クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:生物学

06月10日・金


 
 帯の惹句に「メジャーには、ならないぜ。」とあるのに惹かれて読んでみる。

 食虫植物は植物の中のマイナーの中のマイナーの一群だ。だが、他の植物から見れば、とんでもないことをやってのける能力をもつ。虫や小動物を捕えて消化し、栄養を吸収して利用する。これを人間に喩えてみれば、山田風太郎描くところの忍者たちだろう。かれらもまたとんでもない能力を持っている。しかし、風太郎忍法帖の忍者たちと同じく、食虫植物も他の植物には「考えられない」能力をもつからといって、世界制覇しているわけではない。それどころか、その大きな部分が絶滅危惧種だそうだ。

 だいたい、食虫植物が生えるには、条件がかなり限られた環境になる。その特殊な環境で生きぬくために適応した結果、動物から栄養を補給するように進化した。一方で、条件さえ整えば、日陰につつましく生きるなんてわけでもない。ナガエモウセンゴケは2016年10月01日付けで、特定外来生物に指定されている。ハエトリソウはデリケートな植物で、本来アメリカはノースとサウスの両カロライナ州の一部にしか自生していなかった。それが1978年にフロリダ州北部で群落が見つかり、今も存続している。「水中のハエトリソウ」と呼ばれるムジナモは国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧種に指定され、わが国では世界に先立って野生絶滅した。それがアメリカに侵入して急速に広がっている。しかも、絶滅したわが国国産の系統の子孫がだ。1970年代にわが国の愛好家からアメリカの愛好家に送られたものがヴァージニアで広がり、さらに絶滅危惧種を救おうとした愛好家が別の州に移して、そちらでも増えている。アメリカのムジナモの個体数は他の全世界の地域全てのものを合算したよりも多いと推定されている。

 食虫植物は外見が目立つし、生態が面白いというので、愛好家が多いらしい。国際食虫植物協会 International Carnivorous Plant Society が1972年に設立されているが、ここの世界大会には研究者だけでなく、栽培家も参加する。ここには新しい品種も登録される。ハエトリソウだけで100を超える品種がある。たいていは一株の突然変異を栽培家が慎重に増やしたものだが、中にはイオンビームを当てて、遺伝子をランダムに壊して作られたものもある。こういうところはランやバラと同じらしい。

 この本は巻頭に8葉16ページにわたるカラー口絵があり、様々な食虫植物の見事な写真が見られる。本文中にも写真が豊冨で、見るだけでも愉しい。いやまあ、しかし、こういうのを見ると、「造化の妙」という言葉を連想する。地球の生命現象の驚異だ。

 食虫植物、と日本語では呼ぶが、食べるのは虫だけではないそうな。それはメジャーにならない、というよりは本来なれないはずなのだ。しかもかれらは植物の本義である光合成もちゃんとやっている。動物からの栄養はあくまでも補助で、それが無ければ生きていけないわけではない。だから、条件が整ってしまうと、動物から栄養をとれることが他の植物に対する優位になるのだろう。

 食虫植物に最初に注目したのはダーウィンで、晩年、モウセンゴケに狂っていると自嘲するまでになる。息子のフランシスがそれを継いで、研究を発展させ、食虫植物の存在を確立した。当初はこんな植物が存在するなんて「冒瀆」だと言った科学者もいたくらいだったそうだ。そりゃそうだろう。だから食虫植物の研究は比較的新しいもので、その捕虫、消化・吸収、生態などがわかってきたのは最近の話だ。わかるにつれて、南米に生えるロリデュラという木は食虫植物に入れられたり、外されたりを繰返した。この木は虫は捕まえるが、自分では消化できない。別の虫に捕まえた虫を食べてもらい、その虫の糞から栄養を吸収している。

 あたしにとってこの本で1番面白いのが、この食虫植物の生態系だ。たいていの食虫植物は捕まえる虫とは別の虫や動物と共生関係にある。ウツボカズラの捕虫袋の中に住んでしまうコウモリとか、その消化液の中で生まれて一生を過ごす、世界で2番めに小さなカエルとか、食虫植物に捕まった虫を狙ってくる他の虫や動物とか、食虫植物の出す消化液で生きるカビだとか、1本のちっぽけな食虫植物の周りはミクロコスモスと言いたいくらいの世界がある。他の植物の個体の周りにも、それなりのミクロコスモスが作られているのだろうが、食虫植物のミクロコスモスはとりわけダイナミックで、ドラマティックに見える。

