クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ベスト・アルバム

 今年は正月早々風邪をひいて、出鼻をくじかれた。おまけになんだかんだと忙しく、ゆっくりブログを書いている余裕もない。年をとったら読書三昧、リスニング三昧するつもりでいたのに、だんだん忙しくなるような気すらしている。あるいはこれも性格というものか。

 風邪の類は今相当に流行っているようで、あたしの周囲でもやられている人が多い。今週、いつものかかりつけの医者に定期の診察で行ったときも、発熱外来は大盛況だった。マスク着用義務から解放されたというのでマスクをつけない風潮も作用しているのだろう。

 まずは去年のベストをいくつか。まずはリスニング篇。

 ベスト・アルバムについてはラティーナ・オンラインに書いたのでそちらをどうぞ。今月15日まで無料で読める由。あたし以外の人たちのセレクションが面白そうで、たまらん。

 去年のリスニング時間は総計342時間42分29秒。1日平均 56分20秒だった。もっと聴きたいが、諸々の事情で思うにまかせない。

 去年聴いて感心し、リピーターになった、なるであろうアルバムのリスト。大半は新譜だが、旧譜もある。いちいちコメントしている閑が今はないので、リストのみで乞う御容赦。気になるものがあれば検索すれば聴けるはず。順不同。

小暮はな, Azul
小暮はな, Jacaranda
Sanam, Live At Cafe Oto
Sanam, Aykathani Malakon
Sue Rynhart, Say Pluto
Ailbhe McDonagh, Bach: Complete Cello Suites
Compiled and annotated by Ian A. Anderson, Les Cousins: The Soundtrack of Soho's Legendary Folk & Blues Club
Amelia Coburn, Between The Moon And The Milkman
すずめのティアーズ, Sparrow's Arrows Fly So High
Fispeir, Fieldnote
Leyla McCalla, Sun Without The Heat
津山篤&長野友美, 農夫の娘
Kaia Kater, Strange Medicine
Fergus McCreadie, Stream
Landless, L​u​ireach
Sondorgo, Gyezz
紅龍, Radio Manchuria
Coras Trio
The Rheingans Sisters, Start Close In
Linda Sikhakhane, iLadi
Cathy Jordan, The Crankie Island Song Project
Frankie Archer, Pressure and Persuasion (EP)
shezoo, 七つの月
Trygve Seim & Frode Haltli, Our Time
Jawari, Road Rasa
John-Paul Muir, Home Now
Ben Wendel, Understory
Eoghan O Ceannabhain, The Deepest Breath
福江元太, 幻灯
Melrose Quartet, Make The World New
Shovel dance collective, Shovel Dance
The Marais Project & Duo Langborn/Wendel, Nordic Moods & Baroque Echoes
Janice Burns & Jon Doran, Great Joy To The New
Macdara Yeates, Traditional Singing from Dublin
The Kris Davis Trio, Run The Gauntlet
Arun Ramamurty Trio, New Moon
Alice Zawadzki, Fred Thomas & Misha Mullov-Abbado, Za Gorami
John Beasley & Frankfurt Radio Big Band, Returning To Forever
The Music Of Billy Gault
Jackie McClean & The Cosmic Brotherhood, New York Calling
The Rheingans Sisters, Start Close In
A.D.A.M, Everybody Wants To Be Like Mary
Alastair Savage & Alice Allen, Where The Good Ship Lands
David Grubb, Circadia
Wadji Rihai, Essia
Naomi Bedford & Paul Simmonds, Strange News Has Come To Town
Fraser Fifield, Tom Bancroft & Paul Harrison, Secret Path
Eleanor Dunsdon & Gregor Black, Let No Man
Ruth Notman & Sam Kelly, Changeable Heart
The Nordic Fiddle Bloc, Befrost
Niall Hanna, Autumn Winds
吉木稔, One+ Second
John Keehan, The Humours Of Scariff
Padraigin Ni Uallachain, Seven Daughters Of The Sea
Angharad Jenkins & Huw Warren, Calennig

 以下の三つは上記のものからはいささか外れるので、簡単なコメントを加える。

小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラ, 奇蹟のニューヨーク・ライヴ�供Ц諺杆魘繕�
 小澤が食道がんの手術から復帰した直後の2010年12月のカーネギー・ホールでの演奏の録音。小澤征爾死去の報を受けて、あれこれ記事を見ていたときに目につき、聴いてみて仰天した。かつてクラシックに熱中した時も『幻想』はよくわからなかったが、これでようやくこの曲の面白みがわかった気がする。それ以上に、再びともに音楽ができる歓びが爆発している。これぞ「歓喜の歌」であるとともに、究極の「癒し」の音楽。


