クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:東欧

ひなのいえづと
中西レモン
DOYASA! Records
2022-07-31



Sparrow’s Arrows Fly so High
すずめのティアーズ
DOYASA! Records
2024-03-24


 やはり生である。声は生で、ライヴで聴かないとわからない。録音でくり返し聴きこんでようやくわかる細部はあるにしても、声の肌ざわり、実際の響きは生で聴いて初めて実感される。ましてやこのデュオのようにハーモニーの場合はなおさらだ。声が重なることで生まれる倍音のうち録音でわかるのはごく一部だ。音にならない、あるいはいわゆる可聴音域を超えた振動としてカラダで感じられるものが大事なのだ。ここは10メートルと離れていない至近距離。一応増幅はしていたようだが、ほとんど生声。

 ときわ座は30人も入れば一杯。結局ぎゅう詰めになる。ここはもと生花店だったのをほぼそのままイベント・スペースにしている。店の正面右奥の水道のあるブリキを貼った洗い場も蓋をして座れるようにしてある。正面奥は元の茶の間で、左手奥は台所。茶の間の手前、元は店舗部分だった部分の奥半分ほどの天井をとりはらい、2階から下が見えるようにし、2階に PA などを置いてあるらしい。マイクは立っているが、PAスピーカーは見当らない。

 楽器としてはあがさの爪弾くガット・ギターと持ち替えで叩くダホル、佐藤みゆきが時折り吹くカヴァルとメロディカ、それに〈江州音頭〉で使われる尺杖、〈秋田大黒舞〉で中西が使った鈴。どれもサポート、伴奏というよりは味つけで、主役は圧倒的に声、うただ。

 生で見てまず感嘆したのは中西レモン。《ひなのいえづと》でも感じてはいたものの、あらためてこの人ホンモノと思い知らされた。発声、コブシのコントロール、うたへの没入ぶり、何がきてもゆるがない根っ子の張り方。この人がうたいだすと、常に宇宙の中心になる。

 オープナーの〈松島節〉から全開。ゆったりのったりしたテンポがたまらない。そこに響きわたるすずめのティアーズのハモりで世界ががらりと変わる。変わった世界の中に中西の声が屹立する。

 と思えば次の〈塩釜甚句〉では佐藤のメロディカがジャズの即興を展開する。そういえば、あがさのギターも何気に巧い。3曲目〈ひえつき節〉はギター1本に二人のハモりで、そこに1970年代「ブリティッシュ・トラッド」のストイックなエキゾティズムを備えたなつかしき異界の薫りをかぎとってしまうのは、あたし個人の経験の谺だろうか。しかし、この谺は録音では感じとれなかった。

 美しい娘が洗濯しているというブルガリアの歌が挿入される〈ザラ板節〉がまずハイライト。この歌のお囃子は絶品。

 圧巻は6曲目〈ざらんとしょ〉。新曲らしい、3人のアカペラ・ハーモニー。声を頭から浴びて、洗濯される。

 前半の締めはお待ちかね〈ポリフォニー江州音頭〉。すずめのティアーズ誕生のきっかけになった曲で、看板ソングでもある。堪能しました。願わくば、もっと長くやってくれ。

 ここで佐藤が振っている長さ15センチほどの棒が尺杖で、〈江州音頭〉で使われる伝統楽器だそうな。山伏の錫杖を簡素化したものらしい。頭にある金属から高く澄んだ音がハーモニーを貫いてゆくのが快感を煽る。後半の締め、本来の〈江州音頭〉で中西が振るのは江州産の本物で、佐藤のものは手作りの由。現地産の方が音が低い。《Sparrow's Arrows Fly So High》で中西のクレジットに入っていた "shakujo" の意味がようやくわかった。

 先日のみわトシ鉄心のライヴと同じく、前半で気分は完全にアガってしまって、後半はひたすら陶然となって声を浴びていた。本朝の民謡とセルビア、ブルガリアの歌は、実はずっと昔から一緒にうたわれていたので、これが伝統なのだと言われてもすとんと納得されてしまう。それほどまでに溶けあって自在に往来するのが快感なんてものではない。佐渡の〈やっとこせ〉では、ブルガリアの歌からシームレスにお囃子につながるので、お囃子がまるでブルガリアの節に聞える。そうだ、ここでの歌はブルガリアの伝統歌の解釈としても出色ではないか。

 一方で〈秋田大黒舞〉でのカヴァルが、尺八のようでいてそうではないと明らかにわかる。その似て非なるところから身をよじられる快感が背骨を走る。

 それにしても、3人の佇まいがあまりにさりげない。まったく何の気負いも、衒いもなく、するりと凄いことをやっているのが、さらに凄みを増す。ステージ衣裳までが普段着に見えてくる。中西はハート型のピンクのフレームのサングラスに法被らしきものを着ているのに、お祭に見えない。すずめのティアーズの二人にいたっては、これといった変哲もないワンピース。ライヴを聴いているよりも、極上のアイリッシュ・セッションを聴いている気分。もっともセッションとまったく同じではなく、ここには大道芸の位相もある。セッションは見物人は相手にしないが、この3人は音楽を聴衆と共有しようとしている。一方でミュージシャン、アーティストとして扱われることも拒否しながらだ。

 とんでもなく質の高い音楽を存分に浴びて、感動というよりも果てしなく気分が昂揚してくる。『鉄コン筋クリート』の宝町を髣髴とさせる高田馬場を駅にむかって歩きながら、空を飛べる気分にさえなってくる。(ゆ)

5月25日・火 > 最新版 2021-06-10

 頼まれたことから思いついて、ケルト系、北欧系、その他主にヨーロッパのルーツ・ミュージックを志向する国内アーティストでCDないし音源をリリースしている人たちをリストアップしてみる。この他にもいるはずだし、ゲーム関連を入れるとどんと増えそうだが、とりあえず、手許にあるもの。ソロも独立に数えてトータル95。

3 Tolker
Butter Dogs
Cabbage & Burdock
coco←musika
Cocopeliena
Craic
Drakskip
Emme
fiss
Gammal Gran
Handdlion
Hard To Find
Harmonica Creams
hatao
hatao & nami
John John Festival
JungRAvie
Kanran
Koji Koji Moheji(小嶋佑樹)
Koucya
Luft
Norkul TOKYO
O'Jizo
oldfields
Rauma 
Rinka
Satoriyakki
Si-Folk
tipsipuca
Toyota Ceili Band
Tricolor
u-full & Dularinn
あらひろこ
安城正人
稲岡大介
上野洋子
上原奈未
生山早弥香
扇柳トール
大森ヒデノリ
岡大介
岡林立哉
おとくゆる
樫原聡子
風とキャラバン
神永大輔
亀工房
川辺ゆか&赤澤淳
木村林太郎
きゃめる
櫛谷結実枝
熊沢洋子
功力丈弘
五社義明
小松大&山崎哲也
さいとうともこ
酒井絵美
坂上真清
佐藤悦子 勝俣真由美
セツメロゥズ
高垣さおり
高野陽子
田村拓志
ちゃるぱーさ
東京ヨハンソン
豊田耕三
内藤希花&城田じゅんじ
中村大史
奈加靖子
生梅
西海孝
猫モーダル
野間友貴
馬喰町バンド
秦コータロー
服部裕規
バロンと世界一周楽団
日花
ビロビジャン
鞴座
福江元太
ポッロヤキッサ
本田倫子
マトカ
丸田瑠香&柏木幸雄
村上淳志
守安功&雅子
安井敬
安井マリ
山崎明
悠情
遊佐未森
ロバの音楽座

 整理の意味も含めて、全部聴きなおして紹介するか。データベースにもなるだろ。(ゆ)

2021-06-10 改訂
2021-06-08 改訂

2021-06-02 改訂
2021-05-31 改訂
2021-05-28 改訂
2021-05-27 改訂

 いやあ、もう、サイコーに気持ち良い。ダブル・パイプはドローンが出ただけで有頂天になってしまうんですと中原さんは言う。パイパーはパイプを演奏していると脳内麻薬が出てきて、にやにやしてしまうと鉄心さんも言う。聴いている方でもいくぶん量は少ないだろうが、快感のもとは出ている。パイプの音の重なりには他には無い気持ち良さがある。スコットランドのパイプ・バンドの快感もおそらく同様のものなのだ。

