クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:DAC

 カネは無いはずだが、我ながらいじらしく何とか工面してはあれこれ買ったものである。中でこいつはいい買い物とよろこんだものたち。

Rupert Neve Designs RNHP



 RND はプロ用機器、スタジオで使われるミキサーやコンプレッサーやを作っているメーカーで、あたしには縁はない。無かった。これが出るまでは。これもプロ用で、したがって XLR のバランス入力はあるが、ヘッドフォン・アウトは標準のアンバランスのみだ。しかし一度は聴いてみたかった。ちょうど中古が出たので、ありったけのモノをかき集めて下取りに出して手に入れた。円安で新品は10万する。

 聴いてみて、顔がにやけた。まさにプロの音である。入っている音をそのまま出す。飾りなんかないし、「個性的」な音も皆無。YouTube を聴くと、これは圧縮されているなと素人耳にもわかる。それでいて全体の音は崩れない。ちょっと不思議だ。

 良い録音だと芯が1本、ビーンと通って、ひっぱたかれようが蹴っとばされようが、びくともしない音。小さくて繊細な音もそのままに芯が通っている。これで Tago T3-01 とか、Neumann NDH30 を鳴らすと、まあ、嬉しそうによく歌う。シングルエンドしかないグラドも大喜び。

 録音の良し悪しもモロに出るが、音楽そのものの良し悪しは録音とはまた別だ。最低の録音の音楽が最高ということもある。そして、そういうケースもこれはちゃんとそう聴かせてくれる。バランス・アウトなんぞ、要らない。

 サイズが小さい。しかも ACアダプターである。つまりセミ・モバイルなのだ。プロの現場は屋外だってある。どこにでも持っていける。

 そしてこの小さな姿からは想像もできないパワー。高インピーダンスとか平面型とか、いちいち気にする必要もない。あっさり鳴らしてしまう。小さな巨人でもある。

 これまでのリファレンスはマス工房の model 433 だったが、こいつが来てからは、433 の出番はなくなってしまった。まあ、いずれまたもどるだろうが、当面は RNHP さえあれば、ヘッドフォン・アンプは何も要らない。むろん、これはヘッドフォンのためのものだ。イヤフォンをつなぐものではない。


 スティック型 DAC/amp のハイエンドが花盛りである。DAP が製品として行き詰まりを見せていることの反映だろう。一昨年出た Lotoo PAW S2 を皮切りに、昨年3機種、そして今年どっと出て、モバイルの主なメーカーで出していないのは SONY くらいになった。

 DAP を出しているところは、そのトップエンド・モデルの技術を注ぎこんでいる。最新の iBasso DC-Elite はロームの DAC チップはじめ、DX320 Max に採用したテクノロジーや部品やデザインをほぼそのまま使っている。

 RU7 も Cayin N7 と同じ 1-bit DSD DAC を積んでいる。さらにバランスのラインアウトがあるのがユニークなところ。これなら試さないわけにはいかない。貯めこんでいた楽天のポイントを注ぎこんで、これまた定価の6割ぐらいでゲット。

 スティック型は小型であることもウリだが、その中でもこれは小さいし、軽い。小さいながらディスプレイもついているが、軽いのである。

 で、音はこれまたすばらしい。ふわあと開放されて、滑らかな音がすんなりと体に入ってくる。これなら N7 も欲しくなる。DAC としての優秀さは、RME の ADI-2 Pro FS R と比べてまったく遜色ないレベルだ。

 あたしはこれを主に iPad mini と USB でつないで、ストリーミングを聴くのに使う。iPad mini は今年春に出た第6世代。とりあえずどんなものか聴いてみる時には無線で、つまり AirPods Pro や final ZE8000 Mk2、あるいは HiFiMAN HE-R9 + bluemini R2R で聴くこともあるが、本腰を入れる時には RU7 とヘッドフォン、あるいはラインアウトでヘッドフォン・アンプに入れて聴く。こいつのバランス・ラインアウトから上記 RNHP にバランスで入れて、クローズドならば T3-01、オープンならば NDH30 で聴くと、もうこれでいいじゃん、他に何が要るの、と思う。真剣に思う。わざわざストリーマなんて要らないよ。

 iPad mini 第6世代で聴くストリーミングは、MacBook Air の M1 とか、iPhone SE 第3世代とかで聴くよりもだんぜん音が良い。ストリーミングの音が良いのは、どこがどう効いてるのかわからないけれど、とにかく、手持ちの機器では一番新しいモデルであるこれが一番良い。このことに気づいてからストリーミングで聴くことが格段に増えた。レコードを持っていないものはもちろん、持っていても、ストリーミングで聴くようにもなった。


 新たな展開の見えない DAP で、DAC の方式は最新にして、他は原点回帰に活路を見出そうとしたのがこの RS2。チップではない、抵抗を並べた R2R DAC、メーカーが Darwin と呼ぶシステムである。USB DAC としても使えて、その時には、ソースの機器から電気をとらないモードがついている。RU7 が来る前は、これを iPad mini によくつないでいた。

 Darwin の音は好きである。透明度が高く、滑らかで自然に響き、押しつけがましいところが無い。Darwin の音はどんなだろうと買ってみて、当初はちっぽけなディスプレイ画面とか、データベースが日本語の扱いが不得意とかがあって、失敗したかな、と思ったのだが、聴いていくうちに、すっきりと雑味のない音が好きになっていった。そうなると、画面が小さいとか、日本語がまともに扱えないなんてことは枝葉末節になる。そしてマイクロSDカードを2枚同時に挿せる、無線が一切何も無いという潔さにあらためて惚れなおした。このクリーンな音は無線をばっさり切って棄てたおかげとも思える。

 よく見ると、このサイズ、小さなディスプレイ画面、マイクロSDカード2枚挿し、いずれもこんにちの DAP 隆盛のきっかけとなった、あの懐しき AK100、AK120 へのオマージュではないか。




 MA910SR は発売前に試聴して一発で気に入って予約した。広い音場ときっちりした定位、自然に軽やかに伸びる低域、そして明るいキャラクター。バランスにリケーブルするために、REB Fes 02 @ 川崎であれこれ試聴した中で、あたしにはベストの組合せとして、これに落ちついた。Black Back はちょっと硬くて太めではあるが、この音なら許せる。

 この少し前に qdc の folk を買って、かなり気に入っていたのだが、こいつが来たおかげですっかり霞んでしまった。folk を買ったのは、こんなモデル名をつけられたら、買うしかないじゃないか。実際、ヴォーカルは実に良い。ギター、フィドル、蛇腹、笛などの生楽器もいい。ただ、ダブル・ベースがちと軽すぎる。そこで MA910SR + AIMS を使うことが増える。


Brise Audio Accurate USB ケーブル



 RU7 の前にメインだったスティック型 DAC/amp は PhatLab Rio である。チップは ESS だが、およそ ESS らしからぬ、しなやかで丈夫な音で、商売を抜きにしても、お気に入りである。馬力もあるし、外部電源入力があって、ソース機器から電気を食わなくさせることもできる。

 これと組合わせる USB-C ケーブルをあれこれ試して、結局これがベストだった。つまり、手が届く範囲で、だ。ブリスオーディオはつい先日、USB-C ケーブルの新作を発表したが、17cm で20万ではどもならん。

 お金持ちではない、フツーの、むしろビンボー人にとって Accurate が限界である。とはいえ、これがあれば十分すばらしい。比べなければ、これで最高。今はこれと RU7 をつないでいる。


サウンド・ジュリア ミニ・ミニ・ケーブル
 サウンド・ジュリアは名古屋のオーディオ・ショップ。モバイルではない、スピーカー主体の昔ながらのオーディオ・ショップである。ブログが面白く、もう何年も前から定期的に覗いている。気に入った機器を空気録音して YouTube に上げることもあり、そこで使われる音楽がなかなか面白い。あまりに良いので問合せてレコードを買ったこともある。

 ほとんどは読むだけの機器だが、ときたま、面白くて比較的安いものがある。オリジナル商品の一つ、スーパーコンタクトオイルの効果は大きい。いくつか試した接点賦活剤で、明白に効果があったのはこれだけだった。



