クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ワールドミュージック

 ボックス・セットのトラック・リストと各CDのタイムをリストアップしておく。各ショウの後の時間は合計時間。


Show 01 of 16: 2015-09-15, The Southland Ballroom, Raleigh, NC 1:41:46
Disc 1 61:39
1. Flood
2. Bent Nails
3. Kite
4. Young Stuff

Disc 2 40:07
5. Tio Macaco
6. Little Wing; Superstition
7. Lingus


Show 02 of 16: 2015/09-24, Royce Hall, Los Angeles, CA 1:25:30
Disc 1 61:53
1. Flood
2. Binky
3. Bent Nails
4. Kite

Disc 2 23:37
5. What About Me?
6. Shofukan
7. Sleeper


Show 03 of 16: 2015-10-05, O2 Academy Bristol, Bristol, UK 1:42:24
Disc 1 61:15
1. Bent Nalis
2. Outliner
3. 34 Klezma
4. Flood
5. Sharktank

Disc 2 41:09
6. Thing of Gold
7. Young Stuff
8. Quarter Master
9. What About Me?


Show 04 of 16: 2015-10-06, Hammersmith Apollo, London 1:43:25
Disc 1 68:03
1. Strawman
2. Flood
3. Bent Nalis
4. What About Me?
5. Thing of Gold

Disc 2 35:32
6. Tio Macaco
7. Lingus
8. Shofukan
9. Quarter Master


Show 05 of 16: 2015-10-08, L'Obseratoire, Cergy, France 1:44:24
Disc 1 73:09
1. Intelligent Design
2. Skate U
3. Whitecap
4. Kite

Disc 2 31:15
5. What About Me?
6. Quarter Master
7. Ready Wednesday
8. Lingus


Show 06 of 16: 2015-10-13, Theatre Municipal, Tourcoing, France 1:55:21
Disc 1 65:26
1. Bring Us The Bright
2. 34 Klezma
3. Bent Nalis
4. Flood
5. Thing of Gold

Disc 2 49:55
6. What About Me?
7. Ready Wednesday
8. Shofukan
9. Quarter Master


Show 07 of 16: 2015-10-16, Tivoli Vredenburg, Utrecht, Netherlands 1:42:53
Disc 1 63:03
1. Shofukan
2. What About Me?
3. Sleeper
4. Kite
5. Outliner

Disc 2 39:50
6. Tio Macaco
7. Lingus
8. Quarter Master
9. Groove (Quarter Master)


Show 08 of 16: 2015-10-18, De Oosterport, Groningen, Netherlands 1:40:40
Disc 1 71:02
1. Binky
2. Skate U
3. What About Me?
4. Thing of Gold

Disc 2 29:38
5. Tio Macaco 13:19
6. Ready Wednesday 17:04
7. Lingus 12:24


Show 09 of 16: 2015-10-21, Palladium, Warsaw 1:41:17
Disc 1 58:40
1. Bent Nalis
2. 34 Klezma
3. Skate U
4. What About Me?
5. Young Stuff

Disc 2 42:37
6. Tio Macaco
7. Sleeper
8. Quarter Master
9. Shofukan
10. Ready Wednesday


Show 10 of 16: 2015-10-26, WUK, Vienna 1:59:52
Disc 1 57:37
01. Whitecap
02. Skate U
03. Bent Nails
04. Go
05. 34 Klezma
06. Thing of Gold

Disc 2 62:15
07. Tio Macaco
08. Young Stuff
09. Shofukar
10. Ready Wednesday
11. What About Me?


Show 11 of 16: 2015-10-31, Schlachtof, Bremen, Germany 1:55:18
Disc 1 53:04
01. Sharktank
02. 34 Klezma
03. Go
04. Skate U
05. Bent Nalis

Disc 2 62:14
06. Whitecap
07. Sleeper 13:11
08. What About Me?
09. Shofukan
10. Lingus


Show 12 of 16: 2015-11-07, Nasjonal Jazzscene, Oslo, Norway (late show) 1:48:41
Disc 1 52:56
1. Flood
2. Bent Nails
3. Go
4. Binky

Disc 2 55:45
5. Sharktank
6. Shofukan
7. Quarter Master
8. Lingus


Show 13 of 16: 2015-11-08, La Cigale, Paris 1:42:04
Disc 1 44:29
1. Whitecap
2. Celebrity
3. Kite
4. Outliner
5. Go

Disc 2 57:35
6. Binky
7. Tio Macaco
8. Sleeper
9. Shofukan


Show 14 of 16: 2015-11-09, CRR Concert Hall, Istanbul 1:38:37
Disc 1 46:04
1. Kite
2. Bent Nails
3. Binky
4. What About Me?

