうものの、今のチーフテンズに期待する方が無理か。それにちょっとテンポが速くて、《TRANSATLANTIC SESSIONS 4》で Alison Moorer の熱唱を見たばかりだったから、ちょと軽いなあ。アレンジなら最近の奈加靖子が遥かに上。と思っていたら、そのままステージに残ってやったのが〈The Vices Set (Puirt Set)〉。最新のソロ《PEOPLE LIKE ME》の3曲め。スコットランドのマウス・ミュージックは詞の音に面白いものが多いけど、これはまた飛び抜けて面白く、とりわけメドレー2曲目の後半が楽しい。ほぼ録音まんまの演奏だが、やはり生はええですなあ。これを生で聴けただけで、まんぞくまんぞく。アリスはもう1曲、ガーリック(スコティッシュ・ゲーリック)のうたをア・カペラで聴かせてくれて、この形ではこれ以上はムリではある。トゥリーナとのデュオで一度生で見たいが、それは別に呼ばなあかんやろ。

 日本人ゲストもずいぶん増えて、タカさんたちのダンスや「ガールズ・チーフテンズ」もあり、まあめでたいことではある。後者のパイプはなかなかで、パディよりいいんじゃないかと思えたほどだったが、遠くて、誰かはわからず。後で聞いたらやはり中原直実さんだった。最後のブルターニュ風ダンスの列も、昔にくらべればずいぶん長くなった。和服姿のおばさんなんかもいて、このダンスのフィナーレはよい感じ。これさえあれば、チーフテンズはいいんですよ。いくらパディが「お仕事」してても。(ゆ)

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People Like Me
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 あらためて、ご来場、ありがとうございました。ぼくは単なるヘルパーですが、それでもやはりいろいろな方が立ち寄られて、試していただくのは嬉しいものです。喜んでいただけるとなお嬉しい。

 今回は Jaben の目玉としては Biscuit でした。小さくて、ハイレゾ対応でもないし、派手な話題には欠けたかもしれません。ですが、デジタルでこそ可能なテクノロジーを注ぎこんで、音楽を楽しく聴ける安価なツールです。ハイレゾ対応の高音質プレーヤーが花盛りのご時世にこういうものを出してくるあたりが、ウィルソンおやじの端倪すべからざるところだと思います。

 Biscuit は本来はスポーツをしながら、とか、音楽だけに集中するわけではないシチュエーションでも音楽は欠かしたくないリスナー向けに造った、とおやじは言っています。そういう時にはディスプレイを見るわけではないし、頻繁に操作をするわけでもない。ですから必要最小限のミニマルな機能にする。だけど、音質では妥協せず、鳴らすべきものはきちんと鳴らす。

 実はウィルソンおやじの音に対するこだわりはかなりのもので、客の求めるものは別として、売るものは相当選んでいます。GoVibe を買ったのも、オリジナルの音が好きだったからでしょう。ですから、その後の GoVibe の展開でも、いろいろなタイプを試みてはいますが、音では一貫して一定の質を守っています。

 そのポリシーをオーディオ的にいえば、ローノイズでクリーン、色付けをせずフラットだけど暖かく、十分なパワーがある、というところでしょう。一番重視しているのはローノイズらしい。今回の祭で一番気に入ったのはマス工房のものだったようです。おやじが気に入っていたというので、俄然気になってきました。

 パワーといえば Biscuit はあのサイズにもかかわらず、並べて展示していたベイヤーの H5p のバランス仕様も余裕で鳴らせました。LCD3あたりで試してみたいところ。フジヤや e-イヤホンで試聴できたっけ。

 またミニマルな機能の故に、かえってリスニングに集中できるところもあります。iPod のおかげで、音楽を聴きながら、プログレス・バーが伸びていくのを見るのがあたりまえになってしまっていた、と、Biscuit を使って初めてわかりました。

 サイズもポイントで、その気になればヘッドフォンのヘッドバンドにマジックテープなどで付けることもできます。あんまりカッコよくはないかもしれませんが、iPod やあるいは AK100 や HM901 ではそういうマネはできんでしょう。

 もちろん欠点はいろいろあります。というより、一面から見れば欠陥だらけ。なにしろ再生の順番のコントロールができない、というのは正直ちょと困る。これはなんとかしてくれ、と何よりも強調したことではあります。例えば、PC側のファイル操作でアルバム単位あるいはミュージシャンやジャンル単位だけででもできるとありがたい。