 ケーブルも自作する。ある日、車載用として注文を受けて作ったという両端ミニの、いわゆるミニミニ・ケーブルの写真が出た。これに一目惚れしてしまった。

 オーディオ製品はツラが第一である。良い機器はいかにも良い音が出そうなツラをしている。いわゆるデザインが良い、というのとは違う。Bang & Olfsen のように、音も良いかもしれないが、その音の良さよりもデザインの良さが先に立つものとは違うのだ。時には無雑作に、そこらにある材料を貼りあわせたようなものが、良いツラをしていたりする。上記の RNHP などもその例だ。いかにもプロ用の、むしろ実用を考えた、美しいとはお世辞にも言えないが、しかしその佇まいはいかにも良い音が出そうだ。それで聴きたいと思ったわけである。

 このケーブルもそれだった。車載用だからアース線がついている。ごつごつした太いシースがからまっている。ツラがいいというだけでなく、オーラまでたちのぼっている。まったく前後を考えず、気がついたときには、これでアース線の無いミニミニ・ケーブルができないか、とメールしていた。もちろんできる、車載用と同じ長さならいくらいくらと返事が来て、うーっと2日考えて注文した。ミニミニ・ケーブルはすでに Ladder7 に頼んで作ってもらったものがあり、もうこれ以上は要らないと思っていたことなど、すっかり忘れていた。

 それで作ったので写真をとりましたという記事がこれである。





 ステッドラーは日本支社が独自の製品、つまりブランドを借りた OEM をあれこれ出しているが、これはちゃんと本家から出たもので、さすがにデザイン、作りは一線を画す。お得意の三角軸で、この三角軸は他社も含めてこれまでで最高の握り具合である。これまで最高だったファーバー・カステルの Grip 2011や Lyra の Comfort Liner をも凌ぐ。握った瞬間に違いがわかり、書くにつれて、ますます良くなる。我ながらいい字が書ける。もう、がんがん書きたくなる。軸の太さ、表面加工、全体のバランス、すべて揃った傑作。芯径が 0.7 しかないのもよろしい。シャープペンシルの芯はすべからく 0.7mm であるべきだ。0.3mm など、人として使えるものではない。


 来年出るのを心待ちにしているのは final/REB がプロトタイプを REB fes に出していたイヤフォン。一つのボディでユニバーサルとカスタムを同時に可能というのがウリだそうだが、それよりもなによりも、音にやられてしまった。まるであたしのために作ってくれたような音、これまで聴いたどんなイヤフォンよりも良いと思える音、聴くのを絶対にやめたくない音なのだ。REB fes 02 で何の気なしに試聴して、とびあがった。

 もう一つ待っているのがあのアクセル・グレルが Drop とジョイントで作っているオープン・バックのヘッドフォン OAE-1。NDH30 もグレルが中心になって作ったというので聴いてみたものだ。今やわが家のオープン・タイプでは Stax SR-L300 Ltd と人気を二分している。NDH30は本来プロ用で、OAE-1はリスナー用だろうから、どう違うかも愉しみ。


 来年は上の二つ以外は今年買ったものをはじめ、手許にあるものをおちついて聴こう使おうと殊勝なことを心に決めたりもしているのだが、たぶん、またあれこれと新しいものに手を出してしまうのであろう。MEMS ドライバを使ったイヤフォンには期待している。Noble 製品の評判は良いが、Nuarl のものが出るのを待っている。根が新しもの好きなのは死ななきゃ治らない。(ゆ)

05月20日・金
 Astell&Kern SE180用交換 DACユニット SEM4着。

Astell&Kern SE180 SEM4 DAC Moon Silver [AK-SE180-SEM4-DAC-MS]
Astell&Kern SE180 SEM4 DAC Moon Silver [AK-SE180-SEM4-DAC-MS]

 楽天の公式ストアで予約したら、発売日の前に届く。早速交換して聴いてみる。聴くのはもちろんグレイトフル・デッドのライヴ音源。
 をを、ガルシアのギターの音が違う。SEM3 や SEM2 ではどこかキンキンする響きが入っていた。あれはやはり ESS のチップのキャラであったのだ。これは AKM で、まろやかな響きが耳に快い。ヴォーカルも滑らかでなまめかしい。ESS はコーラスなどの声の重なりはきれいに出すが、かすかだがやはりぎすぎすする感覚がどうしてもとれない。
 ただ、ドラムスが引込む感じもある。ESS ではかんかんに固まった底からどおんと湧いてくるのが、AKM だと硬い芯の周りをごく薄い空気がふわりととりまいている。ベースも ESS ではびんびんと弾かれるが、AKM では弾いた後の余韻がふくらむように聞える。
 全体としては文句なく AKM で、この SEM4 でようやく真打ち登場と思える。


##本日のグレイトフル・デッド
 05月20日には1967年から1995年まで4本のショウをしている。公式リリースは無し。

1. 1967 Continental Ballroom, Santa Clara, CA
 土曜日。共演 the Real thing、Autumn People。開演12時半。セット・リスト不明。
 共演の二つのバンドは不明。この名前で出てくるのは各々1970年代の別バンド。

2. 1973 Campus Stadium, University Of California, Santa Barbara, CA
 日曜日。当日5ドル。開演正午。ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ前座。三部構成。前座も含めれば8時間のショウ。
 DeadBase XI の Louis Woodbury によれば、〈China Cat Sunflower> I Know You Rider〉のジャムの途中でPAシステムに積んであったスピーカーの1台がガルシアのすぐ近くに落ちた。ガルシアがケーブルを引っぱったらしい。演奏はまったく途切れなかったが、たちまちクルーがわらわらと現れて、システムに異常がないか、点検した。太陽が西に沈んでゆくのに合わせて、〈Eyes Of The World〉が〈Stella Blue〉へと変わっていった。

3. 1992 Cal Expo Amphitheatre, Sacramento, CA
 水曜日。開演6時。このヴェニュー3日連続のランの中日。レックス財団ベネフィット。共演デヴィッド・グリスマン・クインテット、ヒエログリフィクス・アンサンブル、ファラオ・サンダース。
 このショウに股関節形成異常の手術を受けてギプスを嵌められたままの幼ない娘を連れていった人がいる。優先的に入場させてもらえて、施設のスタッフがお嬢さんとお嬢さん用に持ちこんだビーン・バッグ・チェアを運んでくれた。実に行き届いた世話を受けたそうな。

4. 1995 Sam Boyd Silver Bowl, Las Vegas, NV
 土曜日。30ドル。開演2時。The Dave Mathews Band 前座。このヴェニュー3日連続のランの中日。
 前日よりも良いショウの由。(ゆ)

0312日・土

 それにしても Bluemini R2R + HE-R9 で聴く Tidal YouTube の音がすばらしい。今のところ MQA 対応の DAC よりも良く、決定版になっている。MacBook Pro との Bluetooth 接続だが、まったく不満が無い。Zen Stream Bluemini R2R をつなぐのはやってみてもいいかもしれない。

 HiFiMAN Japan HE-R9 は国内販売しないのかと問い合わせたら、個別に取り寄せはできて、Bluemini R2R を付け、保証もするというので注文した。バランス・ケーブルは付かなかったが、それは別に調達できる。Bluemini R2R の方がこうなるとありがたい。しかし、個別対応するということは、国内で大々的に売るつもりは無いのかもしれない。



##本日のグレイトフル・デッド

 0312日には1966年から1992年まで6本のショウをしている。公式リリース1本。


1. 1966 Danish Center, Los Angeles, CA

 土曜日。セット・リストの全体像が判明している最も初期のショウ。期日・場所が判明している録音としても最も初期のもの。これより古い演奏で公式リリースされている録音は期日が不明だったり、場所が不明だったり、両方不明だったりする。なお、今のところ、この次に古いのはこの年0703日のフィルモア・オーディトリアムで、《30 Trips Around The Sun》の1本としてリリースされた。

