クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ラジオ

 番組に対していただいたリクエストの中にいくつか、ご質問があったので、できる範囲でお答えします。


□〈Mo Ghile Mear "Our Hero"〉「できれば、この曲の原曲を聴きたいです」

 これは伝統曲ですので、「原曲」というものは存在しません。最も有名なヴァージョンはおそらくスティングがチーフテンズをバックに唄ったものでしょう。ケルティック・ウーマンでも唄われています。

 あたしがこの曲を初めて聴いたのはメアリ・ブラックがソロになる前に参加していたバンド General Humbert のセカンド (1982) で唄っているものです。このトラックは後にメアリの《Collected》に収録されました。

Collected
Mary Black
Dara
2003-02-10



 アイルランド語のネイティヴの歌であればポゥドリギン・ニ・ウーラホーン Padraigin Ni Uallachain がギタリストの Garry O Briain と作った《A Stor's A Stoirin - Songs For All Ages》(1994) の歌唱を薦めます。

Stor Is a Stoirin
Padraigin Ni Uallachain
Traditions Alive Llc
2011-09-20



 またスコットランドの Mae McKenna の復帰作《Shore To Shore》(1999) の歌唱も良いです。


Shore to Shore
Mae Mckenna
Traditions Alive Llc
2008-01-01


 最近のものでは Steve Cooney と Allan Macdonald がホストになった 《The Highland Sessions, Vol. 3》収録のものが出色です。Iarla O Lionaird, Mary Black, Karen Matheson, Karan Casey, Mary Ann Kennedy, それに Allan Macdonald という、アイルランド、スコットランドのトップ・シンガーたちが声を合わせたコーラスで、1人1番ずつリードをとるという豪華版です。
 ミホール・オ・ドーナルがどこかで唄っていた記憶があるんですが、探しても出てきません。ご存知の方はご教示ください。

 教えていただいたので、掲げておきます。これも名演。


Relativity
Relativity
Green Linnet
2011-03-23




□RIVER TRANCE「The String Cheese Incident」というバンドが演奏しているRIVER TRANCEという曲があるのですが、原曲があるのでしょうか?」

 たとえば2013年大晦日の年越しライヴで、始めと終りにフィドラーが弾いているダンス・チューンのことでしょうか。どちらもごく有名な伝統曲です。たいへん有名で、よく演奏もされ、録音も多いのですが、あたしはとにかく曲名を覚えることができません。



 どなたか、ご教示のほどを。最初は2:20あたりから。後のは12:45あたりから。


□Muireann Nic Amhlaoibh の曲であれば何でも「名前が読めないんですけど、素晴らしいフルート奏者です」

 前は公式サイトに発音が出ていたんですが、今は無いようです。カナ表記してみれば「ムイレン・ニク・アウリーヴ」でしょう。この人はフルートも達者ですが、まずすばらしいシンガーです。ぜひ、歌を聴いてください。


□〈Moonfesta〉Kalafina「この曲はケルト音楽ですか?」

 前半はあたしにはケルトというよりも、クラシックの古楽、ルネサンスやバロック初期のスタイルを意図しているように聞えます。後半はケルトからは離れていると思います。


□「カントリーフォークの中に、ケルト音楽の流れ(影響)を強く感じるのは僕だけでしょうか? ということで、ケルトの流れを感じさせてくれる一曲をなにかお願いします」

 「カントリーフォーク」が何を指すのか、今ひとつはっきりしませんが、カントリー&ウェスタンの源流にアイルランドの伝統音楽があり、オールドタイムやブルーグラスの源流にスコットランドの伝統音楽があることは、よく知られています。

 ドーナル・ラニィが音楽監督を勤めた《Bringing It All Back Home》やチーフテンズの《Another Country》《Down The Old Plank Road》などには、そうした流れを実感させてくれる曲や演奏がたくさんあります。



Another Country
Chieftains
Sbme Special Mkts.
2009-08-04


ダウン・ジ・オールド・プランク・ロード
ザ・チーフタンズ
BMG JAPAN
2002-10-23



 個人的には「カントリーフォーク」から連想するのは Nanci Griffith で、彼女は一時期、ダブリンに家をもって、ナッシュヴィルと1年の半分ずつ暮していました。チーフテンズのツアーにも参加し、録音もあります。

 あるいは Tim O'Brien やその僚友 Darrel Scott なども、ケルトの流れを感じさせる歌をうたっています。たとえば前者の《Two Journeys》(2001) です。

