クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:邦楽

本間豊堂(尺八)
松浪千紫(箏、三絃、胡弓)

 夜に岡大介さんのライヴに行くことにしていて、ダブル・ヘッダーにするか、さんざん迷ったのだが、やはりこれは見逃せないと、えいやと家を飛びだした。Winds Cafe でのライヴはまた格別なのだ。この日も期待通り、最高の演奏に加えて、思いもうけぬ余徳にあずかることができた。行くべきか行かぬべきか、迷った時には行くべし。

 日曜の原宿は完全に観光地状態で、内外の観光客がいり乱れ、熱中症警戒アラート何のその。皆さん、元気に歩きまわり、また行列している。1時間前に原宿に着いたのだが、目当てにしていた明治通り・表参道交差点角のカフェはフロア全体が真暗。向い側は大々的再開発で大きなビルが建ち、内装・外装の工事が、日曜にもかかわらず進行中。労働条件は大丈夫なのかと気を回してしまう。たぶん、こちらのビルも建替えようというのだろう、他のフロアも暗くなっている。どこか、時間をつぶせるところはないかと裏道をうろうろするが、裏道も人の波。それでも、1軒、席の空いているカフェらしきものを見つけて入る。特に問題もなく座れて、コーヒーもちょっと遅かったが無事出てきて、まずまずのお味。後から入ってくる二人組などが、予約してるかとか訊かれているが、こちらは独りだし、老人で、追い出すのも哀れに思われたのだろう。どうも、あたしぐらいの年齡の人間は店内はおろか、外の通りでも他に見あたらない。

 開場時刻になったので、カーサ・モーツァルトに行く。すでに半分ほど席が埋まっている。伝統邦楽の演奏会ということもあって、お客さんにも和服の人がいる。暑い中、ご苦労様です。プログラムはウエブ・サイトにもあって、前半、古典4曲。後半は現代曲4曲。アンコール無し。実際、終ったときには、演奏する方もくたくただったであろうが、こちらもお腹いっぱいではあった。量もたっぷりのフルコースを完食した気分。

 本間氏はあたしは初見参だが、サイトの紹介ではたいへん面白いことをされているので愉しみである。もっとも、いま伝統邦楽に真剣に取組んでいるなら、伝統の外に出ようとしない、なんてことはまずないだろう。伝統に深く入れば入るほど、外との交流に積極的になる、というのは、多かれ少なかれ、世界中の伝統音楽で起きているのではないか。音楽そのものの質をより高め、そのために冒険をする点では、一般的なポピュラー音楽よりも、伝統音楽の方が遙かに面白くなっている。ヒット・チャートのための音楽は、どれもこれも同じことのくり返しに聞える。今をときめくアニソンも、昔の「テレビまんが主題歌」と呼ばれていた頃の楽曲とは、多様性とそこから生まれる面白さの点では比べものにならない。今のアニソンは売れてしまうから、逆に一定の枠からはずれることができなくなっているとも見える。どうせ売れるんだから、どんなことでもできる、やっていい、とはならないらしい。「テレビまんが主題歌」の頃は、楽曲単独で売れるとは誰も思わず、期待していなかったから、天衣無縫に何でもあり、やってみなはれ、だったのだ、きっと。

 閑話休題。

 前半の古典。オープナーは尺八の古典中の古典〈鶴の巣籠〉の独奏。同じ曲が演る人によってまったく違う曲になるのは伝統曲の醍醐味のひとつ。この曲のあたしの印象はどちらかというと静かに始まり、だんだん激しくなるというものだったが、本間氏の演奏は最初の一音からおそろしく尖っている。そして、ほとんどテンションが落ちずに最後まで突走る。ひょっとして、古典の師匠があの横山(ノヴェンバー・ステップス)勝也というのがバックにあるのか。

 この曲だけでなく、他でも使うのだが、故意に音を細かく震わせるのをここぞというところで入れる。ヨーロッパの弦楽器のハーモニクス奏法に相当するようでもある。あるいは三絃のサワリの方が近いか。

 それにしてもこのスペースでは尺八の音の響きがいい。箏も胡弓も三絃もやはりよく響く。30人からの聴衆が入ってもよく響く。春の津軽三味線の時も音がいいと感じたが、ふだん生ではあまり聴かない楽器だから響きの良さが強調されたのだろう。