 それにしてもイリン・パイプの音の重なりは実際に、生で聴かないと、その本当の気持ち良さはたぶんわからない。この日はまず午前中雨が降って、湿度がパイプにちょうど良いものになった。会場はレストランで、ミュージシャンたちの背後は白壁だが、上の方が少し丸くなっている。天井も円筒形。ここは以前、さいとうともこさんを聴いたが、生楽器が活きるヴェニューだ。この日もアコースティック・ギターに軽く増幅をかけた他はすべて生音。

 イリン・パイプのデュオは中原さんと金子鉄心さんが臨時に組んだもの、というよりパイパーが二人いるから一丁一緒にやるかという感じのセッションで、この日のライヴの本来の趣旨からはいささかずれるのだが、これを聴くというより体験できたのは、まことに得難く、ありがたく、生きてて良かったレベルのものでありました。

 ふだん関西で活動している鞴座が東下するので、中原さんがそれを迎えてフィドルの西村さんをひっぱり出してデュオのライヴを仕込んだ、というところらしい。西村さんとのデュオは断続的に10年ほど前からやっているそうだが、この日は久しぶりに人前で演奏するものだという。とはいえ、二人の呼吸はぴったりで、フィドルとパイプのデュオの楽しさを満喫する。

 そろそろデュオという名のとおり、速い曲をたったかたったか演るのではなく、ゆったりとした演奏なのも肩の力がいい具合に抜ける。ジグをゆっくり演奏するのがこんなに良いものとは知らなんだ。ホーンパイプ、いいんですよねー、というのにはまったくその通りと相槌をうつ。何度でも言うが、ホーンパイプこそはアイリッシュのキモなのだ。ホーンパイプをちゃんとホーンパイプとして聴かせられるのが、アイリッシュ・ミュージックのキモを摑んでいる証である。では、どういうのがちゃんとしたホーンパイプか、というのは、いつものことだが言葉では表しがたい。あえて言えば、あの弾むノリをうまく弾ませられるかどうかが明暗を分ける。一方で弾んでばかりではやはり足りなくて、あの粘りをうまく粘れるか、もポイントだ。

 このデュオは基本的にユニゾンだが、時々、片方がドローンだけやったり、また一カ所、フィドルがソロで始めたのがあって、すぐにユニゾンになったのには、もう少しソロで聴いていたかった。ワンコーラスくらい、それぞれに無伴奏のソロでやるのもいいんじゃないかとも思う。それにしても、これだけ中原さんのパイプをじっくり聴くのも久しぶりのような気もする。

 そろそろデュオは6曲ほどで、鉄心さんが呼びこまれ、3曲、ダブル・パイプとこれにフィドルが加わる形で演る。これが聴けただけでも来た甲斐があった。

 休憩の後、鞴座の二人に今回は録音でもサポートし、エンジニアもやられている岡崎泰正氏がアコースティック・ギターで加わる。岡崎氏は1曲〈Gillie Mor〉ではヴォーカルも披露する。スティングがお手本らしいが、なかなか聴かせた。

 鞴座は鞴を用いた楽器のユニットということで、レパートリィはアイルランドやらクレズマーやらブルガリアやら、おふたりの心の琴線に響いた音楽のエッセンスをすくい上げ、オリジナルとして提示する。その曲、演奏には、わずかだが明瞭なユーモアの味が入っているのが魅力だ。ルーツ・ミュージックをやる人たちは往々にしてどシリアスになりがちだが、鞴座の二人の性格からだろうか、聴いているとくすりと笑ってしまう。どこが可笑しいとか、ここがツボだという明瞭なものがあるわけではない。吉本流にさあ笑え、笑わんかい、と押しつけたり騒いだりもしない。別に笑いをとろうと意識していないのだ。ただ、聴いていると顔がほころんできて、にやにやしてしまう。鉄心流に言えば、脳内麻薬が降りてきているのだろう。

 藤沢さんはもっぱら鍵盤アコーディオンのみだが、鉄心さんはパイプだけでなく、ソプラノ・サックスやらホィッスルやらもあやつる。これがまたとぼけた味を出す。鉄心さんのとぼけた味と、藤沢さんのいたってクールな姿勢がまた対照的で、ボケとツッコミというのでもなく、二人の佇まいにふふふとまた笑いが出る。

 岡崎氏のギターも長いつきあいからだろう、いたって適切、サポートのお手本の演奏だ。

 アンコールは全員で〈Sally Garden〉。これが意外に良かった。2周めでは鉄心さんのパイプがハーモニーに回り、これまた美味。

 もう一度それにしても、ダブル・パイプはまた聴きたい。鉄心さんだけでもやって来て、一晩、イリン・パイプだけ、なんてのをやってくれないものか。

 All in Fun は料理も旨く、生楽器の響きも良く、また来たい。大塚の駅前は都電が走っていてなつかしいが、幸か不幸か、電車は来なかった。来ていたら反射的に乗ってしまいそうだ。(ゆ)

そろそろデュオ
中原直生: uillean pipes, whistles
西村玲子: fiddle

鞴座
金子鉄心: uillean pipes, soprano saxophone, whistle
藤沢祥衣: accordion
+
岡崎泰正: acoustic guitar, vocal


The First Quarter Moon
鞴座 Fuigodza
KETTLE RECORD
2019-02-17


フイゴ座の怪人
鞴座
KETTLE RECORD
2016-12-17


鞴座の夜 A Night At The Fuigodza
鞴座
KETTLE RECORD
2004-10-31






トリケラ旅行紀
鞴座
KETTLE RECORD
2012-07-22


おはなし
鞴座
KETTLE RECORDS
2014-09-14


ふいごまつり
鞴座
KETTLE RECORD
2008-11-09


 このデュオを見るたびに、この二人だけでよくまあこれだけ多彩な音を出すものだ、感心する。しかも、ピアノとか、ギターとか、メロディも弾ける楽器ではない。どちらも通常はリズム楽器とされているものだ。どうして二人でやろうと思ったのか、公式サイトに一応書いてはあるが、あらためて一度は訊いてみたくもある。

 もっとも鍵はおそらくふーちんが体に縛りつけて左手で演奏するメロディカ、鍵盤ハーモニカにもある。最初見たときには驚いたが、昨日は一層進化して、チューバとハモることさえしていた。ふーちんのくわしいバイオも知らないが、ピアノはやっていたんだろう。それにしても、左手でメロディカをばりばり弾きながら、右手一本と足でドラムを叩きまくるのは、やはり見ものだ。いったい利き手はどっちなんだと心配になる。それに、左手、右手、そしてたぶん両足もそれぞれまったく別のことを同時にやっているのだ。

 メロディカを弾くために左手のスティックを投げ棄てるので、それを回収しなければならない、というのは昨日初めて知った。

 昨日はセカンド・アルバム・リリース・パーティーということで、前半は既存の曲、後半、セカンドを丸々演るというプログラム。ライヴの冒頭に、新作のやはり冒頭に入っている〈Young and Finnish〉で作ったビデオがステージのバックに上映される。これが良かった。

 曲も特異なビートとキャッチーなメロディをもつ佳曲だが、中央二人の女性ダンサーのコスチュームとメイク、そして振り付けがすばらしい。故意か偶然か、途中、背景の鉄橋の上を電車が渡ってゆくのもいい。古代と現代が同居し、空間も地球上とは限らない。遠い銀河の彼方かもしれず、あるいはまったく別の宇宙かもしれない。ミュージック・ビデオは音楽か映像かどちらかが空回りしているものが多いが、これは二つがぴたりと融合して、どちらでもないものに昇華している。

 このデュオのライヴでチューバというのはラッパなのだ、とあらためて思い知らされたのだが、ギデオンのチューバはほとんどトランペットなみに吹く。かれは体も大きく、チューバがだんだん小さく見えてくる。一方で昨日は循環呼吸奏法も披露していて、ちょっとびっくり。

 フット・キーボードの使い方もいろいろ実験していて、前半最後の曲では本人の言うとおりヘヴィメタル・チューバを披露したのには大笑いさせられた。公式サイトのインタヴューで、この人がセツブン・ビーンズ・ユニットにいたというのを知って、ようやく腑に落ちる。