Two Journeys
Tim O'Brien
Sugarhill
2002-07-09



 この2人も参加している《Transatlantic Sessions》のシリーズはジェリィ・ダグラスとアリィ・ベインがホストとなり、アメリカ東部、スコットランド、アイルランドのルーツ系ミュージシャンを集めて、ミュージシャンだけで、つまり聴衆無しにセッションをしてもらうのを映し、録音したもので、名演のオンパレードです。DVD と CD と両方出ています。映像はネットでも見られます。


□『ロミオとジュリエット』1968 サントラ「舞踏会の音楽にケルト音楽は使われているのでしょうか?」

 1968年という時代にはまだ「ケルト音楽」は存在しません。「ケルト音楽」という呼称、概念は30年ほど後の、1990年代も後半になって登場します。

 舞踏会の前半、男女がペアで踊っている時の音楽のベースになっているのは、当時のイタリア音楽、バロックの前のルネサンス音楽でしょう。モンテヴェルディに代表されるスタイルです。バロックにかかっているかもしれません。1967年には、イギリスで David Munrow や Christopher Hogwood が Early Music Consort を結成して、後の、いわゆる古楽の探索・復興に乗出していますから、その影響がある可能性もあります。

 後半、腕に鈴を付けて踊られるのは、イングランドのモリス・ダンスの原型を意図していると思われます。その前に女主人が「モリスカ」と言っていますし。Morris dancing はシェイクスピアの他の作品にも登場します。現在、イングランドにしか残っていない踊りで、踊りそのものはまったく異なりますが、音楽は今に残るモリス・ダンスのチューンを連想させます。

 なお、アイルランドの伝統音楽が映画に使われた例としてはスタンリー・キューブリックが『バリー・リンドン』(1975) にチーフテンズの音楽を起用したのが最初と思われます。


□豊田耕三 & 久保慧祐, Ross Memorial Hospital
「リクエストした曲はスコットランドのグループ silly wizard のメンバーであった Phil Cunningham が作った曲でしょうか。」

 そうです。CDには明記されています。

 なお、この曲は30分に及ぶ長いメドレーの2曲めで、演奏者としてはメドレーの一部として聴いてもらいたいと意図していると考え、リクエストの対象からは外しました。


□「キャンディーキャンディー」
「話の中でバグパイプ?をひく青年がいたのですが、曲も地方も分かりません」
「キャンディーの王子さまが、キルトをまとい丘の上で演奏しているもの」

 お二人からリクエストをいただきました。原作ではなく、アニメ版と思われますが、あたしにはまったくわかりません。ご存知の方はご教示ください。(ゆ)

 まずは、「今日は1日ケルト音楽三昧」をお聞きいただき、御礼を申し上げます。昨日はやはり興奮していたのでありましょう、終ってからもあまり疲れは感じなかったのですが、今日になってくた〜としております。

 やってみての感想は番組の最後にも申しましたように、「よい勉強をさせていただいた」の一言に尽きます。それはもういろいろの面で、準備の段階からしてそうでしたが、本番では目鱗、耳ウロコがぼろぼろ落ちておりました。遊佐未森さん、光田康典さん、それに寺町さん、豊田さんのゲストの方々、富貴晴美さんの録音メッセージには、それこそ「鳥肌」の連続でありました。音楽の面ばかりでなく、リスナーへの姿勢、情報伝達のアプローチのやり方、あるいはしゃべり方や情報の裁き方などなど、あらゆる方面でよい修行をさせていただきました。NHK にはいろいろ不満もありますが、なんだかんだ言っても、プロフェッショナルな方々がおられることも認識させられました。ラストの Auld Lang Syne の説明をどうまとめるか、あたしはほとんどパニックになっていたのですが、あの最高のエンディングにもちこんだのは、アナウンサーの赤木さんはじめ、スタッフの方々の手練の賜物です。もちろん、すべてを消化吸収して、自分も同じようにできるわけではありませんが、できるところは見習って、もし次があるならば、活かしたいと思うことであります。

 それにしても何よりの収獲は、ケルト音楽との出会いが「何だ、これは?」という衝撃であったことがはっきりと把握できたことです。このことはアナウンサーの赤木さんも強調されていて、とりわけ、光田さんとのお話の中で明らかになっていったのですが、遊佐さんにとっても、富貴さんにとっても、同様の衝撃が源になっている。寺町さんのアイリッシュ・ダンスとの出会いも同じ。あたしもまさに「何だ、これは?」から始まったのでした。

 もう一つ、ああ、そういうことかと納得したのは、やはり光田さんがアイルランドをはじめとするケルト音楽の音階が長調でも短調でもない、どちらにもなりうるし、ある音だけ調を変えることもできる、そこが面白いと言われたこと。長調か短調かはドレミのミの音で決まるのだが、ケルトの音階にはこのミが無い。だから、ギターなどでコードをどう付けるかでどちらにもできる。したがってケルトのメロディは哀しいと同時に楽しくもできるし、逆も可能になる。

