06月23日・木
 燕が巣立っている。巣立ったばかりの若鳥たちだろう、電線に並んでいる。その周りを親鳥が、ほら、おいで、愉しいよというように飛びまわっている。燕はとまっているよりも、飛んでいる時が本来の在り方なのではと思えるほど飛ぶのが巧い。また愉しげに飛ぶ。それでも若く、巣立ったばかりのときは、まだ飛ぶのが怖いのか。それでももう少しすると、穂が出はじめた田圃の上を、群れをなして飛びまわる姿が見られるようになる。今年巣立った鳥たちも、飛ぶ歓びを覚えたように。


%本日のグレイトフル・デッド
 06月23日には1974年から1993年まで7本のショウをしている。公式リリースは5本。うち完全版1本。

 1941年のこの日、Robert Hunter がカリフォルニア州アロヨ・グランデに生まれた。アロヨ・グランデはサンタ・バーバラから101号線を北上すると、サン・ルイス・オビスポの手前になる。2019年09月23日、カリフォルニア州サン・ラファルで死去。享年78歳。

 デッドは専属の作詞家を一人ではなく二人までも抱えたが、その最初の一人。

 ガルシアとは1961年頃から1964年初めにかけて、様々なアコースティック・ユニットで音楽活動を共にした。フォークやブルーグラスで、楽器はギター、ベースを担当し、歌も唄った。後にはソロ・ミュージシャンとしてライヴ活動もし、アルバムも出している。

 グレイトフル・デッドに参加するのは1967年、〈China Cat Sunflower〉を含むいくつかの詞をガルシア宛にメキシコから送ってからだ。サンフランシスコにもどり、ガルシアと歌を作りはじめる。〈Dark Star〉はバンドと共に作った最初の作品と本人は言う。やがてバンドのショウ、ツアーに同行しはじめ、ステージには上がらないが、バンドの正式メンバーに数えられる。

 ハンターを得たことは、グレイトフル・デッドにとって測り知れないメリットをもたらす。ガルシアとのコンビ、ずっと数は減るがウィアとのコンビによるナンバーは、ユニークな世界を展開する。その詞の世界は、ディランのそれに匹敵できる数少ない例の一つだ。およそ、ロックやポピュラー音楽の一般的な歌詞とは次元が異なり、英語による言語表現の限界に挑戦する。意味や含蓄は必ずしも明瞭ではないが、様々なイマージュや感覚を喚起する。デッドの音楽との相乗効果で、そこで生まれるものは常に千変万化し、音楽を聴く体験をより豊饒にする。デッド世界ではその詞が伝えようとするものをめぐって、昔から議論が盛んだ。もちろん決定的な結論など出ず、常に新しい解釈が可能でもある。邦訳は愚か、大意を日本語で述べることも無意味だ。日本語ネイティヴとしては各自の英語力を総動員して、自分なりの把握を試みるしかない。

 その詞に幻覚剤の影響があることは確かだ。1960年代初めに、軍部がスタンフォード大学医学部と提携して行なったLSDの人体実験にハンターは参加し、そこで決定的な体験をしている。

 バンドと音楽の上では行動を共にしてはいるものの、日常生活では共にしていなかったらしい。また、他のメンバーほどエキセントリックな振舞いはしなかったようでもある。デッドのメンバー、クルーはエピソードには事欠かないのだが、ハンターにまつわるエピソードはほとんど見聞しない。デッドの中核メンバーでありながら、傍観者的立場にあった点で、デッドのファミリー・メンバーとしては異色だ。ということは、より普通の人だったと言えるかもしれない。


1. 1974 Jai-Alai Fronton, Miami, FL
 日曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。
 第二部6〜8曲目〈Dark Star Jam> Spanish Jam> U. S. Blues〉が《So Many Roads》でリリースされ、第一部7曲目〈Let It Rock〉が《Beyond Description》でリリースされ、第一部クローザー〈China Doll〉が2015年の《30 Days Of Dead》でリリースされた後、全体が《Dave's Picks, Vol. 34》でリリースされた。
 第一部7曲目で〈Let It Rock〉がこの時一度だけ演奏された。一方、ガルシアのソロ・プロジェクトでは1970年代初めのマール・ソーンダースとのバンドから1990年代のジェリィ・ガルシア・バンドまで、通して150回以上演奏された。チャック・ベリーの曲で、1960年の《Rockin' At The Hops》収録。
 休憩時間中に〈Seastones〉がデビュー。フィル・レシュとネッド・ラギンによるシンセサイザー音楽。この年のショウの一部で「演奏」された。
 公式リリースされるようなショウでも、ダメだあ、という人はいる。