 最後はふーちんが台所用品で作った手製の太鼓、バチが紐で踵に結びつけられた特製の靴(これを履いて足踏みすると背中にせおった太鼓が鳴る)、洗濯板とブリキのカップのパーカッションを前に垂らし、二人で場内を一周、2階に上がってそのまま退場。やがて拍手に応えてステージに再度出てきてアンコール。

 このハコは客席は狭いが、ステージは天井が高いので、音がよく抜け、ふーちんがどんなに叩きまくっても、うるさくならない。また、正面に丸い大きな白い板がはめこまれ、演奏中はここに大きな月の写真が映しだされるが、二人の影を投影し、二人が月の中で出逢っているように見せてもいた。

 それにしても、客席のオヤジ度の高さはハンパではない。それも、かなり音楽を聴きこんでいる様子の人が多い。おそらくはチャラン・ポ・ランタンよりは、ジンタらムータのファンに近いのだろう。もっともこの二人の音楽は、公式サイトのインタヴューにもあるが、キャッチーで楽しく、いわば行きずりのリスナーでも十分楽しめるだろう。変拍子をそう思わせないし、捻りもあちこち相当あるが、表面はなめらかだ。そして適度にトンガってもいる。

 一方で、まだまだ序の口というところもたっぷりある。今はふたりでやることが面白くてしかたがない様子が全開だが、おそらく二人とも気がついていない可能性、潜在能力があるんじゃないか。ライヴを見ているとそう感じる。それがどんなものか、もちろんあたしなどには見当もつかないが、なにかとんでもないものが飛び出してきそうな気配ははっきりある。

 今は二人はジンタらムータのリズム隊だが、もっといろいろな組合せでも聴いてみたい。

 そうそう、休憩時間には木暮みわぞうがゲストDJをやり、クレツマーを中心に面白いものを聴かせてくれた。

 終演後、物販には当然長蛇の列。しかも一人が複数の品物を買うので、全然進まない。次の時間が迫っていたので、CDは後で買うことにして早々に退散。白昼の公演で、出ればギデオンが言うとおり、うだるような暑さ。都心の暑さはまた特別に暑い。(ゆ)

 新しいバンドの誕生に立ち会うのは心はずむ体験だ。

沼下麻莉香: fiddle
田中千尋: button accordion
岡皆実: bouzouki
熊谷太輔: percussions

 もちろん、名前もまだ無いし、これから続くとはわからない。しかし、この4人の組合せは1回や2回で終ってしまうにはあまりにも惜しい。

 まず楽器編成がおもしろい。フィドル、ボタン・アコーディオン、ブズーキまでは珍しくないが、これにパーカッションが入るところはユニークだ。

 そしてこのパーカッションが鍵なのだ。熊谷さんはアイリッシュが好きでこの世界に入ったのではないという。tipsipuca + の時に中村大史さんから誘われて初めてアイリッシュをやるようになったのだそうだ。中村さんが一緒にやりたいと思ったことは軽いことではない。

 昨日の組合せも、岡さんが一緒にやりたい人としてまず頭に浮かんだという。これもまた軽いことではない。

 ご本人に訊くともともとはパンクとかロックをやってました、というのだが、それだけで終らないものを熊谷さんは持っている、と中村さんや岡さんは感じたわけだ。そして、沼下さんや田中さんも進んでそれに乗ったわけだから、ますますおもしろいことになる。

 アイリッシュのためのドラミングがロックのためのものと根本的に違うのは、アイリッシュではビートをドライヴする必要が低いことだろう。アイリッシュ・チューンのビートはメロディのなかにすでに備わっている。外部から補強する必要はない。ギターやブズーキやバゥロンがセッションでは余計と言われるのはこのためだ。アイリッシュではパーカッションはメロディの隠れた構造を明らかにして、ダイナミズムを増す方向に作用する。当然そこにはかなり繊細な感性とここぞというところで切り込む大胆さの同居が求められる。もっとも優れたパーカッショニストはこの二つを兼ね備えているものだ。本来それはロックのドラマーでも同じで、ジム・ゴードンやデイヴ・マタックスを見ればわかる。アイリッシュのためのドラマーとしてはレイ・フィーンにまず指を折る。スコッチだがジェイムズ・マッキントッシュはレイと双璧だ。熊谷さんにはホーンパイプではシェイカーを使ったりするセンスもある。一方で、ロックのドラミングの語法をさりげなく入れる大胆さもある。ああいう人たちに並ぶ可能性がある、と昨日の演奏を見聞して思う。

 それが最初に現れたのは3曲目のジグのメドレー。リールに比べるとジグはやはりパーカッショニストが腕をふるいやすいのではないか。この後もジグでの演奏が生き生きしている。これがリールになると、曲により添うよりも曲から離陸する傾向が出る。岡さんのブズーキともども遊びだすのだ。それには沼下、田中のリード楽器が二人ともトヨタ・ケーリー・バンドで鍛えられていることもあるかもしれない。この二人によるリールはドライヴ感がぴたりと決まって微動だにしない。ご本人たちはケイリー・バンドの時とはちがってのびのびやれて楽しいと言われて、それも実感ではあろうが、聴いている方としてはそれはもう見事に決まっていて快感なのだ。

 この快感はこれまでのわが国のアイリッシュ系の演奏ではあまり味わったことがない類のものだ。『ラティーナ』の座談会で出ていたアイリッシュのノリを出すために苦労された成果だろう。

 岡さんもきゃめるの時とはやはり違って、昨日はどちらかというとドーナル・ラニィ流に聞えた。アンサンブルの裏でリスナーに向かってよりはむしろ一緒にやっているプレーヤーに向けて演奏し、全体を浮上させる。表面に聞える音としては目立たないが、全体の要を押えている。

 今回のライヴそのものが、岡さんと沼下さんの酒の席での思い付きから生まれたのだそうだ。だから「ビール祭り」。というので、昨日はふだん見かけないビールもいろいろ用意されていた。あたしは名前に惹かれて「水曜日のネコ」というのを選んだ。ベルギーのホワイト・エール風のものとて、なかなかに美味しい。

 高梨菖子さんがお客として来ていて、飛び入りしたのも良かった。1曲はご本人の作曲になる日本酒ジグ・セット。山口、岩手、新潟のそれぞれ銘柄をモチーフにしているやつだ。それにしても、このあたりの女性プレーヤーたちは酒豪が多いらしい。だからアイリッシュに惹かれるのか。もう1曲はアンコールのポルカのセット。高梨さんは演奏しながら作曲するように見える。ユニゾンをやっているかと思うと、ぱっとはずれて勝手なフレーズを吹きだすのだが、それがちゃんとはまっている。

 即席のバンドのはずだが、アレンジは結構入念にされていて、そこも気持ちがいい。選曲も沼下さんと田中さんがそれぞれにやりたい曲を選んで適当につなげた由だが、組合せも適切だし、定番と珍しい曲がうまく混ぜてある。この人たちはそういう才能もあるらしい。

 というわけで、音楽にもビールにも気持ちよく酔っぱらってしまい、話しこんで、あやうく終電を逃すところだった。ごちそうさまでした。次回のライヴを待ってます。そして、ぜひ録音も。(ゆ)

05/21(土)〜22(日)
「天ぷらバスで行くオーガニックライブツアー in 丹波村」
ノルカルTOKYO
酒井絵美: fiddle, hardangar fele
モーテン・J・ヴァテン: 各種笛
費用: 20,000円(予定)
募集定員: 20名 最少催行人数15名
詳細はウエブ・サイトをどうぞ。

05/26(木)
コエトオト@渋谷・公園通りクラシックス
 渡辺庸介: percussion
 優河: vocals, guitar
 中村大史: guitars, etc.
 佐藤芳明: accordion
open 18:30/ start 19:30
予約 3,000円/ 当日 3,500円

05/28(土)
 Alan Patton: accordion, clarinet, vocal
 関島種彦: violin, mandolin
+ Gideon Juckes (tuba)
ギャラリー無寸草(とづづ)、下北沢
open 18:30/ start 19:30
2,000円 + 1 drink