 2曲目から松浪千紫氏が加わり、まず尺八と箏の二重奏。八橋検校の〈乱〉、「みだれ」と読ませる。タイトル通り、めまぐるしく曲調が変わる。尺八が終始主メロで、箏があるいはカウンター・メロディ、あるいはハーモニー、時にはユニゾンと、これまためまぐるしく仕掛けを変える。これに似た感覚の曲を最近聴いたと思っていたら、後になって、そうだ、ラフマニノフのチェロ・ソナタだと思いあたった。ラフマニノフだけでなく、プーランクとかプロコフィエフとかのチェロ・ソナタも、こんな風にどんどん曲調が変わってゆく。ただ、ユニゾンはあまり無いようではある。ユニゾンは伝統音楽の専売特許なのだろうか。もっともクラシックの場合、ここまで音色やテクスチュアの異なる楽器が同時に演奏することはほとんど無い。音色が対極的な楽器のユニゾンは愉しい。

 そして3曲目〈黒髪〉。松浪氏が三絃を持ち、尺八伴奏で唄う。これが良かった。地唄舞の地唄だそうだが、普段の話し声より音程を少し上げて、少し鼻にかけ、少し喉をすぼめた感じの独得の発声。後で訊いたらやはり発声の訓練はされるそうだ。わずかにくすみのかかった、けれども澄んだ声。唄の内容は、頼朝を政子にとられた女が、嫉妬に狂いながら深夜長い黒髪を梳かしている情景をうたった、とあたしには聞えた。むろん松浪氏の説明でそうと知れるので、唄われているのを聴く間は、どこまでもたおやかな歌唱に聴きほれていた。とはいえ、どこか鬼気迫るとまではいかなくても、なごやかさとかおだやかさとかとは一線を画した張りつめた唄に吸いこまれる。

 古典のラスト〈鹿の遠音〉は尺八と胡弓の二重奏。胡弓は二胡とは別の、より古い形だそうだ。あるいは昔は今の胡弓も二胡もまとめて「胡弓」すなわち「胡」の弓奏楽器と呼んだのかもしれないという。三絃と同じ形の、一回り小さくした胴。ゆるゆるの弓。そして面白いのは、弓の角度は変えず、胴を回して低い方の弦を弾く。ほとんどは奏者から見て一番左の弦を弾いている。音量は小さいが、上品で、よく通る。演奏も面白く、たがいに相手のメロディを受け、くりかえしてから新たなメロディを奏でるのをくり返す。ブルターニュのカン・ハ・ディスカンみたいだ。最後だけユニゾンになる。

 後半オープナーはいきなり世界初演の新作。会場にも来ておられたきのしたあいこ氏、とあたしには聞えた方に、本間、松浪両氏が委嘱した尺八と箏の二重奏のための〈海に月が沈む時〉。虚子の「海に入りて 生まれかわろう おぼろ月」の句がモチーフ、というよりも、この句に出会ってタイトルが決まったそうな。夜の海の幻想から、月が沈んで朝になり、現実に戻るイメージの由。曲は2019年にできあがっていたが、パンデミックのため演奏できず、この日がワールド・プレミアになった。なかなか面白い曲で、途中、箏が左手で胴を下から叩いてパーカッション効果を出す。もっとも現代曲らしく、一度聴いたくらいでは何がなにやらわからん。

 次の〈朱へ……〉の作者沢田比河流は沢田忠男の子息。タイトルの「朱」は尺八の管の内部が朱色に塗ってあることをさすという。作者は父親に反撥してか、ロック・バンドをやっているそうで、この曲もロック調。これまた面白い。

 3曲目〈明鏡〉の作者杵屋正邦は長唄の大家で、あたしでも名前くらいは聞いたことがある。松浪氏の地唄とは三絃でも違う楽器を使うが、ここではあえて地唄の中棹と尺八の二重奏。このあたりになると、こちらもくたびれてきて、ひたすら聴きほれている。

 ラストは山本邦山の〈壱越〉。壱越とは本朝十二律の基音、洋楽ではニ音=D。その音がテーマになっているのだろうが、音程はさっぱりとれないから、そこはまったくわからん。尺八と箏の二重奏。邦山といえばあたしは尺八しか知らないが、箏も弾いたのだそうだ。だから邦山が箏のために書いた曲はとても弾きやすく、かつ弾き甲斐がある由。松浪氏もそうだが、伝統音楽をやる人はマルチも多い。津軽三味線の山中さんも尺八を吹く。能管、篠笛にゲムスホルンを吹く笛師もいる。これまたひたすら聴きほれるのみ。

