クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ヤングアダルト

1026日・火

 Mac Monterey を入れる。AquaSKK がメニューバーの入力メニューから消えて、一瞬ぎょっとするが、キーボードの環境設定で追加すれば問題なし。


 HA-FW7のプラグにスーパーコンタクトオイルを塗り、本体の後にディーレンミニを貼る。なかなか良い。低域がぐんと締まる。空間が広がり、透明感が増す。音が際立つ。ボディの後は平らで、何か貼ってくれと言わんばかり。このイヤフォンで聴くヴォーカルは魅力的。


 GrimDark Magazine Soman Chainani のインタヴューが面白い。徹底的にディズニーで育ちながら、長じて、ディズニーがお伽話を改悪していたことに気づき、その落差に興味を持って研究する。結果、徹底的に反ディズニーのお伽話を書きだす。もっとも、ハーヴァードで英米文学の学位をとってから、コロンビアで映画のコースをとり、卒業後はまず映画脚本と監督の仕事をしている。2014年、ヤング・アダルト向けファンタジー The School For Good And Evil を出す。この人、国会図書館には出て来ないのだが、六つの大陸の30の言語に翻訳されている、という。ハリポタの直系、というにはおそらくひねくれているらしいが、わが国の児童書版元もみなディズニーに毒されているのか。それとも、非現実的な条件を持ちだしてくるのか。Wikipedia では名前から想像できるとおり、インド系とある。フロリダ半島南端の出身とあるから、西インド諸島に移民したインド系がアメリカ本土に移住した形だろうか。とりあえず、第1巻を注文。

The School for Good and Evil (English Edition)
Chainani, Soman
HarperCollins
2013-05-14




##本日のグレイトフル・デッド

 1026日には1966年から1989年まで7本のショウをしている。公式リリースは3本。うち完全版1本、ほぼ完全版1本。


1. 1966 The North Face Ski Shop, San Francisco, CA

 この時期のデッドについては頼りになる Lost Live Dead のブログに記事がある。

 この North Face は皆さまご存知のアウトドア・グッズのブランドで、これはその最初のリアル店舗。それ以前、North Face 創設者の Doug Susie Tompkins 夫妻はターホウ湖でアウトドア用品の通販を始めていて、この日サンフランシスコの North Beach に店を開き、後の大企業への道を歩みはじめる。隣は有名なストリップ劇場、筋向いはこれも有名な City Lights Bookstore
 その店の開店記念パーティーにデッドが「余興」として呼ばれ、演奏をした。おそらくあまり長いものではなかっただろう、という推測にはうなずく。このパーティーではディランの出たばかりの《
Blonde On Blonde》のばかでかいポスターが飾られ、ジョーン・バエズとミミ・ファリーニャもいて、ミミはスキー・ウェアのモデルになっていた。入口両脇にヘルス・エンジェルスが2人、立っていた。当時のデッドはもちろんまだほとんど無名。パーティーのはねた後、トンプキンス夫妻はバンドをイタ飯屋での夕食に連れていった。ノース・フェイス公式サイトの会社の歴史のページに、演奏している髭を剃ったガルシアとウィアの写真がある。その他、上記記事のコメント欄参照。

 デッドに注目するダグ・トンプキンスのセンスもなかなかだが、こういうところに顔を出すのがデッドの面白さだ。


2. 1969 Winterland Arena, San Francisco, CA

 同じヴェニュー&出演者3日目。急遽追加のギグ。デッドが先で、エアプレインがトリ。


3. 1971 The Palestra, University of Rochester, Rochester, NY

 ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ前座。開演8時半。

 前半13曲目〈Beat It On Down The Line〉を除く全体が《Download Series, Vol. 3》でリリースされた。

 後半が異様に短かい。あるいは FM 放送のためか。


4. 1972 Music Hall, Cincinnati, OH

 4.50ドル。開演7時半。この年の平均的ショウ、らしい。


5. 1980 Radio City Music Hall, New York, NY

 8本連続の4本目。第一部3曲目〈It Must Have Been The Roses〉が《Reckoning》で、第二部2曲目〈Sugaree〉と5曲目〈Let It Grow〉が《Dead Set》でリリースされた。

 〈Sugaree〉でガルシアはごくごくシンプルな短かいフレーズを少しずつ変えながらくり返して、スリリングに盛り上げる。こういうところがデッドの凄さ。この曲もいつもよりわずかにテンポが早いが、〈Let It Grow〉はさらに切迫感がある。ウィアの声も上ずりがち。


6. 1985 Sun Dome, Tampa, FL

 13.50ドル。良いショウのようだ。


7. 1989 Miami Arena, Miami, FL

 このヴェニュー2日連続2日目。《30 Trips Around The Sun》の1本として全体がリリースされた。(ゆ)