06/01(水)
start19:30
入場無料
 アイヌのヴォーカル・グループのインストア・ライヴ。


06/03(金)
グルーベッジ+@Grain、高円寺
 大渕愛子: fiddle
 中村大史: guitar
 秦コータロー: accordion
 渡辺庸介: percussions
open 18:30/ start 19:00
予約 3,000円 当日 3,500円 + Order

06/04(土)
Celtic & Nordic Music Party @ 上野不忍池水上音楽堂
open 12:30/ end 17:45
500円
 今年から有料になったけど、これだけ贅沢な内容でこの値段はタダ同然。
プログラム、出演者については公式ブログをご参照。
フライヤーはこちら

06/04(土)
 Alan Patton: accordion, vocal
 多田葉子: saxophone, clarinet
 岩原Ab3: bass, tuba
昼 14:00〜17:00 2〜3回 1 drink + 投げ銭
夜 19:00〜 2,000円 + drink order


06/09(木)
 Alan Patton: accordion, vocal
 多田葉子: saxophone, clarinet
 岩原Ab3: bass, tuba
with ピエモンテルノ(from 京都)
open 18:30/ start19:30
2,000円 + 1 drink


06/15(水)
絵のない絵本 Vol.3 @ 喫茶茶会記、四谷三丁目
 西川祥子: 映像、主催
 西田夏奈子: 朗読
 shezoo: ピアノ、作曲
 加藤里志: saxophone
 相川瞳: percussions
open19:30
 詳しくは主催者に問い合わされたい。どういうイベントかはこちらを参照。


06/25(土)
アイルランド音楽講座ギター篇 @ ブック&カフェ B&B、下北沢
 長尾晃司
 トシバウロン
 おおしまゆたか
open 14:30/start 15:00
2,000円 + 1 drink order
 下北沢のブックカフェ、B&B でのアイルランド音楽講座の第2回はわが国トップ・ギタリストの長尾晃司さんをお迎えして、アイリッシュ・ミュージックにおけるギターについてお話をうかがいます。


06/26(日)
 大渕愛子: fiddle, vocal
 大橋大哉: guitar
+ 中村大史: accordion 他
open 18:00/ start 18:30
予約 2,000円 当日 2,500円 + 1 order


 下北沢のレコード店兼ライブハウス兼レストランの mona recordstipsipuca が出るというので出かける。対バンの2つは初体験。

 いやあ、面白かった。たしかにヘビー級の三連発で、お腹いっぱい。ちょとくたびれたくらい、充実してました。

 まずはトリをとったふーちんギド。チューバとドラムスというデュオで、リズムだけなのかと思ったら、どちらもメロディを演る。

 チューバの名人は関島岳郎氏はじめ何人か見ているが、こんなにメロディを吹きまくるのは初めて。マイクをつけて増幅しているのは当然としても、エフェクタをかけて様々な音を出したりもする。これはリズム楽器ではない、ラッパなのだということをあらためて思い知らされる。ギデオン・ジュークスという人はシガーロスにもいて、シカラムータにも参加しているそうで、不覚にもまるで気がつかなかったが、こうなるとあらためて遡りたい。

 ふーちんのドラムスはとにかくキレがいい。音もフレーズもおそろしくシャープなのだ。こんなに鋭いドラムスは録音も含めて聴いた覚えがない。まったく違う楽器やスティックを使っているんじゃないかと思えるほど。何をいつどこで叩くかの選択もシャープで意表をつく。ライヴでもあたしはふだんは目をつむって聴くことが多いが、このデュオだけは目を離せない。演奏している姿がそれは楽しい。一見華奢な体型だが、体幹がしっかししているのだろう。でかい音もしっかりでかい。重い音はずっしり重い。あとはスタミナだが、一度、フルのコンサートを見たい。

 ふーちんは特製ベルトで体にくくりつけたピアニカも操る。右手でドラムを叩きながら、左手でピアニカを演奏することもやる。面白いのは、左手で鍵盤の白鍵側からではなく、黒鍵側から弾く。鍵盤しかないピアニカならではだが、逆転の発想ですな。

 この組み合わせと演奏スタイルの衝撃で、何を演っているかはどうでもよくなってしまったが、基本的には東欧ジプシー・バンド流の曲のようだ。もっともアンコールではロックンロールをいかにも楽しく演っていて、このあたりがルーツかとも思えた。

 トリをとったし、このハコでは何度もやっているとのことなので、今回の企画はこのデュオを中心に、張り合えるアクトを組み合わせたのだろう。

 真ん中の Csiga Jidanda はハンガリー語の「かたつむり」が「地団駄」を踏んでいるのだそうだ。アコーディオンの Alan Patton とヴァイオリンの関島種彦のデュオ。

 まず仰天したのが関島氏のヴァイオリン。この人は名手というよりも天才だ。ヴァイオリン自体はまずクラシックから入っているのだろうが、ベースはジャズだ。ブログのプロフィールには好きなミュージシャンの筆頭にスタッフ・スミスの名がある。そして、東欧の、ハンガリーからバルカンあたりのヴァイオリンを完全に身につけている。体の一部になっている。こんな人がいたとは狭いようでまだまだ世界は、日本は広いのだ。あたしの世界が狭いだけか。

 アラン・パットン氏は「氏」と呼ぶのがもったいないくらい人なつっこいおっさんで、日本語はネイティヴよりうまい。小柄だががっしりした体で、鍵盤アコーディオンを軽々とあやつる。ルーマニアン・チューンも弾きこなすが、どちらかというと関島氏のヴァイオリンを引き立て、押し出す。コミカルで味のある、なかなか陰翳に富んだヴォーカルも披露する。演奏しながら、顔の表情も変えて、視覚効果も駆使する。こういう要素は確かに、アイリッシュ系には少ない。

 基本のレパートリィは東欧の伝統曲やそれに準じたオリジナル。1曲ノルウェイの曲といって演ったのは、その方面に詳しい酒井絵美さんによればスウェーデンの曲のはずで、あたしにも聞き覚えがあるから、たぶんヴェーセンあたりがやっていたのではないか。

 トップで出た tipsipuca はこの2つに比べると、やはり味わいが違う。まずレパートリィがヨーロッパでも西寄りになる。それに今回は「プラス」ヴァージョンで中村大史さんのギターと熊谷太輔さんのドラムスが加わって、バンド形式でもある。ふーちんギドもチガ・ジダンダもよりストイックで柔軟だ。tipsipuca もデュオならばまた違っていただろうが、バンドになるとかっちりとできあがるし、tipsipuca プラスの場合、リズム・セクションとフロントの役割分担が明確なので、さらに骨格がしっかりする。

 それとなんといっても曲の面白さ。こうして他のバンドと並べて聴くと、高梨さんの作る曲の面白さが浮き立つ。アイリッシュ・ベースであることをさしひいても、メロディの面白さが光る。単にメロディがいいというだけではなくて、耳を捉える際立つフレーズがどの曲にも入っている。ハイライトは〈真夜中の偏頭痛〉で、これは奇数拍子と偶数拍子がフレーズによって入れ替わる。聴いている方が体の内部をよじられる極楽の体験だが、演るのは相当に難度が高いだろう。しかもおそらくは拍子が先にあるのではなくて、メロディから生まれてそうなっている。というのも、先日、本郷でのライヴの際、熊谷さんから訊ねられて、高梨さんが指で数えて確認していたからだ。

 高梨さんは昨日はホィッスルでも活躍で、ミキシングのせいもあるのか、よく目立っていた。楽器を変えたのかな。

 3つのバンドそれぞれのファンが来たせいか、30人も入れば満杯の会場は立ち見もぎっしり。PA のバランスも良く、気持ちがいい。いや、それにしてもこういうバンドが聴けるのは、中村さんも言ってたように対バンの醍醐味。期待をはるかに上回る効験で、追っかけたいミュージシャンがまた増えた。ごちそうさまでした。(ゆ)

    三重県松坂をベースに、ニッケルハルパを操って境界横断的活動を続けるトリタニタツシさんが参加するバンドのCDがリリースされてます。どちらも傑作。(ゆ)


--引用開始--
    こんにちは。トリタニです。
    4月に入りましたがまだまだ寒い日が続きますね。
    さて、前回はカンランのアルバム、03/04リリース案内をさせていただきましたが、04/18にサトリヤキのアルバムをリリースいたしますので、ライブ情報と併せてご案内させていただきます。

【リリース情報】

大地のうたカンラン《大地のうた》
2100円(税込)KRP-0001 Karappo Label
    日本初の本格的北欧ボーカルトリオ『カンラン』 の世界がいっぱい詰まった1stフルアルバム絶賛発売中!






