クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:2015

 英国の Kitschies の第6回の最終候補が発表になっている。受賞作発表は3月7日。選考は部門別の選考委員会。

 英国のゲーム、ウエブ・サイト開発会社がスポンサーの賞で、「スペキュラティヴで、ファンタジィの要素を含む、先進的で知的で面白い作品」に与えられる。小説、デビュー作、カヴァー・アート、デジタルの4つの部門。デジタル部門は電子本だけでなく、インタラクティヴ・フィクション、ゲームなども含む。

 小説のうちN・K・ジェミシンの THE FIFTH SEASON はネビュラ、Dave Hutchinson の EUROPE AT MIDNIGHT が英国SF作家協会賞の候補にもなっている。この2冊と Adam Roberts の THE THING ITSELF はローカスの推薦リストにも収録。また、デビュー作はすべて他のリストには無い。 

 賞の名前の "kitschy" は「キッチュ」から来ているのだろう。わざと古めかしい装いをまとった、浅薄で俗物的なものをさす。この場合はむろん逆説的用法。"bad" がすごく良いことであるのと同じ。


 オーストラリア国内で、またはオーストラリア市民によって発表された、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、階級、障碍をテーマとする優れたスペキュラティヴ・フィクションに与えられる。主催はオーストラリア・サイエンス・フィクション財団(ASFF)。2010年、メルボルンの第68回世界SF大会 Aussiecon 4 で第1回の受賞作が発表・授与された。選考は選考委員会による。ASFF は1975年、オーストラリア初の世界SF大会 Aussiecon の運営のために設立された。受賞作発表は3月末のオーストラリアSF大会 Contact 2016。ディトマーと、サイエンス・フィクションでなみはずれた業績に与えられる A. Bertram Chandler Award と同時。ノーマ・キャスリン・ヘミング (1928-1960) はオーストラリアの女性SF作家のパイオニア的存在。

 7本の最終候補のうち2本が Aurealis の候補と重なる。1本はヤングアダルト長篇、もう1本は短篇。


 受賞作発表は5月17日の StokerCon。1987年創設で、主催は Horror Writers Association。対象は全世界で英語で発表されたもの。HWA の会員資格は国籍を問わない。ただ、ストーカー賞の対象は基本的に英語による作品。ノミネートは協会員の推薦と各部門別の推薦委員の推薦。ここから会員の投票により最終候補と受賞作が決まる。この賞は「最優秀作品 best」を選ぶのではなく、「すぐれた作品 superior」を選ぶとわざわざ断わっている。複数の受賞作が可能なようにルールを作っている由。

 ホラー、ダーク・ファンタジィの分野は専門の書き手が多く、媒体も別で、他のリストとはほとんどまったくといっていいほど重ならない。サイエンス・フィクションやダークではないとされるファンタジィでもホラーやダークな要素を重要なモチーフにしている作品はあるが、それとはどうも選ぶ基準が違うようでもある。例外的に Alyssa Wong の "Hungry Daughters of Starving Mothers” はネビュラの短篇部門最終候補に入り、ローカスの推薦リストにもある。また Stephen Jones 編 THE ART OF HORROR: An Illustrated History がローカスの推薦リストにある。

 なお、賞のノミネートの参考として推薦リストが発表されている。こちらにはサイエンス・フィクション、ファンタジィとして出ているものも含まれる。


 こうして並べてくると、前年の成果を確認・表彰する各賞の発表は3月から始まり、8月のヒューゴー賞発表はその締めくくり、総仕上げになるわけだ。(ゆ)


 コンプトン・クルック賞はボルティモア・サイエンス・フィクション・ソサエティ(BSFS)が1983年から毎年選定する賞で、過去2年間に刊行された作品を対象とする新人賞。5月末の Balticon 50 で発表。コンプトン・クルック(1908-1981)は Towson State College の生物学・生態学教授で、Stephen Tall のペンネームで小説も書いていた。主な作品は宇宙探検船 Stardust 号のシリーズ。このシリーズは発表雑誌が Worlds of Tomorrow, If, Galaxy, F&SF とバラけているのが珍しい。F&SF掲載の中篇 "Mushroom World" は面白かった記憶がある。BSFS の中心メンバーの一人でもあり、新人発掘に熱心だった。

 カーネギー・メダルは児童文学の分野で世界で最も権威のある賞の一つで創設は1933年。グリーナウェイ・メダルはイラストに与えられる。翻訳児童書の表紙や箱に金色のメダルが付けられているのはよく目にする。『ローカス』がSFF関連作品のリストを挙げている。最終候補が3月15日発表。受賞作発表は6月20日。