 この日のセット・リストはDavid Lemiuex が提供したもので、当日の SBD に基く。ピコ・アシッド・テストと言われるが、場所がよくわからない。Pico Blvd はロサンゼルスを東西に貫く大きな通りの1本だが、長いこの通りのどこだったかがわからない。クローザーの〈Hey Little One〉〈I'm A King Bee > Caution〉が《Rare Cuts & Oddities 1966》でリリースされた。

 この日のセット・リストにあるほとんどの曲にとってこの日が記録上の初演となる。

Cream Puff War

Sittin' On Top Of The World

New Minglewood Blues

Cold Rain And Snow

Tastebud

Silver Threads And Golden Needles

It's All Over Now, Baby Blue

Good Lovin’

You Don't Have To Ask

On The Road Again

Next Time You See Me

I Know You Rider

Hey Little One

Stealin’

 この頃の録音によくある形で、左にヴォーカル、中央にドラムス、右にそれ以外の楽器が固まる。ガルシアのギターも右。録音そのものはクリア。おそらくアウズレィ・スタンリィによるものだろう。

 〈Hey Little One〉はガルシアのヴォーカルの、スロー・ブルーズ。ガルシアはもともとスローな曲をさらにゆっくりと歌う。熱唱。

 〈I'm A King Bee > Caution〉はピグペンのヴォーカルとハーモニカ。貫禄たっぷりのピグペンの声と歌を聴くと、ガルシアが熱唱するのもわかる気がする。おれだってこれくらいは歌えるぞ。ガルシアはピグペンが大好きだったようだが、自分は一歩退いてかれを立てるということはしなかったろう。しかし、むしろガルシアが熱唱するだけ、ピグペンの存在感の大きさがわかる。そして、そのことはガルシア自身わかっていたのではないか。だからこその熱唱でもあろう。

 ガルシアのギターは〈Hey Little One〉よりも〈I'm A King Bee〉の方がブルーズ・ギターの王道に近い。ではあるが、ブルーズ・ギターそのものではない。トンガった、いいギターだ。

 〈Caution〉は他のメンバーは "All you need" を叫ばない。この曲は一定の歌詞と形はあるが、半分以上即興から成る。これまで聴いた中では、おそらくは最も原型に近いこのヴァージョンがベスト。

 〈Caution〉の後、しばらく空白をおいて短かいリハーサルらしい録音が入っている。これが〈Stealin'〉だろうか。〈Caution〉の最後ではビル・グレアムがグレイトフル・デッドとピグペンに拍手を求めていて、この時の演奏はここで終っていることは明らか。


2. 1967 Whisky-A-Go-Go, San Francisco, CA

 日曜日。このヴェニュー7日連続の3日目。


3. 1969 Fillmore West, San Francisco, CA

 水曜日。サンフランシスコ州立大スト委員会のための資金集め。


4. 1981 Boston Garden, Boston, MA

 木曜日。水準の出来の由。


5. 1985 Berkeley Community Theatre, Berkeley, CA

 火曜日。開演7時半。このヴェニュー4本連続の3本目。


6. 1992 Nassau Veterans Memorial Coliseum, Uniondale, NY

 木曜日。開演7時半。このヴェニュー3日連続の中日。ブルース・ホーンスビィ参加。第二部が良い由。(ゆ)

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0216日・水

 Tidal Master 音源がどう聞えるか、各種設定でチェック。

イ。AirPlay M11Pro に飛ばし、DSD変換で聴く。

ロ。有線で DenAmp

ハ。有線で hip-dac

ニ。Bluemini R2R で無線。

 Bluemini R2R を試すためもあり、ヘッドフォンは当然 HE-R9。有線は3.5mm のシングルエンド。

 結果はこの順番の逆に音がいい。MQA レンダラーを備えた hip-dac の音がいいのは当然だが、Bluemini R2R は正直驚いた。しかも単に音がいいだけでなく、愉しく聴かせる。有線に比べると、人工的に作っている感覚が、ごくわずかながら滲む。プラシーボかもしれないが、無いことにはできない。しかし、それが気にならない。むしろ、実にうまく演出している。final ZE3000 が、無線にするためにアンプを備えていることで、上流の条件に左右されない音質を保っていることが指摘されていた。そのことにも通じる。つまり、最終的な音は Bluemini R2R で作られていて、それが直接ヘッドフォンに入る。音の鮮度が高い。そして、そこで理想とされている音の素姓がいい。まっとうな、生演奏をベストとし、それに近づける努力がなされた音だ。うーん、HiFiMAN、恐るべし。Edition XS にこれが使えるとはどこにも書いてないのだが、こうなると、Bluemini R2R が使えることは、HiFiMAN のヘッドフォンの場合、必須になってくる。

 一方、Himalaya DAC を備えた外付の、汎用の DAC/amp も気になる。



##本日のグレイトフル・デッド

 0216日には1982年と88年の2本のショウをしている。公式リリースは無し。


1. 1982 Warfield Theatre, San Francisco, CA

 このヴェニュー2日連続の初日。この年最初のショウ。25ドル。開演8時。ここから21日までサンディエゴ、ロサンゼルスと回る。

 1982年のショウは計61本とやや減り、レパートリィは110曲。新曲としてはまず〈Touch of Grey〉。5年後、《In The Dark》に収録、シングルカットされて、デッドにとって最初で最後のトップ10ヒットとなる曲だが、ニコラス・メリウェザーによれば、元来ガルシアのつもりではコカインから覚めた後の宿酔の感覚を歌ったもの。歌詞はデッド演奏のものと、ハンター演奏のもので複数のヴァージョンがある。

 ハンター&ガルシアは〈West L. A. Fadeaway〉〈Keep Your Day Job〉も投げ入れる。後者はデッドヘッドの反発でレパートリィからとりさげられた。

 バーロゥ&ウィアは〈Throwing Stone〉を披露し、以後、定番となる。


2. 1988 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 このヴェニュー7本連続の3本目。ドクター・ジョン前座。開演7時。

 この年、デッドは働いている。4回のツアーで全米を回り、20の州で80本のショウを行う。チケット販売数は130万枚。2,860万ドルを稼いで、アメリカで4位となる。レパートリィは131曲。新曲で最も目立つのはウィアが Gerrit Graham と共作した〈Victim or the Crime〉。後に荘厳な曲となって、最後まで演奏された。

 ハンター&ガルシアは〈Foolish Heart〉〈Believe It Or Not〉〈Built To Last〉を発表するが、最初のものを除いて、早々にレパートリィから落ちる。

 ミドランドはバーロゥと組んで〈Blow Away〉〈Gentlemen, Start Your Engines〉を書き、単独で娘のための子守唄〈I Will Take You Home〉を書く。ミドランドの在生中はどれも定期的に演奏された。

 歌の話題としては0903日、メリーランド州ランドーヴァーで突如7年ぶり、そして最後に〈Ripple〉が演奏された。1970年にデビューし、誰もが認める名曲にもかかわらず、わずか41回しか演奏されず、デッドヘッドたちが最も生で聴きたい曲の一つになっていた。この時の演奏は、病で死の床にあったデッドヘッドからのリクエストによる。(ゆ)


0205日・土

 人間の耳は正直なもので、本質的に必要でないものは無くてもちゃんと聞きとることができる。空間オーディオなるものも、一時的に夢中になったり、中毒したりすることはあっても、人間の聴覚体験を一新することは無い。

 2日ぶりにインターバル速歩散歩すると、えらく気持ちがよい。やらないと調子が悪いところまではまだだが、やると気分爽快、体が軽くなったように感じるまでになってきた。

 夕方、試すと Tidal は問題なく使える。サブスクリプションが切れてるぞと出たあれは何だったのか。

 久しぶりに denAmp/Phone を使ってみる。バスパワーで CS-R1 で聴いて、いや、すばらしい。hip-dac に劣らない。MQA のマスター音源ではさすがに違いがあるが、比べなければ、全然問題ない。HiFi Master の違いもしっかり出す。この二つがあれば、もう他に USB-DAC は要らない。denAmp は販売休止中だが、春には再開するらしい。

 T60RP でも試す。音量ノブはさすがに正午まで上げるが、しかし、がっちりと鳴らす。バスパワーのくせに、何がどうなっているのか。中身は何かは明かしていないし、開ける気もないが、このサイズだから DACチップにオペアンプのはずだ。DAC チップは Cirrus だろうか。