《大地のうた》より”砂漠”PV



さとりやき (SATORIYAKKI)さとりやき《Satoriyakki》
2625円(税込)TACD-01 Tradvance Music
    東西越境による、プログレッシヴ・ペイガン・グループ「さとりやき」ニッケルハルパとウードの インタープレイで画かれる、架空の民族音楽空間に酔え!
(Chihiro S : ユーロロックプレス誌初代編集長)

    「さとりやき」は、日本を代表するジプシー系ユニットである「おしゃれジプシィ」と「ラフブランチ」両バンドのリーダーがタッグを組んだ、最 強の弦楽コラボ レーション。北欧〜東欧〜中近東の音楽語法を駆使したアンサンブルを聞かせるアコースティック・プログレ・ユニットの、初のレコーディング作品。

    両作品とも全国のCD店、各オンラインショップ、ライブ会場にてご購入いただけます。


【ライブ情報】
★カンラン
アヤコ: vo
トリタニタツシ: nyckelharpa, lute
カリーム: darbuka

*04/25(水) インドと北欧
出演:カンラン/新井孝弘(サントゥール)U-zhaan(ダブラ)
時間:開場/開演 19:00/19:30
料金:前売2,500円/当日3,000円
場所:三重県伊勢市 カップジュピー

*05/12(土)プラネタリウム倶楽部「金の指輪を見よう〜05/12松阪で金環日食」
出演:カンラン(アヤコ、トリタニタツシ、赤澤淳: Irish bouzouki)
時間:開場/開演 18:00/18:30
料金:500円
場所:三重県松阪市 三重こどもの城

*06/10(日) ホクオウオンガクマツリ『白夜光』
〜白夜の光の中にこだまする北欧の響き〜ハーモニーフィールズがお届けする白夜スペシャル2012
出演:カンラン/Nordic Mood かとうかなこ(アコーディオン) with 田中良太(パーカッション)、本田倫子(ニッケルハルパ)、織田優子(リコーダー)
時間:開場/開演 17:30/18:00
料金:予約3,000円/当日3,500円 (ドリンク別) ※「ミルクキャラメル付」(ミルクキャラメルの日に付き)
場所:大阪市 雲州堂
チケット残席少なくなってきてます。ご予約はお早めに!

*06/16(土) 北欧の宴@サライ
出演:ロリグ(松阪北欧ワークショップ生徒達)/カンラン/ドレクスキップ
時間:開場/開演 18:00/18:30
料金:予約2,000円/当日2,500円 (1drinkチケット500円別)
場所:三重県松阪市 サライ


★さとりやき
トリタニタツシ: nyckelharpa
佐藤圭一:ud, tanbur
やぎちさと: tonbak
*04/29(日) プログレ民族の祭典
出演:さとりやき with KIKI, Nese/荻野和夫/グロズダンカ
時間:開場/開演 18:00/18:30
料金:予約2,200円/当日2,500円
場所:吉祥寺 シルバーエレファント

*05/19(土) さとりやきリリース Live
出演:さとりやき/ダンサー Nese
時間:開場/開演 18:30/19:00
料金:予約2,000円/当日2,500円
場所:岐阜 トラベシア

*05/20(日) さとりやきリリースLive
出演:
    さとりやき with ダンサー Nese
    瀬戸信行: clarinet 加藤吉樹: oud 永田 充: darbuka MINORI: belly dance
時間:開場/開演 18:00/19:00
料金:予約2,300円/当日2,800円(1ドリンク付)
場所:大阪 フィドル倶楽部


★トリタニタツシ (nyckelharpa,lute)
*04/30(月)連合松阪地協メーデーオープニング演奏
出演:トリタニタツシ with イケヤマアツシ(G)
時間:09:30〜
料金:Free
場所:中部台公演 三重県松阪市

*05/05(土)〜06(日) 「三重詩人」創刊60 周年記念行事
出演:詩の朗読にあわせてトリタニのニッケルハルパ即興演奏
時間:未定
料金:Free
場所:三重県松坂市産業振興センター 3 階

*05/23(土) IKEA湊北ミッドサマー(スウェーデンのお祭り)
出演:Peo~leo(トリタニタツシ: nyckelharpa、赤澤淳: Irish bouzouki)
時間:未定
料金:Free
場所:横浜市 IKEA港北


すべての公演のお問い合わせ、ご予約はトリタニまでお願いします。

発行*サハラブルー
トリタニタツシ
メール
090-8072-9498
--引用終了--


Thanx!> トリタニさん

    ドレクスキップが東下しての2連チャン、初物好きの小生としては、まだ聞いたことがないフラクタルとの対バンを聞いてきました。
   
    ドレクの生を見るのは2度め。前回は2月のナギィとの対バンでしたので半年ぶり。その間、正式アルバム《WeatherCock,facing North/北向く風見鶏》を録音、リリースし、それをひっさげてのライヴを重ねてきています。その精進の跡はあざやか。
   
    というより、いやあ、いいバンドになってきました。引き締まったアンサンブルから繰り出される、アイデア満載、センス抜群のアレンジに磨きがかかり、CDで聞き慣れた曲、フレーズがきれいに洗われて、まるで初めて聞くようです。実際、アレンジそのものも変わっているところもあって、わくわくしてきます。
   
    2月の時点で感じた、こりゃあ、いいバンドになるぞ、という予感がいよいよ現実の姿をとりだした、というところでしょうか。可能性が十分に開花した、とまでは言えない、それはまだまだこれからの楽しみですが、ほんとうに良いバンドになってゆくその過程にある姿もまた、きわめて魅力的です。すぐれたバンドの誕生に立ち合っている歓び。今でしか聞けない音、見られない姿。
   
    成長の過程が形になっていたのは「新曲」で、東欧風の〈7拍子の太鼓〉はすばらしかった。レパートリィの幅がこういう形で広がってゆくのをみるのは快感でもあります。
   
    ひと言でいえば「若さ」になりましょう。ひとつひとつの音、フレーズ、演奏が新鮮なのです。生まれたばかりの音楽。行き着くところのまだまったく見えない、可能性の塊。といって勢いばかりではない、緩急の呼吸もしっかりつけている。欠点はむろんたくさんあるにしても、その欠点すら魅力になる。
   
    メンバーのうち3人は早朝京都を出発してモロに渋滞に巻きこまれ、東京に着くまで12時間かかったそうですし、体調の万全ではない人もいましたが、そうした悪条件をものともしない、あるいはそれがむしろ推進剤になっているところも頼もしい。
   
    今頃は池袋の HMV でのインストア・ライヴの真っ最中でしょうが、今晩の O'Jizo、waits との対バンは見ものでしょう。ひょっとすると3バンドの合奏もあるやもしれず、これを見逃す手はないと思います。世界で一流と呼ばれる存在をめざして、さらなる精進を重ねていただきたい。スウェーデンのフェスティヴァルでヴェーセンとトリを争う存在になってほしい。
   
   
    ドレクスキップの前に登場したフラクタル Fractale は、ウエブ・サイトでは東欧系の音楽となっていましたが、タラフ・ドゥ・ハイドゥクスやコチャニ・オーケスターよりも、ステファン・グラッペリ&ジャンゴ・ラインハルトのスタイル、マヌーシュ系のバンドです。いつもはこれにアコーディオンの加わるトリオでの活動だそうですが、昨日はドレクに対抗するため、ダブル・ベースとタブラがゲストで加わっていました。
   
    ただ、ドレクを聞いてしまうと、前半のフラクタルの演奏が吹っ飛んでしまったことは否めません。
   
    原因のひとつは急遽加えたゲスト、特にタブラとの連携があまりうまくいっていなかったことでしょう。ゲストも含め、メンバー個々の水準は高く、技術的にはドレク以上ともみえましたが、アンサンブル全体としての練度が不足していました。むしろふだんやっているトリオでの練度の高い演奏も聞いてみたかったのですが、今回はなし。
   