Disc 2 52:33
5. Thing of Gold
6. Tio Macaco
7. Ready Wednesday
8. Shofukan


Show 15 of 16: 2015-11-15, Niceto Club, Buenos Aires 1:54:31
Disc 1 51:02
01. Flood
02. Skate U
03. 34 Klezma
04. Kite
05. What About Me?

Disc 2 63:29
06. Thing of Gold
07. Tio Macaco
08. Shofukan
09. Lingus


Show 16 of 16: 2015-11-16, Teatro Nescafe de Las Artes, Santiago, Chile 1:46:07
Disc 1 49:39
1. Flood
2. Outliner
3. Binky
4. What About Me?
5. Young Stuff

Disc 2 56:28
6. Tio Macaco
7. Sleeper
8. Lingus
9. Shofukan


 ついでにこの時のツアーでダウンロードで買えるライヴのリスト。
*をつけたのは上記ボックス・セットに入っているもの。
 
09/12/15 The Historic Scoot Inn, Austin, TX
09/13/15 Howlin' Wolf, New Orleans, LA
09/14/15 Variety Playhouse, Atlanta, GA
09/15/15 Southland Ballroom, Early Show - Raleigh, NC
*09/15/15 Southland Ballroom, Late Show - Raleigh, NC
09/16/15 Ardmore Music Hall, Ardmore, PA
09/17/15 Berklee Performance Center, Boston, MA
09/23/15 Belly Up, Solana Beach, CA
*09/24/15 Royce Hall, Los Angeles, CA
10/01/15 O2 Academy, Leeds, UK
10/02/15 The Ritz, Manchester, UK
10/03/15 O2 Academy ABC, Glasgow, UK
10/04/15 The Institute, Birmingham, UK
*10/05/15 O2 Academy, Bristol, UK
*10/06/15 Hammersmith Apollo, London, UK
10/07/15 Concord 2, Brighton, UK
*10/08/15 L'observatoire, Cergy, FR
10/10/15 Theatre Novarina, Thonon-Les-Bains, FR
10/11/15 Le Rocher de Palmer, Cenon, FR
10/12/15 Le Bikini, Toulouse, FR
*10/13/15 Theatre Municipal, Tourcoing, FR
10/14/15 Ancienne Belgique, Brussels, BE
*10/16/15 Tivoli Vredenburg, Utrecht, NL
10/17/15 Parkstad Limburg, Heerlen, NL
*10/18/15 De Oosterport, Groningen, NL
10/20/15 Eskulap, Poznan, PL
*10/21/15 Palladium, Warsaw, PL
10/22/15 CSJF, Prevov, CZ
10/23/15 Jazz Days Festival, Bratislava, SK
10/24/15 Jazz Days Festival, Žilina, SK
*10/26/15 WUK , Vienna, AUT
10/27/15 Alte Feuerwache, Mannheim, DE
10/28/15 Im Wizemann, Stuttgard, DE
10/29/15 Ampere, Munchen, DE
10/30/15 Huxley's Neue Welt, Berlin, DE
*10/31/15 Schlachthof, Bremen, DE
11/01/15 Live Music Hall, Koln, DE
11/02/15 Mojo, Hamburg, DE
11/03/15 Fermaten, Herning, DK
11/04/15 Stockholm Konserthuset, Stockholm, SE
11/06/15 Nasjonal Jazz Scene, Early - Oslo, NO
11/06/15 Nasjonal Jazz Scene, Late - Oslo, NO
11/07/15 Nasjonal Jazz Scene, Early - Oslo, NO
*11/07/15 Nasjonal Jazz Scene, Late - Oslo, NO
*11/08/15 La Cigale, Paris, FR
*11/09/15 CRR Konser Salonu, Istanbul, TR
11/13/15 Vivo Rio, Rio de Janeiro, BR
*11/15/15 Niceto Club, Buenos Aires, AR
*11/16/15 Teatro NESCAFE de las Artes, Santiago, CL

 お愉しみを。(ゆ)