 富貴さんも、日本音楽の音階とケルト音楽の音階の相似を語られていました。作曲家の視点はやはりリスナーともプレーヤーとも違うのだなあ、と感服したことであります。

 生放送というのはやはり恐しいもので、ミスもたくさんありました。あたしがやらかした最大のものはヴァン・モリソン&チーフテンズの Irish Heartbeat を「1977年」と口走ったことです。なんでそんなことが口から出たのか、さっぱりわかりませんが、まあ端的にアガっていたということでしょう。幸い、すぐに誰にでも間違いとわかり、しかも正しいデータも出てくるので、それほど害は大きくなかったことを願っています。

 年号はともかく、あのアルバムが世のアイリッシュ・ミュージック認知に果たした役割には、その後の『タイタニック』や『リバーダンス』を一面では凌ぐものがあることは確かです。あれをやってのけたのはパディ・モローニの最大の業績に数えられるべきものです。

 トシさんもつくづく言っていましたが、今やっていることへの反応がリアルタイムで出てくるのはツイッターの面白いところです。

 反響の大きさには、正直、あっけにとられるところもありました。一方で、それだけ「ケルト音楽」が広く浸透していることの現れでもあります。今回、あえて「ケルト音楽」とは何かを定義したりせず、できる限り広く門戸を開いたことも寄与していたかとも思います。なかにはこれが「ケルト」かと首をかしげられる楽曲もあったかもしれませんが、また他方では、ハード・ロックやクラシックまで、実に幅広い楽曲を聞くことができました。

 「三昧」はリクエストが柱の1本ですが、前日まで来ていたものにも、あたしには初耳のミュージシャン、楽曲がいくつもあり、我々の予想は嬉しい意味で完全に裏切られました。リクエストは放送が始まってからの方が圧倒的に増えるそうですが、今回は特に顕著で、しかも相当に広く深かったそうです。生演奏が3組、ゲスト出演がお二方、それにトシさんのリクエストでマーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの28分のトラックもありましたから、放送された楽曲の総数は他の「三昧」の平均よりも少なくなりました。この点、次があるとすれば、改善の余地はありそうです。

 次があるとすれば、と先ほどから書いていますが、反響の大きさからして、次もおそらくできるのではないか、と番組のプロデューサーも言われていました。とはいえ、リスナーの後押しが一番です。次を希望される向きは、番組へのメール、あるいはツイッター公式アカウントへのメッセージなどで、直接希望をぶつけてください。

 正直、次があるとしても少し間をあけていただきたいものではあります。あたしの個人的希望を言わせていただければ、最短で来年のまた同じ時期が理想です。

 とまれ、赤木さんも繰り返し言われていたように、ケルト音楽の世界は広くて、深いものです。今回の放送でリスナーのお一人おひとりが、それぞれの「何だ、これは?」に出会い、あらためてケルト音楽の豊饒な世界の探索におもむかれる、そのきっかけになることを祈ります。

 ぼく自身、くたびれはしたものの、音楽をもっともっと聴きたくなっている自分を発見してもいます。

 とりあえずは、この企画に巻きこみ、共同解説者として責任を分担してくれたトシバウロンに最大の感謝を捧げます。(ゆ)

 肝心なことを忘れてました。この「ケルト音楽」って、何だ。というのは、番組のための打合せでもまずはじめに出たことではあります。

 アイリッシュはケルトにはちがいない。エンヤがそうだという人も多いだろう。ヴァン・モリソン&チーフテンズで「ケルト」に開眼した人もたくさんいる。ジブリのアニメでもカルロス・ヌニェスやセシル・コルベルがやっている。いやいや、『ファイナルファンタジー』をはじめとするゲームの音楽だ。

 まあ、こういうものも用意してはいますが、あたしやトシさんが基本として頭に置いているのは、もっと大きく広い。結局定義としては「ケルト語が話されている地域の伝統音楽とそれをベースにした音楽」です。

 具体的な地域をあげれば、まずアイルランド、スコットランド、ウェールズ、ブルターニュの4つが「大国」です。この4つの地域はヨーロッパ全体でみても、ひいては地球全体でみても「音楽大国」です。

 加えてスコットランドとイングランドの間のノーサンバーランド、ブリテン島の南西に伸びる半島のコーンウォール、アイルランドとスコットランドの間の島、マン島、スペイン北西部のガリシアとアストゥリアスなどの地域です。