Spell Songs
Spell Songs II
Spell Songs: Gifts Of Light
 スコットランド出身の作家 Robert Macfarlane が水彩画家の Jackie Morris と組んで The Lost Words という本を2017年に出版した。マクファーレンは The Mountain Of The Mind, 2003 という滅法面白い本でデビューした人で、いわゆるネイチャー・ライティングの書き手として英語圏では大家の1人。モリスはやはり自然の生きものを描いて不動の地位を築いている。The Lost Words は子どもたちが日常使う言葉から消えようとしている自然関係のことば、主に生きものの名前をとりあげた詩にモリスが絵をつけている。ここにあるのは詩ではない、呪文 spell だ、とマクファーレンは言う。声に出して放つことで、失われた言葉を呼びもどすための呪文。英国ではベストセラーとなり、学校の教材、季節のギフトの定番になるとともに、精神に傷や病を負っている人びとへの治癒効果も認められている。2020年に続篇 The Lost Spells が出た。

 この3枚は The Lost Words、The Lost Spells へのミュージシャンたちの反応、ラヴレターだ。参加しているミュージシャンを見れば聴かないわけにいかない。

Kerry Andrew: vocals, melodica
Kris Drever: guitars, bass
Julie Fowlis: vocals, shruti box, whistles
Seckou Keita: kora, vocals
Jim Molyneux: drums, percussion, vocals, piano, Rhodes, synths, accordion
Rachel Newton: electroharp, vocals, fiddle, viola
Karine Polwart: vocals, tenor guitar, Indian harmonium
Beth Porter: cello, vocals, whistling, ukulele

 仕掛けたのは Folk by the Oak フェスティバルの主催者 Caroline Slough。プロデュースは Hudson Records の Andy Bell。録音はこれらのミュージシャンが一堂に会し、合宿形式で行われた。曲はあらかじめ各メンバーが担当する詩を決め、簡単なスケッチを作って臨み、その場で即興で仕上げた。

 アルバムはハードカヴァーの本にCDが収められる形で、本の方には歌われた詩と絵や収録風景の写真などとともに各ミュージシャンの紹介と本人が寄せた文章がある。マクファーレンとモリスも録音に立会い、モリスが描いたミュージシャンたちのシンボルの絵もある。

 本とともに2019年のアルバムもベストセラーとなり、2021年に続篇 Spell Songs II が、さらに2023年にライヴ盤 Gifts Of Light が出ている。何よりも詩と絵にインスパイアされたミュージシャンたちの反応の瑞々しさにうたれる。主に北方の出身者で固める中に、セック・ケイタの存在がきらりと光り、音楽の陰翳と奥行をより深いものにしている。


 アルバムではなく、Irish Traditional Music Archive のウエブ・サイトに展開されている一大プロジェクト。クレアケリィのフィドラー、デニス・マーフィのブレンダン・ブラナックによる録音が大量に ITMA に収蔵され、これをセルビア在住のロシア人フィドラーが徹底的に解析した。音源とテキストの量と質は圧倒的で、あたしもまだ全部消化しきれていないが、フィドラーのみならず、およそアイリッシュ・ミュージックに関心のある人、とりわけ演奏者は必読、必聴の資料。とにかくデニス・マーフィの大量の音源を聴くだけでも愉しい。(ゆ)

ミュージック・マガジン 2019年 9月号
ミュージック・マガジン
2019-08-20



 「ラバーバンド」と聞くとあたしなどは Lal & Mike Waterson の1972年の傑作《Bright Phoebus》の1曲めを連想する。

Bright Phoebus
Lal Waterson & Mike
Domino
2017-12-04


 ただしあちらは〈Rubber Band〉で、マイルスのこれは《Rubberband》と一語だ。どちらも同じで、輪ゴムのことである。ゴムバンドともいいますな。しかし『輪ゴム』または『ゴムバンド』では、天下のマイルス最後の秘宝のタイトルにはあんまりだー、というのでカタカナ表記にしたのであろう。しかし、ここはかえって『輪ゴム』の方が売れるのではないかと思うあたしはアサハカであろうか。マイルス・デイヴィスの『輪ゴム』、ついに発売! と言えば、マイルスなんて聴いたこともないじいさんばあさんおっちゃんおばちゃんにいさんねえさんも、何だそりゃあ、何のこっちゃー、ちょっと聴いてみんべ、となるはずだ。あ、CDは買わないか。でも、ストリーミングや YouTube でも、レコード会社にはカネはいくらかでも入るんでしょ、ミュージシャンまでは行かなくてもさ。

