クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:試聴

11月23日・火

 iPhone Safari のタブに溜めていた音源を片っ端から聴く。数秒聞いてやめるのが半分くらい。中には、こういうのもじっくり聴くと面白くなるかも、というアヴァンギャルドもあるが、面白くなるまで時間がかかるのは、どうしても敬遠してしまう。こちとら、もうそんなに時間は無いのよ。

 逆に、数秒聞いて、これは買い、というのもいくつかある。

 Sara Colman のジョニ・ミッチェル・カヴァー集《Ink On A Pin》。〈Woodstock〉がこれなら、他も期待できる。
 

 Falkevik。ノルウェイのトリオ。これが今回一番の収獲。
 

 ウェールズの Tru の〈The Blacksmith〉はすばらしい。ちゃんとアルバム出してくれ。
 

 Chelsea Carmichael。シャバカ・ハッチングスがプロデュースなら、悪いものができるはずがない。
 

 Lionel Loueke。ベニン出身のギタリスト。ジャズ・スタンダード集。Tidal でまず聴くか。
 

 Esbe。北アフリカ出身らしい、ちょっと面白い。ビートルズのイエスタディのこのカヴァーは、もう一歩踏みこんでほしいが、まず面白い。むしろ、ルーミーをとりあげたアルバムを聴くかな。
 

 Grace Petrie。イングランドのゲイを公言しているシンガー・ソング・ライター。バックが今一なのだが、本人の歌と歌唱はいい。最新作はパンデミックにあって希望を歌っているらしい。
 

 Scottish National Jazz Orchestra。こんな名前を掲げられたら聞かないわけにいかないが、ドヴォルザークの「家路」をこう仕立ててきたか。こりゃあ、いいじゃない。

 Bandcamp のアメリカ在住アーティストのブツの送料がばか高いのが困る。ブツより高い。他では売ってないし。ただでさえ円安なのに。



##本日のグレイトフル・デッド

 1123日には1968年から1979年まで5本のショウをしている。公式リリースは無し。


1. 1968 Memorial Auditorium, Ohio University, Athens, OH

 トム・コンスタンティンが正式メンバーとして参加した最初のショウ。

 前日のコロンバスでのショウにオハイオ大学の学生が多数、大学のあるアセンズから1時間半かけてやって来ていた。そこでデッドは翌日、ここでフリー・コンサートをやった。アセンズでショウをしたのはこの時のみ。

 少し後、1970年代初期にデッドは集中的に大学でのショウをするが、当初から学生を大事にしていたわけだ。ジョン・バーロゥと弁護士のハル・カント、1980年代半ばまでマネージャーだったロック・スカリー、後に広報担当となるデニス・マクナリーを除けば、デッドのメンバーにもクルーにもスタッフにも大学卒業者はいないのだが、大学生はデッドの音楽に反応した。

 このショウのことを書いたジェリィ・ガルシアからマウンテン・ガールこと Carolyn Elizabeth Garcia への手紙が1968年に書かれたものであるかどうかが、彼女とガルシア最後のパートナー、デボラ・クーンズ・ガルシアとの間のジェリィ・ガルシアの遺産をめぐる訴訟の争点となり、その手紙が1968年にまちがいなく書かれたものだとレシュが法廷で証言した。


2. 1970 Anderson Theatre, New York, NY

 セット・リスト無し。

 ヘルス・エンジェルスのための資金集め。ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ前座で、これにウィアが参加した模様。

 ヘルス・エンジェルスとデッドとの関係はあたしにはまだよくわからない。デッド・コミュニティの中でも敬して遠ざけられている。デッドヘッドのための辞書である The Skeleton Key でも項目が無い。しかし、避けて通れるものでもないはずだ。

 マクナリーの本では1967年元旦のパンハンドルでのパーティの際に、ヘルス・エンジェルスがデッドを仲間と認めたとしている。初版176pp.

 このパーティはエンジェルスのメンバーの1人 Chocolate George が逮捕されたのを、The Diggers が協力して保釈させたことに対するエンジェルスの感謝のイベントで、デッドとビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーが出た。

 マクナリーによればエンジェルスは社会通念から疎外された者たちの集団として当時のヒッピーたちに共感してはいたものの、エンジェルスの暴力志向、メンバー以外の人間への不信感、保守的な政治志向から、その関係は不安定なものになった。1965年秋の「ヴェトナム・デー」では、エンジェルスは警官隊とともにデモ参加者に暴力をふるった。アレン・ギンズバーグとケン・キージィがエンジェルスと交渉し、以後、エンジェルスはこの「非アメリカ的平和主義者」に直接暴力をふるうことはしないことになった。たとえば1967年1月14日の有名なゴールデン・ゲイト公園での "Be-in" イベントではエンジェルスがガードマンを平和的に勤めている。

 一方でエンジェルスのパーティでデッドが演奏することはまた別問題とされたようでもある。また、ミッキー・ハートはエンジェルスのメンバーと親しく、かれらはハートの牧場を頻繁に訪れた。それにもちろんオルタモントの件がある。あそこでヘルス・エンジェルスをガードマンとして雇うことを推薦したのはデッドだった。

 ひょっとすると、単にガルシアがエンジェルスを好んだ、ということなのかもしれないが、このハートの例を見ても、そう単純なものでもなさそうだ。

 ヘルス・エンジェルスそのものもよくわからない。おそらく時代によっても場所によっても変わっているはずだ。大型オートバイとマッチョ愛好は共通する要素だが、ケン・キージィとメリィ・プランクスターズとの関係を見ても、わが国の暴走族とは違って、アメリカ文化の主流に近い感じもある。