 さらに、こうした地域からは17世紀以降、たくさんの人が移民しています。移民した先にはもちろん音楽も携えてゆき、根付いた先でその音楽が栄えます。まず北米、アメリカ東部のボストンやシカゴはアイリッシュ・ミュージックが盛んですし、カナダ東部、ノヴァ・スコシアのケープ・ブレトンではスコットランド音楽が独自に発展しています。さらには数は減りますが、オーストラリアやニュージーランドに渡った人びともいます。

 ところで、じゃあ、ケルト語とは何か。というのは番組の中でまず話すことになるでしょうが、予習として書いておきます。ヨーロッパの言語のほとんどはインド・ヨーロッパ語族に属することは、だいたい皆さんご存知でしょう。その中がまたいくつかのグループに分れます。たとえばフランス語、イタリア語、スペイン語などのラテン語派。ドイツ語、北欧諸国の言語、英語などのゲルマン語派。それとならぶ大きなグループがケルト語派です。

 ケルト語派はまた二つに分れます。ひとつが「島のケルト」と呼ばれることもあるアイルランド語、スコティッシュ・ゲール語、マンクス・ゲール語。もう一つがウェールズ語、ブルターニュ語、コーンウォール語などで、こちらは「大陸のケルト」と呼ばれたりもします。

 このケルト諸語がどういう経緯でこうした地域で話されているのかは大きすぎるのでひとまず脇に置きます。

 ケルト語が話されている地域、と言いましたが、その事情もまた複雑です。こうした地域は各々英語やフランス語やスペイン語といった大きな言語、つまり話者人口が多い言語のすぐお隣りで、こうした言語が日常語として浸透しています。そのためケルト語はどこでも少数言語として消滅の危機にさらされています。実際、コーンウォール語は二十世紀半ばに一度消滅しています。つまりネイティヴ・スピーカーが一人もいなくなりました。その後復興の努力がなされて、今はまた話せる人が増えているようです。

 アイルランドやスコットランドでも事情は同じで、言語消滅の危機が常に叫ばれています。ただ、前世紀末から風向きが変わってきました。たとえばアイルランドではアイルランド語は義務教育で必須とされているにもかかわらず、日常生活ではほぼまったく使われませんでした。わが国における英語と同じような位置にあったわけです。ほとんどのアイルランド人にとってアイルランド語はタテマエとしては大事なものではあるものの、ホンネではできれば触れたくないお荷物、あんまりカッコいいものではなかったのです。

 それが、20世紀も最後の十年ぐらいから、アイルランド語はカッコよくなってきました。名前も英語名をやめてアイルランド語にしたり、アイルランド語名前を子どもにつけたり、さらには若い夫婦が子どもをアイルランド語ネイティヴとして育てるためにアイルランド語が日常語として使われている地域、ゲールタハトと呼ばれる地域に引越すという現象まで起きてきました。

 そのきっかけとなったのが音楽です。アイリッシュ・ミュージック、アイルランドの伝統音楽は1980年代後半から急激に盛り上がり、今世紀初頭まで、空前の活況を呈します。そこで例えば筆頭に立ったアルタンが、アイルランド語のうたを歌うと、これがカッコいいと聞える。

 スコットランドでも同じで、一昨年来日した Joy Dunlop はスコティッシュ・ゲール語で日常会話もしていましたが、ネイティヴではない、つまりスコティッシュ・ゲール語は彼女にとって第二言語です。そしてジョイがスコティッシュ・ゲール語に興味をもち、ぺらぺらになるまでになったのは音楽が入口だそうです。

 実際、アルタンのマレードがうたうアイルランド語の歌や、ジョイがうたうスコティッシュ・ゲール語の歌は実に美しく、カッコよい。ヤン=ファンシュ・ケメナーがうたうブレトン(ブルターニュ)語の歌やカレグ・ラファルのリンダ・オゥエン=ジョーンズがうたうキムリア(ウェールズ)語の歌も、やはりいわんかたなく美しく、カッコいい。アイルランド人やブルターニュ人でなくても、これは一丁、自分でもこの言葉でうたってみたい、と一度は思います。

 英語やフランス語やドイツ語の歌もそれぞれに美しくカッコいいのはもちろんですが、ケルト諸語の言葉の美しさ、カッコよさには飛び抜けたところがあります。我々の耳には、歌うのではなく、ただしゃべっているだけでも歌をうたっているように響きます。それは我田引水の類としても、音楽は言葉とつながっているわけですから、ケルト語を話している地域に音楽が盛んというのは、やはりなんらかの密接な関連があるはずです。