 古典曲と現代曲と言われても、シロウトには違いなんかわからない。古典は現代曲に聞えるし、現代曲は古典に聞える。伝統邦楽の敷居が高いとすればそこだろうか。一度や二度聴いたくらいでは、良いも悪いもわからない。伝統音楽はそもそもどこにあってもそういうもので、一聴、わっと飛びつけるものではない。アイリッシュのように、わっと飛びついて飛びつけたつもりが、実はヘリにもひっかかっていませんでした、なんてものもある。良さがわかって、共感できるようになるには、聴く方もそれなりの訓練と根気が必要だ。ただし、深入りしてある地点を越えると、今度はどこまでも引きずりこまれて、二度と戻れないことになる。伝統音楽はコワイ。

 演っている方の姿勢も変わらない。本間氏は洋装で前半の古典は黒いシャツ、後半現代は白いシャツ。服は変わっても、演奏する際の姿勢は同じだし、楽曲に対するかまえも変わらない。和服の松浪氏はむろん変わらない。つまり、聴く方は視覚的な手がかりも無い。休憩が入るにせよ、また楽器の組合せは変わるにせよ、2時間たっぷり、半分ワケがわからないものを聴きつづけると、聴くだけでへとへとになる。

 ただし、そのへとへとになる体験がたまらない。わからないからダメでも無い。わからないものはわからないまま、体に入ってくる。そこがいい。自分にわからないものは価値が無いというのは、ゴーマンである前に、自分の器はちっぽけなんですと告白しているのに等しい。とりわけ伝統音楽は生き残ってきているものだ。世の転変をくぐり抜けて、生き残っている。それだけで聴く価値はある。たとえ、一聴、わっと飛びつきたくことがなかったにしても、ワケがわからなかったにしても、自分の短かい一生分よりも長く生きのびているものには敬意をはらうべきだ。

 現代曲にしても、そうして生き残ってきた伝統曲に対峙している。音楽として、楽曲の質において、生き残ってきた伝統曲と競りあわねばならない。現代曲が百年後に生き残っているかどうかはわからない。それは別の話だ。そうではなく、今この瞬間において勝負している。勝負を挑んでいる。その挑戦に立ち会うのは面白い。今この瞬間を生きている、そのことを実感する。

 とりあえず松浪氏のウエブ・サイトでCDを注文する。本間氏はまだCDは作られていないようだ。「むつのを」に参加とあるが、手許にある「むつのを」のCD《五臓六腑》は1998年のリリースで、本間氏は参加されていない。その後レコードを出しているのかは不明。

 終演後、松浪氏と歌舞伎の『阿古屋』の話になる。箏、三絃、胡弓をひとりで実際に演奏する演目で、玉三郎の当たり役。パンデミック前、歌舞伎座で玉三郎の演じるのを見られたのは一生の宝物。松浪氏も玉三郎のは見たとのことで、盛り上がった。もっとも松浪氏の松浪流は唄にも力を入れているそうで、次はぜひ唄を中心にした演目を Winds Cafe で見たいものだ。

 予定を大幅に超過して、終演16時半。陽は傾いたが、人の波はまったく引かない。その間を縫って、次の会場、浅草へ向かうべく、表参道の駅へとてくてくと登っていった。(ゆ)


参考
 歌舞伎座の玉三郎による『阿古屋』についての記事

 文楽の『阿古屋』についての記事

 何といっても3番目、「京鹿子娘道成寺」。今を去ること20年前、生まれて初めて歌舞伎座に来た時の強烈な体験は、あたしの音楽観をかなり変えたはずだ。当代仁左衛門の襲名披露で、この時の踊り手は記録によれば菊五郎。しかし、この時は踊りはほとんど目に入らず、舞台奥にずらりと並んだ囃子方が繰り出す音楽に圧倒されたのだった。

 歌舞伎座は音響設計が良いのだろう、舞台上の生音が増幅無しに場内隅々までよく届く。今回そのことを実感したのは席が前から四番めで、舞台上の生音がそのまま届く位置だったからだ。役者の科白にしても、楽器の音にしても、肉声感はあるが、音量は三階席でもほとんど変わらない。20年前も、8本の三味線がユニゾンで繰り出すダンス・チューンが場内いっぱいに響きわたるのに、それはもう夢中になった。