 伝聴研の傳田さんは、あれだけ見事な自然音録音ができる人だから、耳は抜群だし、自分自身ミュージシャンで、生音も十分知っている。おかしなものは作るはずがない。あそこのものはどれも音がいいが、それにしても、denAmp は凄い。ヘッドフォン祭で一度、これを外付にして DAP と組み合わせている人を見たことがある。これは音がいいですよね、と盛り上がった。


 溜まっていたリスニング候補の音源を Tidal でざっと聴く。アルバムの各々冒頭のトラック。

Marcin Wasilewski Trio, ECM

En attendant
Marcin Wasilewski Trio
ECM
2021-09-10


Ayumi Tanaka, Subaqueous Silence, ECM



Tim Berne & Gregg Belisle-Chi, Mars

Mars
Berne, Tim
Intakt
2022-01-21


Undercurrent Orchestra, Everything Seems Different


Jorge Rossy, Robert Landfermann, Jeff Ballard – Puerta, ECM

Puerta
Jorge Rossy
ECM
2021-11-05


Maria-Christian Harper, Gluten Free


Chien Chien Lu, The Path

ザ・パス
チェンチェン・ルー
Pヴァイン・レコード
2021-08-04


Banquet Of Boxes: a Celebration of the English Melodeon

Banquet of Boxes-Celebration of the English Melode
Banquet of Boxes-Celebration of the English Melode
Imports
2011-05-10


Elton Dean Quartet, They All Be On This Old Road

They All Be On This Old Road: The Seven Dials Concert
Elton Quartet Dean
Ogun Records
2021-11-26

 

 どれも一通り聴く価値がある。

 Maria-Christian Harper は面白い。名前の通り、ハーパーで、良い意味でアヴァンギャルド。ヴィブラフォンの Chien Chien Lu も良い。Badi AssadArooj Aftab は文句無い。Thea Gilmore はもう少し聽いてみる。Saadet Turkoz & Beat Keller はウイグル族の危難に反応した録音。伝統かつ前衛。とりあえず聴かねばならない。

 Saul Rose Tidal で検索したら、 Banquet Of Boxes: a Celebration of the English Melodeon というアルバムがヒット。思わず顔がほころぶ。 オリジナル録音のオムニバスかな。これは CD を探そう。

 エルトン・ジョンの芸名のもとになった Elton Dean のカルテットも面白い。キース・ティペットが大活躍。こういう音はイングランドでしか出ないだろう。



##本日のグレイトフル・デッド

 0205日には1966年から1989年まで5本のショウをしている。公式リリースは2本。


1. 1966 The Questing Beast, Berkeley, CA%

 テープが残っているので、各種サイトではショウとしてリストアップしているが、内容はリハーサル。〈Viola Lee Blues〉を何度もやっている由。


2. 1969 Soldier's And Sailors Memorial Hall, Kansas City, KS

 アイアン・バタフライの前座として1時間強の演奏。セット・リストはこの年の典型。


3. 1970 Fillmore West, San Francisco, CA

 3ドル。4日連続のランの初日。共演タジ・マハル。こういう組合せでコンサートを企画するのがビル・グレアムの面白いところ。

 この4日間はいずれも一本勝負のショウ。オープナーの〈Seasons Of My Heart〉と〈The Race Is On〉でガルシアはペダルスティールを弾いている。

 3曲目〈Big Boss Man〉が《History Of The Grateful Dead, Vol. 1 (Bear's Choice)》でリリースされた。ピグペンの声はまだまだ衰えてはいない。


4. 1978 Uni-Dome, University of North Iowa, Cedar Falls, IA

 オープナー〈Bertha> Good Lovin'〉とクローザー〈Deal〉を含む第一部の5曲と第二部8曲全部が《Dick's Picks, Vol. 18》でリリースされた。計1時間半。

 3日のショウに並ぶすばらしい出来。全体としてのレベルは3日の方が若干上かとも思うが、こちらの第二部も強力。〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉がまずはハイライト。特に〈Scarlet Begonias〉後半のガルシアのギターを核としてバンド全体が集団即興になるところは、デッド体験の醍醐味の一つ。そして〈Truckin'> The Other One> Wharf Rat> Around and Around〉と続くメドレーを聴くのは、この世の幸せ。〈Wharf Rat〉はいつもの囁きかけるような、どちらかというとウェットなスタイルとはがらりと変わり、言葉をほおり出すようなドライな態度をとる。喉の調子がよくなく、囁き声が出せなかったせいかもしれないが、怪我の功名で、3つのパートでどん底から天空に飛翔するこの歌、とりわけパート3にはまことにふさわしい。ガルシアはギターから錆ついた響きをたたき出し、明るいマイナー調のフレーズを聴かせる。〈Around and Around〉でもガルシアが延々とギターを弾いているので、ウィアがなかなか歌いだせない。この歌は197606月の大休止からの復帰後、はじめゆったりと入り、途中でポンとテンポを上げる形になる。ここではその前半のゆったりパートのタメの取り方の念が入っているのと、後半、ウィアとドナの声が小さくなるのが早いのとで、その後の爆発のインパクトが大きい。実に実にカッコいい。

 DeadBase XI での Andy Preston のレポートによれば、〈Truckin'〉の前の音は、ステージ両側に駐車したセミトラックに仕掛けられた爆竹のようなもので、バックファイヤのつもりらしい。続いてエンジン音が大きくなるとともに、バンドは演奏に突入した。

 会場は屋内フットボール場で、片方の50ヤード・ラインにステージが設けられ、残り150ヤードが椅子もなく、解放されていて、聴衆は自由に踊れた。音がよく響き、バンドを迎えた歓声の大きさに、レシュが「実際の人数以上の音だね」とコメントした。

 第二部オープナーの〈Samson And Delilah〉で、ウィアのヴォーカル・マイクが入らず、マイクを交換する間、バンドは即興を続けた。ガルシアは苛立って、ギター・ソロが獰猛になった。マイクの面倒をみていたクルーがガルシアを見て、お手上げというように両手を挙げたので、ガルシアはギターでクルーの心臓を狙い、機関銃の音を立ててみせた。その後、マイクはきちんと作動して、歌は続いた。

 さらに機器のトラブルがあり、ウィアがかつての「黄色い犬の話」に匹敵する「木樵の話」をして、時間を稼いだ。もっともその冗談はいささか混みいっていて、聴衆の反応は鈍かった。

 この年、アイオワは百年に一度の寒い冬。


5. 1989 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 開演7時。このヴェニュー3日連続の初日。この年最初のショウ。春節記念。この3日間に続いて、ロサンゼルスで3日連続をした後、1ヶ月休んで3月下旬、アトランタから春のツアーに出る。

 バーロゥ&ミドランドの〈We Can Run〉とハンター&ガルシアの〈Standing On The Moon〉の初演。

 〈We Can Run〉は19900710日まで計22回演奏。スタジオ版は《Built To Last》に収録。

 〈Standing On The Moon〉も同じく《Built To Last》所収で、19950630日まで、計75回演奏。これについてハンターは、いきなり頭に浮かんだのをとにかく書き留めたので、何の修正も改訂もしていない、と言っている。ガルシアはブレア・ジャクソンのインタヴューに答えて、理屈ではなく、とにかくこの歌が好きで、この歌が自分の口から出てゆくのが歓びなのだ、それはできるだけそのまま出るにまかせて、余計なことはしたくない、と言う。(ゆ)


9月28日・火

 FiiO K9ProTHX-AAA アンプ、AK4499採用で直販9万を切る DAC/amp4pinXLR4.43.5のヘッドフォン・アウト、3pinXLR x 2 のラインアウト。Bluetooth はあるが、WiFi は無し。惜しいのう。音は聴いてみたいが。

 watchOS 8.0 になってから、登った階段の階数の数え方が鈍い。まあ、最近、階段の数字は気にしていないからいいようなものだが、気にならないわけでもない。

 今日はつくつく法師をついに聞かない。今年の蝉も終ったか。


##9月28日のグレイトフル・デッド

 1972年から1994年まで5本のショウをしている。うち公式リリースは2本。


1. 1972 Stanley Theatre, Jersey City, NJ

 3日連続最終日。料金5.50ドル。出来としては前夜以上という声もある。冒頭、1、2曲、マイクの不調で声が聞えなかったらしく、そのために公式リリースが見送られたのだろうという説あり。