 諸般の事情というやつで、今のところは Jaben のオンライン・ショップでお求めください。

 とまれ Bicuit は好評で、試聴された方はたいてい驚かれていました。

 今回はプレスの方も結構立ち寄ってくださいました。Barks の烏丸編集長も前回に続いて見えましたし、サンフランシスコから来たというトリオがオープン早々に来ました。このトリオは日系とヨーロッパ系の初老の男性二人に、髪を赤く染めたやはり東アジア系のお姉さんという取合せで、なかなか目立っていました。Phile-web の方も全部のブースを一つひとつ回られていたようです。e-イヤホンの岡田氏にもお眼にかかれました。秋葉原のお店に行ったことはありますが、姿はお見かけしませんでした。ただ、あの店は徹頭徹尾若者向けの造りで、あたしのような老人には長くはいづらいところがありますね。

 ブース以外の仕事があって、両日とも、午後、ブースからはずれたり、二日めの午前中は暇だったりしたので、他のところも試聴することができました。

 斜め後ろがコルグさんで、これから出るという新しい DAC/アンプを聴かせてもらいました。PCからDSDを直に鳴らすもので、まるで別世界。かぎりなく無色透明に近く、ヘッドフォンによってまるで音が違ってきます。ヘッドフォンの性格も剥き出しにします。音源の違いも出るでしょう。ある意味、恐しいハードです。音や音楽の本質をストレートに伝えてくる。一方で、夾雑物を削ぎおとして本質だけを抽出するところもあって、長く聴いているとくたびれるかな、とも思いました。アルバム1枚分くらいは聴いてみたい。

 サイズはコンパクトですが、本当はもっと小さくもできるそうで、ぼくは小さければ小さいほど良いと思いました。デジタルの強みの一つはそこでしょう。

 問題は Mac では今のところ事実上対応できないのと、音源のファイル・サイズが巨大になること。5.6MHz だと1GB で20分強というのでは、あたしの程度のライブラリを収納しようとしてもデータセンターが必要になります。

 まあ、あたしが聴きたい音源で DSD 録音はまだほとんど無いので助かってます。

 中村製作所の「パッシブ型ヘッドフォンコンディショナー AClear Porta」は、Elekit の i-Trans と同様のものかと思います。音は良くて、電源がいらないというのも魅力。ですが、円筒の形では、iPod などと一緒に持ち歩くのには不便。それを言ったら、即座に「わかってます、わかってます、事情があってその形になってるんです」という返事が返ってきましたから、その「事情」にはユーザー側の都合は入っていない、ということでしょう。それと9,800円という価格は高いと感じました。とはいえ、電池などが要らないというのは、長期的には安くなるかな。

 筋向いの Agara は100万円というヘッドフォン・アンプでした。試聴したのは PC で再生していたビートルズの〈Penny Lane〉。驚いたのは、この曲はおそろしく細かくいろいろなことを背後でやっていたこと。効果音というには手がこみすぎ、伴奏というには断片的すぎる音が、それも大量に入っているんですね。それが、いちいち耳に入ってきます。聴きとろうとしなくても自然に入ってくる。分解能が高いとか、もはやそういうレベルではない。すみずみまで見通しがきいて、しかもそれぞれが本来の位置とウエイトで聞こえる。凄いとしか言いようがない代物です。

 ですが、ではそのリスニングが楽しいか、と言われると、ちょっとためらいます。細部があまりに多すぎて、肝心のポールのヴォーカルが薄れてしまうのです。うたがうたとして聞こえない。細部の集合に聞こえてしまう。それぞれの細部は生きていても、全体は有機体として響いてこないのです。音はすばらしいが音楽ではない、というと言い過ぎかもしれませんが、そう言いたくなる。たとえば、ほぼ完璧に相手打線を抑えこむのだが、いつも1対0で負けるピッチャー。あるいはどんな場面でボールを受けても確実にゴール前まで持ちこむが、シュートは必ず外すフォワード。

 もちろん1曲だけの試聴では本当の全体像は見えないでしょう。そういう意味ではああいうイベントは、こういうのもあります、ということを示すためのものなのでしょう。実力は別の機会に、あるいは半年ぐらいかけて、いろいろなタイプの音楽、ハードとの組合せで聴いて初めてわかるものかもしれません。

 面白かったのはハイ・リゾリューションが出していた Focusrite の、それもメインの Forte ではなく、VRM BOX。ほんとうに掌にのせられるサイズながら、ソフトウェアとの組合せで、いろいろなタイプのスピーカーやシチュエーションの音をシミュレートするもの。本来はスタジオでエンジニアが使う機能なのでしょうが、これがなんとも楽しい。同じ音源が、いろいろな音に変わるのです。当のハードを買わなくてもシミュレーションでここまでできてしまう。デジタルの醍醐味ここにあり。むろん、DAC でもあって、すっぴんの音も立派。5,000円でこれだけ遊べるのは安い。

 Scarlett 2i4 は調子が悪くて聴けなかったのは残念。

 ゼンハイザーの発表会のために来日していた技術部門の責任者へのインタヴューに立ち合う機会があったんですが、IE800 はあまりの人気に試聴のチャンスはありませんでした。ただ、マスキング効果の対策を施したというところはたいへん興味深く、どこかで聴いてみたいです。というのも、やはりマスキング効果に注目して対策を施した音茶楽の Flat4粋を愛用していて、大のお気に入りであるからです。