 こういう地域の音楽を全部、今回紹介できるか、はちょっと難しいところもあります。ケルト語という共通点はあります。ダンス・チューンでは、どこの音楽も短かいメロディをくるくると繰り返してつなげていきます。ハープとバグパイプを使います。使う音階もだいたい同じ。一方で、各々はまたかなりに異なるところもあります。「島のケルト」と「大陸のケルト」の言葉の違いは音楽の違いでもあります。そういうものをあれもこれも一度にどばっと聞かされると、ちょっと待ってくれと言いたくなるでしょう。あたしなども何年もかけて少しずつ聴いてきてます。昔はネットなどはむろんありませんから、情報も手に入る音源も少ない。少しずつしか聴けなかった。それが幸いしたところはあります。

 それでも、まあ、こんなのもありますよ、と1、2曲でも紹介できればいいなとは思っています。中にはそこに引っかかる人もいるでしょう。スコットランドにはちょっと引くけれど、ブルターニュはカッコいいと感じることもありえる。なにせ、8時間以上あって、他の「三昧」のプレイ・リストを見ると、80から100曲近くかけています。アイリッシュばかり80曲かける、そりゃ、やれと言われれば100曲ぐらいは軽くかけられますが、それを喜ぶ人はやっぱり少ないでしょう。どこかでそういうイベントをやってみたい気もしますが、ラジオではないでしょうね。ですから、やはりなるべくいろいろな地域、いろいろな形のものを紹介することはできるんじゃないか、と期待してます。

 ということで、そういうリクエストをいただけると仕事がやりやすくなって、ありがたいです。この地域のお薦めを聞きたいとか、漠然としたものでもたぶんいいんじゃないでしょうか。

 ちょうど今朝、ウェールズの 9Bach のニュースレターが来ました。ウェールズでも今一番トンガった音楽をやっているバンドです。



 やはり今朝、スコットランドのハーパー Rachel Newton からのニュースレターも来てました。ソロの他、女性ばかりのバンド The Shee のメンバーでもあり、イングランドのミュージシャンたちとのジョイント・プロジェクト The Furrow Collective の一員でもあり、さらに単発やシリーズのライヴや演劇にも参加していて、多忙なんてもんじゃないようでもあります。


 このあたりはぜひ紹介したいところです。(ゆ)

 この話は実は昨年末に来ていて、以来、あれこれ準備してるわけですが、一つはこういう時必ずリクエストが来たり、かけてくれと頼まれる定番曲の用意です。

 不特定多数を相手にする発信の機会をいただいて一番ありがたいのは、こういうチャンスがないと絶対に聞かないような音源をあらためて聴かざるをえなくなることです。

 で、下記のような曲で、ありきたりのものを聴いても面白くないから、何かないかと手許の音源をさらうと、結構いろいろ出てきます。


〇Amazing Grace
Yann-Fanch Kemener, Les Grands Airs Celtiques, 2000
 この曲は楽曲の出自からするとケルトとは関係がありません。歌詞はイングランドの牧師さんが作った聖歌だし、メロディは19世紀半ばに、二つの伝統曲を合成してアメリカで作られてます。元の伝統曲はそれまで口誦伝承されていたらしく、起源不詳、たぶんブリテンのものであろうとされています。アメリカでのみ人気があり、演奏されている、というよりも、第二次世界大戦後、録音によって広まるまでアメリカ以外では知られていなかったそうです。

 この曲がなぜケルトと結びつけられるのか、あたしにはよくわかりません。ハイランド・パイプでよく演奏されるからというのも、どちらかといえば、パイプ側の主体的選択ではなさそうですしねえ。確かに、パイプで演奏すると映えますけどね。

 それはともあれ、ブルターニュ伝統歌謡最高のシンガーがこれを唄っているわけです。歌詞は本人のオリジナル。2000年の録音で、当時大きくとりあげられていたコソヴォ難民を謳っている由。バックはモラール兄弟とベーシストの Alain Genty と、これもベストの布陣。アレンジはジェンティ。

 これがもう良いなんてもんじゃない。ブレトン語というだけでまず新鮮ですが、何せヤン=ファンシュ・ケメナーです。うたい手としては、ブルターニュだけじゃない、ヨーロッパ全土でも指折りの人が心をこめて唄い、それを鉄壁のアレンジがささえる。絶唱といっていいでしょう。これを見つけたときには、今回の企画がどうなろうと、これだけでもうあたし個人としては最高の収獲と思いました。

 収録されているのは2000年に Keltia Musique が出したオムニバスで、そっけないタイトルとトラック・リストに並んでいる定番曲だけ見て、放置していて、持っていることすら半ば忘れていたもの。今回のような企画がなければまず永遠に聴かなかったでありましょう。