    この手の音楽にタブラを加える発想はたいへんおもしろく、おおいに評価しますし、タブラ自体、柔軟性は高いですから、新たな成果も期待できます。が、一方でやはり独自の性格が強い楽器でもあり、うまく連携をとるには周到な戦略と時間をかける必要があるのでしょう。昨日はむしろぶっつけ本番の即興に活路を見いだす戦術で、タブラとギター、タブラとヴァイオリンのような形ではかなりおもしろくなっていました。ぼくにとってはこの二つがハイライト。ただ、全体となると、タブラの活躍の幅が限られてしまうようでした。
   
    とはいえ、ドレクスキップの刺激でこういう試みが出てきたことはまた嬉しく、この形でもリハを重ねたところが聞きたいですし、もっと他の試みも期待します。いろいろ試すことができるだけの技量の高さがフラクタルにはあると思います。それにやはりトリオとしてのライヴを見てみたくなりました。
   
    それにしても、ヴァイオリンのカジカさんが和服で超絶技巧を連発するのは、不思議な光景。最初はアレという感じなのですが、すぐに違和感がなくなってしまい、この音楽は昔からこういう格好でみんなやっていたんだよな、と妙に納得させられます。
   
   
    会場の Blue Drag は無愛想なビルの地下で、ビル自体は商業ビルでもないので、たいへんわかりにくいです。看板も目立ちません。早稲田通りを明治通りとの交差点から飯田橋方面に向かって少し行くと左に「天下一」のラーメン屋があり、そこを左に折れて三軒めぐらいのビルです。50メートルも行かないと思います。
   
    昨日は黒糖酒の「龍宮」というのがあったので試してみましたが、なかなかの酒でした。(ゆ)

Rough Brunch ラフブランチやナカトルマの鳥谷竜司さんたちのトリオ、「さとりやき」が東京でライヴをするそうです。前回はヴェーセンの来日と重なって見そこなった方も多いと思いますが、一見の価値は十分以上にある、と思います。筆者もまだ見てませんが、ラフブランチのCD(左の画像)や、フリーフォート来日の時の鳥谷さんの演奏を見るかぎり、相当おもしろいはず。

 会場はそう広くないはずなので、予約は入れた方が良いようです。

--引用開始--
 ラフブランチ・ナカトルマの鳥谷竜司と、おしゃれジプシィの佐藤圭一がタッグを
組み、ニッケルハルパやブルガリアのタンブーラ、アラブのウードなどを駆使して
オリジナル曲を演奏するユニット「さとりやき」が二回目の東京公演を行います。
北欧・東欧・中近東・プログレ風味が随所にちりばめられた名曲揃いです。
前回、ヴェーセンと重なってしまって聴き逃してしまった方も、そうでない方も、
ご都合が宜しければお誘い合わせの上、是非是非ご来場下さい。

日時:9/28(日) 18:30開場、19:30開演
場所:西荻窪・サンジャック(西荻窪駅南口徒歩2分)
電話 03-3335-8787
ご予約メイル:sjnisiogi@gmail.com
会費:2,500円+ワンドリンクオーダー(小さなオードブル付)
出演:さとりやき
鳥谷竜司(ニッケルハルパ他)佐藤圭一(ウード他)やぎちさと(パーカッション)
--引用終了--

 年齢を考えては失礼になるかもしれないが、ニコラの泣きのクラリネットをたっぷりフィーチュアした二度目のアンコールが終わってほお〜とため息をついたら、反射的にメンバーの年齢が頭のなかに湧いてきた。いままでこの空間を満たしていた音楽の豊饒はかれらのキャリアにして初めて可能なのではないか。長年にわたる厖大な蓄積がまずある。この人たちがその生涯に吸収してきた音楽の「量」は、宇宙を満たしている「暗黒物質=ダーク・マター」に相当する。眼には見えない。電波その他の直接観測にもひっかからない。しかし、どうやら確かにそこにあって、宇宙全体の構造を支え、絶え間なく膨張させている。しかも膨張のスピードは時々刻々増している。宇宙が膨張するように、モザイクの音楽もより大きく、より深く、より複雑に、そしてより美しくなってゆく。同世代でも、チーフテンズやストーンズやのように、昔やっていたことを十年一日に繰り返しているのでは金輪際無い。モザイクの音楽はモザイクの前にはなかった。方法論が示され、実現可能なことも見せつけられている以上、これからは現われる可能性はあるが、これに匹敵するものはどうだろう。モザイクにしても、これができるのは今なのだ、たぶん。蓄積と熟成には時間がかかる。熟成とはおちつくことでも、充足することでもない。洗練の極致。猛烈なスピードで疾走しながら、疾走している本体はクールに冴えかえっている。それにしてもアンディはどうしてあんなに難しい指遣いをするアレンジばかり作るのか。そしてめまぐるしく複雑きわまる動きをしながら、見事なうたをうたえるのか。まるで、ああいうふうに指を動かすことで初めてちゃんとうたもうたえる、というようだ。そしてレンスの万能ぶり。バルカンでござれ、アイリッシュでござれ、オールドタイムでござれ、まるで生まれたときからやってたよという顔だ。モザイクを裏で支えているのは、この男ではないか。いやもうそういう個々のメンバーがどうのこうのという次元ではないのかもしれない。練りに練ったアレンジをまるで手が10本あるひとりのミュージシャンのようにうたい、演奏しながら、ここぞのところでそのアレンジを転換し、展開し、転回する。一個の生きものになり、分裂し、合体し、また二つに三つに分れる。俳句や短歌のように、枠組みがあるからこそ解放されてゆく音楽。アイリッシュやオールドタイムやバルカンやの伝統にどっしりと根を張りながら、もうそんな伝統はどこかに消えている。昇華すると物質は消えるのだ。これは今しか聞けない。体験できない。アンディは今年66だ。ドーナルは去年還暦だ。もちろんもっと凄くなる可能性も大いにある。そうなって欲しい。それでもなお、いまのモザイクがこれからも続く保証はどこにもない。今のモザイクのライヴを体験し、体に記憶として刻みこむのは、文字通りいましかできない。明日の吉祥寺スター・パインズはゲストも出るから、単独で見られるのはもう今日の渋谷 DUO Music Exchange だけだ。雨も上がりそうだ。いざ行かん。(ゆ)

 今日からいよいよモザイクの再来日ツアーが始まります。
念のため、日程を書いておきます。
時間はすべて 18:00 open/ 19:00 start です。
料金はすべて 前売り5,000円 当日5,500円(別途ドリンクチャージ有)
チケットは各会場に問合せてください。
会場によってはまだ前売りが間に合うところもあるはず。

◎4/4(金) 京都・磔磔
  info. 磔磔 075-351-1321

◎4/6(日) 名古屋・得三
  info. 得三 052-733-3709

◎4/7(月) 横浜・THUMBS UP
  info. THUMBS UP 045-314-8705

◎4/8(火) 東京・Shibuya duo Music Exchange
  info. duo Music Exchange 03-5459-8716

◎4/9(水) 東京・吉祥寺STAR PINE'S CAFE “End of Tour Party!”
  [出演]Mozaik
  [ゲスト]山口洋(HEATWAVE)、リクオ
  [オープニングアクト]大樹
  info. STAR PINE'S CAFE 0422-23-2251

 モザイクを聞く楽しみはスコッチのシングル・モルトの「バッティング」に似ています。
モルトとグレーンで作る「ブレンド」ではなく、
モルト同士を混ぜる「バッティング」。

 各地のルーツ・ミュージックはそれぞれ長い伝統があり、
そう簡単に「融合」できるもんじゃない。
「融合」しているように聞こえるのはたいてい、
どれかが妥協しているか、
あるいはジャズのような柔軟性のある語法を共通基盤にしているか、
のどちらか。

 それと似て非なるものが「バッティング」。
それぞれの味が独立しながら、並立共存している。
もちろん、どんなモルトでもよいわけではなく、
相性もあるし、比率つまりバランスもある。
しかしうまくゆくと、単一のモルトとは次元の違う深さと面白さが味わえます。