 そういえば、この号には近田春夫氏がコラムで「JASRACから音楽を守る党」なるウエブ・サイトについて触れている。もしその党がほんとうに候補を立てるなら、一票入れますよ。

 んで、なんで、今さらこの雑誌を買ったかと言えば、もちろん50年のジャズ・アルバム・ベスト100の企画のためで、とりわけ村井さんと柳樂さんの対談を読むためである。この企画については、いーぐるの掲示板で後藤さんが触れ、ブログにも書かれていたので知ったわけだ。

 あたしはこういうベスト・リストは遊びだと思っている。個人や少人数の集団が選ぶのには一個の批評としての意味がある場合もあるが、まあ、たいていのもの、とりわけこのリストのように、複数の人間が選んだものから第三者が作るベスト・リストは遊びでしかない。遊びとしては面白くもなる。ただし、遊びなのだからして、ルールはちゃんと説明しなければならない。ルールがなくなるととたんに遊びはつまらなくなる。

 ところが、ここにはそのルールの説明が無い。37人の選者が順位をつけて選んだ30枚から集計して順位付きの100枚のリストにした、というのだが、まずなぜ37人という人数なのか、そしてなぜこの37人を選んだかの説明が無い。集計方法の説明が無い。この企画は創刊50周年記念で各ジャンル毎にベスト100のリストを作ってきていて、50年のジャズはその8つめ。ということはベスト100にすることはあらかじめ決まっていたわけだが、では各選者には30枚に限ったのはなぜかの説明が無い。ベスト100を選ぶ基礎にするのなら、各選者にもそれぞれベスト100を選んでもらうのが筋だ。

 となると、極端な話、このリストはあがってきた延べ1,110枚のアルバムの中から、編集部が勝手に選んだのだろうと言われても、文句は言えない。つまり、雑誌としてはこの100枚をここ50年のジャズのベスト・アルバムにしておきたいのだな、とあたしが言っても、下司の勘繰りにはならない。土台にされた37人の選んだリストは、読もうとすれば拡大鏡が必要なほど小さな活字で、しかも改行をまったくせずにぎっしりと詰め込み、さらに雑誌を90度回転させる必要がある組みで印刷していらっしゃる。このリストは読んでほしくないのねと言っても、これまた下司の勘繰りにはなるまい。

 これはもう遊びではない。プロパガンダである。対談で柳樂さんが「中村とうようが降臨している」と言っているのは、まさに肯綮を突いている。

 読者として、ジャズも聴くリスナーとして、ではどうするか。まったく無視する、というのも一つの方法ではある。とはいえ、このリストの背後では37人の、少なくともあたしなんぞよりはずっと広く深くジャズを聴いている方たちが選んでいることは確かだ。何らかの形で活用しないのももったいない。

 一つの方法としてリストを逆に見るのはどうだろう。順位をさかさまにする。Julian Lage がトップで、オーネットは最下位とみる。そして、100番から知らないもの、聴いたことのないものを聴いてゆく。だいたい数字の小さい方は、あたしでも聴いているものばかりだ。このリストに入ったからといって、今さら評価が変わるわけじゃない。それよりも数字の大きなものの方が、知らない人、聴いたことのないアルバムがたくさんある。こういうリストは、知らない人、聴いたことのない音源を聴くきっかけにするのが、あたしにとっては一番面白い使い方だ。

 というわけで、まずは81番シャバカ・ハッチングスを聴いてみた。この見開きに掲げられた20枚をざっと見て、知らない人、聴いたことのないアルバムの中で一番面白そうだったのがこれとソフト・マシーンで、どちらが先かと言えば、やはりまったく初耳の人になる。

WISDOM OF ELDERS
SHABAKA & THE ANCEST
BROWO
2016-09-16


 すばらしいじゃないですか。南アフリカのものらしい土俗的ルーツ的伝統的なフレーズ、ビート、サウンドが効いていて、祝祭でもあり、呪術でもあり、混沌と秩序が対等に同居していて、体の内部だけがよじられてゆくあの快感が湧いてくる。あたしにとっては理想のジャズ。「奇跡的な音楽」と細田氏が言う通り。渋さ知らズ、あるいはここにもある篠田昌巳の音楽にも通じる。

 試みに1番のオーネットと聴き比べてみた。もちろん良いですよ。立派な音楽です。あたしも好きだ。でも、シャバカを聴いてしまうとねえ、古色蒼然というと言い過ぎだろうけど、どこか時代の色や匂いがまつわりついてる。そりゃね、このオーネットがあってこそのシャバカでしょう。でも、このアルバムはオーネットの録音の中でも一番古びやすいんじゃないかなあ。とシロウトのあたしは思うのでありました。(ゆ)

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