 「京鹿子娘道成寺」は踊りの演目の中でも最高峰の一つで、ヒロインを演じる女形は衣裳を次々に替え、また舞台の上でも早変わりする。これを助ける後見も、裃はもちろん、曲げの鬘もつけている。踊りの所作も、ほとんどありとあらゆるものをぶちこんでいるんではないか、と見える。基本は同じだが、役者により、上演により、少しずつ変えてもいるらしい。今回はそのあたりもようやく目に入った。まあ、目の前で演じられるわけだから、いやでも目には入るが、歌舞伎を見る眼も少しはできてきたか。

 しかし、やはりこれは音楽が凄い。着替えのために踊り手が引っ込んでいる間、囃子方だけで演じる時間が何度もあり、とりわけ三味線のユニゾンは、明らかにその演奏を聴かせることを意図して作られている。場内から自然に拍手も湧く。囃子方の演奏に対して拍手が湧く演目は、他にあるのだろうか。

 三味線8本に太鼓2、大鼓1、鼓3、笛2という編成は、おそらく歌舞伎でも最大だろう。唄も8人だから、普段なら左右に別れたりする囃子方が、舞台正面奥にずらりと並ぶ。これがまず壮観。そして、ここでの主役は三味線と打楽器だ。能もそうだが、囃子方では持続音楽器の笛が主役にならない。能の「道成寺」では大鼓と鼓だし、ここでは三味線がリードする。20年ぶりにこれを聴けたのはほんとうに嬉しい。むろん、演奏者は入れ換わっているだろうし、20年前と比べてどうだ、なんてのはもちろんわからないが、今回の演奏もやはり圧倒される。

 阿波踊りや河内音頭のビートも凄いけれど、この「京鹿子娘道成寺」の楽曲は、われらが伝統の中のダンス・チューンの一つの極致だ。とりわけ、踊り手不在で囃子方だけで演奏するところは、ボシィ・バンドの絶頂期もかくや、いや、あるいはそれをも凌駕するかもしれない。本物のプロフェッショナルが精魂傾むけるとどうなるかの実例だからだ。歌舞伎はあくまでも娯楽、エンタテインメントであって、観る方は楽しむために来ている。伝統文化の保存とか、口では言うかもしれないが、本心では露ほども気にかけてはいない。そして、その娯楽のために、演る方は命をかけている。そのことは、田中佐太郎の『鼓に生きる』を読んでも伝わってくる。

 ボシィ・バンドと歌舞伎座の囃子方を比較するのがそもそも無意味かもしれないが、あたしの中では、ボシィ・バンドを聴くのも、この「京鹿子娘道成寺」の音楽を聴くのも、愉しいことでは同じなのだ。ただし、ボシィ・バンドは録音でいつでもどこでも聴けるが、この「京鹿子娘道成寺」の音楽の凄さを録音で実感するのは難しい。

 今回の席は、前の方だが上手の端に近いところで、ツケウチが目の前になる。おかげで、ツケウチの人の表情や、叩く様子がわかったのも面白い。

 「京鹿子娘道成寺」以外の演目は、正直、どうでもよかったが、二番目の「絵本牛若丸」は菊之助の息子が丑之助を名告る襲名披露で、これを目当てに来ている客も多かったようだ。いかに梨園の正嫡のひとりとはいえ、5歳の子どもにまともな演技ができるわけもないが、父親、祖父はじめ大の大人がよってたかってこれを一篇の芝居、余興や座興ではない見ものに仕立ててしまうのも、歌舞伎の面白さの一つではある。歌舞伎の演技の様式、「自然な」ものではない、誇張のみからできているような演技の様式で初めて可能なものでもあろう。「襲名披露」というシステムが伝統芸能の根幹を支えていることもわかる。

 歌舞伎は何でもありで、先日、国立の小劇場で見た科白劇も面白かったが、「京鹿子娘道成寺」は「阿古屋」と並ぶ音楽演目の双璧ではある。この方面の歌舞伎はもっと見たい。(ゆ)

 諸般の事情でなかなか原稿が書けず、配信は24日になります。それ以上、遅くはしたくないので、ねばります。


 本誌今月号からこぼれた情報。
 青山劇場と青山円形劇場で8月に和太鼓のフェスティヴァルがあるそうです。
 問合せはこどもの城劇場事業本部。
 詳しくはこちら

 個人的には伊藤多喜雄&金子竜太郎は見たいな。この二人だけのトークとライヴだそうです。

☆青山太鼓見聞録@青山劇場
08/19(火)19:00 開演
三宅島の木遣り太鼓
志多ら
JINGI
焱太鼓
さんさ踊り(岩手・黒川)