 モザイクには三種類の「シングル・モルト」が入っています。
ニコラ・パロフが代表するバルカンの酒を知らないんですが、
音楽から想像するに、めっぽう旨いものがあるはず。
アンディ・アーヴァインとドーナル・ラニィのアイルランドには
もちろん「ブッシュミルズ」があります。
ブルース・モルスキィのアパラチアだったらやはりバーボン、
「エヴァン・ウィリアムズ」か「メーカーズ・マーク」か「ブランドン」あたり。
レンス・ヴァン・デア・ザルムは美しくて持ちやすくて飲みやすいグラスかな。

 この三つ、だけではないように、時折思えたりもしますが、
基本的にはこの三つの音楽がたがいに独立しながら、
つまりはたがいに相手を尊重しながら、
同時に自己主張している。
「音が合う」
とはそういう状態。
アイリッシュのメロディから切れ目もなくバルカン・チューンにつながり、
さらにアパラチアのオールドタイムのグルーヴへと移り、
さらにはハンガリーのリズムにアイルランドのうたがのり、
オールドタイムとバルカンの旋律が同居する。
まるで違和感が無いどころか、
その変化、転換、つながりが快感になる。

 まず各原酒そのものの質が極上であることは当然ですが、
瞬間瞬間の各原酒の分量、バランスがすばらしい。
モザイクとはよくも名づけたものです。
もっとも原語は Mozaik でスペルはわざと違えてありますが。

 このバンドのライヴを見ていると、
ただ音楽を聞いてるという気がしません。
音楽が作りだす異次元空間に入っている。
それはもう幸福の空間。
耳で聞くより全身で浴びる、染みこんでくる。
よい音楽、よいライヴはみなそういうものですが、
モザイクの場合、他に類例が無いこともあるのでしょう、
とりわけ「異次元度」が高い。

 加えて、酒と同じで、音楽は同じブランド、同じ種類でも
まったく同じものは二つとありません。
比率もその時、その場所によって微妙に変わってきます。
一期一会とは、これまたどんな音楽の、どんなライヴでもそうでしょうが、
モザイクのライヴはとりわけ1回1回がユニークです。
今回は関東で3日連続でやるわけですが、
全部まるで違うはず。
同じ曲がどう変わるか。
それを確認するまたとないチャンスでもあります。

 時間とカネさえ許せば、全ツアーを追っかけしたいのですが、
それは到底かなわない夢のまた夢。
せめて関東だけでがまんすることにします。
おそらくこんなチャンスは二度とないでしょうから。(ゆ)

 先日の書簡以来、沖縄ではすっかり有名になったらしいドーナルですが、
いよいよ本土にも本格的に「襲来」します。

 まずは03/24(月)、新宿はかのピットイン。
まさかここでドーナルを見ることになろうとは。
しかも共演者を見よ。


『アイルランドからオキナワ、トー キョーへ』(仮)

03/24(月)
場所/新宿ピットイン

梅津和時(Sax, Cl)
ドーナル・ラニー(ブズーキ, etc)
太田惠資(Vn)
沢田穣治(B)
ジョー・トランプ(Ds)


 この面子でいったい何をやるのか(爆)
ですが、もうこんなにわくわく楽しみなライヴは
近年、ちょっとないです。
ドーナルのクレジットにある "etc" がくせ者ですね。
モザイクの新作でもやってる、
あのうたが出るか。

 しかしこれもひとえに昨年の沖縄は辺野古での
「ピース・ミュージック・フェスタ」が取り持つ縁。
あそこで、ドーナルが梅津さんと共演したのが
始まりでした。

 そしてモザイクの再来日。
 料金等の詳細は後日ですが、
とりあえず、日程が決まりました。
皆さん、カレンダーに印をつけてください。


Mozaik

「Changing Trains Tour Japan 2008」(仮)

04/04(金)京都 磔磔
04/06(日)名古屋 得三
04/07(月)横浜 サムズアップ
04/08(火)渋谷 DUO
04/09(水)吉祥寺 スター・パインズ・カフェ

 個人的には横浜でみるのが楽しみ。

 モザイクってなに、という向きは、
前回の来日の際のこちらのレポートをどうぞ。(ゆ)


Thanx! > ヒデ坊


 ピート・クーパー Pete Cooper というと、
少し長くイングランド音楽に親しんでいる人はご存知かと思います。
1979年の Holly Tannen とのデュエット・アルバム
《FROSTY MORNING》が鮮烈でしたし、
1986年にはベテランの Peta Webb とこれもすぐれたアルバム
《THE HEART IS TRUE》を出しています。

 その後は各地域のフィドル演奏に関心をうつし、
現在はロンドン・フィドル・スクールを主催しているそうです。

 おもしろいのは、
アイルランド、スコットランド、東ヨーロッパなど
各地のフィドルを弾きわけていて、
それぞれの教則本まで出しています。
フィドルでは比較的「後進地帯」のイングランド出身者ならではでしょう。

 そのピート・クーパーが Tokyo Fiddle Club の招きで
来年4月に来日し、
東京と大阪でワークショップとコンサートを開くそうです。

 これまで来日したフィドラーは
どちらかというとある一つの伝統の中で育った人たちが多かったので、
ピートさんのように、複数のフィドル伝統を身につけた人によるワークショップは
貴重かと思います。
伝統からは一度離れたところからアプローチしている点で、
われわれと同じ立場だからです。

 また、かれは自身すぐれたシンガーでもあります。

 ワークショップの予約方法など、
くわしい情報はまだ未発表ですが、
とりあえず日程だけ決まっているそうです。

 今後のくわしい情報はこちらをどうぞ。


 東京のコンサート会場は、
最近、アイリッシュをはじめとするルーツ系のライヴがおこなわれて
評価の高い「明日館」です。
なんとか、行きたいところ。


【大阪】
☆ワークショップ
2008/04/02(水)(夜)
会場:フィドル 倶楽部

☆コンサート
2008/04/3(木)(夜)
会場:フィドル 倶楽部


【東京】
☆コンサート
2008/04/04(金)19: 00開演
会場:自由学園明日館(池袋)
ギター伴奏:深江健一    
入場料:一般3,500円(Tokyo Fiddle Club 会員3,000円)

☆ワークショップ
2008/04/05(土)18: 00(予定)
会場:青少年記念オリンピックセンター(参宮橋)
受講費:一般 4,000円(Tokyo Fiddle Club 会員3,500円)

2008/04/06(日)14:00(予定)
会場:中野サンプラザ グループ室
受講費:一般3,500円(CCE会員3,000円)


Thanx! > 木村多美子さん@Tokyo Fiddle Club

 モザイクの新譜の歌詞対訳をひと通りあげ、わからないところをアンディにメール。ソッコーで返事が返ってきて驚く。アメリカに着いたばかりでこれから寝るから後で返事する。なにやらハンドヘルドから送ってきている。

 冒頭の〈オドノヒューの店〉(アンディは「オドノフー」と発音している)は、1962年、アンディが演劇から音楽の世界に転身するきっかけとなった店の様子をうたっていて、人名が続出。まったくの無名で、ネットをさらっても何も引っかかってこない人が数人いる。

 それにしても、アンディが音楽に転向するきっかけがダブリナーズというのは、あらためて興味深い。

 今度のはスタジオ録音で、さすがにドーナル、緻密な音作り。緻密だが、音楽のダイナミズムが増幅されるような緻密な音作り。こういう芸当はドーナルの独壇場。このメンツで悪いものができようはずはないが、むしろ、素材が良いだけに、本当の味をひきだすには料理人の腕が求められる。すなおにそのままストレートに処理するのはまだシロウトであらふ。ドーナルくらいになると、一見ストレートに見えながら、実は微妙な調整をして、ストレートよりもストレートに、生よりも生らしく、仕上げてくれる。

 午前中は、ライナーのため、あれこれ聞き比べ。ブルースのレパートリィであるオールド・タイム・チューン〈Sail away lads〉、本来は〈Sail away lady〉の Uncle Bunt Stephens の古い録音がハリー・スミスのアンソロジーに入っていて、聞きほれてしまう。なんと言うことはない曲なのだが、くりっという装飾音がカイカーン。SPからの復刻で、えらく音がいい。うーん、このアルバム、こういう風に断片的にしか聞いていないが、一度じっくり耳を傾けてもいいな。