 インタヴューの後で音茶楽のことを伝えたら興味を惹かれたらしく、後で音茶楽のブースに行かれて試聴し、たいへん感心していたそうです。技術は違うが目的は同じなので、音茶楽の山岸さんもゼンハイザーが入ってきたことで喜んでおられました。

 ゼンハイザーの方はやはりお好きなのでしょう、会場をひとまわりして熱心に試聴していました。ぼくは不在でしたが、Jaben のブースでは Porta Tube+ がえらく気に入ったそうで、ウィルソンおやじは最後に展示品をかれに贈呈していました。

 音茶楽の新製品 Flat4楓も試聴させていただきました。ヴォーカルや弦のなめらかさに一段と磨きがかかって、なんというか、吸いつくような感じはちょっとたまりません。ただ、粋もまだエージングが十分ではないし、今はあのカネは用意できないので、涙を飲んで見送り。まあ、粋でも滑らかさはハンパではありません。その意味では、IE800 や Ultrasone IQ の価格をみても、粋はほんとうに安い、お買い得だと思います。

 その IQ は試聴できました。Ultrasone は 2500 と iCans を入手して使っていましたが、今ひとつ合わなくて、結局どちらも売ってしまいました。けれど、IQ は良いと思います。すなおな中にもはなやかさがあって、ずっと聴いていたくなります。また、遮蔽性が高いにもかかわらず、耳の中で存在を主張しません。その点では ACS のものがこれまで一番でしたが、IQ は入っていることを忘れられます。また、社長が強調していたように、外に筐体が出っ張らず、入れたまま枕に頭を付けても邪魔にならないのもうれしい。

 ウィルソンおやじは月曜に来日して、あれこれ商談をしていて、ヘッドフォン祭は今回の来日の仕上げみたいなもの。直前には RMAF にも行き、この後は韓国、バンコックを経て帰るので、まだ途中でしょう。店舗も20を超えて、本人は、悪夢だ、と嬉しい悲鳴というところ。製品開発の方面でも、いくつか面白そうなプロジェクトがあり、次回の祭にはいくらか紹介されるのではと期待しています。

 今回は RudiStor の Rudi さんは来られませんでした。ヘッドフォンの新作 Chroma MD2 は聴いてみたかったんですが残念。ブースでご質問もありましたが、RudiStor の製品は公式サイトのオンライン・ショップで購入可能です。クレジットカードも使えます。価格は送料込みです。FedEx で送られますから、1週間ぐらいで着くでしょう。

 今回は初めてスタッフのパスをもらえるというので、開場前に会場入りしました。9時半頃でしたが、もうお客さんが並んでいました。

 お客さんでめだったのは子連れが多かったことです。これまでのヘッドフォン祭では見た覚えがありません。今回、いきなりどっと来た感じ。当然、迷子もありましたし、眠ってしまった子どもをかかえて階段に座りこんでいるお母さんもいました。次回からはこの辺の対策も必要ではと拝察します。女性だけのお客さんもさらに増えていて、そのうち臨時保育所も設けなければならなくなるかも。

 これも含めて、マニアではない、一般のお客さんも確実に増えて、客層は広がっています。

 ただ、こういう爆発的な拡大は、一方で怖い側面もあります。デジタル時代の性格の一つとして、ドーンと爆発してあっという間に消えるというのがあります。たとえば任天堂の Wii の失速などはその典型です。イヤフォンも含めたヘッドフォンとその周辺機器の世界はまだまだ規模が小さいですし、ゲーム機器よりは客層が多様でしょうから、ああいう悲惨なことにはならないような気もしますが、安心はできません。調子の良い時ほど、地道にヘッドフォンならではの魅力を伝えることに精を出すべきでしょう。メーカーやディストリビューターは、地に足のついた製品を供給することに意を用いていただきたい。

 とまれ、実に刺戟の多い、楽しい二日間でした。刺戟が多すぎてくたびれもしました。個人的には、これを受ける形で、もう少しおちついた環境で、腰を据えてあれこれ試聴した上で購入できる場が欲しいところです。今のところ、その点ではダイナミック・オーディオ5555でしょうか。(ゆ)

まずは、「ヘッドフォン祭 2012秋」で Jaben ブースにお立ち寄りいただきました皆さま、まことにありがとうございました。

 ウィルソンおやじからも、心より御礼申し上げる、とのことであります。

 今回は初めて晴れてスタッフのパスをもらいましたが、ブースの他にも仕事があり、両日ともブースからはずれている時間がありました。おかげで、初めて、少しは他の展示を見たり、試聴などする余裕もできました。

