いや、もう最高。さいこう。サイコー!
先行は tricolor。いきなり〈アニヴァーサリー〉で始めるという反則技。と思ったら、長尾さんが、今日はどれくらいはじけられるかがテーマです、と言って、マスクをして歌をうたう。お客として来ていた熊谷太輔さんを呼びこんで、1月、同じハコでやったセッション・ライヴの時にやった曲、長尾さんの〈Hare's March〉をやる。kuumori のドラマー、長尾さんとは旧知の田嶋トモスケさんをゲストに迎える。全体に、演奏のテンションがいつになく高い。たしかにはじけている。このトリオはどちらかといえば、肩に力の入らない、ぶだん着の音楽をぶだん着のままで演奏するのが身上で、またそれがライヴでも魅力だった。今回は気合いがどんと入っている。ライヴができる歓びがそのまま音にあらわれている。
それを浴びるこちらも嬉しい。〈アニヴァーサリー〉が始まったとたん、全身の力がほーっと抜ける。不足していた栄養分を注入されて、ココロとカラダが歓んでいる感覚がひしひしと湧いてくる。飢えていたのだ。生演奏に、ライヴに。生演奏そのものは、02/22のいーぐるでのイベントで、三味線を1曲聴いているけれど、それくらいでは、むしろ飢餓感をかきたてられる方が大きかった。そうだ、やはりぼくらには音楽が必要なのだ。ライヴが必要なのだ。こういう危機の時にこそ必要なのだ。百年前の関東大震災の夜、バスキングに出た添田唖蝉坊の一行の演奏に、人びとが家々から飛びだしてきて、大歓迎したという話を思い出す。
ぼくらは危険がいっぱいの世界に生きている。今は新型コロナがクローズアップされているけれど、温暖化による極端な気象はいつなんどき災厄を生みかねない。去年の台風では相模川は文字通りのぎりぎりセーフだったけど、今年も大丈夫という保証は無い。それに、いずれ近いうちに地震もくる。要はリスクの大きさを見定めて、バランスをとって生きてゆくしかない。
新型コロナは正体がわからず、我々に免疫が無いことが不安を生んでいるわけだが、免疫は感染しなければ獲得できない。虎穴に入らずんば虎子を得ず。病気にかかりたくはないが、かかるときはかかる。新型コロナで死ななくても、がんで死ぬこともある。専門家によれば、この新型コロナウィルスが消滅することは無い。これから数年の間にわが国の大多数の人間が一度は感染する。できることは爆発的感染のピークの山をできるだけ低く、遅くすること。それは成功しつつあるように見えるけれど、一方でピークが長く延びる可能性もある。
いずれにしても、いくらマスクをつけても、感染しない保証など無い。それはインフルエンザやノロも同じ。どちらもやはり治療法は無い。症状が出れば対症療法しかできない。個人としてできることは、感染しないことよりも、感染しても症状が出ないようにすることだ。つまり、免疫力を上げるように努めることだ。
免疫力を上げる一番手っ取り早い方法は笑うことである。アメリカの編集者として有名なノーマン・カズンズは免疫疾患のひとつとされる膠原病を喜劇の映画を見て笑うことで治し、『笑いと治癒力』を書いた。
もう一つ、手軽な方法は感動することだ。文学でも美術でもパフォーマンス芸術でも、何でもいい、感動すること。カタルシスはその一部、おそらくは重要な部分だが、それに限られないだろう。どちからといえば感涙にむせるよりも、おもしろかったあ\(^O^)/と万歳する方がたぶん効果的。
kuumori のライヴは最高の音楽と至高の笑いを結びつけて、免疫力向上機能をこれ以上ないほどたっぷり備えていた。音楽を聴きながら、こんなに気持ちよく笑ったのは、ほんとうに久しぶりだ。かれらはコミック・バンドではない。冗談を連発するわけでもない。音楽だけとりだせば、技術も志もセンスも第一級のクオリティだ。何よりも音楽の根柢に潜む「狂気」を表面すれすれに湛えている。
どこか「狂って」いない音楽はBGMでしかない。耳を傾むけるに価する音楽には狂気が宿る。狂っている場所も狂い方も様々だが、必ずある。モーツァルトもジョン・レノンもマイルスも、皆、狂っていた。
kuumori の4人のメンバーはそれぞれに狂気を表に出す。長尾さん流に言えば、はじける。最も派手にはじけていたのはバンジョーの桑原達也(以下敬称略)。デヴィッド・ボウイにちょっと雰囲気が似ている。バンジョー自体はベラ・フレックも真青。ダブル・ベースの刀禰和也は特定の条件下ではじけることにしているらしい。そのベースの骨太なことは、あたしは生ではこれまで聴いたことがない。ドラムスの田嶋友輔は、久しぶりに見るけれど、ドラマーとしての器がぐんと大きくなっている。刀禰+田嶋の生みだすグルーヴの快感こそは、狂ったリズム・セクションの真骨頂。そして、リーダーとして一見一番おちついているように見えるギター(マヌーシュ・ジャズで使う、穴が小さな楕円形のアコースティック・ギター)&ヴォーカルの加勢明は、たぶん、狂い方が一番徹底している。
歌がまたいい。日本語ポピュラー・ソングの王道ど真ん中を行くメロディに、視点を巧妙にずらした、予想を裏切る歌詞をのせる。唄いあげるのではなく、むしろ、坦々と唄う。静かな狂気だ。
始まった途端に思わず座りなおしたが、一発がんとまともにくらったのは3曲めの〈ブルーグラス〉。このバンドの素顔が現れた。バンジョーのソロに背筋に戦慄が走る。その後はもうずっと上がりっぱなし。繰り出される曲のどれもこれもびんびんと響いてくる。7曲目〈ビューティフル〉からアニーがアコーディオンで参加し、音の厚みがぐんと増す。バンジョー桑原とアニーの丁々発止も底抜けに愉しい。アンコールでは桑原が頭のうしろでバンジョー・ソロをかませば、アニーもあのでかいアコーディオンを頭に載せて弾く。
kuumori のはじけ方が頂点に達したのは、〈さおり行きの各駅停車〉での桑原のパフォーマンスで、満場爆笑の渦。
ああ、これですよ。ライヴの愉しさ、ここにあり。もちろん、いろいろな条件がうまく重なった。良い条件とばかりは限らない、悪い条件もまたポジティヴな作用をしていた。それも含めてすべてがうまくはまり、回転したときのライヴは、ここまで行けるのだ。こうなれば、ウィルス、何するものぞ。
演っている方も気持ち良いのだろう、演奏は終る気配もなく続き、とうとう打ち上げた時にはすでに23時。最終深夜バスに乗るため、挨拶もそこそこに、下北沢駅への坂道をダッシュするのもまた愉しからずや。ミュージシャン、空飛ぶこぶたやのスタッフ、そして共にライヴを愉しんだお客さんたちに、感謝また感謝。(ゆ)
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