 ようやく風邪が抜けかかったところで、本調子には遠いが、今回はスナーキー・パピーの特集とあっては休むわけにはいかない。薬をもち、冷房対策の上着を抱えてでかける。店内でも上着を着ていたら、なんとか保った。

 前半はユニバーサルの斉藤さんによるスナーキー・パピーのレーベル GroundUp からの新作紹介。まずは当のスナーキー・パピーの最新作《CULCHA VULCHA》から2曲。ここでかかった〈Go〉は後半でかかった《WORLD TOUR 2015》のツアー中に披露され、ツアーが進むにつれてこれが熟成してゆく過程が聴ける。この新作はかれらとしては初めてスタジオ録音できっちり録っていて、この曲もいわばひとつの「完成形」になるのだろう。リズムなど、曲の基本構成を聴くにはよいかもしれない。

 2番目は、今年6月のスナーキー・パピーの来日で前座をつとめ、好評だったという Michelle Willis のデビュー《SEE US THROUGH》。イングランド生まれでカナダ、トロントに住むそうで、シンガー・ソング・ライターとしては今どきのサウンド。英国のリリシズムはしっかりあるが、うーん、何度か聴きかえすと良くなるかなあ。

 面白かったのは次の Charlie Hunter で、7弦ギターだそうだけど、鋭角的で跳躍の多い、ノンリニアなフレーズを連発して、楽しいブルーズを聴かせる。トロンボーンとコルネットという編成も珍しい。ドラムスが例によって秀逸。買っちゃいました。

 チャーリー・ハンターもベテランだそうだが、次の The Funky Knuckles も、R&B、サウルのビッグネームのバックバンドを勤める人たちが作っているファンク・ジャズ・バンドだそうで、まあ、皆さん達者だ。このクラスになるとただウマイだけ、なんてことはありえない。ちゃんと音楽を楽しく演り聴かせるコツも体得している。ちょっとはしゃぎすぎのところもないこともないが、それもまたよし。斉藤さんもおっしゃるごとく、スナーキー・パピーよりずっと年上のはずだが、やってることはもっとハードなところがある。

 個人的に興味深かったのはラストの House of Waters。ハマー・ダルシマーと六弦ベースのデュオが基本で、これにパーカッション、曲によりチェロやフルートが参加する。ベースはモト・フクシマという、バークリーで上原ひろみと同級生だった人で、ずっとニューヨークで活動しているのでわが国では知られていないらしい。ハマー・ダルシマーの Max ZT とニューヨークの地下鉄構内でのバスキングで名を上げ、この度、GroundUp から録音デビューになった由。

 Mat ZT のダルシマーの腕そのものはそれほどうまいとも思えないが、こういうスタイルで使うのはおもしろい。もっともかかった曲の後半はケルト調のダンス・チューンのフレーズがとびだして、お里が知れる。小松崎健さんがやればもっと面白くなるだろうけど、それはこの際、脇に置いておこう。

 さて、後半はスナーキー・パピーが昨年出した《WORLD TOUR 2015》から4トラックを選んでノンストップでかける、という趣向。4トラックで1時間になる。

 このボックス・セットは昨年の9月12日、テキサス州オースティンに始まり、11月16日チリのサンチャゴに終るライヴ49本をまるまる録音したもののなかから16本を選んでリリースしたものだ。この16本も含め、49本すべてがダウンロードで買える。ハイレゾ・ファイルもある。

 この16本を個々に買うよりもボックス・セットで買った方が安い。ボックス・セットを買うと 256kbps の MP3 ファイルをダウンロードできる権利もついてくる。

 なお、このワールド・ツアーそのものとしては、初日だけがなぜかリリースされていない。録音にトラブルがあったか。

 個々のライヴは各々CD2枚組で1時間半から2時間、ノンストップだ。曲目リストを見ると同じような内容に見えるかもしれないが、個々のライヴは全部個性が明確で、同じことの繰り返しにはまるで聞えない。やはりツアーが進むにつれて、調子が上がっていくようで、演奏時間も長くなる。

 聴いてゆくと、グレイトフル・デッドに一番近い。うたが無いのが惜しいが、そういうことも気にならないくらい演奏の質が高いし、楽曲も面白い。ジャンルは完全に無意味で、こんなのジャズじゃねえとか、最高のファンク・バンドだとかいう枠組でとらえようとするのはやめた方がいい。大所帯バンドではあるけれど、ライヴでの組み合わせは自在だし、曲調も常に千変万化し、また同時に複数のジャンルのスタイルが同居、融合している。