 ということでいろいろあったんですが、まだくたびれていて、個人的な印象などはまた後日。

 とりあえず、Hippo Biscuit と GoVibe MiniBox は大好評で、国内正式販売も近いか、という勢い。気になる方はフジヤエービックさんやeイヤホンさんやダイナミック・オーディオ5555さんはじめ、おなじみのお店にリクエストしてみてください。

 すぐ欲しいという方は Jaben のオンライン・ショップでどぞ。Biscuit はまったく同じサイズの Cricri とのペアで買えます

Mini Box 2012 edition

 今回は新製品は少なかったんですが、来年はまたいろいろ新しい動きもあると思います。「ブーム」に浮かれずに、地道にコツコツと楽しみましょう(笑)。(ゆ)

 ご来場、ありがとうございました。

 Jaben ブースの Biscuit はおかげさまで完売しました。MiniBox はシルバーが2個あります。

 明日は予約を受け付けます。予約された方には会場特価で販売します。

 バランス仕様の Beyerdynamic T1 と T5p については、ウィルソンおやじの提案により、小生が預り、販売した上、売上をチャリティに寄付することになりました。販売の方法、寄付先などは後日、当ブログでお知らせします。

 ちとくたびれました。明日もあるので、今日はもう寝ます。

 では、また明日。(ゆ)

 昨日のブログで、今週末のヘッドフォン祭での抽選会用賞品として、Jaben からバランス仕様の Beyerdynamic T1 が提供されることをお知らせしましたが、ウィルソンおやじによると T5 もあるそうです。太っ腹!

 日本が大好きだし、日本の皆さんにはお世話になっているから、恩返しだ、とはおやじの弁。

 どちらも Jaben のブース(9F-15)で試聴可能になります。

 くじにはずれたら、Jaben のオンライン・ショップでどぞ。


 なお、上記オンライン・ショップの写真にもありますが、バランスだけでしか使えないわけではなく、シングルエンドのアダプタも付いてます。
 
 ちなみにウィルソンおやじは月曜日に来日しました。ヘッドフォン祭以外にもいろいろ商用があるためではありますが、海外からヘッドフォン祭のために来日する人たちの中では一番乗りではあります。

 昨日会ってきましたが、ますます元気。あいかわらず様々なアイデアではちきれんばかり。先週は RMAF に行ってきて、ヘッドフォン祭の後には、本拠地シンガポールでイベントがあるそうな。Jaben の支店も20を超えて、多忙なんてもんではないようですが、ヘッドフォン、イヤフォンとその周辺への愛はますます盛んです。一緒にいると、元気をもらいます。

 あたしも2日間、ブースでうだうだしてます。(ゆ)

10/26午後追記
 T1 および T5 の抽選会は諸般の事情により、中止になりました。残念。

 試聴はもちろんできます。賞品用に用意したユニットはどうするか、ウィルソンおやじが思案中です。 ひょっとすると、「叩き売り」するかも。

 Jaben がらみでもう一つニュース。

 『ヘッドフォンブック2012』英語版が出ます。ウィルソンおやじがこの本に惚れこんで、ぜひ出したいというのでわざわざ出版部門をつくった由。あの本をまんま英語にしたものです。プラス独自記事も少しあります。

 日本語ネイティヴにはあまり用はないかもしれませんが、付録が違います。Head-Fi が David Chesky とつくったバイノーラル録音のCDが付きます。

 それにヘッドフォン、イヤフォンで英語を勉強したい、という向きには絶好の教材です。母語ではない言語を学ぶには、関心のあることを題材にするのがベストです。

 なお、今回だけでなく、これから毎号、『ヘッドフォンブック』が出るたびに英語版も出ます。次からはもう少し日本語版との時差が縮まるはず。

 刊行は12月中旬。日本で入手できるかはまだ未定ですが、各種オンライン・ショップには出るはずです。オンラインはどーしてもヤダ、という方はフジヤさんに圧力をかけてみてください(^_-)。(ゆ)

 明日、明後日の「ヘッドフォン祭」では、Jaben のブースで Hippo Biscuit と GoVibe MiniBox を数量限定で販売します。

 価格は各5,000円。

 にこにこ現金払いでお願いします。領収書発行はご容赦ください。

 Biscuit は 99USD、MiniBox は59USD が本来の価格ですから、これはもってけどろぼーの類。特に Biscuit は「原価割れ」(^_-)ですね。

 その場で試聴もできます。Biscuit はマイクロSDカードしか使えませんので、試聴したい音源がある場合はマイクロSDカードに入れてご用意ください。サポートしているサウンド・ファイルは MP3 と WAV のみです。カードのフォーマットは Windows の方が無難でしょう。Mac は Windows フォーマットのカードも読み書きできます。ウィルソンおやじは Chesky Records が出しているバイノーラル録音を入れたカードを持ってくるそうです。(ゆ)