2. 1975 Golden Gate Park, San Francisco

 ライヴ活動休止中のこの年行った4本のライヴの最後のもの。《30 Trips Around The Sun》の1本としてリリースされた。

 ゴールデンゲイト公園はサンフランシスコ市の北端に近く、短かい西端を太平洋に面し、真東に細長く延びたほぼ長方形の市立公園。ニューヨークのセントラル・パークとよく比較されるが、こちらの方が2割ほど大きい。1860年代から構想され、元々は砂浜と砂丘だったところに大量の植林をして19世紀末にかけて整備される。この公園での音楽イベントとしては、2001年に始まった Hardly Strictly Bluegrass が有名。またポロフィールドでは後にビル・グレアムとガルシア各々の追悼コンサートが開かれた。

 リンドレー・メドウ Lindley Meadows は中心からやや西寄り、ポロフィールドの北にある、東西に細長い一角。ここでのデッドのショウは記録ではこれ以外には 1967-08-28 のみ。この時は Big Brother & the Holding Company との "Party For Chocolate George" と称された Chcolate George なる人物の追悼イベントで月曜午後1時という時刻だった。Deadlist では2曲だけ演奏したようだ。

 60年代にデッドが気が向くとフリー・コンサートを屢々行なったのは、ゴールデンゲイト公園の本体から東へ延びる The Panhandle と呼ばれる部分で、このすぐ南がハイト・アシュベリーになる。

 この公園についてガルシアは JERRY ON JERRY, 2015 のインタヴューの中で、様々な植生がシームレスに変化しながら、気がつくとまったく別の世界になっている様に驚嘆し、これを大変好んでいることを語っている。デッドがショウの後半で曲をシームレスにつないでゆくのは、これをエミュレートしているとも言う。デッド発祥の地サンフランシスコの中でも揺籃時代のデッドを育てた公園とも言える。一方で、ガルシアはここでマリファナ所持の廉で逮捕されてもいる。公園内に駐車した車の中にいたのだが、この車の車検が切れていることに気がついた警官に尋問された。

 このコンサートは San Francisco Unity Fair の一環。1975年9月2728日に開催され、45NPOが参加し、デッドとジェファーソン・スターシップの無料コンサートがあり、他にもパフォーマンスが多数あって、4〜5万人が集まったと言われる。このイベントの成功から翌年 Unity Foundation が設立され、現在に至っている。

 冒頭〈Help on the Way> Slipknot!〉と来て、不定形のジャムから〈Help on the Way〉のモチーフが出て演奏が中断する。ウィアがちょっとトラブルがある、と言い、レシュが医者はいないか、バックステージで赤ん坊が生まれそうだ、と続ける。ガルシアがギターの弦を切ったこともあるようだ。次に〈Franklin's Tower〉ではなく、〈The Music Never Stopped〉になり、しばらくすると「サウンド・ミキサーの後ろに担架をもってきてくれ」と言う声が聞える。なお、この曲から入るハーモニカは Matthew Kelly とされている。

 さらに〈They Love Each Other〉〈Beat It On Down the Line〉とやって、その次に〈Franklin's Tower〉にもどる。

 〈They Love Each Other〉はここから姿ががらりと変わる。1973-02-09初演で、73年中はかなりの回数演奏されるが、74年には1回だけ。次がこの日の演奏で、ブリッジがなくなり、テンポもぐんと遅くなり、鍵盤のソロが加わる。以後は定番となり、1994-09-27まで、計227回演奏。回数順では59位。

 休憩無しの1本通しだったらしい。後半はすべてつながっている。CDでは全体で100分強。

 こういうフリー・コンサートの場合、デッドが出ると発表されないことも多かったらしい。問い合わせても、曖昧な返事しかもらえなかったそうな。


3. 1976 Onondaga County War Memorial, Syracuse, NY

 《Dick’s Picks, Vol. 20》で2曲を除き、リリースされた。このアルバムはCD4枚組で、9月25日と28日のショウのカップリング。

 後半は〈Playing in the Band〉で全体がはさまれる形。PITB が終らずに〈The Wheel〉に続き、後半をやって〈Dancing in the Street〉から PITB にもどって大団円。アンコールに〈Johnny B. Goode〉。こんな風に、時には翌日、さらには数日かそれ以上間が空いてから戻るのは、この曲だけではある。そういうことが可能な曲がこれだけ、ということではあろう。

 〈Samson and Delilah〉の後の無名のジャムと、〈Eyes of the World〉の後、〈Orange Tango Jam〉とCDではトラック名がついているジャムがすばらしい。前の曲との明瞭なつながりは無いのだが、どこか底の方ではつながっている。ジャズのソロがテーマとはほとんど無縁の展開をするのとはまた違う。ここではピアノ、ドラムス、ウィアのリズム・セクションの土台の上でガルシアのギターとレシュのベースがあるいはからみ合い、またつき離して不定形な、しかし快いソロを展開する。ポリフォニーとはまた別のデッド流ジャムの真髄。

 この会場でデッドは1971年から1982年まで6回演奏している。現在は Upstate Medical University Arena at Onondaga County War Memorial という名称の多目的アリーナで収容人数は7,0001951年オープンで、2度改修されて現役。国定史跡。コンサート会場としても頻繁に使われ、プレスリー、クィーン、キッス、ブルース・スプリングスティーン、エアロスミスなどの他、ディランの1965年エレクトリック・ツアーの一環でもあった。ちなみに COVID-19 の検査、ワクチン接種会場にも使われた。


4. 1993 Boston Garden, Boston, MA

 6本連続の4本目。ほとんど70年代前半と見まごうばかりのセット・リスト。


5. 1994 Boston Garden, Boston, MA

 6本連続の2本目。30ドル、7時半開演のチケットはもぎられた形跡がない。

 会場はニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン三代目の「支店」として1928年にオープンしたアリーナで、本家は代替わりしたが、こちらは1995年9月まで存続した。1998年3月に取り壊された。収容人数はコンサートで16,000弱。デッドは1973年に初めてここで演奏し、1982年までは単発だが、1991年、1993年、1994年と三度、6本連続のレジデンス公演を行った。計24回演奏している。うち、1974年、1991年、1994年のショウから1本ずつの完全版が出ている。

 1995年9月にも6本連続のショウが予定されていて、千秋楽19日のチケットには〈Samson & Delilah〉の歌詞から "lets tear this old building down" が引用されていた、と Wikipedia にある。(ゆ)


9月16日・木

 ARCAM 再上陸はまあ朗報。選択肢が増えるのはいいことだ。どこか NAIM も入れてくれ。あそこの Uniti Atom Headphone Edition は聴いてみたい。これぞネットワーク・プレーヤー本来の姿。

 イヤフォンよりヘッドフォン向け、というのは Focal と同じ親会社の傘下で、Focal のサイトにも Focal 向けに作ったとニュースにあげてるくらいだから、当然ではあろう。Focal の輸入元のラックスマンが NAIM もやればいい、と素人は思う。一緒に売れるだろ。

 Mytek Brooklyn Bridge も II で AirPlay に対応したから、これでもいい。Brooklyn Bridge 初代の値下げは在庫をはいて、Brooklyn Bridget II を投入するためと邪推する。


##本日のグレイトフル・デッド

 9月16日は1966年から1994年まで9本のショウをしている。うち公式リリースがあるのは4本。


1. 1966 Avalon Ballroom, San Francisco, CA

 このショウのためのポスターに初めてケリィ&マウスの「薔薇と骸骨」のイメージが使われた。後に1971年の通称《Skull & Roses》アルバムのジャケットとなったもの。