 コンプトン・クルック賞はボルティモア・サイエンス・フィクション・ソサエティ(BSFS)が1983年から毎年選定する賞で、過去2年間に刊行された作品を対象とする新人賞。5月末の Balticon 50 で発表。コンプトン・クルック(1908-1981)は Towson State College の生物学・生態学教授で、Stephen Tall のペンネームで小説も書いていた。主な作品は宇宙探検船 Stardust 号のシリーズ。このシリーズは発表雑誌が Worlds of Tomorrow, If, Galaxy, F&SF とバラけているのが珍しい。F&SF掲載の中篇 "Mushroom World" は面白かった記憶がある。BSFS の中心メンバーの一人でもあり、新人発掘に熱心だった。

 カーネギー・メダルは児童文学の分野で世界で最も権威のある賞の一つで創設は1933年。グリーナウェイ・メダルはイラストに与えられる。翻訳児童書の表紙や箱に金色のメダルが付けられているのはよく目にする。『ローカス』がSFF関連作品のリストを挙げている。最終候補が3月15日発表。受賞作発表は6月20日。

 オーリアリス賞はディトマーと並ぶオーストラリアの賞。両者の違いはディトマーはヒューゴー、オーリアリスはネビュラといえば当たらずといえども遠からずか。オーストラリアには SFWA に相当する組織はなく、この賞はもともとは雑誌 Aurealis を発行していた Chimera Publications が1995年に始めた。ディトマーとオーストラリア児童書評議会賞を補完するものという位置づけ。現在は Western Australian Science Fiction Foundation がキメラ社の代理として運営している。選考は選考委員会による。今年はホラー長篇部門の候補が出ていない。今年から SARA DOUGLASS BOOK SERIES AWARD が加わった。これは複数巻にわたるシリーズを全体として表彰しようというもので、WASFF による試験的な設置。第1回は2011年から2014年の間に完結したシリーズが対象。サラ・ダグラス(1957-2011)はサウス・オーストラリア州出身の歴史学者でオーストラリアを代表するファンタジィ作家の由。オーリアリスも数回受賞している。発表は3月25日 Natcon 会場。

 シリーズを全体として顕彰しようというのはもっともだ。ヒューゴーでもロバート・ジョーダンの『時の車輪』全巻が候補になったこともある。

 当然といえば当然だが、どの賞もほとんどと言っていいほど、候補作が重ならない。とりわけ、カーネギーとローカス推薦リストの Young Adult 部門の作品がまるで違うのは面白い。
 
 また SFWA は32人めのデーモン・ナイト記念グランド・マスターにC・J・チェリィを選んだ。5月中旬のネビュラ賞発表式で同時に表彰される。
 
 チェリィは今年74歳。1976年に長篇 GATE OF IVREL でデビュー。1977年にジョン・W・キャンベル記念新人賞を受賞。1978年の第4作 FEDED SUN: Kesrith がヒューゴー、ネビュラにノミネートされて注目される。『ダウンビロウ・ステーション』1981『サイティーン』1988それに「カサンドラ」1978でヒューゴーを得ている。しかしネビュラには縁が無い。もう永年、ノミネートすらされていない。とはいえ、彼女の作品を敬愛する作家は少なくないようだ。ジョー・ウォルトンによる Tor.com での再読連載を読めば、チェリィの全作品を読みたくなるが、長篇は2015年末現在で74冊。約半分は Union-Alliance 宇宙と呼ばれる未来史シリーズで、邦訳のある『色褪せた太陽』三部作や『ダウンビロウ・ステーション』『サイティーン』『リムランナーズ』はいずれもこれに属する。わが国でよく知られた未来史シリーズはハインライン、アシモフ、コードウェイナー・スミス、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、ポール・アンダースンなどなど、いずれも主に中短編で構成されるものが多い。チェリィの「連合・同盟シリーズ」はそれを長篇でやっている。一つひとつは独立した話だが、背景を共通とし、キャラクターも重複する。それもある話ではほんのちょい役だけのキャラが別の話では主役を張るというように、様々なつながりをする。だから、そうしたつながりを知った上で再読すると、また別の楽しみができる。こちらの最新作は『サイティーン』の続篇にあたる REGENESIS, 2009 だ(これについては Chris Moriarty の F&SF 掲載の書評を参照)。最近力を注いでいるのは Foreigner 宇宙で、異星に漂着した地球人を視点にして現在16冊。

 チェリィはまたゲイであることを公表している。今年のスーパーボウルのハーフタイム・ショウではレインボウ・カラーが会場を彩っていた。会場のあるサンフランシスコへ敬意を表したのかもしれないが、どちらかといえば保守的とされるフットボールの世界でもそういう演出がされるのは、アメリカ社会での LGBT の位置を示しているのかもしれない。今年、チェリィがグランド・マスターに選出されたのも、大統領選挙があることを考えると同様の意味があるとするのは深読みがすぎるか。とはいえ、ローカス推薦リストにあげられた中短編を読んでいると LGBT やジェンダーの在り方を問うものが目につく。

 なお、これまでのグランドマスターでチェリィより後にデビューしているのは2012年のコニー・ウィリス。女性ではアンドレ・ノートン (1984)、ルグィン (2003)、アン・マキャフリィ (2005)、ウィリスと来て、チェリィは5人目。
(ゆ)

このページのトップヘ