2. 1976 Tower Theatre, Upper Darby, PA
 水曜日。このヴェニュー4日連続のランの3日目。8.50ドル。開演7時。
 2曲目〈Sugaree〉が《Dave’s Picks, Vol. 28》でリリースされた。
 オープナー〈The Music Never Stopped〉の前にウィアが〈Yellow Dog Story〉をひとくさりやった。
 第二部4・5曲目の〈Cosmic Charlie; St. Stephen〉の2曲が共に演奏されるのは、1970年10月31日以来。この年の09月25日にもう一度だけある。
 〈Sugaree〉はすばらしい。まだ翌年春の域までは行かないが、これもいい演奏。ドナのコーラスが控え目なのも、ここでは合っている。

3. 1984 City Island, Harrisburg, PA
 土曜日。11.50ドル。開演7時。
 前年に比べると劣るショウの由。

4. 1988 Alpine Valley Music Theatre, East Troy, WI
 木曜日。このヴェニュー4日連続の楽日。開演7時。
 第二部2曲目で〈Believe It Or Not〉がデビュー。ハンター&ガルシアの曲。翌月にかけてさらに3回、09月と10月に1回ずつ、そして1990年03月22日が最後で、計7回演奏。スタジオ盤収録無し。《Built To Last》用に録音はされたが、収録はされず。アウトテイクが《So May Roads》に収録。
 アンコールで〈Blackbird〉を演ったが、うまくいかず、メンバーは笑いくずれ、会場も大笑い。最後は〈Brokedown Palace〉で締めた。

5. 1990 Autzen Stadium, University of Oregon, Eugene, OR
 土曜日。このヴェニュー2日連続の初日。22ドル。開演正午。リトル・フィート前座。
 アンコール〈One More Saturday Night〉の後、ビル・グレアムが、「この土曜の午後をすばらしいものにしてくれたリトル・フィートとグレイトフル・デッドにお礼を言おう」と呼びかけた。
 オープナー〈Feel Like a Stranger〉が2017年の、5曲目〈Far from Me〉が2021年の、それぞれ《30 Days Of Dead》でリリースされた。これもいずれ完全版が欲しい。
 リトル・フィートもすばらしく、この時期のデッドに外れ無し。
 〈Feel Like a Stranger〉〈Far from Me〉とも力演。

6. 1992 Star Lake Amphitheater, Burgettstown, PA
 火曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。22.50ドル。開演7時。
 第二部3曲目〈So Many Roads〉が《Ready Or Not》でリリースされた。
 まずまずのショウらしい。
 〈So Many Roads〉はガルシアのギターが、この曲には珍しく粋に響く。ラストのリピートのガルシアの絶叫に客席が湧く。この曲ではいつもは冷静なガルシアもエモーショナルになる。

7. 1993 Deer Creek Music Center, Noblesville, IN
 水曜日。このヴェニュー3日連続のランの楽日。
 第一部3曲目〈Lazy River Road〉が2017年の、第一部クローザー〈Easy Answers〉が2018年の、それぞれ《30 Days Of Dead》でリリースされた。
 第二部 drums 前の〈Terrapin Station〉からがすばらしかったそうだ。DeadBase XI で David Steinberg が、興奮して書いている。これが始まる前にはもう出ようかと思ったが、以前にもそう思ったとたん、とんでもないことが起きた。この時も同じ。この〈Terrapin〉から drums/space を経て〈Dark Star> The Wheel〉と続くメドレーこそは、こういうものがあるからデッドのショウにもどってくるのをやめられない、と言う。
 〈Lazy River Road〉はこの年の02月21日にデビューしている。悪い曲ではない。たとえば〈Ripple〉と比べても、曲としてそれほど劣るとは思えない。ただ、ガルシアにはもう少し気合いを入れるというか、背筋を伸ばして歌ってくれないかとは思う。しかしこの歌はこういう風に、外は風の吹きすさぶ山小屋の中で、ぬくぬくとしながら、語りかけるように歌われるべきものなのだろう。
 〈Easy Answers〉はウィアの熱の入れ方とやる気の無いように聞えるコーラスが対照的。故意にやっているようでもある。「イージーな答え」は実は少しも「イージー」ではないことを、このコーラスに籠めていると聞える。裏で弾いているガルシアのギターが面白く、上記のスタインバーグは評価しないが、これはこの歌のかなり良いヴァージョン。こういうやり方もあると思わせるあたり、デッドらしい。ウェルニクの踏ん張りも効いている。(ゆ)