 かつて《Vintage Dead》《Historic Dead》という「非公式」LPが Sunflower Records という MGM の子会社から出ていて、そこに一部が収録されたそうな。「非公式」というのは、バンドはこの音源のリリースについてレーベルと全面的に合意していたわけではない、ということらしい。収録されたショウについても翌09-1709-11との混同もあるようだ。また、このLPからのテープも出回っている由。

skull&rosesposter

2. 1972 Boston Music Hall, Boston, MA

 同じヴェニューの2日目。前半最後の〈Playing in the Band〉が2014年と2020年の《30 Days of Dead》で、後半6曲目〈Dark Star > Brokendown Palace〉のメドレーが2016年の《30 Days of Dead》でリリースされた。《30 Days of Dead》でのリリースが将来のより正式な形でのリリースを約束するわけではないが、これは期待できそうだ、となんとなく感じる。


3. 1978 Sphinx Theatre, Giza, Egypt

 ピラミッドの下、スフィンクスに見守られての3日間の最終日。《Rocking The Cradle》本体に8割、ボーナス・ディスクも含めれば2曲を除いて収められた。3日間の中ではベストのショウだったことは間違いない。ビデオも収録され、CD本体と一緒に入っている。

 全体におおらかでゆったりとしたテンポなのは、エジプトのご利益か。演奏はかなり良い。ヴォーカルには芯があるし、演奏も気合いが入っている。これならば当時であっても十分ライヴ・アルバムとして出せたと思うけど、ガルシアは何が気に入らなかったのか。

 初日、2日目から恢復したとすれば、さすがのデッドもスフィンクスに睨まれて平常心を取り戻すのに3日かかったということか。

 聴衆のほとんどはバンドを追ってアメリカやヨーロッパから飛んでいった、あるいはたまたま近隣にいたデッドヘッドだったようだが、中にはカイロで英語を習っていた教師たちに連れられて見に行った12歳のエジプト人もいた。わずかにいたエジプト人たちも踊りまくっていたそうだ。


4. 1987 Madison Square Garden, NY

 5本連続の2本め。前半6曲め〈High Time〉が2019年の、その次の前半最後〈Let It Grow> Don’t Ease Mi In〉が2013年の、後半6曲めの〈He’s Gone〉が2020年の《30 Days of Dead》で、それぞれリリースされた。

 〈Touch of Grey〉に続いて〈Scarlet Begonias〉単独というオープナー。


5. 1988 Madison Square Garden, New York , NY

 9本連続の3本め。ようやくエンジンがかかってきたらしい。あるいは意図的にスロースタートしたか。デッドといえども、同じ場所で11日間に9本やるのはたいへんだったろう。


6. 1990 Madison Square Garden, NY

 6本連続の3本め。《Dick’s Picks, Vol. 09》として全体がリリースされた。


7. 1991 Madison Square Garden, New York, NY

 9本連続の7本め。この MSG 9本連続は90年代のピークの一つらしい。


8. 1993 Madison Square Garden, New York , NY

 6本連続の初日。この日は土砂降りで、そのためオープナーはビートルズの〈Rain〉。


9. 1994 Shoreline Amphitheatre, Mountain View, CA

 3本連続の初日。良いショウらしい。

 このヴェニューは屋外のアンフィシアターで、ビル・グレアムが設計し、真上から見るとデッドのロゴ、中が真ん丸い頭蓋骨をかたどっている。1986年にオープンし、柿落しはデッドの予定だったが、ガルシアの昏睡で吹飛んだ。(ゆ)

Shoreline Amphitheatre

9月15日・水

 TEAC のネットワーク・プレーヤー NT-505-X は中途半端。まず WiFi が無い。したがって AirPlay も無し。無線は Bluetooth のみじゃあ、ネットワーク・プレーヤーとは言えんでしょう。これならやはり M11Pro の方がいいわな。デスクトップのオーディオには、むしろ、Bluetooth なんぞ切るくらいのガッツが欲しい。Bluetooth でスマホやイヤフォンを使ってる人間が、こんなデスクトップを使うか。音質優先なら Bluetooth はありえないのだから、媚でしかない。USBメモリ再生を付けるなら、SDカード・スロットをなぜ付けない? そちらの方がユーザは多いはず。もう一つ、ヘッドフォン端子が3.5mm4極というのも、意図不明。同時発表の UD-505-X には4.4mmバランスがあるのにさ。こういう文句をつけるのは、期待してるからですよ。せめて WiFi AirPlay に対応してくれれば、選択肢に入ってくるのに。TEAC はオープンリール・デッキの頃からの憧れなんだけどねえ。一時はカセット・デッキの Drogan を愛用してました。また TEAC 使いたいよ。

 バトラー、Parable 二部作へのN・K・ジェミシンの2018年の序文を訳す。序文なのに、思いっきりネタバレで、たぶん巻末に入れることになるだろうけど、ネタバレを恐れていては、ほんとに大事なことは書けない。でも、いや、いい文章だ。こういう文章にあたると、ジェミシン読むべし、と思う。


##本日のグレイトフル・デッド

 9月15日には1967年から1990年まで9本のショウをしている。公式リリースは2本。


1. 1967 Hollywood Bowl, Hollywood, CA

 ビル・グレアムが企画した "The San Francisco Scene in Los Angeles" と題された公演で、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーとジェファーソン・エアプレインが共演。ジェファーソン・エアプレインがトリ。ポスターの写真もジェファーソン・エアプレイン。

 8曲のセット・リストがある。


2. 1972 Boston Music Hall, Boston, MA

 秋の東部ツアー初日で2日連続同じヴェニューの初日。


3. 1973 Providence Civic Center, Providence, RI

 ここで2日連続の予定だったが、前日がキャンセルされた。料金5.50ドル。後半の一部でトランペットのジョー・エリスとサックスのマーティン・フィエロが参加。この時も前座がダグ・ザーム・バンドで、2人はそのメンバー。また《Wake Of The Flood》にも参加している。


4. 1978 Sphinx Theatre, Giza, Egypt

 スフィンクスとピラミッドのもとでの2日め。うち前半最後と後半冒頭の2曲が《Rocking The Cradle》に収録。ボーナス・ディスクまで含めれば後半からもう4曲収録。ボーナス・ディスクは持っておらん。この日もアンコール無し。

Rocking the Cradle: Egypt 1978 (W/Dvd)
Grateful Dead
Rhino / Wea
2008-10-06

 

 〈Stagger Lee〉はガルシアのヴォーカルは、ここぞというところでいきむのがいい。左のウィアのギターはアコースティックのように聞える。コーダがわざとらしい。休憩の宣言なし。聴衆の声がよく聞える。

 〈Jack Straw〉はいつもよりわずかに遅いテンポで丁寧に始まる。ドナがコーラスの真ん中を担当するのが新鮮。ガルシアのソロが終始コード・ストロークなのも珍しく、新鮮。


5. 1982 Capital Centre, Landover , MD

 料金12.50ドル。〈Touch of Grey〉初演。レコードになって、チャートのベスト10に入り、デッド唯一最大のヒットとなるのは5年後。〈Playing In The Band〉のオープナーは珍しい。


6. 1985 Devore Field, Southwestern College, Chula Vista, CA

 夏のツアーの千秋楽。料金15.00ドル。屋外フットボール・フィールドでの公演で開演午後2時。

 後半4曲目〈She Belongs To Me〉がデッドのディランをカヴァーしたライヴ音源集 Postcards Of The Hanging》に収録。ガルシアのヴォーカル。ガルシアの声がやけに若く聞える。ガルシアのソロも含め、演奏は全体にしっとりして、抒情味が勝っている。ガルシア自身の曲の抒情性とは違うどこか乾いた味。良いねえ。

Postcards Of Hanging : Songs Of Bob Dylan
GRATEFUL DEAD
Arista
2002-03-19

 

 この曲はこの年4月から11月まで9回演奏されたのみ。04-28, Frost Amphitheatre, Stanford University, Palo Alto, CA 演奏が《Garcia Plays Dylan》に、11-01, the Richmond Coliseum, Richmond, VA の演奏が《Dick's Picks, Vol. 21》に収録されている。

Garcia Plays Dylan: Ladder to the Stars
Garcia, Jerry
Rhino / Wea
2005-12-12

 