 副題に「進化の迷宮をゆく」とある。進化は迷宮なのだ。一直線のリニアな話ではない。試行錯誤の塊だし、同じことが繰返されるのも日常茶飯事だ。食虫植物は姿と機能が面白いから、どうしてこんな生き方をするようになったのか、からまり合った進化の道筋を追いかけるのも面白い。そして、進化は現在進行形でもある。そりゃそうだ、止まるはずはない。我々人類だって進化している。地球があるかぎりは、生命があるかぎりは、進化は止まない。今の人類は進化の最終形態だと言うのは単純に思い上がりだ。今の人類がそんなに優れた生きものか。

 文章が面白い。この人、ユーモアのセンスがある。進化の研究をしているせいか、歴史への感覚も鋭い。食虫植物に夢中になりながら、そういう自分を客観視できる。自分が何をやっているか、ちゃんと自覚している。その点では師茂樹氏と同じ冴えた知性を感じる。こういう知性が働くのを見るのは愉しい。この人の書くものなら、食虫植物に関するものではなくても、読みたいと思う。もっとも、それ以外の文章を書くとは思えないけれど。


%本日のグレイトフル・デッド
 06月10日には1966年から1994年まで7本のショウをしている。公式リリースは2本、うち完全版1本。

1. 1966 Avalon Ballroom, San Francisco, CA
 金曜日。このヴェニュー2日連続の初日。セット・リスト不明。クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、The New Tweedy Brothers 共演。"The Quick and the Dead" と題された、チェット・ヘルムズのファミリー・ドッグ・プロダクションがプロモートしたイベント。開演9時。
 The New Tweedy Brothers は1966年初めにオレゴン州ポートランドで結成された四人組。同年春、サンフランシスコに移る。サウンドはサンフランシスコの当時のサイケデリック・ロックに近い由。シャーラタンズ、ミステリー・トレンド、グレイト・ソサエティ、ソプウィッズ・キャメルなどとサンフランシスコ・シーンの一角をなす。この年シングルを出し、翌年唯一のアルバムをポートランドでリリースする。が、バンド・メンバーが手作りした六角形のジャケットは棚にはまらず、カウンターの裏に隠されることになった。2017年に再発されている。

2. 1967 Cafe Au Go Go, New York, NY
 土曜日。このヴェニュー10日連続のランの千秋楽。セット・リスト不明。

3. 1973 RFK Stadium, Washington, DC
 日曜日。7ドル。この日はウェット・ウィリー前座でオールマン・ブラザーズ・バンド、デッドの順。第三部としてデッドにマール・ソーンダース、ディッキー・ベッツ、ブッチ・トラックスが参加。デッドが始めたのが7時で、終ったのは午前2時半を過ぎていた。
 デッドのショウもこの年のトップ・クラスのすばらしいものだったが、オールマンのメンバーが加わった第三部はさらにすばらしいものの由。
 第三部オープナー〈It Takes A Lot To Laugh It Takes A Train To Cry〉が《Postcards Of The Hanging》で、第一部クローザー前の〈Bird Song〉が2011年の、第二部4曲目〈Here Comes Sunshine〉が2017年の、各々《30 Days Of Dead》でリリースされた。

4. 1976 Boston Music Hall, Boston, MA
 木曜日。このヴェニュー4日連続の2日目。8.50ドル。開演7時。《June 1976》で全体がリリースされた。

5. 1984 Cal Expo Amphitheatre, Sacramento, CA
 日曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。15ドル。開演2時。炎熱の日で、出来は悪くはないが、ミュージシャンたちもさすがにお疲れのようらしい。

6. 1990 Cal Expo Amphitheatre, Sacramento, CA
 日曜日。このヴェニュー3日連続のランの楽日。開演7時半。
 レシュが間もなくバンドを脱けるという噂がとびかっていて、このショウでステージからレシュが、そんなのは真赤な嘘だと宣言した。