Jaben のウィルソンおやじとファイナル・オーディオ・デザインの本社に行く。Muramasa の実物にお眼にかかる。ちょっと頭の上にのせる気にはなれない。もっともこれをベースに、はるかにユーザー・フレンドリーなヘッドフォンを開発中だそうな。そちらはヒジョーに楽しみだ。Muramasa の隣には、かの「伝説」のターンテーブル Parthenon がさりげなく置かれていた。



*「法隆寺再建・非再建論争」を、歴史家の気構えを教えられた学生時代の教訓の一つ と宮崎市定が書いている(「中国上代の都市国家とその墓地——商邑は何処にあったか」全集3所収)。この論争における非再建派の主張の基盤を、ウィキペディアは「非再建論の主な論拠は建築史上の様式論であり、関野貞の『一つの時代には一つの様式が対応する』という信念」としている。だとすれば、その「信念」は異なる言語ですべての語彙は一対一に対応する、と主張するようなものだ。こんな理屈がまかり通った背景が面白い。おそらくは「聖徳太子」の「御威光」か。


 もっとも、ウィキペディアの記事のこの記述には参照先が示されていないから、関野の名誉のために検証する必要はある。


 実物実地を重視する立場が、屢々本質を見誤るのは、実物実地という存在のもつオーラに眼がくらんでしまうからだろう。人間の認識力を信頼しすぎる、と言ってもいい。実物実地に直に接して、今自分が認識していることがすべてだと勘違いしてしまう。実物実地に接すると、人間は興奮する。その興奮がすべてで、それ以外はニセモノととりちがえる。


 実物実地は情報量が多い。時には圧倒的に多い。しかもそれがいちどきになだれこむ。人間の認識能力を遥かに超えることがある。オーバーロードしてしまう。すると、その「体験」に比べて記録は重要なものではなくなる。したがって自分の認識ではなく、記録の方が間違っている、と思ってしまう。その場合、記録が間違っているという主張には、明確な根拠はない。当人の「体験」とそれに基く認識だけである。


 これは歴史学のように時間軸上の異世界を探究する場合だけでなく、空間の中の異世界、異文化を探究する場合にもよく起きる。民族学、民俗学、文化人類学のような学問では生のデータでオーバーロードにならないような予防の方法論もできているはずだが、「趣味」の対象になると困ることがある。科学としての厳密さを求められないと、自分のココロがオーバーロードに陥っていることに気がつきにくい。個人の体験など、実はごく限られたものにすぎない。それが当人にとっては「絶対的に正しく」なる。それ以外の見方やとらえ方は「間違って」いるとして排斥する。


 どんなにささやかにみえても、ひとつの文化、ひとつの社会は個人に比べれば巨大なものだ。その前では、己の限界に謙虚でありたい。



*かみさんが読んでいるジョン・グリシャムのペーパーバックのサイズがやけに縦長なのに気がつく。比べてみると、従来のマスマーケット版と横幅は同じだが、縦は2センチぐらい長い。中身は上下もいっぱいに印刷してあるのもあれば、下に大きく余白をとっているものもある。使っている書体も違うのは、アメリカのペーパーバックにしてもいいかげんだが、概ね従来よりも字のサイズは大きい。いつ頃から始まったのか知らないし、最近新刊はまず買わないから、ベストセラーだけに限定しているのかどうかもわからないが、トレードペーパーバック以来の「発明」ではあろう。本のサイズは、表面だけ大きくなるのではなくて、厚みも出る。ということは重くもなる。コストも高くなるはずだ。なぜこういうことをするのか。


 あるいは Kindle iPad への対抗ではなのか。判型を近づけ、字のサイズも大きくする。


 紙の本はハードカヴァーが図書館向けなどの特殊なものに限られ、ペーパーバックと eBook が通常のリリース形態になると予想しているが、こういう試みがされるということは、それだけペーパーバックの売上げが減っているのだろう。



*新しく買った伝聴研の DAC がデジタル入力しかないので、MacBook Pro から光でつなぐ。すると、システム環境設定>「サウンド」で「デジタル出力」にしていても、プレーヤーで再生を始めると「AirPlay」に切り替わってしまう。Audio MIDI 設定でも AirPlay に出力が固定されてしまい、内蔵出力に切り替えることができない。Wi-Fi を切ると「AirPlay」は消えて「デジタル出力」だけになるが、ネットにつないだまま再生をしたい時には不便だ。Audirvana Plus では出力が切り替わると再生も切れてしまう。音も違う。AirPlay をオフにする方法がわからず、さんざん探しまわって、AirMac Express 本体にスイッチがあることに気がついた。AirMac ユーティリティのベースステーション設定に AirPlay のタブがある。心覚えのために書いておく。