 よくわかっている人が聴けばジャズの伝統、たとえばエリントン・バンドとか、モンクとか、あるいはマイルスとかの谺を聴きとることも可能だろう。一方でシンプルにそのポリリズミックなビートにひたすら酔うという聴き方もできるだろう。

 デッドで味をしめていたから、こういうボックスを出すのならば聴いてみましょうと思ったのは大当り。完全に惚れ込みました。ボックス・セットを聴きおえたので、ここには入っていないその他の33本もダウンロードして聴いていこうと思っている。

 いーぐるではこのボックス・セットを購入し、今日から毎日2回に分けて1枚ずつかけてゆくそうだ。時間に余裕があれば、ぜひ通うことをお薦めする。もっといいのは旧譜のハイレゾ盤なんぞ捨てて、これを買い、今、一番面白いバンドのツアーに同行することだ。

 このライヴ録音はサウンドもすばらしいが、いーぐるのシステムで聴く、このボックスの音は格別で、いい音楽をいいシステムで聴ければ風邪も治ってしまう。


 この新譜リスニング・セッション、次回は9月21日(水)、ロバート・グラスパーの新作が出るそうで、それに合わせてかれとその周辺を特集する由。斉藤さんによれば今やスナーキー・パピーとともにジャズの最先端を引っぱるグラスパー(あたしだって名前くらい知っている)だから、次も楽しみ。(ゆ)

 これってかなり凄いことではないか。というのも美空ひばりはものすごく乱暴に言ってしまうと、ドロレス・ケーンやノーマ・ウォータースンやレーナ・ヴィッレマルクやウンム・クルスームやマリア・デル・マール・ボネットやハリス・アレクシーウやエスマやトト・ラ・モンポシーナやリラ・ダウンズや、とにかくそういううたい手たちに肩を並べる人ではないか、と密かに思っているからだ。

 「乱暴に言う」ことの意味は、上にならべた人たちがうたっているような意味での「伝統音楽」とひばりのうたが同じ次元にあるとは、そう簡単には言えないことだ。とはいうものの、そのうたに無心に耳を傾けるならば、日本語の伝統から生まれて、その伝統を体現し、ひとつの時代を作って次の世代にとっての指標となった、うたい手としてそういう存在にまぎれもない。ひばりのうたは、第二次大戦後の日本語世界の「フォーク・ミュージック」にあって、せいいっぱい伝統音楽に近づいたものではなかったか。

 だから、ひばりのうたが世界に聞かれることは、海外にいる日本人や日系人だけが聞くわけではない。むしろ真の意味での「ワールド・ミュージック」として聞かれるチャンスになりうるはずだ。琉球や奄美とは違う、古典芸能とも違う、本土の日本語から生まれたワールド・ミュージック。そこが凄い。

 それにしても71曲という数字は生誕71周年に合わせたものと聞いて愕然としてしまう。52歳は本来全盛期の幕開きではないか。世紀末の、そして世紀が変わってからのひばりを聞きたかった。少しはこちらの耳もできた上で、聞いてみたかった。その意味では、同じ伝統音楽でも、むしろビリー・ホリディに近かったのかもしれない。(ゆ)


 この表紙をあらためて眺めていて、思うところあり。

 まず右端のこの青年は、やはり若い頃の松平維秋でしょうね。

 それから店の看板。上の "black hawk" の文字のその上は本来 "real jazz" でした。口絵 2pp. の写真参照。ちなみにこの店名は、サンフランシスコの有名なジャズ・クラブから借用したもの。

 下の看板に "British Trad" の文字がありますが、これも本物はなかったはず。

 それにしても、こういうイメージが定着しているとすれば、おそらくその原因は、当時「ブリティッシュ・トラッド」と呼ばれていた、ブリテン、アイルランドの伝統音楽とそれを元にしたロック、ポップス、あるいは同様の流れで展開されていたフランスや東欧の音楽を、公の場として、しかも日常的に聴けるところが「ブラック・ホーク」だけだったからでしょう。

 船津さんが書いているように、担当者によって避けられることはあったにしても、リクエストすれば断られはしませんでしたし、そもそも、こういうレコードがコレクションされていた店は他にありませんでした。