 聴いてみれば、ほとんどがこのための新録で、他にも冒頭の Jamie McMenemy の〈Scotland the Brave〉とか、掉尾のベルギーのグループ Orion の〈Auld Lang Syne〉とか、さらには The Fallen Angels のアカペラ版アイルランド国歌とか、とんでもない録音が詰まってました。このアイルランド国歌も番組のどこかで紹介したいもんです。


 というような感じで、まあ楽しいんですが、以下の曲で複数の名前が書いてあるのは、どれにするか絞りきれていないもの。こういうところで、これが聴きたいというリクエストをいただけるとありがたいです。


〇Danny Boy
Hanz Araki & Colleen Raney, tricolor, うたう日々, 2016

〇Down By The Sally Gardens
Kathryn Roberts, 1993, Intuition, 0:04:11
Maireid Sullivan, 1994, Dancer, 0:03:36
Noirin Ni Riain, 1996, Celtic Soul, 0:05:51

〇Foggy Dew
奈加靖子, Slow & Flow, 4:53
Tomas Lynch, The Crux Of The Catalogue, 5:55

〇Lagan Love
Sinead O'Connor, Sean-N'os Nua, 0:04:44
Niamh Parsons, Heart's Desire, 0:03:12
上野洋子, SSS 〜Simply Sing Songs〜, 0:03:49
Lisa Hannigan, The Chieftains, Voice Of Ages

〇My Love Is a Red, Red Rose
Davy Steele, 1998, Complete Songs Of Robert Burns, Vol. 04, 0:02:22
Kathryn Tickell + Corrina Hewat, 2006, The Sky Did't Fall, 0:03:21

〇Raglan Road
Alyth, Homelands, 4:43
Tommy Sands, Too Shorten The Winter, 5:13
奈加靖子, Slow & Flow, 6:23

〇Scotland the Brave
Jamie McMenemy, Les Grands Airs Celtiques, 

〇Siuil a Run
Anam, First Footing, 3:24
Carmel Gunning, The Lakes Of Sligo, 3:05
Connie Dover, The Wishing Well, 4:34
Skylark, All Of It, 3:05
Maighread Ni Dhomhnaill & Iarla O Lionaird, Sult, 4:47

〇The Last Rose Of Summer
Megson, On The Side, 3:42

〇Water Is Wide
Sian James, Di Gwsg, 3:05
Ross Kennedy & Archie McAllister, THE GATHERING STORM, 1996, 4:30
Josienne Clarke & Ben Walker, Nothing Can Bring Back The Hour, 3:14
優河, 街灯りの夢, 6:01

〇Whiskey in the Jar
Frank Harte & Donal Lunny, My Name Is Napoleon Bonaparte, 2:43


 さて、あと1週間しかないし、まだまだ用意しなければならないことはあるんで、作業にもどります。(ゆ)

 FMの地方ネットワーク JFN に "A・O・R" という番組があります。毎晩19:00〜21:00の2時間枠で、その後半が曜日変わりの特集で木曜日がワールド・ミュージック。

 この番組はローカルなFM局で聞ける他、radiko などのネット経由でも聞けるそうです。

 しばらく前からこの番組のワールド・ミュージックの特集でコメントと音源の提供をしているんですが、昨日は明日放送予定の「スウェーデンの音楽」のコメント収録してきました。

 今回はあたしよりも適任者がいると言って推薦したんですが、諸般の事情からやっぱりあたしがやることになった次第。といっても最近の状況については真暗なので、あわてて泥縄で話を伺い、音源も拝借する始末。おかげでなんとかこなしました。

 久しぶりにスウェーデンの音楽をまとめて聴きなおしましたが、やっぱりええのう。番組の中でもコメントしましたけど、伝統と革新のバランスがうまくとれてる点ではダントツじゃないかと思います。

 聴きなおしてみてあらためて感嘆したのは Groupa。リアルタイムで聴いていた頃はどうも目立たない印象でしたが、うーん、マッツ・イーデン偉い! スウェーデンの大物は誰もかれもトンガってますが、トンガる方向がひょっとすると一番ラディカルかもしれない。サイト行ってみると、まだバンドとして現役じゃないですか。

 それとやっぱりあたしにとってスウェーデン音楽の原点フォルク・オク・ラッカレは、いいんですよねえ。カリン・シェルマンのヴォーカルは、その後リエナやウリカやを聴いても、やっぱり最高だあーと思う。この凛とした気品は伝統音楽の本流からはあるいははずれるかもしれないけれど、彼女のうたを聴くだけで心洗われて、別の人間になっていく気がします。その点では、世界にディーヴァもたくさんいる中で、この人の右に出るうたい手はいない。最近再編したそうですが、一度は生で聴きたいですなあ。