*新 iPod touch のストラップはすこぶる便利。むしろ薄くなって、ストラップが無いと、本体をとりあげにくい。この辺、やはり使い勝手をいろいろ試してみた結果なのだろう。



*それにしても、われわれはいったいいつから、難問を前にして「逃げる人」になったのだろう。放射能の影響をできるだけ軽いものとみなそうとする人たち。原発映画という企画と聞いて「蜘蛛の子を散らすように逃げだした」人たち。ひたすら「安心」を求めるならば、かえって「安全」は得られないとわかっているのも「理屈の上」だけなのだろうか。その姿を見ていると、黒船来航後の幕府が髣髴とされてくる。(ゆ)


 前回のヘッドフォン祭でプロトタイプが展示、試聴可能になっていた Hippo Biscuit の製品版は、使い勝手は最低なのですが、あまりの音の気持ち良さに、ほとんどメイン・プレーヤーになっています。

 20時間過ぎた頃から、こちらはヘッドフォン祭で好評だった GoVibe MiniBox をつないでみました。この MiniBox は新しい2012年ヴァージョンで、Ver. 1 の約半分の厚さ、縁は丸くなってます。ヘッドフォン・ジャックからつなぎ、音量調節はプレーヤー側でする形のシンプルな「筒」アンプです。Jaben のウィルスンおやじのつもりではほとんど Biscuit 専用に造ったらしい。MiniBox のパッケージには Biscuit とヘッドフォンの間に MiniBox を置いたイラストが描かれています。

 この組合せがすばらしい。Biscuit はもともと妙に音が良いんですが、MiniBox をかませるとちょっと信じられない世界です。Biscuit は現段階では MP3 と WAV しかサポートしていません。なので、もっぱら MP3 を聴いていますが、それがまるでハイレゾ・ファイルの音になります。ミュージシャンの息遣い、楽器のたてるノイズ、ホールやスタジオ内の残響、といった、ふつう圧縮音源では聞こえないとされる音も生々しい。一つひとつの音に実体があります。音が伸び伸びしてます。無理がない。フレーズに命が流れてます。そうすると音楽の活きが良くなります。とれたて、というか、みずみずしい、というか。音場は広すぎず狭すぎず。いやむしろ、録音そのまま、でしょう。広い録音は広く、狭い録音は狭く。

 テクニックでは並ぶ者もないが、さてそのテクニックで奏でられる音楽には全然感動しない、というミュージシャンは少なくありません。それと同じで、音の良さは天下一だが、それで聴く音楽はさっぱり面白くない、というハードウェアもあります。というより、オーディオの世界ではそういうケースの方が多いのではないか、とすら思えます。ハードウェアを造るのに夢中になって、肝心の音楽を聴くことが少なくなってるんじゃないでしょうか。たとえばたまにはこういうライヴを体験されてはいかがでしょう。こういう音楽をまっとうに再生できてこそ、ホンモノと言えるはず。

 対照的に、上手いんだか下手なんだかよくわからないが、独得の味があってついつい聴きこんでしまうアーティストがいます。外見などは地味だが、ツボにはまった音楽を「楽しく」聴かせることでは無類というハードウェアもあります。

 たとえば、かつて「BBC モニター」と呼ばれた一群の英国製小型スピーカー。スペックだけ見れば「ジャンク!」と言う人もいそうですが、音楽を楽しく聴ける点では、物量を惜し気なく注ぎこんだ大型スピーカーもかなわないものがありました。

 BBCモニターも、デジタル録音のヒップホップを再生すれば、たぶんひどくショボいものになるでしょう。同じ英国製でも、レディー・ガガはどうかなあ。

 しかし、たとえばビートルズやストーンズやキンクス、アコースティック・ジャズ、デッカのクラシック録音などには無類の強みがありました。とりわけ、英国の伝統音楽、あの頃のぼくらにとってはアイリッシュ・ミュージックもその一部だった、当時「ブリティッシュ・トラッド」と呼ばれていた音楽、フェアポート・コンヴェンションやスティーライ・スパンやニック・ジョーンズやアン・ブリッグスをクォードのアンプで鳴らすロジャースの 3/5A で聴くと、独得の「翳り」がひときわ艶を帯びて、たまりませんでした。

 BBC モニターの音楽再生に関する「思想」が時代を超えた価値をもつことは、最近になって、各モデルが相次いで復刻されていることからもわかります(ロジャースハーベススペンドール)。最新の技術を注ぎこんで現代の音源再生に合わせたものもあり、また当時の製品を忠実に再現したものもあります。かつてのオーディオ・ファンの端くれとしては、こういうもので、最新のハイレゾ音源を聴いてみたくもなりますね。

