昼間のアウラとライヴ・ダブル・ヘッダーの後半。
カルマンはハンマー・ダルシマー、馬頭琴、バゥロンのトリオだが、3人とも歌を唄う。馬頭琴の岡林さんはもともとホーミィもやり、オルティンドーも唄うが、バゥロンのトシさんが近頃本気で唄いだし、それにつられてか小松崎さんも唄う。3人で声を合わせたりもする。もちろんアウラのメンバーのような正規教育をうけた専門家ではないが、それなりに精進もしていて、アウラでは逆に不可能な歌を聴かせてくれる。このあたりが音楽の玄妙なところだ。楽器はそれぞれに目的が決まっていて、その中で最高の音が出るようになっている。声は目的が定まっていない。どのようにでも使える。そして千変万化する。アウラのような極美のハーモニーもあれば、カルマンのような、合うというよりはズレていることが愉しいものがある。
とはいえ、まずは器楽だ。これは菜花でのルーツ・ミュージック・ライヴ・シリーズ「菜花トラッド」の一環で、これまではPAを入れていたが、今回は生音。これが成功している。最も成功していたのは馬頭琴。馬頭琴も近頃は前面に木を張って、音量を大きくしたタイプが主流だそうだが、岡林さんの楽器は山羊革を張った古風なもの。この響きがたまらない。どこまでも深く、音が内部に膨らんでいって、時空から抜けでたように聞える。澄んだ音だが、ピュアというよりも、いろいろな滋養が溶けこんで、複数の旨みが交響しあっているようでもある。
岡林さんはこれでアイリッシュ・チューンも弾きこなしてしまうが、楽器のほうも別に無理をしている様子でもないのが、不思議でもあり、あたりまえでもある。本当の名手は、楽器に本来想定されていない歌をうたわせて、あたかも初めからそのために作られているように聴かせることができるものなのだろう。
小松崎さんのダルシマーは地味な響きがする。この楽器は結構ハデにもなりうるが、健さんの演奏はいい具合にくすんで、おちついている。楽器のせいか、技術によるものかわからない。たぶん、両方のからみ合いではあろう。おそらくは年齡の要素もあるはずだ。いい年の取り方をしている。枯淡の境地、というとよぼよぼの老人に聞えるだろうか。凄いとすぐわかることをやっているわけではないが、聴いていると、いつの間にか引きこまれ、抜けられなくなる。こういう風になるには、技ばかりいくら磨いても無理で、人としての生き方がかかわってくる。
トシさんのバゥロンは対照的に凄みが出てきた。1曲やったソロも特別に変わったことをやるわけではないのだが、別の世界に運ばれる。とはいえ、それよりも、アンサンブルでの何でもないビートの付け方に年季が入ってきた気がする。生音ということもあって、ブラシを使い、音量を下げ、当りをソフトにしながら、芯はしっかりしている。他の2つの楽器がアンプ無しに増幅される。
最初はこの組合せでアンサンブルが成り立つのかと思ったりもしたが、生音で何度か聴いていると、無いほうが不思議になってくるから不思議に面白い。
たぶん、ひとつにはあんまりがっちり決めこまず、ゆるくやっているのもハマっているのだろう。細部まで緻密に計算するのではなく、互いに相手の周りをふうわりとまわるように、相手の反応をうかがいながら、良い意味でいいかげんにやる。そういうことができるのも、各々が達人だからではあるが、そのゆるい円舞のなかに引きこまれると、遙か彼方まで世界が広がるのは、アンサンブルの醍醐味だ。
このユニットの歌は楽しい。トシさんはこのところ凝っているマウス・ミュージック、リルティングを披露し、また良くなっている。打楽器奏者だからか、ビートの拾い方が巧い。これを伴奏に踊れるだろう。輪唱、ユニゾン、ハーモニーと、繰り出す技も結構多彩だ。アウラでは声の出し方は皆同じで、だからこそハーモニーが綺麗に響くわけだが、こちらは発声のしかたも三人三様で、揃っていてもズレている。そこが何とも楽しい。音楽ではどちらもアリなのだ。ということは、どんなものでも、どちらもアリなのだ。岡林さんはオルティンドーを聴かせて、これももっと聴きたい。
菜花トラッドでは食事が付く。この日はモンゴルへのトリビュートで、ホーショールと呼ばれる揚げぎょうざというかミートパイというか、がメインで、これにじゃがいもと人参を小さな賽の目に切って茹でてマヨネーズであえたものとレタスのサラダがつく。ホーショールの中の肉はたぶん豚肉。いつもながら、実に旨い。味付けがうまくて、調味料などなしに、ぱくぱく食べられる。野菜もサラダもまことに結構。揚げたてて熱々。何度来てもたまりまへん。
菜花はクラフト・ビールを出す店に改装するそうで、新装オープンまで菜花トラッドもお休み。そちらはまた楽しみではありますなあ。(ゆ)
カルマン
小松崎健: hammered dulcimer, vocals
岡林立哉: 馬頭琴, khoomii、 vocals
トシバウロン: bodhran, vocals