 スウェーデンは音楽的には「大国」で、これは1回ではすみそうもないですね、という話にもなりましたので、たぶんまたやることになるでしょう。まあ、知っている人には特に目新しい話はありません。この番組自体は浅く広くの方なので、これから聴こうとか、スウェーデンに音楽があるのかという向きは、流し聞きしてみてください。(ゆ)

が、NHK FM のブログにアップされました。

 hatao さんが持ってきてくれたノーサンブリアン・スモール・パイプやウェールズのピグホーン(角笛ですね、hatao さんが手に持っているやつ)の写真がいい感じです。

http://www.nhk.or.jp/fm-blog/200/194784.html

http://www2.nhk.or.jp/navi/detail/index.cgi?id=09_0157

 ご参考までに。放送は明後日の土曜日朝です。(ゆ)

 ピーター・バラカンさんに誘われて、ラジオに出ます。NHK FM の毎週土曜日朝のバラカンさんの番組「ウィークエンド・サンシャイン」の「サマースペシャル2014」です。来週08/16(土)の放送です。始まる時間はいつもと同じ。終わるのが遅くなります。普段の倍以上の3時間40分という枠で、お題は「ケルト音楽」。先日、収録をしてきました。

 これだけ時間があるならいっぱいかけられるぞ、と張り切り、うんと大風呂敷を拡げましょうと提案したら、二つ返事でOK。そこでアイルランドから始めて日本までケルト音楽世界旅を企画しました。

 でもやはり時間が足りなくて、当初考えたものの半分に削り、さらに収録直前の打合せであれこれ削り、やっていくうちにまた足りなくなって、もう一度削り。

 とはいえ、ふだんはまずかけれらないようなものもたくさん入れることができたので、まずまず楽しめるのではないかと思います。

 もう一つ、ぼくだけではこんな長時間はもたないので、フルートの hatao さんに助っ人をお願いしました。hatao さんはブルターニュ音楽に詳しいし、ウェールズやコーンウォールのミュージシャンたちにも会いにでかけたりしておられるし、さらにはアジアのケルト音楽シーンにも直接関係しておられらます。楽器にももちろん強い。当日もウェールズの角笛であるピグホーンやブルターニュのボンバルド、あるいはノーサンブリアン・スモール・パイプ、スコティッシュ・ロウランド・パイプなどをスタジオに持ち込んでくれました。どんな音がするか、少しだけ、吹いてもいただいてます。

 詳しい音源のリストなどは放送当日まで秘密です。放送されたら、あらためてリストと解説をここに書きます。番組のブログにも写真付きで出るはずです。

 聴いて面白かったら、NHK に「続篇」の希望を出してください。今回はもちろん個々の各地域ではほんのサワリしか触れられなかったので、それぞれにもっと聴きたい、という声が大きければ、普段の「ウィークエンド・サンシャイン」で企画できるかもしれもせんし。

 来年の「サマースペシャル」の話なんかもしましたが、今から明かすと鬼が笑うでしょうから、それはまた後日。(ゆ)

Three Score and Ten: A Voice to the People    昨日放送のピーター・バラカンさんの「ウィークエンド・サンシャイン』のトラック・リストです。各トラック、ミュージシャンについては後日紹介していきます。
   
    今回は英国の伝統音楽レーベル Topic Records の70周年記念ボックス《THREE SCORE AND TEN》のリリース記念ということで、このレーベルの意義や、ここで活躍している人びとを紹介するものです。
   
    ほとんどの音源は《THREE SCORE AND TEN》からとっています。このボックスというより、ハードカヴァーの本ですが、これについてはメルマガ本誌の方で精聴連載を始めていますので、そちらもどうぞ。一曲目の〈Hal-An-Tow〉は先月号でとりあげました。バックナンバーはこちら

01. 伝統の伝わり方その1〈Hal-An-Tow〉, trad.
01a. Helston Town Band〈Furry Dance〉《VOICE OF THE PEPOLE 16: You Lazy Lot of Bone-Shakers》, 1944
01b. The Watersons, 《THREE SCORE AND TEN》, 1965
01c. Shirley Collins & the Albion Counrty Band《NO ROSES》, 1971
01d. Oyster Band《STEP OUTSIDE》, 1986

02. アイルランド
02. Sean O'Shea & Bobby Casey,〈The Yellow Tinker> The Humours Of Scarriff〉《THREE SCORE AND TEN》, 1968, trad.