 1976年の復帰以降、デッドはディラン・ナンバーを頻繁にとりあげるようになる。全体としてかなり良い演奏で、ショウのハイライトになることも多い。ディランもデッドのカヴァーは好きで、それが1989年のツアーにつながる。ディランは他人のカヴァーはやらないが、ハンター&ガルシアの曲をどれか歌うのを一度くらいは聴いてみたくもある。


7. 1987 Madison Square Garden, New York, NY

 MSG 5本連続公演の初日。料金18.50ドル。珍しくもミドランドのリード・ヴォーカルで開幕。ディランのカヴァーが3曲。後半冒頭から China> Rider> Estimated> Eyes と並ぶ。


8. 1988 Madison Square Garden, New York , NY

 9本連続の2日め。あまり良くなかったらしい。後半冒頭にレシュが「息子が rock'n'roll と初めて言ったぜ」とアナウンス。


9. 1990 Madison Square Garden, New York , NY

 6本連続の2日め。ブルース・ホーンスビィが初めて参加。グランド・ピアノを弾く。


 「21世紀をサヴァイヴするためのグレイトフル・デッド入門」のために、デッドのライヴ音源を延々と聴くわけですが、それには何を使っているのか。

 あたしはスピーカーではまず聴かず、もっぱらヘッドフォンとイヤフォンで聴いてます。基本的に家ではヘッドフォン、外ではイヤフォン。なんだかんだで、知らないうちに増えていて、数えてみるとヘッドフォンは8本、イヤフォンも同じくらい。細かくて、正確にはもうわからん。取っ替え引っ替え使うわけですが、みんな均等にというのではなく、自分の中でも流行り廃りがあります。

 デッドのある曲を手許に溜まってきたライヴ音源の公式リリースから拾って聴いてゆくのは少々手間がかかります。一つのフォルダにまとめてこれを次々に再生してゆくのは、いつも使っている DAP は案外不得手で、これまでの経験で一番楽なのは MacBook Pro で再生する方法。ただし、Audirvana Plus はこういう時ほとんど役に立ちません。まずまず音が良くて使い勝手が良いのは Decibel。

 MacBook Pro から Chord Mojo に USB で出し、Analog Square Paper 製 STAX 専用真空管ハイブリッド・アンプで SR-L300 というのが最近の昼間の定番。だったんですが、選曲も佳境に入ったところで、朝、かぶろうとしたら SR-L300 のプラスティックのヘッドバンドがバキッと音を立てて真っ二つ。

SR-L300broken


 幸い、問い合わせたら修理できそうなのでほっとしました。ヘッドバンド交換だけですから、そんなに高くはないんじゃないかと期待。1本聴くごとに外したりかぶったりしていたからかなあ。

 マス工房 model 428 が来て以来、これで聴くことも多いんですが、デッドのライヴ音源は真空管をかませて聴きたいんですよ。デジタルでしか出ていないこの音源を聴くために『ステレオ』編集部が作った真空管ハーモナイザーをかますと、ヴォーカルやガルシアのギターがそれは艷っぽくなる。ところが 428 は入力がペンタコンだけなので、ハーモナイザーの RCA 出力からつなぐケーブルがまだありません。

 それと Decibel は最近アップデートしたんですが、それからどうも今ひとつ音にキレがなくなった感じ。ハイレゾ音源もちゃんと認識しないようだし。というんで、手持ちの機材をあれこれ組み合わせて落ちついたのがこのセット。

OPUS+Mojo+Phantasy


 OPUS#1s からは Reqst の光ケーブルで Mojo につなぎ、Mojo と PHAntasy はラダーケーブル製ラダー三段のミニ・ミニ・ケーブル。

 Listen Pro は Focal のヘッドフォンを何か使ってみたくて買ってみたもの。現行製品では一番新しくて、ダントツで安い。これはすばらしいです。箱から出したてで、100時間鳴らした DT1770 Pro とタメを張ります。DT1770 よりもすっきりした音で、この辺はドイツとフランスの違いですかね。Listen Pro に比べると DT1770 の方が粘りがあり、音場が丸い。Listen Pro の音場は広がりと奥行があって、円盤型。分解能も高いですが、細かいところまでムキになって出すのではなくて、各々の音量と位置をさりげなく、適確に示します。入っている音は全部出ているけれど、本来のバランスは崩れず、音楽に没入できます。ギアとして存在を主張するのではなくて、音楽を聴くツールに徹してます。モニターというのはそういうものでしょう。

 DT1770 と比べてどちらがベターというよりは音の性格の差でしょう。オールマンなら DT1770 で、デッドなら Listen Pro というと近いか。フェアポートなら DT1770 で、スティーライなら Listen Pro かな。まだ、試してないけど。ジャズならハードパッブは DT1770 で、ECM は断然 Listen Pro。ルーツ・ミュージックだと、ソロの歌や演奏は DT1770 の方が案外合うかもしれませんね。でもハイランド・パイプのピブロックのような倍音系は Listen Pro で聴きたい。

 先ほどの組合せに戻ると、ヘッドフォンやイヤフォンのテストに使っているアウラの〈アヴェ・マリア〉を、きちんと聴かせてくれました。ベスト盤の《ルミナーレ》にも入っているこの曲は、ソプラノ3人がめいっぱいハイトーンで唄っていて、たいていのヘッドフォン、イヤフォンでは、少なくとも2ヶ所でビビります。スピーカーではまったく問題ないんですが、ソプラノが上の方で2人、3人と重なるところは、小さな振動板にはきついんでしょう。

ルミナーレ
アウラ
toera classics
2017-06-25



 いわゆる「カッシーニのアヴェ・マリア」と呼ばれるこの曲は、実際はソ連の作曲家 Vladimir Vavilov の作品で、ただ「アヴェ・マリア」を繰り返すだけですけど、アウラのこのヴァージョンでは歌詞を加えていて、そこがまた良い。オーディオ・テスト用だけではなく、演唱としてすばらしいので、ヘッドフォン・マニアの方は持っていて損は無い曲でしょう。

 というわけで、今日の本番ではこれを使って PHAntasy の代わりに真空管ハーモナイザーを経由して店のPAにつないでみようと思ってます。問題は音量調節なんですが、それは現場で担当の方と相談。(ゆ)

 今回はウィルソンおやじが張り切って、いろいろやったり売ったりしようというので、てんてこまいしてます。

 Jaben Online 日本語サイトの作成も手伝っているし、『ヘッドフォンブック2013』の英訳も同時進行で、こんなに忙しい思いをしているのは、もう何年もありません。

 とゆーことで、Jaben 関係のお知らせとか情報とかは Facebook に移します。Jaben 関連以外のハードウェア、たとえば昨年秋に予約を入れて以来、心待ちにしている CEntrance の HiFi-M8 とかについてはこちらに書きますが、GoVibe、Hippo、Phonak その他、Jaben が扱うモノについては Facebook の Jaben Japan ページをご覧ください。今回のヘッドフォン祭で売ったり展示したりするモノについてもそちらに書きます。

 それにしても KEF がヘッドフォン/イヤフォンを出したのには驚いた。(ゆ)

 昨日は今年初めて燕を見ました。今年も見られて嬉しい。

 恥も外聞もない宣伝です。

 本日、オーロラサウンドさんと Jaben Network の共同で「Jaben バランス・スペシャル・セット1」のプレス・リリースを出しました。

 先だっての「ポタ研」でお披露目したセットです。ベイヤーダイナミック T1 と T5p をバランス仕様にモディファイしたものと、これ専用にオーロラサウンドさんにチューニングしていただいたバランス・ヘッドフォン・アンプ BDR-HPA-02 を組み合わせ、さらに CEntrance DACport も添えました。下の写真には DACport が映ってませんが、ご想像ください。

bbotmt

 ちなみに、T1、T5p のバランス化は製品にするまではウィルソンおやじが自分でやってます。

 本製品はヘッドフォンとアンプで構成されており下記の組合せがあります。

 ヘッドフォンは Beyerdynamic 社の T5p(32Ω)とT1(600Ω)を用意いたしました。それぞれに専用のバランスドライブができるよう改造を施し特性の4ピンXLRの高信頼性コネクタを装備しました。さらにオプションとしてクライオ処理を施した交換ケーブルも用意いたしました。