☆外伝@青山円形劇場
08/15(金)19:00
伊藤多喜雄
金子竜太郎

☆青山・太鼓の殿堂@青山円形劇場
09/01(月)19:00
小口大八
御諏訪太鼓
西野恵
坂田明

☆第7回国際和太鼓コンテスト
☆和太鼓カレッジ
 この2つについて、詳しくはこちら

 本誌157号でとりあげた Mark Izu の《THREADING TIME: 時を紡いで》のクレジット。


Mark Izu: double bass, sheng, sho
Zakir Hussain: tabla, percussion
東儀季信: 篳篥, 朗唱
Anthony Brown: drum set, percussion
Hafez Modirzadeh: sax, alto clarinet, neh
藤本容子: vocals
大倉正之助: 鼓, 朗唱 [7]

1. Mermaid in a silent sea
2. Threading time
3. Stick song
4. Amaterasu
5. String theory
6. Soul of the great bell
7. Scattered soul
All songs composed by Mark Izu
Poem in [7] is an excerpt from "Desert Flowers" by Janice Mirikitani
篳篥の旋律は雅楽の伝統曲

[1 4 5 6] recorded live at Asian American Jazz 2000
    by Robert Berenson, 2000.09.24@Asian Art Museum
[2 3] recorded by Robert Berenson, 2000.09.25@Bay View Studio, Richmond, CA
[7] recorded by Okada, 2000.09.03@Pioneer Studio, Tokyo

Liner notes, composition stories and cover design by Brenda Wong Aoki
Cover photo: 舞楽を演じる東儀季信


 収められた音楽を聞いてタイトルの「時」から連想されるのは、まず、今この一瞬一瞬を「紡いで」音楽を織ってゆく即興の醍醐味と、遥かアジアの祖先たちから受け継いできた時間が織りこまれた音楽の香と、二つの時間が交錯し、からみ合っているアメリカの大地に流れている独自の時間というところ。あるいは音楽を生みだしているミュージシャンたちの肉体の生まれてからこの時までの時間、この日の朝、目覚めてから演奏までの時間、そして刻一刻「生きて」いる、いわば「細胞」の時間。まだまだ他にもいくつもの時間が、ここには生成消滅しているようです。

 [4]はもちろん「天照」をうたっていますが、この曲の解説に記されている「天の岩戸」の話はなかなかおもしろい。アマテラスが身を隠したために困った弟たち(複数)が作りだしたのが人間。この人間たちにうたわせ、踊らせ、物語をさせる。そこでアマテラスは好奇心にかられて出てくるわけですが、つまりは人間とはそもそも地上から光を絶やさないために存在するのです。

 これにしたがえば音楽家とは人間のレゾン・デートルに最も忠実な人びとであり、人間の生存を保証している人びとになります。そして音楽の目的は、この世を光が照らすことを保証するためでもある。だから「祭」=神事には音楽が欠かせないし、一方音楽が奏される時空は聖なる性質を帯びる、すなわちあらゆる音楽は「祈り」に他なりません。

 音楽と音楽家の根源にまで遡るあるいは掘り下げるこうした姿勢は、アルバム全体を貫いています。そうしてみると、ここで雅楽が確固たる存在感を示しているのはけっして偶然ではない。行き当たりばったりでもなくなります。同時に、だからこそここでの雅楽は虚像ではなく、過去の遺物でもなく、現代に、21世紀に生きる音楽として確固たる実体をそなえ、異質の伝統と正面からわたりあい、からみ合うことができたのです。

 それにしてもジャケットを飾る、舞楽面をつけた東儀季信の姿はかっこいい。(ゆ)



 尺八と口琴のセッションという、面白そうなライヴがあります。

 Kokoo や虚無僧尺八の演奏で知られる尺八の中村明一さんが、友人の口琴奏者、直川礼緒さんと東京・高円寺の「円盤」でセッションするそうです。

日時:06/10(日)19:00
会場:円盤(JR高円寺下車徒歩2分)Tel.03-5306-2937
参加費:1,500円(1ドリンク付)
問合せ・申込は、日本口琴協会

日本口琴協会のサイト

 口琴は西欧では Jewish harp または Jew's harp などと呼ばれ、口にくわえて演奏するシンプルきわまりない楽器ですが、ティン・ホイッスルと同じで、単純なだけに奥が深く、名人が演奏すると、あんな小さな楽器から出るとは信じられない音楽をかなでます。