03. イングランド
03a. Ewan MacColl〈To The Begging I Will Go〉《THREE SCORE AND TEN》, 1966, Trad.
03b. Frankie Armstrong〈The Crafty Maid's Policy〉《THREE SCORE AND TEN》, 1972, trad.
03c. John Kirkpatrick & Sue Harris〈The Rose Of Britain's Isle> Glorishears〉《THREE SCORE AND TEN》,  1974, trad.
03d. The Oldham Tinkers〈The Lancashire Toreadors〉《THREE SCORE AND TEN》, 1974, George Formby
03e. June Tabor〈The Scarecrow〉《ABYSSINIANS》1989, Lal & Mike Waterson
03f. Vin Garbutt〈A Man Of The Earth〉《PLUGGED!》1995, Bernie Parry

04. スコットランド
04a. Jeannie Robertson〈MacCrimmon's Lament〉《THREE SCORE AND TEN》, 1959, Trad.
04b. Archie Fisher〈The Broom O' The Cowdenknowes〉《WILL YE GANG, LOVE》 1976, trad.

05. オーストラリア
05. A. L. Lloyd, Martyn Wyndham-Reade & Trevor Lucas〈Waltzing Matilda〉《THE GREAT AUSTRALIAN LEGEND》1971, trad.
 *iTunes Store に有。

06. もうひとつのトピック
06. Chris Foster〈The World Turned Upside Down〉《ALL THINGS IN COMMON》 1979, Leon Rosselsson

07. 伝統の伝わり方その2〈Worcester City〉
07a. Joseph Taylor 《Voice of the People, Vol.3: O'Er His Grave the Grass Grew Green》1908, trad.
07b. Eliza Carthy《ANGLICANA》2002, trad.

Three Score and Ten: A Voice to the People    ピーター・バラカンさんの NHK-FM 土曜朝の「ウィークエンド・サンシャイン」に出させていただきます。昨日収録があり、放送は今週土曜日12日朝07:15からです。「ケルティック・クリスマス」メイン・アクトの日の朝です。そういえば、明日、金曜日朝の InterFM のバラカンさんの番組にアルタンが生出演するそうです。
   
    今回のお題は「民衆のうたを伝えて70年——英国最古のインディーズ・レーベル Topic Records」。先日出た70周年記念ボックス《THREE SCORE AND TEN》を中心に、ふだん、メディアには流れないだろう音源をかけさせていただきました。フランキー・アームストロング(このカヴァーに映っている女性シンガー)とか、ジューン・テイバーとか、アーチー・フィッシャーとか、クリス・フォスターとか、かけられて、個人的には幸せでしたが、さてリスナーの反応はどうでしょうか。
   
    これはボックスというよりも、100ページ超のハードカヴァーの本に7枚のCDを組み込んだ形です。トピック70年のエッセンス、ということはアイルランド、スコットランド、イングランドの伝統音楽、ルーツ・ミュージックの戦後史でもあります。フィールド録音から、ばりばり最先端の同時代音楽まで。その広がりは時空を超えてゆきます。これについてはメルマガ本誌で精聴を試みていますので、そちらもどうぞ。最新号のバック・ナンバーはこちら。

    かけた曲のリストなどは番組のウエブ・サイトに載りますし、ここでも解説します。うたが多いので、歌詞と大意も放送後に載せます。
   
    まさか、一年に二度、出演できるとは思ってませんでした。バラカンさんには感謝感謝。(ゆ)

 石垣島の唄者、大島保克さんが今日の夕方 NHK-FM に出るそうです。

NHK-FM『サタデーHOTリクエスト』
06/02(土) 14:00〜(大島の出演は16:30ごろから)

 「近畿地方を除く全国生放送です。スタジオ生演奏もあります」だそうです。

 また明日日曜日には東京・渋谷のアップル・ストアでインストア・ライヴがあるそうです。夜の8時から、約30分。共演はいつもの武川雅寛(ヴァイオリン、マンドリン)、近藤研二(ギター)。入場はもちろん無料。


 そういえば、しばらくライヴを聞いていないなあ。新譜もまだ買えない(先月、買過ぎ)。

 ピーター・バラカンさんのラジオ番組として人気があった "Barakan Beat" がネット・ラジオとして復活するそうです。

 新しく出来たソーシャル・ネットワーク・サイトの otonamazu.com の一部として出発するネット・ラジオ局。

 将来的にはオン・デマンド式で聞けるようにする計画ですが、当面は毎週日曜日の午後1時から1時間。おそらく平日の再放送もあり。喋りは英語。選曲はバラカンさんの自由だそうなので、これまで以上におもしろくなると期待できます。ただし、著作権の関係から、インディーズ以外の日本の音楽はまだ流せない由。ほんと、日本のレコード業界のケツの穴の狭さは、自分で自分の首を絞めてますな。

 リクエストもよろしくとのことです。

このページのトップヘ