 Biscuit + MiniBox の組合せも万能ではない。不得手な音楽はたぶんたくさんあります。しかし、得意なものを与えられると、どんな「高性能」なハードウェアもかなわないリスニングを可能にします。何が得意かは、組み合わせるヘッドフォン/イヤフォンによっても、リスナーの嗜好によっても変わるでしょう。ちなみにぼくがつないでいるのは、Final Audio Design Piano Forte II、音茶楽 Flat4 粋、 Superlux HD668B、HiFiMAN HE300、Fischer Oldskool '70s です。Sennheiser の Momentum でこれを聴いてみたいんですけど、まだ販売開始されてないみたいですね。しかし、実は Final Audio Design Piano Forte X で聴きたいなあ。あのみごとな音の減衰が Biscuit + MiniBox でどう鳴るか。

 では音源はといえば、たとえば、オーストラリアのシンガー・ソング・ライター、Rachel Taylor-Beales。現在産休中で、公式サイトに《LIVE AT NEWPORT UNIVERSITY 2012》という MP3 音源が上がっていて、フリーでダウンロードできます。

 マーティン・ジョセフが推薦しているだけあって、うたつくりもシンギングもギターもすぐれた人ですが、ここではチェロやもう一人の女性ヴォーカル、エレキ・ギターなどのサポートで、ゆったりとしながらも切れ味鋭いうたを聴かせます。この人の一番新しい CD も買ってみましたが、これをリッピングした FLAC ファイルを iPod touchでアンプを通して聴くよりも、Biscuit + MiniBox で聴くこのライヴ音源の方に限りなく惹かれます。スタジオが悪いわけではないんですが、演奏も音も、ライヴの方がより生き生きしています。

 試しにオワゾリールから出ている Philip Pickett & New London Consort の《CARMINA BURANA Vol. 1》を XLD で FLAC と Lame MP3 256Kbps VBR にリッピングしたものを聴きくらべてみました。ヘッドフォンは Superlux 668B。

 うん、かなりいい勝負ですね。MacBook Pro の Audirvana Plus による FLAC 再生の方が少し音場が広いかな。それに個々の音の焦点はさすがに FLAC の方がきちんと合っています。が、聴いての楽しさという点では全然負けてません。むしろ、Biscuit + MiniBox の MP3 の方がわずかですが上かも。

 FLAC 再生の環境は Reqst 製の光ケーブルで伝聴研の DenAMP/HPhone です。伝聴研のものは先日出たばかりの DAC兼ヘッドフォン・アンプです。入力は光と同軸のデジタルのみ、24/192までカヴァー。かの DenDAC の開発・発売元だけあって、さすがの出来栄え。外見はチャチですが、実力は立派なもの。製造は Dr. Three がやってるらしい。

 フルオケの試聴には例によってフリッツ・ライナー&シカゴ響の《シェエラザード》。ビクターの XRCD 盤からのやはり 256Kbps VBR でのリッピング。奥行はちょっと短かいかもしれませんが、左右はいつものように広すぎるくらいに広い。高さも十分。第2楽章いたるところでソロをとるクラリネットの音色に艶気があります。途中で曲調が変わるところ、コントラバスの合奏の反応が速い。第4楽章のトランペットの高速パッセージの切れ味の良さ! 

 いやー、聴きほれてしまいました。人なみにこの曲はいろいろ集めてますが、やはりこの演奏が一番好き。

 それにしても Biscuit + MiniBox + 668B という、この組合せはいいな。ヘッドフォンが良いのかな。70時間を超えて、いよいよ美味しくなってきました。ラストのヴァイオリンのハイノートの倍音がそれはそれは気持ちよい。

 ついでながら、HD668B は、メーカー代理店の京都・渡辺楽器が扱わないというので、本家にも相談した結果、ここから買いました。送料込みで 35GBP。

 それと音茶楽の Flat-4 ですね。メーカー推奨のエージング時間のまだ半分ほどですが、ちょっと他では聴けない体験をさせてくれます。たとえば、シンバルの音が消えてゆく気持ち良さ。そしてヴォーカルの肌理のなめらかさ。もっとも、このイヤフォンについてはぼくなどが拙いことばをつらねるよりは、こちらをお薦めします。

 もう一つ。アラゲホンジが OTOTOY で配信したライヴ《月が輝くこの夜に》(DSD ファイルにオマケで付いてきた MP3)の〈斎太郎節〉、後ろでコーラスをつける女性ヴォーカルが気持ち良く伸びます。 〈秋田音頭〉の粘度の高いエレキ・ベースの跳ね具合がよい。ヘッドフォンは HE300。Head-Direct で売っているバランス用にケーブルを交換しでます。このケーブルはバランス用ではあるものの、単純にシングルエンドのハイクラス・ケーブルとして使えます。