 この曲、意外にも Gerry Goffin がソロのファースト、「ブラック・ホークの99選」にも入っている《IT AIN'T EXACTLY ENTERTAINMENT》で取りあげている。フィドルとバンジョーでさらりとやっている。バリバリのスワンプの中にこういう曲をひょいと入れるセンスはさすが。

 夜、「ケル・クリ」のチケットを買っていなかったことを思いだし、あわててネットで注文。横須賀のフロアはもう後ろのほうしか殘っていないので、あこがれのバルコニー席にしてみる。トリフォニーでも一度あそこに座ってみたかったのよね。(ゆ)

 東京・国分寺駅前の飲み屋「ラヂオキッチン」で開かれていた森洋利さんの写真展連動イベントとして、カヴァル&ネイの石田秀幸さん、サズ&タンブーラ&ヴォーカルの石田みかさんのライヴがありました。

 石田夫妻は東欧、北欧の音楽をレパートリィとするバンド、ナカトルマのメンバーでもあります。

 休憩をはさんで、前半では主にトルコの唄とダンス・チューン。後半ではヨーロッパ側のトルコからマケドニア、ブルガリアとバルカン半島をめぐるプログラム。

 前半ではほとんどサズとネイの組合せで、ゆったりとたゆたい、装飾音も微妙な陰翳を帯びた曲が続きました。もともとサズは民衆の音楽、ネイは宮廷の古典音楽の楽器で、この二つが共演することは本来はないそうですが、音楽として聞く分にはまことに良い組合せで、どちらが主とも従ともつかず絡みあってゆくのに耳を傾けていると、日常世界からさりげなく切りはなされます。

 みかさんのヴォーカルもすばらしく、芯のある声域の低い声とあいまって、柔らかい舌が空気を溶かすようでもあります。

 サズは大きく胴のふくらんだ形の復弦三コース。間近で演奏を見て初めて気がつきましたが、ストロークをしながら、右手の中指と薬指で楽器の表面を叩くことがあります。録音では打楽器奏者が別にいると思っていたのですが、どうやらこの奏法の音だったらしい。サズではごく普通の奏法の由ですが、アクセントとしてひじょうに効果的でした。

 ネイとカヴァルの違いは実質的にはほとんど無く、いわばヴァイオリンとフィドルの違いのように、使われるジャンルや環境、楽器に向かう基本的な姿勢によるものらしい。

 いずれにしても指穴の他に穴が無く、唇に斜めに当てることで音を出す仕組みですから、当てる角度や唇の形によって音がいろいろに変化します。かすれる音も出せる、澄んだ音も出る。ホイッスルやリコーダーよりも楽器自体の表現力はずっと大きいでしょうが、その分、演奏にも高度の技量が要求されます。

 トルコはトルコそのものというよりも異次元世界へのトリップでしたが、後半は、がらりと変わって、ここはもうバルカンの夜。お客で来ていた、ご友人のブルガリア人「ダンチョ」氏がガダルカで飛び入りされたので、ますますそのにおいが強くなりました。カヴァルとガダルカをタンブーラが支えるという形は初めて聞くもので、ひじょうに新鮮。ふだんこの辺の曲を聞く大編成のバンドやブラス・バンドの形よりも、曲そのものの良さ、魅力が浮きでてきます。

 前半と後半の対照の妙、前半抑えた分後半爆発したようなエネルギー、各種の楽器を操り、様々に地域、スタイルの違う音楽を演奏しわける技量には感嘆しましたが、まだまだこれは氷山の一角ではありましょう。

 ぜひ、CDなどで録音を出していただきたいところですが、その前にナカトルマのアルバム製作が年末から始まるそうです。こちらも楽しみ。


 トイレの中まで店内のありとあらゆるスペースに展示された森さんの写真も見応えがありました。植物の一部を大きく拡大する形がメインで、タンポポの綿毛にとまったちっぽけなバッタとか、二輪草の開きかけた蕾の写真が印象的でした。


 森さんのつながりで、ニッケルハルパの鎌倉さんなど、北欧音楽関係の方々が見えていました。スウェーデンのクラシック作品の演奏を精力的にされているステーンハンマル友の会の和田紀代さんもいました。他の北欧諸国と違い、国を代表する大作曲家がいない分だけ、かえって面白いらしい。表参道のカワイで毎週土曜、サロン・コンサートをされている他、今週水曜日には、ヴォーカル、ピアノ、ギター、ヴァイオリンによるライヴもあるそうです。

 奄美産のラムも旨かった。外はこの秋になって一番寒い夜でしたが、ほくほくと良い気分で家路についたことでした。(ゆ)

 フリーフォートやラーナリムなど、北欧のミュージシャンの写真を撮っておられる写真家の森洋利さんの写真展が、東京・国分寺のカフェであるそうです。写真家としては自然写真がメインだそうな。

 音楽好きの森さんらしく、会期中にライブ・イベントもあります。
 二回目のほうの石田さんたちは東欧から中近東、北欧の音楽をやっているバンド「ナカトルマ」のメンバー。

 なお、会場はギャラリーではなく、カフェなので、写真を見るためには何か注文してください、とのこと。

 ご本人が店にいる日時はブログを参照。

日時 =10/10(火)-- 11/12(日)18:00-23:00
場所=ラヂオキッチン
   中央線国分寺駅北口徒歩5分(月曜定休)

ライブ・イベント
長谷川郁夫ギターソロ
 10/21(土)19:00
 1,500円+オーダー
石田秀幸(カヴァル&ネイ)、石田みか(サズ&タンブーラ)
 11/12(日)18:00
 1,000円+オーダー

ライブの予約は森 080-5429-9669 またはメールで。

 北欧とバルカンの音楽を演奏して、ヴェーセンの前座なども勤めているナカトルマが、東京と横浜でライヴをするそうです。

 先日の Butter Dogs に続く、関西バンドの雄の東下です。

 ちなみにニッケルハルパはスウェーデンの鍵付きフィドル。ヴェーセンや、つい昨日まで来日していたラーナリムやのメイン楽器です。
 カヴァルはイランからマグレブにかけてのアラブ音楽でよく使われる縦笛。ロゥホィッスルに近いです。
 サズやドンブラはやはりマグレブから中央アジアに広く分布する撥弦楽器の一つ。サズは近年デヴィッド・リンドレーの得意楽器。ブズーキの祖先でもあります。
 アイリッシュ・ファンに一番なじみがあるのはガドゥルカでしょう。『リヴァーダンス』の初代オーケストラのメンバー、ニコラ・パロフが弾いていた小型の擦弦楽器。

   *   *   *   *   *

■ナカトルマ秋の東京 2days 2006

昨年夏から一年。今年も北欧&バルカンの楽器による「ナカトルマ」の東京ツアーを企画しております。昨年のツアー以後、「バルカノータ」メンバーのナカトルマ加入によりそれぞれの音楽性を越境したサウンド、さらに今回はゲストに素晴らしいマルチパーカッショニストのミウラ1号氏をむかえ、 よりパワフルになった演奏をぜひおたのしみください。

ふだん関西での活動がメインの「ナカトルマ」、この機会にぜひ!

〜nakatorma〜
 アヤコ vocal
 鳥谷竜司 tune lute , nyckelharpa(ニッケルハルパ)
 石田秀幸 kaval(カヴァル)
 石田みか saz(サズ), dombra(ドンブラ)
 高野橋舞子 cello, gadulka(ガドゥルカ)

〜ゲストメンバー〜
 ミウラ1号 percussion

★10/13(金)
西荻窪「音や金時
チャージ2600円 18:30開場 19:30開演

★10/14(土)
横浜・仲町台「カフェ・シエスタ
チャージ2000円(要予約) 18:00開場 19:00開演
045-944-3454(カフェ・シエスタ、14〜24時、不定休)
siesta@mva.biglobe.ne.jp

※13日は予約なしで直接のご来店のみ、14日はお店への予約制(当日のお問い合わせ可)になっておりますので、お間違いのないようお願いします。

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