3. 1973 County Coliseum, El Paso, TX

 前売5ドル。開演7時。良いショウの由。長いショウだ。


4. 1978 Capital Centre, Landover , MD

 7.70ドル。開演8時。これとセット・リスト以外の情報が無い。


5. 1979 Golden Hall, San Diego Community Concourse, San Diego, CA

 セット・リスト以外の情報が無い。(ゆ)


fRoots31 貧乏人の味方、fRoots 誌恒例合併号付録CD。毎年夏と冬に付いて今年で16年目。この31枚をずっと通して聞いてみるのもいつかやりたい。時代の変遷や一瞬の光芒に終わった連中をたどりなおすのは、きっといろいろな発見があるだろう。

 その31枚め収録曲15曲というのは最少記録ではないか。理由は簡単、長い曲が多いのだ。一番長いのは9分41秒。クレタ島の弓奏楽器リラの Stelios Petrakis。長さも長いが、内容的にも今回のハイライト。やや大きめの編成で、本人のリラはもちろんだが、ウード系の撥弦楽器も大活躍。バックの打楽器群には恍惚状態。これは買うぞ、と探したら結局本人のサイトから飛んだ先のレーベルでの直販しかなかった。クレタ島専門レーベルらしい。おいしそうなものがごろごろしているが、涙を呑んで1枚だけ注文。それにしてもクレタはギリシア本土とはまた違う伝統があるらしい。確かに歴史的には本土よりも古いのだし、島だからあちこちから流れこんでは混ざりあいまた出て行っているはずだ。いずれもう少しつっこんでみたい。

 この曲は流れが変わってきたのを象徴するものでもあって、今回アフリカが1曲しかない。アフリカからよい音楽が消えたわけではなかろうから、他の地域、特に今回は地中海東部から中近東が活発になっているのだろう。アフリカの政治的混乱の影響もないとは言えないだろうし、オイル・マネーの余沢もあるんじゃないか。

 この曲と今回の「御三家」をなすのは、イランのシンガー Mamak Khadem とトルコの Taksim Trio。ママクはイランとは言いながら、うたっているのはギリシア、トルコ、アルメニアの曲だそうだ。声楽では世界一(小泉文夫)のイランが、いわば近隣文化の探索に乗り出したと言うところか。これはアメリカの CD Baby のサイトで買えた。ここは今アメリカで一番おもしろいオンライン・ショップかもしれない。CD Roots よりも品揃えがよいところがある。

 トルコの Taksim Trio は、クラリネット、バーグラマ、カナウンの名手のグループで、ステリオスと今回のベストを分ける。とことんオーセンティックなのだが、即興らしき演奏にひどくモダンな、ジャズとさえ呼びたい響きがあり、そこがかっこいい。これはふつうに見つかった。

 クロアチアの Kries《Kocijaniとアメリカの Pamela Wyn Shannon とデンマークの Phonix、それにアレ・メッレル・バンド《Djef Djel》はすでにアルバムを聴いていて、おせーぜ、イアンと言ってやれるのはうれしい。しかし、アレ・メッレル・バンドのこの曲はあらためて傑作。いや、あのアルバムは傑作。今一番ライヴを見たい。

 地中海東部〜中近東と並んで盛りあがっているのが、イングランド。この雑誌は元もと南イングランドのローカル雑誌から出発しているから、この辺の盛上りを見のがすはずがない。その一方でスコットランドには冷たかったりするが。

 そのイングランド代表はスピアズ&ボウデンジャッキー・オーツ。どちらも新作から。ベロウヘッドもセカンドが出るし、この二人の動向は眼が離せない。ジャッキーはスティーライ版の〈Lark in the morning〉をうたっていて、これに比べればスティーライ版は幼稚園の学芸会だ。まあ、30年以上の時間の経過はあるわけで、もちろんスティーライ版があったから今こういう歌唱が可能になってはいる。やはり比べるのは酷だろう。

 カナダの姉妹という Ghost Bees 《Tasseomancyもカナダには珍しくイングランド系で、レイチェル・アンサンク&ウインター・セットと同じ志向性。オーセンティックな伝統コーラスを展開しながら、独特の「危うさ」をはらむ。

 もう一つのイングランドが掉尾を飾る Broadcaster の〈England〉。1960年代第1期の『ラジオ・バラッド』をサンプリングし、テクノ、ダンス系の音を重ねて組みたてたもの。こういうのを「マッシュアップ」というのだろうか、二次的創作物ではあるが、サンプリングの選択、組合せ、デフォルメの手腕が恐ろしく斬新で、もうめったやたらにおもしろい。アラン・ロマックスが録音した音源にバンドの録音を重ねて、フィールド録音を現代の演奏として甦らせた Tangle Eye の試みをさらに一歩進めた、と言える。オリジナル製作者の一人イワン・マッコールの息子カラムが共同プロデューサーで、これは良い仕事だ。

 オムニバスのトップを飾り、今月号の表紙も飾っている Les Amazones de Guinee については、あたしがここでぐだぐだ言う必要も無かろう。40年ぶりのセカンドだそうだ。しかし、この表紙写真、軍服姿が3人いるのはやはりシャレか。(ゆ)

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