 「ブラック・ホーク」の「主流」だった、アメリカのルーツ志向のロック、ザ・バンドやスワンプ・ロック、カントリー・ロック、ニュー・グラス、シンガー・ソング・ライターといった音楽、あるいは英国でもキンクスやロニー・レーン、グリース・バンド、ヴァン・モリソンなどのアメリカ音楽をベースにしたものは、早い話、すぐ「お隣り」の「BYG」でもかかっていましたし、いまでも下北沢の「ストーリーズ」はじめ、何軒か、聞くことができる店はあるはず。いわゆるロック喫茶の看板を掲げていない、ごく普通の喫茶店や飲み屋で、聞けることもあります。ぼく自身、阿佐谷の飲み屋でトム・ウェイツの《クロージング・タイム》やエルトン・ジョンのセカンドを聞いたりした経験もあります。

 しかし、こと「ブリティッシュ・トラッド」あるいは「トラッド」に分類される音楽は、自宅や友人の家以外のところで聞いたことがほとんどありません。例外は、何かのイベント、例えば、松平さんが数年ぶりにDJを務めて、南青山のふだんはラテン音楽のかかる飲み屋で開かれたイベントのような時だけです。アイリッシュ・ミュージック・ブーム全盛時ですら、例えばアイリッシュ・パブでセッションやライヴ以外の時にかかっている音楽は、せいぜいがポーグスまでで、ドロレス・ケーンは愚か、プランクシティやボシィ・バンドすら聞いたことがありません。むろん、ぼくの知らないところでかかっていた可能性はありますが、ぼくの少ない経験からしても、まずその可能性はかぎりなく小さいでしょう。

 ここまで書いて思いだしました。千葉の駅に近い喫茶店で、「ダルシマー」という名前だったでしょうか、トラッドも含めて「ブラック・ホーク」に近いセレクションで音楽を聞かせているところがあると聞いて、一度訪ねていった覚えがあります。「ブラック・ホーク」がレゲエの店になっていた頃だと思います。いまでも健在なのでしょうか。

 とはいえ、東京23区内では、気軽に入れて、いつでもその気になれば「トラッド」を聞くことができた店は、1970年代当時、「ブラック・ホーク」だけでした。

 ですから、このての音楽に親しみ、さらには演奏までする人間がこの列島に現われるという現象が始まったのが「ブラック・ホーク」であることはまちがいありません。

 あちこちで何度も書いてきたことですが、アイリッシュ・ミュージックははじめ「ブリティッシュ・トラッド」の一部として入ってきて、聞かれ、認識されていました。現在のように、アイリッシュ・ミュージックのほうがイングランドやスコットランドの音楽よりも遙かに知名度が大きくなるとは、当時誰にも想像もつかなかったことなのです。

 クリスティ・ムーアやポール・ブレディやアンディ・アーヴァインは、マーティン・カーシィ、ディック・ゴーハン、ニック・ジョーンズ、ヴィン・ガーバット、デイヴ・バーランドたちとまったく区別なく、聞かれていました。

 ドロレス・ケーンもトゥリーナ・ニ・ゴゥナルも、フランキー・アームストロングやシャーリィ・コリンズやアン・ブリッグスの仲間だったのです。

 プランクシティやボシィ・バンドに相当するバンドはイングランドにはありませんでしたが、ちょっと変わったペンタングルと思っていた人もいたでしょうし、スコットランドにはバトルフィールド・バンドやアルバ、タナヒル・ウィーヴァーズがいましたから、これまたアイリッシュを意識させる存在ではなかったのです。

 すべてがひとくくりに「ブリティッシュ・トラッド」と受け取られていました。

 さらにその認識の中には、オーストラリアのブッシュワッカーズ、カナダのスタン・ロジャースといった英語圏だけでなく、ブルターニュのアラン・スティーヴェルや、フランスのマリコルヌや、オランダのファンガス、ハンガリーのコリンダ、ムジュカーシュとマールタ・セベスチェーンといった人びとも、含まれていたのです。「ワールド・ミュージック」が流行する何年も前の話です。