7. 1994 Cal Expo Amphitheatre, Sacramento, CA
 金曜日。このヴェニュー3日連続のランの楽日。26.50ドル。開演7時。第一部4曲目〈El Paso〉でウィアはアコースティック・ギター。炎熱の日で、演奏も劣らずホットの由。このヴェニューでの25本目で最後のショウ。定員14,000人の屋外アンフィシアター。1984年06月09日以来、とりわけ89年以後は毎年この時期、初夏から夏の時期に3日ないし2日のショウをしている。1991年には05月と08月の2回、三連荘をしている。(ゆ)

0331日・木

 岩波科学ライブラリーの新刊『食虫植物:進化の迷宮をゆく』は確かに面白そうだ。


 帯の惹句がよい。「メジャーにはならないぜ。」でも、しぶとく生きのびる。「規格外の能力をもちながら、栄華を極めるでもなくひっそりと暮らしている」(ウエブ・サイトに引用された著者「まえがき」)とすれば、山田風太郎の忍者たちではないか。



##本日のグレイトフル・デッド

 0331日には1967年から1994年まで14本のショウをしている。公式リリースは5本。


01. 1967 Rock Garden, San Francisco, CA

 金曜日。このヴェニュー5本連続の4本目。共演チャールズ・ロイド・カルテット、ザ・ヴァージニアンズ。


02. 1968 Carousel Ballroom, San Francisco, CA

 日曜日。このヴェニュー3日連続の最終日。共演チャック・ベリー。セット・リストは一部。


03. 1973 War Memorial, Buffalo, NY

 土曜日。開演8時。第二部 Drums 後の〈The Other One> (Spanish) Jam> I Know You Rider〉が2015年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。


04. 1980 Capitol Theatre, Passaic, NJ

 月曜日。このヴェニュー3日連続の中日。12.50ドル。第一部5曲目で〈Feel Like A Stranger〉がデビュー。バーロゥ&ウィアの曲。スタジオ盤は《Go To Heaven》収録。1995-07-05まで207回演奏。


05. 1983 Warfield Theatre, San Francisco, CA

 木曜日。このヴェニュー3日連続のランの最終日。25ドル。開演8時。料金が高いのはベネフィット・ショウで寄付金が含まれているためだろう。


06. 1984 Marin Veterans Memorial Auditorium, San Rafael, CA

 土曜日。このヴェニュー3本連続のランの最終日。開演8時。


07. 1985 Cumberland County Civic Center, Portland, ME

 日曜日。このヴェニュー2日連続の初日。11.50ドル。開演7時半。第二部クローザー前の〈Playing In The Band〉では、まずコーダをやってから歌に入るという通常とは逆の演奏をした。


08. 1986 Providence Civic Center, Providence, RI

 月曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。13.50ドル。第一部4曲目〈My Brother Esau〉が2014年の、第二部オープナー〈Feel Like A Stranger〉が2013年と2018年の、次の〈Ship Of Fools〉が2018年の、各々《30 Days Of Dead》でリリースされた。


09. 1987 The Spectrum, Philadelphia, PA

 火曜日。このヴェニュー3日連続のランの最終日。開演7時半。


10. 1988 Brendan Byrne Arena, East Rutherford, NJ

 木曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。19.50ドル。開演8時。第一部6曲目〈When I Paint My Masterpiece〉とクローザー〈Let It Grow〉と第二部全部、アンコールが《Road Trips, Vol. 4 No. 2》でリリースされた。トラック数にして4分の3、時間では8割。


11. 1989 Greensboro Coliseum, Greensboro, NC

 金曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。18.50ドル。開演7時半。第二部オープナー〈Hey Pocky Way〉が《So Many Roads》で、次の〈Truckin'〉が2020年の、さらに次の〈Terrapin Station〉が2017年と2020年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。


12. 1991 Greensboro Coliseum, Greensboro, NC

 日曜日。このヴェニュー2日連続の初日。21.50ドル。開演7時半。オープナー〈Mississippi Half-Step Uptown Toodeloo〉と第二部オープナー〈Samson And Delilah〉が《Dick's Picks, Vol. 17》でリリースされた。


13. 1993 Nassau Veterans Memorial Coliseum, Uniondale, NY

 水曜日。このヴェニュー5本連続の初日。開演7時半。


14. 1994 The Omni, Atlanta, GA

 木曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。25.50ドル。開演7時半。(ゆ)


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