ユニヴァーサル・レコードとディスクユニオンの共催になる四谷・いーぐるでの新譜紹介イベントに行く。新年の ECM 特集が面白かったので、今月も行ってみる。この調子なら今年1年通うとジャズの最新の動きが勉強できそうだ。
今回は上原ひろみの新作が出るので、それを核にした「新時代のピアノ・ジャズ」というテーマ。ピアノの音は嫌いではないが、持ち運びできないのは楽器としては失格ではないかという想いがいつもひっかかって、わーい、ピアノだあ、という気分にはなれない。
一方で、その二律背反なところがまたピアノ音楽を面白いものにもしている。shezoo さんとか谷川健作さんとか、あるいは黒田京子氏とかの音楽には多少ムリしても出かけていこうという気になるし、キース・ジャレットとかメデスキー、マーティン&ウッドとかブラッド・メルドーとか、ついつい聴いてしまう。正月の新譜特集でかかった菊地雅章の最晩年のECMじゃない方の録音も、ピアノという楽器を使いたおし、その向こうに突き抜けているのが凄かった。今回はほとんどが新しい、今世紀に入って頭角を現した人たちで、誰も彼も良かった。
とりわけ印象に残ったのは、まず冒頭に紹介された Gogo Penguin で、マンチェスターの20代3人によるピアノ・トリオ。楽器はあくまでもアコースティックながら、様々な音、スタイルを駆使し、楽しくトンガっている。ベロウヘッドとかサム・リーとかに通じるところもある。後でかかった Sam Crockatte のグループも面白く、英国のジャズというのはディグする価値がありそうだ。伝統音楽も同じだが、若いにもかかわらず、技術的にはベテラン勢とまったく遜色なく、その上で新鮮な体験をさせてくれる。
もう一人がフランス系アメリカ人の Dan Tepfer。自分のピアノ・トリオ、ゴルトベルク変奏曲、ガンサー・シュラーの息子のドラマー、ジョージ・シュラーのトリオでのスタンダードと3曲聴かせていただいたが、どれも面白い。とりわけゴルトベルクは楽譜にある変奏の後に自分の即興を加えていて、これがいい。ほんとは売るつもりではなかったらしいが、強引に買ってしまった。
そして最後にかかった Matt Mitchell。テナー・サックスの Chris Speed を加えたカルテットでの演奏は、フリーになりそうでならないギリギリのところで、確信に満ちた、しかし切実な危機感をいっぱいに孕んで、ぐいぐいと引きこまれる。毎晩聴くのはヘヴィだろうが、たまにはこういうものを聴いて、自分の居場所を確認する必要があることを、あらためて納得させられる。紹介したユニオンの羽根さんもおっしゃっていたが、こういう音楽はいーぐるのようなシステムで大音量で聴いてナンボではある。
ピアニストたちもよかったが、もうひとつ印象づけられたのはドラマーたちのおもしろいこと。ジャズのドラマーの理想はソロイストやアンサンブルの土台や発射台となって音楽を浮上させることではあるだろうが、そのための方法論や手段、あるいはドラマーとしての語彙がまるで違ってきていると思う。さらに、ドラマーは下にいて他のメンバーを浮上させるというよりは、ドラマーもまた一緒にあるいは浮上し、あるいは沈み、あるいは疾走しようとしている。あたしの狭い体験ではジャック・ディジョネットとポール・モチアンが理想なのだが、その二人からさらに次の段階に、昨日聴いたドラマーたちは達しようと努めている。
ドラマーたちに耳が向いたきっかけは上原ひろみのサイモン・フィリップスで、こうして聴くとまさにロックのドラマー以外の何者でもない。それが悪いのではなく、ユニヴァーサルの斉藤さんもおっしゃるように、派手に叩きまくっているのに出しゃばらない不思議な才能もあって、このトリオの場合はロックのドラミングが合っているし、狙いでもあるだろう。ただ、並べて聴いてみると明らかに違うわけで、そうなるともっとジャズ寄りのドラマーと組んだ今の上原の音楽も聴いてみたくなる。
ユニヴァーサルのいつもの斉藤さんがやむをえない事情で欠席で、代打で来られたもう一人の斉藤さんはアイリッシュ・ミュージックの大ファンでもあるそうで、そのおかげもあって終了後もおもしろいお話がきけたのも収獲。
次回は3月2日(水)。お題はチャールズ・ロイドの新作が出るとのことで、「テナー・サックスの現在(いま)」となった。ロイドはひさしぶりかなブルーノートからのリリースで、斉藤さんによると「すっごくいい」そうだから、楽しみだ。(ゆ)