 Biscuit のパッケージにはマニュアルもなくて、必要ないくらいですが、一応諸元を書いておきます。

サポートするフォーマット:MP3, WAV
サポートするヘッドフォン・インピーダンス:16〜300 Ohms
充電時間:1.5時間以内
再生時間:9時間
サイズ:62.8×35.7×11mm
重さ:30g

 サイズは Hippo Cricri とそっくり同じです。

 重さ30グラムというと、うっかり落としても、ヘッドフォン/イヤフォンのケーブルに刺さっているだけで支えられます。

 マイクロ USB ポートで充電します。充電用コードは付属。

 メディアは microSD カード。32GBまで。Biscuit 自体がカードリーダーとしても使えます。なお内蔵メモリは無いので、カードから直接再生してるんでしょう。

  機能は、単純な再生と音量の増減、次のトラックに進む、前のトラックにもどる、だけ。メインのボタンを押し続けるとグリーンのライトが点いてパワーが入ります。もう一度押すと再生開始。再生中はグリーンのライトが点滅。トラックが変わるところで一瞬、点滅が止まります。再生中に押すとポーズ。もう一度押すと再生。ポーズまたは再生中に長押しするとグリーンのランプがまばたきしてパワー・オフ。曲の途中でパワーを切ると、次に入れた時、前に再生していたトラックの頭から再生を始めます。

 再生の順番はカードに入れた順、らしい。シャッフル再生はできません。何を再生しているかは、記憶に頼るしかありません。初聴きには向かないです。とにかく、ひたすら音楽を聴くだけのためのハードです。

 万一、ハングしたら、楊枝か、延ばしたクリップでリセット・ボタンを押します。ハングしたトラックから再開します。

 MiniBox 以外のアンプと組合せても、Biscuit はすばらしいです。Rudistor RPX33 + Chroma MD1 につなげてみました。音が出たとたん、言葉を失いました。そのままずーっと聴きつづけました。うーん、この組合せがこんな音を聴かせてくれたことがあったかな。お互いベストの相手には違いないでしょうが、MacBook などからつないだ時よりも音楽に浸れます。こっちの耳がグレードアップしたんじゃないか、と思ってしまうくらい。そりゃ高価なハイレゾ・プレーヤーならもっと凄い音が出るんでしょうが、なにもわざわざそこにカネを注ぎこまなくても、プレーヤーは Biscuit で十分。むしろアンプとヘッドフォンにカネを注ぎこみたい。こりゃあ、次は LCD-3 かスタックスで聴いてみたくなります。

 それでいてなのです、MiniBox との組合せにはちょっと特別なものがあります。もちろんどこにでもその音を持っていけるというメリットは大きいです。MiniBox にはクリップが付いてますから、シャツにはさんだり、バッグのベルトにひっかけたりもできます。そしてそのペアでの音のふくらみが尋常ではありません。「フルボディ」というやつでしょうか。他とのペアで音がやせているわけではないんですが、MiniBox とのペアの音はさらに中身がぎっちり詰まっています。一方で、透明度もハンパではありません。分析的ではないけれど、隅々までよく「見え」ます。だから空間も広い。そのおかげで、とにかく聴いて楽しい。音楽を聴く悦びがわいてきます。これこそがオーディオの役割ではないか。いや、これこそが理想のオーディオ・システムというものではないか、とすら思えてきます。

 今のところ日本から買えるのは Jaben のオンライン・ショップです。

 MiniBox 2012 Version はこちら。シルバーもあります。また、シャツの胸ポケットなどにはさめる形のクリップが片方についてます。

 単体で欲しいとか、英語はちょっとという方には朗報です。今週末のヘッドフォン祭にウィルソンおやじが自分で持ってきて、ブースで販売します。MiniBox との組合せもあります。また、このペアが当たる抽選会もあります。

 ちなみにこの抽選会には Jaben からもう一つ、バランス仕様の Beyerdynamic T1 も提供されます。

 従来のオーディオの愉しみに、高い価格に代表される「価値」をそなえたモノを所有する、という物質欲を満たす面があることは否定しませんが、それはやはり二次的な愉しみでしょう。オーディオはまず何よりも、音楽を聴くための手段であるはず。アナログでは質を高めるためには物量を投入する必要があったかもしれませんが、デジタルでは様相が逆転します。小さく、安価で、能率が良く、しかも質が高いシステムが可能になる。その可能性はちらちら見えていますが、まだ本格的な展開に手がつけられていない。アナログの発想から抜けだせていないように見えます。

 まあ、ものごとの変化は一様に進むわけではなく、変化の小さい長い準備期間の後に急速に大きく進むというパターンが多いですから、今はまだ準備中なのかもしれません。本物の変化が始まるのを見たい、体験したいものですが、生きているうちに始まってくれるかな。

 それにしても、Biscuit が FLAC とギャップレス再生をサポートしてくれたら、もう iPod も要らないな。(ゆ)

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