 こんにちのアイリッシュ・ミュージックの隆盛、定着は、本国での事情もむろん寄与しているにしても、そもそも「ブラック・ホーク」がなければ始まらなかったことなのです。

 「ブラック・ホーク」は小さな店でした。50人もはいれば満員になりました。「銀座の一等地」にあったわけでもありません。全国展開したチェーン店などでもありません。セレブが通っていたわけでもありません。この本にもあるように、ここに通っていた人たちがその後、名を上げた例には事欠きませんが、当時はみな、ごく普通の若者だったはずです。少なくとも、特別の存在には見えなかったはずです。

 けれども、「発信力」は店の規模には関係ないのでしょう。それを一身に担っていた松平維秋が店を離れて30年経って、ようやく、その「発信力」の真の規模が現われてくるのを、ぼくらは眼のあたりにしています。(ゆ)


 フィンランドの超絶技巧ハーモニカ・カルテット、スヴェングの東京・武蔵野スイング・ホール公演のチケットは、2時間とかからずに完売したそうです。

 東京では他に代官山「晴れたら空に豆まいて」での公演があります。ここも広くはないところなので、予約はお早めに。

 こいつら、どこかネジの一本もはずれてる連中ですから、生はぜったいに面白いはず。

 ノルウェイ独特の楽器ハーディングフェーレをフィーチュアしたグループ Gjetord(イェートール)が来月初旬に来日し、東京と大阪でライヴを行うそうです。大阪では、ご存知、山口智さんがサポート。

 ちなみにハーディングフェーレは普通のフィドルの弦の間に3本の共鳴弦を備えた弦楽器です。代表的な演奏家としてはアンビョルグ・リーエンがいます。

 このツアーを企画されたのは関西在住の樫原聡子さん。元はアイリッシュ・フィドルを演奏されていたのが、ノルウェイの音楽に魅せられ、テレマルク(ノルウェイのドニゴールかクレアですな)に単身留学されていたそうな。そこの学校での仲間が結成したイェートールを連れてきてしまったらしい。

 ヤマハを除き、ノーPAだそうです。ハーディングフェーレのあの響きを聞くには最適。

 グループのCDはまだ作っていないそうですが、ヤマハではノルウェイ音楽の特集も組むそうです。クラシック中心ではありましょうが。

 なお、自由学園明日館でのコンサートは、「グリーグ生誕没後100年記念事業」の一環の由。


 樫原さんには本誌向けに、アイリッシュからノルウェイに移り、グループ結成にまでいたった遍歴をつづった記事の執筆をお願いしています。お楽しみに。


★スケジュール

12/04(月)東京・銀座 ヤマハ インストア・ライヴ
12/05(火)-- 07(木)
      東京池袋 自由学園明日館
      開場18:15/開演18:45 2500円
12/09(土)大阪北浜 CHAKRA
      ゲスト:山口智
      開場18:00/19:00 2500円(当日3000円)

★チケット購入&問合せ
12/05--07のコンサートに関しては
Grieg2007実行委員会 電話:03-5021-3983 またはメール 

12/09公演に関しては 
CHAKRA 電話 06-6361-2624 もしくはメール

 「Gjetord (イェートール) は、エレン・マリエの呼びかけによって、2005年冬、テレマルク大学フォークカルチャー科の学生によって結成された。ヤギ牧場を経営するエレン・マリエのレパートリーは生活に深く根ざしたセートラ音楽(setramusikk:牧場の生活から生まれた音楽。動物を呼ぶロックlokkなど実用的なものを含む)である。Gjetord はエレン・マリエとマグンヒルがリードする伝統的ながらユーモアあふれるノルウェーのセートラ音楽をサラ・ナイジェルと樫原聡子によるフェーレとハーディングフェーレと共に演奏する一方、ハリエットのオリジナル曲もレパートリーとしている。年齢差と国籍を超えた、異なるバックグラウンドを持つミュージシャンによるノルウェーのフォークミュージック」

☆メンバー
エレン・マリエ・タンゲン Ellen Marie Tangen: 歌 sang,
マグンヒル・ベルゲ Magnhild Berge: 歌 sang
ハリエット・ヘレネ・フェルドハイム Harriet Helene Fjeldheim: 歌 sang
セーラ・ナイジェル Sarah Nagell: 歌 sang, フェーレ fele, ハーディングフェー
レ hardingfele
樫原聡子 Satoko Katagihara: フェーレ fele, ハーディングフェーレ hardingfele、歌 sang


Thanx! > 樫原さん

このページのトップヘ