 口の中が共鳴器となるため、人によって同じ音は二つとありませんし、また、これが正確な音、というものもないのだそうです。どんな音を、どんな風に出しても、かまわない。すべては演奏者次第。それだけに演奏者自身が人となりを問われるわけです。

 メロディを奏でることも、抽象的な音を出すことも、自由自在。シンセサイザーでしか出せないと思われているような音があっさり出たりします。

 こういう楽器が尺八とからむとなると、どういうことになるのか、見当もつかない。スリル満点のライヴになるでしょう。

 直川さんは口琴協会の代表でもあり、世界でも有数の口琴奏者の1人です。上記協会のサイトで売っている『口琴のひびく世界』は直川さんの口琴歴の回想録でもあり、世界各地の口琴の紀行でもあります。名著です。CDも付録についていて、聞応えがあります。


 ま・こ・と・に残念ながら、この日はチーフテンズ日本ツアーの最終日で、あたしはそちらへ行かねばなりません。再演、熱望!(ゆ)

 ゲストに細野晴臣&浜口茂外也を迎えてブレイクした3枚目《しゃっきとせ》がもうすぐ発売になる、津軽三味線&ヴォーカルの澤田勝秋、鳴り物&ヴォーカルの木津茂理のお二人のデュオ、つるとかめのライヴ・スケジュール。

05/19(土)東京・渋谷 居酒屋ニュー信州 30席限定、要予約
05/31(木)横浜三渓園 鶴翔閣

 詳しくはこちら

 どちらもユニークなイベントですな。

 そして06/26、浅草はアサヒ・アート・スクエアでその《しゃっきとせ》の発売記念ライヴが、フル・メンバーでおこなわれるそうです。

 先日、つるかめに浜口氏(うさぎ)が加わったライヴがメディア向けにあったのにもぐりこんできましたが、それはもうすばらしいものでした。浜口さんはカホンやダホルの他、和太鼓もしっかりやられていて、感服しました。これに細野さんが入ったら、どういうことになるのか。正直、チーフテンズなんか、もうどうでもいい(爆)。(ゆ)

 東京・渋谷のアップリンクで続いている能面師を描いた映画『面打』の上映とライヴ・パフォーマンスの組合せイベントに、瞽女うたをうたっている月岡祐紀子さんが出演するそうです。

 月岡さんの瞽女唄は、先日 Winds Cafe で生で聞く機会がありましたが、ソウル・フィーリングたっぷりで、瞽女唄の持つたくましい哀しみを味わわせてくれました。

 今回はまた能楽とのコラボだそうで、芸能の原点に触れられるのではと期待できます。

 映画の出演者が上映後に生身で演ずる、というのもなかなかできない体験ですね。

   *   *   *   *   *

映画『面打』×能舞シリーズ Vol.6

 弱冠22歳の能面打ち・新井達矢を描いたドキュメンタリー映画『面打』。上映後の能舞では能楽師・中所宜夫と、瞽女三味線奏者・月岡祐紀子による異色のコラボレーションを行う

 毎回大好評の映画『面打』×能舞シリーズ第6弾!
 言葉の一切を排し、木を刻む音だけが響きわたる映画『面打/men-uchi』。その沈黙の余韻の後、能舞による瞽女唄と能の身体が空間を切り裂く!

○ 上映
『面打/men-uchi』(2006年/DV/60分)
監督 三宅流
出演 新井達矢(面打)、中所宜夫(観世流能楽師)、津村禮次郎(観世流能楽師)

○能舞
中所宜夫(観世流能楽師)
月岡祐紀子(瞽女三味線)

日時:12/11(月)(開場19:00/ 開演19:30)
料金:予約2,50円/ 当日2,800円
会場;UPLINK FACTORY
チケット取扱  UPLINK FACTORY
TEL 03-6825-5502/ E-mail: factory@uplink.co.jp
能舞後、『面打』2回目上映あり。(21:30〜 料金1,500円)

三宅流(みやけ ながる)
 映画監督。身体表現をモチーフにした『蝕旋律』がイメージフォーラムフェスティバル、キリンアートアワードにて受賞。イモラ国際短編映画祭(イタリア)、 Mediawave 2002(ハンガリー)等で上映される。フランスの思想家モーリス・ブランショの『白日の狂気』をモチーフにした『白日』はモントリオール国際映画祭ほか、フランスや韓国の映画祭で上映される。過去の作品は海外十数か国で上映され、いずれも高い評価を得る。

