04月22日・金
半年ぶりのライヴ。Music for Isolation はチューバの Gideon Jukes とバリトン・サックスの竹内理恵のデュオ。ギデオン・ジュークスはふーちん・ぎどの片割れで、こちらのデュオはシカラムータのリズム・セクションでもある。どちらのライヴもすばらしかったし、チューバのプレーヤーとしての実力は知っていたから、このギグの案内が来たときには、不見転で予約した。後で Bandcamp で音源を購入して聴いて、またまた感心した。
ふーちん・ぎどやシカラムータとは対極にある音楽だが、底に流れる志向は同じく、実にラディカルだ。低音楽器2本だけでどこまでやれるか。これが実に多様で豊饒な世界を現出する。
スタートはファースト・アルバムのオープナー。静謐ななかに緊張と弛緩の同居する、あたしにとっては理想の音楽。聴いていると身の引き締まる想いが湧きあがってくるのに、リラックスしている。次は一転、コミカルでアクティヴな、ほとんどダンス・チューン。
shezoo さんの音楽もそうだが、作曲・編曲している部分と即興の部分の境目が無い。即興のように聞えて、楽譜を見つめている時もあるし、綿密なアレンジをしているようなのに、目をつむって演奏してもいる。
2人は役割分担を決めていない。というより、おたがいに役割を交換したり、どちらもリードを競ったりする。リズムをキープするのは大変そうに思えるが、どちらも軽々とやっている。
それにしても低音しかないことの快感に恍惚となる。実に美しいその倍音に身が震える。チューバは時偶「帽子」をかぶせる。直径の異なる二つの円錐を底で合わせ、両端の先端を切り落とし、スペーサーをぐるりにつけたようなものだ。これをかぶせると音が高くなる。実に澄んだ、気品のある音で、他ではちょっと聴いたことがない。
加えて低音で奏でられることで、メロディの美しさが引き立つ。かなりいろいろなところから素材をもってきているらしく、古い讃美歌や長崎の隠れ切支丹の伝えた歌やどこかのダンス・チューンやバロックあたりを連想する曲もある。讃美歌といえば、アンコールはウクライナの讃美歌だった。
今回のライヴでは前半、後半それぞれの冒頭に、和服の若い女性の朗読があった。前者はウクライナの民話をもとにしたらしい詩で、疫病で死に絶えた村を、自分も死んだ母親の亡霊が語った末に、その魂が天国へ昇る。後者は日本への留学生が2人の祖母の思い出を語った文章。父方の祖母は独ソ戦開始早々に仕立屋だった夫が戦死し、2人の子どもを1人で育てた。母方の祖母は1933年の惨禍を体験している。この時、ウクライナの穀物が残らずソ連の他の地域に運びだされ、ウクライナでは数百万人が餓死した。気が狂った親が子どもを食べる悲劇も生まれた。プーチン政権が狙っているのもこのウクライナの沃土だろう。しかし、ウクライナが他国の侵略や略奪を受けるのはこれが初めてではないし、そして最後でもおそらく無い。
この朗読と低音だけの音楽は、決して劇することはないのに張りつめた、しかも余計な力の抜けた体験を生んでいた。
会場は築150年の古い民家を修復した施設。豊島園の駅から車の往来の頻繁な狭い道を歩き、目印から右に切れこむとなるほど欅の巨木に囲まれて建っている。玄関の脇の土間に受付が置かれ、そこから靴をぬいで広間に上がる。かつては囲炉裏が切られていたのだろう板の間の片側がステージで、向かい合って座布団が2列、椅子が3列。パンデミックを考慮して、30人ほどで満席。客層は結構年齡の幅が広く、男女も半々。
すばらしい音楽に浸れる幸せを噛みしめて、帰路につく。
##本日のグレイトフル・デッド
04月22日には1966年から1988年まで9本のショウをしている。公式リリースは3本、うち完全版1本。
1. 1966 Longshoreman's Hall, San Francisco, CA
金曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。前売2ドル、当日2.50ドル。開演9時、終演1時。共演ローディング・ゾーン。セット・リスト不明。
2. 1969 The Ark, Boston, MA 30 Days 2014
火曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。第一部5曲目〈Doin' That Rag〉が2014年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。
この3日間はこの年のベストのランとも言われるが、中日がその中でもベストと Peter Lavezzoli は DeadBase XI で書いている。ほとんど「完璧」なショウの由。
3. 1971 Bangor Municipal Auditorium, Bangor, ME
木曜日。3.50ドル、4.50ドル。開演8時。
4. 1977 The Spectrum, Philadelphia, PA
金曜日。クローザーの〈The Wheel> Terrapin Station〉が2021年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。この日はアンコール無し。
第二部オープナー〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉で、ガルシアは演奏しながら踊っていたそうな。
5. 1978 Municipal Auditorium, Nashville, TN
土曜日。7.50ドル。開演7時。《Dave's Picks, Vol. 15》で全体がリリースされた。
6. 1979 Spartan Stadium, San Jose State University, San Jose, CA
日曜日。12.50ドル。屋外施設。開演午前10時。Greg Kihn Band、チャーリー・ダニエルズ・バンド共演。
ブレント・ミドランドの初舞台。02-17以来、2ヶ月ぶりのショウ。
DeadBase XI にある3つのレポートは対照的で、これを退屈と片付ける Corry Arnold に対し、他の2人はとりわけ第二部の〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉を中心に、実に良いショウだったとする。Fire の途中で雨が降りだしたが、30分後には止む。別の証言では第一部後半の〈Looks Like Rain〉の最中に雨が降った、ともある。このショウをめぐってはミドランドへの評価を中心に毀誉褒貶が激しいが、いずれにしても聴かねばなるまい。
Greg Kihn Band は1976年にバークリーで結成されたパワー・ポップ・バンド。現在も現役。
7. 1983 New Haven Coliseum, New Haven, CT
金曜日。このヴェニュー2日連続の初日。12.50ドル。開演7時半。
8. 1986 Berkeley Community Theatre, Berkeley, CA
火曜日。このヴェニュー4本連続のランの楽日。開演7時半。レックス財団資金調達ベネフィット。
9. 1988 Irvine Meadows Amphitheatre, Irvine , CA
金曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。開演7時半。(ゆ)