 オーリアリス賞はディトマーと並ぶオーストラリアの賞。両者の違いはディトマーはヒューゴー、オーリアリスはネビュラといえば当たらずといえども遠からずか。オーストラリアには SFWA に相当する組織はなく、この賞はもともとは雑誌 Aurealis を発行していた Chimera Publications が1995年に始めた。ディトマーとオーストラリア児童書評議会賞を補完するものという位置づけ。現在は Western Australian Science Fiction Foundation がキメラ社の代理として運営している。選考は選考委員会による。今年はホラー長篇部門の候補が出ていない。今年から SARA DOUGLASS BOOK SERIES AWARD が加わった。これは複数巻にわたるシリーズを全体として表彰しようというもので、WASFF による試験的な設置。第1回は2011年から2014年の間に完結したシリーズが対象。サラ・ダグラス(1957-2011)はサウス・オーストラリア州出身の歴史学者でオーストラリアを代表するファンタジィ作家の由。オーリアリスも数回受賞している。発表は3月25日 Natcon 会場。

 シリーズを全体として顕彰しようというのはもっともだ。ヒューゴーでもロバート・ジョーダンの『時の車輪』全巻が候補になったこともある。

 当然といえば当然だが、どの賞もほとんどと言っていいほど、候補作が重ならない。とりわけ、カーネギーとローカス推薦リストの Young Adult 部門の作品がまるで違うのは面白い。
 
 また SFWA は32人めのデーモン・ナイト記念グランド・マスターにC・J・チェリィを選んだ。5月中旬のネビュラ賞発表式で同時に表彰される。
 
 チェリィは今年74歳。1976年に長篇 GATE OF IVREL でデビュー。1977年にジョン・W・キャンベル記念新人賞を受賞。1978年の第4作 FEDED SUN: Kesrith がヒューゴー、ネビュラにノミネートされて注目される。『ダウンビロウ・ステーション』1981『サイティーン』1988それに「カサンドラ」1978でヒューゴーを得ている。しかしネビュラには縁が無い。もう永年、ノミネートすらされていない。とはいえ、彼女の作品を敬愛する作家は少なくないようだ。ジョー・ウォルトンによる Tor.com での再読連載を読めば、チェリィの全作品を読みたくなるが、長篇は2015年末現在で74冊。約半分は Union-Alliance 宇宙と呼ばれる未来史シリーズで、邦訳のある『色褪せた太陽』三部作や『ダウンビロウ・ステーション』『サイティーン』『リムランナーズ』はいずれもこれに属する。わが国でよく知られた未来史シリーズはハインライン、アシモフ、コードウェイナー・スミス、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、ポール・アンダースンなどなど、いずれも主に中短編で構成されるものが多い。チェリィの「連合・同盟シリーズ」はそれを長篇でやっている。一つひとつは独立した話だが、背景を共通とし、キャラクターも重複する。それもある話ではほんのちょい役だけのキャラが別の話では主役を張るというように、様々なつながりをする。だから、そうしたつながりを知った上で再読すると、また別の楽しみができる。こちらの最新作は『サイティーン』の続篇にあたる REGENESIS, 2009 だ(これについては Chris Moriarty の F&SF 掲載の書評を参照)。最近力を注いでいるのは Foreigner 宇宙で、異星に漂着した地球人を視点にして現在16冊。

 チェリィはまたゲイであることを公表している。今年のスーパーボウルのハーフタイム・ショウではレインボウ・カラーが会場を彩っていた。会場のあるサンフランシスコへ敬意を表したのかもしれないが、どちらかといえば保守的とされるフットボールの世界でもそういう演出がされるのは、アメリカ社会での LGBT の位置を示しているのかもしれない。今年、チェリィがグランド・マスターに選出されたのも、大統領選挙があることを考えると同様の意味があるとするのは深読みがすぎるか。とはいえ、ローカス推薦リストにあげられた中短編を読んでいると LGBT やジェンダーの在り方を問うものが目につく。

 なお、これまでのグランドマスターでチェリィより後にデビューしているのは2012年のコニー・ウィリス。女性ではアンドレ・ノートン (1984)、ルグィン (2003)、アン・マキャフリィ (2005)、ウィリスと来て、チェリィは5人目。
(ゆ)

このページのトップヘ