中所宜夫(なかしょ のぶお)
 観世流能楽師。観世九皐会、名古屋九皐会、緑泉会において活動。「中所宜夫能の会」を主催。バハレーン、香港、イギリス等の海外公演にも参加。また、実験的能公演「能楽らいぶ」を継続的に行い、宮沢賢治原作に基づく新作能「光の素足」を創作するなど、古典、実験双方において意欲的な活動を続けている。

月岡祐紀子(つきおか ゆきこ)
 武蔵野女子大学卒。第44期NHK邦楽技能者育成会修了。盲目の女旅芸人、瞽女の芸能と出会い感銘を受け、本場新潟に最後の瞽女といわれる故・小林ハル氏らのもとに通い交流を重ねる。瞽女の旅を追体験しようと、四国八十八ヶ所霊場を歩き遍路し「遍路組曲」を作曲。その様子がドキュメンタリーとなり、放送文化基金賞出演者賞を受ける。

新井達矢(あらい たつや)
 面打。7歳より面を彫り始める。東京造形大学造形学部美術学科彫刻専攻に在籍故・長沢氏春氏に師事。国民文化祭ふくい2005「新作能面公募展」において最高賞「文部科学大臣奨励賞」を受賞。仏像製作にも取り組む。

 東京・吉祥寺の月刊イベント Winds Cafe の来月は瞽女の唄を受継ぐ月岡祐紀子さんのライヴだそうです。これはちょっと見逃せないでしょう。特に第二部。

 瞽女ってなんだ、という方は、とにかくこの2枚のCDを聞いてください。
瞽女うた 長岡瞽女編
瞽女うた 高田瞽女編



                    ● WINDS CAFE 118 ●

                            【ごぜうたがたり】

                       月岡祐紀子(民謡唄・三味線)
                  10月15日(日) 午後6時開場
   WINDS GALLERY 東京都武蔵野市吉祥寺本町3-4-11 7F *電話はありません
入場無料(投げ銭方式)/パーティー用の差し入れよろしく!(主にお酒や食べ物)
18:00 開場
18:30 開演
20:00 パーティー+オークション

▼プログラム
 第一部 広大寺節を追って 〜瞽女唄から民謡へ〜
 第二部 段物「葛の葉の子別れ」(一段目通し)

▼川村からひとこと

 昨年秋、鼓奏者の仙堂新太郎さん経由で、三味線奏者の吉澤昌江さんから、連絡
が入りました。吉澤さんの勤務先の盲学校の文化祭の資料室の展示コーナーに、月
岡さんがいらした、という内容なのですが、この先が面白い。曰く:「盲目の女旅
芸人ごぜ芸能の伝承者として活躍されている方のようです。(この方は若い晴眼の
方ですが。)こういう方の瞽女歌も WINDS CAFE でやったらいいのではと、ふと思
いました」とあるではありませんか。吉澤さん経由でさっそく打診してみたら、今
回の公演があっという間に決まりました。なんかもりだくさんなプログラムになり
そうで、今から大変楽しみです。課題図書(笑)も下の方にございますので、ぜひ事
前にご一読のほど。当日お持ちくださればもれなくサイン会(笑)。


▼月岡祐紀子さんからの手紙

 瞽女(ごぜ)をご存知の方は、果たしてどれくらいいらっしゃるでしょうか。瞽
女というのは、盲目の女旅芸人のことです。三味線と唄を生きる杖に、女性のみの
集団で旅と芸に人生をおくりました。

 古くは室町時代の文献にも登場し、日本全国にいましたが、明治以降しだいに数
を減らし、新潟にわずかに残るのみとなり、ついに昨年、最後の瞽女となられた小
林ハルさんも亡くなられてしまいました。

 瞽女さんたちの芸の中心は、説経節の流れをくんだ「安寿と厨子王」などの長大
な物語歌の弾き唄い。そしてまた、民謡など当時のはやり唄を風のように運んでい
く伝播者でもありました。

 今回のライブでは、第一部では、瞽女さんがはやらせ、津軽のじょんがら節を生
み出したと言われる「広大寺節」の流れを歌で追ってみたいと思います。

 第二部では、物語唄「葛の葉の子別れ」一段目の通し演奏に挑戦します。一段が
約40分(全段で3段)と長いため、なかなか通し演奏の機会に恵まれないのですが、
今回 WINDS CAFE という自由な場を得て通しが実現しました。往時には集まった村
人が、一晩目は1段目、翌晩は2段目と、わくわくしながら聴いていったという、連
続ドラマのようであった物語唄。どうぞお楽しみに!

