昨年11月ひと月かけてリリースされたグレイトフル・デッドの《30 Days Of Dead》を年代を遡る旅も終着点です。17日リリースの 〈Mindbender (Confusion's Prince)〉02:37は 1966-02-06, Northridge Unitarian Church, Los Angeles, CA からのセレクション。この録音は昨年の《30 Days Of Dead》で最も古い日付のものであるだけでなく、知られるかぎり、デッドのショウの録音として最も古いものです。この日のセット・リストとして残っているのは次の通り。
1. Early in the Morning(?)
2. Mindbender 2:37 30 Days 2022
3. See That My Grave Is Kept Clean
4. Beat It On Down The Line
5. The Only Time Is Now (?)
録音は2013年02月第一週に Dead.net の Jam Of The Week で流されたそうです。
〈Mindbender (Confusion's Prince)〉はガルシアとレシュの共作とされ、前年11月に録音されたデモが《Birth Of The Dead》に収録されました。記録では1966-01-07に初演。この02-06が2回目、最後は11-29で計4回の演奏。これが全部ではない可能性はありますが、翌年にはすでにレパートリーから落ちていたようでもあります。録音は知られている限りこれが唯一。今後も出てきそうにはありません。
このショウは Northridge Acid Test と呼ばれます。ヴェニューの教会の Paul Swayer 牧師がデッドを招いたそうです。
1966年はもちろんデッドが本格的に活動を始めた年。ショウの合計は現在わかっているところで107本。ただし、思いつくとハイト・アシュベリーの家からゴールデン・ゲイト・パークの「パンハンドル」にでかけておこなっていたというフリー・コンサートの大半はこの数には入っていません。ショウのほとんどはカリフォルニア州内、それもサンフランシスコ周辺ですが、7月末から8月初めにかけて初の「海外」公演をヴァンクーヴァーで行っています。また、アシッド・テストのように、コンサート形式ではないものもあります。10月には創業間もない The North Face がサンフランシスコ市内に初めて出したリアル店舗のオープニング・パーティーで「余興」として演奏しています。ノース・フェイス公式サイトの会社の歴史のページに、演奏している髭を剃ったガルシアとウィアの写真があります。
レパートリィは60曲。ほとんどはカヴァーで、オリジナルは〈Mindbender (Confusion's Prince)〉の他、〈Caution〉と〈Cream Puff War〉。前者はピグペンの作詞、バンドの作曲のクレジット。後者はガルシアの作詞作曲。ピグペンは〈Tastebud〉〈You See A Broken Heart〉も作っていますが、前者は3回、後者は1回演奏されたのみ。オリジナルが花開くには、1968年のロバート・ハンターの参加を待たねばなりません。
一方、この年にレパートリィに入ったカヴァー曲では〈I Know You Rider〉〈New Minglewood Blues〉〈Cold Rain And Snow〉〈Beat It On Down The Line〉〈Don't Ease Me In〉〈Dancing In The Street〉〈Me And My Uncle〉〈Morning Dew〉が定番として数多く演奏されます。中でも〈Me And My Uncle〉は演奏回数624回で、回数順では第一位です。
ただ、この年の個々のショウのデータは不明のものが多いです。日付と場所だけはわかっているが、何を演奏したかの記録が無いものが大半です。ショウの録音は例外的で、人びとはまだショウのセット・リストを記録する習慣がありません。レパートリィはですから、これもまた今のところ、わかっているかぎりという条件がつきます。
この歌はいかにも60年代半ばのヒット狙いの典型に聞こえます。デッドにもこういう曲を作り、演っていた時期があった、というのは時代の趨勢の持つ力の強さの証明でしようか。ここからいかにして脱皮してゆくかが、この時期のデッドを聴く焦点の一つです。
この録音が面白いのは、当時の習いとして、片方、ここでは左チャンネルにインスト、右にヴォーカルを集めて始まり、コーラスもしていますが、途中からインストと声の片方をセンターにして、ハーモニーが別れて聞こえるようにしているところ。その意図はよくわかりませんが、現場ではこう聞こえていたのか。ステレオとしてはこの方が自然になることはもちろんです。
なお、センターの声はガルシア、右はレシュに聞こえます。
昨年の《30 Days Of Dead》を遡る旅も、今年のが始まる前に何とか終えることができて、ほっとしています。むろん、こんなに時間をかけるつもりはなかったので、せいぜいふた月ぐらいでさらっと終わるはずでした。
長くなったのは、それぞれの曲が含まれるショウの全体の録音を聴きだしたのが大きいです。しかし、実際に全体を聴くと、やはり世界が広がって、格段に面白くなってしまいました。公式で出ておらず、まず出せないと思われるショウにも聴く価値のあるものがあることも改めてわかりました。全体の録音が残っているショウは少なくとも1,000本からありますから、前途遼遠ですが、できる限り聴こうと思っているところです。
来月11月は《30 Days Of Dead》の月。おそらく今年もやるでしょう。これを道案内に新たな旅に出ることにします。デッドの世界はそういう旅を無数にできるところです。(ゆ)