*「葛の葉の子別れ」ストーリー:しのだの森に住む化狐は、罠にかかっていると
ころを阿部保名というお侍に助けられる。保名に恋をした狐はいいなずけに化けて
嫁入りし、かわいい息子も生まれるが、ある日正体がばれ、泣く泣くしのだの森に
帰っていくのだった。


▼プロフィール

●月岡祐紀子(つきおか・ゆきこ):武蔵野女子大学(現武蔵野大学)文学部日本
文学科卒。第44期NHK邦楽技能者育成会終了。幼い頃より民謡を学ぶ。三味線を
本條秀太郎氏に師事。高校生の時、盲目の女旅芸人の芸能、瞽女唄、瞽女三味線と
出会い、感銘を受け新潟へ。最後の瞽女といわれる小林ハル氏、杉本シズ氏、難波
コトミ氏らの元に通い交流を重ねる。瞽女芸能の本場である上越市とのかかわりも
深く、「2002年度瞽女憲章記念公演」に出演を招かれて以来、年2回程度、市主催
の文化イベントに出演。大学卒業時、瞽女の旅を追体験しようと、三味線を奉納演
奏しながらの四国八十八ヶ所歩き遍路に挑戦。その様子が、ドキュメンタリー番組
「娘三味線へんろ旅」(愛媛県南海放送制作・ナレーション桃井かおり氏)として、
全国放送され、放送文化基金賞の出演者賞を受賞。この旅日記を朝日新聞四国版、
関西版に1年間連載、加筆後「平成娘巡礼記」として刊行。和楽器のオーケストラ
グループ「むつのを」メンバー。

平成娘巡礼記」(文藝春秋新書)
うらやましい人 '03年版ベスト・エッセイ集」(文藝春秋社)集録
遍路組曲」(東芝EMI)

------

▼以下は WINDS CAFE 公式サイトでご確認ください

 会場地図
 オークションについて
 予告編
 過去の企画

------

 WINDS CAFE とは、1997年1月から、川村龍俊が、現代陶芸家の板橋廣美氏の私邸
である、東京吉祥寺の空中庭園 WINDS GALLERY を私費で借り上げて、音楽を中心
に美術演劇映画などさまざまなジャンルの方々に企画していただきながら続けてい
る、イベント+パーティーです。いわゆる「オフ会」ではありません。

 基本的に入場料は無料、出入り自由で、パーティーでの飲食は参加者のみなさま
からの差し入れを期待しております。

 ご来場にあたって予約は必要ありません。

 WINDS CAFE のコンセプトは、「好きなことやものを楽しんでいる人と一緒にい
るのはなんて楽しいことだろう」です。出演を依頼するときには、このコンセプト
を共有していただけることが条件になっています。

 東京、代々木駅北口の "My Back Pages" はでかい画面を二つどーんと備えた「ロック串カツ屋」。名前の通り、ディランが神様のようですが、ぼくはここでディランのバックでギターを弾くリチャード・トンプソンという珍しい映像を見ました。ディランもまんざらではない様子でしたが、リチャード本人がほんとにうれしそうなのが印象的。

 というのは余談ですが、ここでちょっと面白そうなライヴがあるそうです。ロック・シンガーがうたう「端唄」は聞いてみたい。

 ここは音楽だけでなく、串カツも美味いですし、酒もいろいろあります。



 代々木北口のボブディラン・リスペクトなロックバー「MY BACK PAGE」で、珍しい「端唄」のライブがあります。

 端唄は、花柳界で歌われてきた歌で、艶があり日本の粋ここに極まれり、といった風情があります。

 歌うのは洋楽の音楽評論家でロックシンガーの江戸賀あい子さん。端唄と通好みのセレクションのジャズ、ロックナンバーをご用意。研ぎ澄まされてた耳を持つプロ中のプロがお送りする、和洋の融合ライブです。必聴!

江戸賀あい子 with はっとりこうじ◎

日時:09/03
場所 代々木 串かつ・ロックバー My Back Pages

★すでに、チラシをお持ちの方、日曜のため開場、開演時間が早くなりました!
open 5:30pm start 1st 6:00 2nd 7:30
入れ替えなし。charge 2000円

このページのトップヘ