 ヘッドフォンアンプ “BDR-HPA-02” は JABEN の要求により本ヘッドフォン用にオーロラサウンが特別にチューニングしたもので4ピンXLRジャックによるバランス駆動、また標準フォーンプラグによるノーマル駆動ができるようになっています。また T5p と T1 というインピーダンスや感度が異なるヘッドフォンも適正な音量で駆動できるようにゲイン切り変えスイッチを(High/Low)を備えています。

BDR-HPA02 仕様
入力           RCA アンバランスラインレベル信号
出力           4pinXLRバランスジャック x1  標準フォ-ンジャック x1
周波数特性        5Hz -80kHz
全高調波歪率THD+N   0.0046%
最大出力                     1500mW   x2   @45Ω負荷  Highゲイン時
ドライブ可能ヘッドフォン 16Ω -  600Ω     High/Low ゲイン入り変え
電源           AC100V 50-60Hz
大きさ          W230mm x D180mm x H80mm     突起物含まず


 アンプ側のバランス・コネクタは 4pin XLR 端子で、これに合わせたケーブルも同梱しています。オプションのクライオ・ケーブルの価格はまだ未定です。すみません。

 販売は 05/20 から Jaben Online の日本語ページをオープンして開始します。価格は 248,000円。税込、送料込みです。なお、念のために、これは T1 か T5p のどちらかのセットの価格です。両方欲しい、という方はご相談ください。

 もちろん、05/11 の春のヘッドフォン祭2013でも展示し、会場特価で販売します。展示は Jaben のブースとオーロラサウンドさんのブースの両方でします。

 もうひとつ、小生はあくまでも「代理人」で「代理店」ではありません。あたしには「代理店」をやれる能力も資格もございません。注文は Jaben Online で、つまり直販です。細かいことかもしれませんが、念のため。

 ということでひとつ、よしなに。

 それと、これからこの製品を含め Jaben Online ショップに関しては、Facebook の専用ページでサポートします。ご連絡もそちらにいただきますよう、お願いします。
(ゆ)

 昨日は半日、Jaben のウィルソンおやじにつきあっていました。新宿の伊勢丹で昼食を食べた際、おやじが携帯を忘れ、あわててもどってみたら、レストラン入口の椅子の上にちゃんとのっかっていました。30分はたっていたでしょう。こんなことは日本でしかありえない、とおやじはあんびりばぼーを連発し、大喜びで帰っていきました。

 先週のポタ研では、Jaben のブースにお越しいただき、御礼申しあげます。

 1週間前まではまったく参加を予定していなかったので、まるで準備不足だったんですが、展示したモノはどれも好評で、ありがたく楽しませていただきました。それでも熱気にあてられたか、ヘッドフォン祭のときよりもくたびれました。

 今回の展示の目玉はまず Hippo ProOne で、ワンBAドライバーのイヤフォンです。これも木曜日の夜、前触れもなくメールでポスターが送られてきて、これをプリント・アウトしてもってきてくれ。金曜日に無印良品でプラスティックのフレームを買って入れたのが展示したもの。サンプルも1セットしかなく、おやじが持って帰ったくらいのホヤホヤの製品です。それでも来月には発売予定です。

hippopro1


 試聴された方にはいずれもかなり好評で、1BAドライバーの音とは思えない、というありがたい評価もいただきました。価格は1万円前後の予定です。この価格に驚かれる方も多かったです。なお、ポスターにあるコンプライ流のフォーム・チップがデフォルトですが、シリコン・チップも用意されてます。

 2、3時間聴いたかぎりでは、中高域にフォーカスして、低域もしっかり出してくれます。前面にあるパートや楽器にスポットを当てながら、バランスもよくとれている、というところ。モニター的というよりは、鑑賞用。うたものや生楽器のアンサンブル向きかな。クラシックなら交響曲よりは協奏曲でしょう。もっとも癖がない、すなおな音なので、たいていの音楽はOK。ふだん重低音たっぷりのヘッドフォン、イヤフォンで聴いている音楽も、意外な面を発見できるかもしれません。

 ふたつめは xDuoo のポータブル・アンプ2機種。

 XD-01 は光、同軸、USBのデジタル入力を備えた DAC &アンプで、主に AK100 などのデジタル出力のあるプレーヤー用です。サイズも AK100 よりすこし大きいくらいで厚さも1センチほど。ゲイン切替、アナログ入力もあります。充電は USB 経由。

 XP-01 は Android 用のマイクロ USB 入力のある DAC &アンプ。こちらは厚さは XD-01 と同じで、サイズは一回り大きいです。Android のスマホに合わせてあるようです。

 これも Jaben で扱うことは決まっていますが、価格などは未定。そんなに高くはなく、たぶんどちらも300ドル以下になるだろうとのこと。

 これについてはささきさんのブログをご参照ください。ささきさんは AK100 で試聴されて、驚いてました。ぼくはこのあたりは無知なので、これから勉強します。これまで Android は無視していたのですが、こうなると未知の世界を探索する気分で面白くなってきます。

 もう一つ、お披露目したのはポタ研の趣旨からはちとはずれますが、バランス化した Beyerdynamic T1 と T5p と特製のバランス・アンプです。

 これは実は昨秋のヘッドフォン祭の産物です。たまたま Jaben のブースの対面がオーロラサウンドのブースで、そこにオーロラサウンドが「音松」のブランドで出されているバランス・ヘッドフォン・アンプ・キットの完成品が展示されていました。ウィルソンおやじがこれを聴いてみてたいへん気に入り、自分でバランス化して出している T1、T5p(もちろん公認)と組み合わせることを提案しました。オーロラサウンドの唐木さんがこれに乗ってくれまして、キットをベースに、ケース、ヴォリューム・ノブを上質のものに替え、また部品の一部もグレードアップして、音をバランスド・ベイヤー用に調整したものがこの音松アンプです。

 バランス・コネクタは4ピン・シングルで、別にシングルエンド用端子もあります。また、ゲイン切替も備えています。入力はアンバランス・アナログRCAです。

 バランス化した T1 または T5p と、4ピン・バランス・ケーブル、音松バランス・ヘッドフォン・アンプ、それに CEntrance の DACport をセットにして販売します。セットのみの通販オンリーです。バランド・ベイヤー単体は Jaben のオンライン・ショップでも買えますが、アンプはあちらでもセットのみになります。

 国内でも販売します。実際に販売開始をアナウンスできるのはもう少し先になります。価格は20〜25万円を予定しています。予約は受け付けています。氏名、住所、電話番号、メールアドレスを、こちらまでメールでお送りください。お支払いは PayPal が使えます。春のヘッドフォン祭では試聴できるはず。公式発表もそのあたりになるでしょう。今でしたら「早期予約特価」で申し受けます。

 先週月曜に、急遽出るから頼むと言われてひええと思ったら、やはり満杯だから出ない、ということになってほっとし、いやなんとかなるそうだレッツゴー、でこんなにあわただしい思いをしたのは、もう何年ぶりでした。

 来場者も多く、隣が ONKYO さんで、例の新しいヘッドフォンは興味津々だったんですが試聴できず。結局、トイレに行ったついでにミックスウェーブさんのところで CEntrance の HiFi-M8(ハイファイメイト)をちょっと聴けただけ。これは早期割引につられて予約を入れているので、とにかく楽しみ。あと2ヶ月待ってくれ、と CEntrance のマイケルさんは言ってました。

 それにしても、T5p を首にかけて来てる方が目についたのは驚きました。たしかに "p" が付いているように、インピーダンスやプラグからしてモバイル用を意識した製品ではありますし、Ultrasone の Edition 9 を頭にかけた人を駅のホームで目撃したことはありますが、これも日本ならではの現象でしょうねえ。ニューヨークあたりでは考えられない。

 白状するとバランス化した T1、T5p を聴いてベイヤーをあらためて見直しました。それにバランス化の効果は想像をはるかに超えていて、さらに音松アンプのおかげで、まさに天国、いわゆる "Nirvana" 状態に入れます。たぶんただヘッドフォンをバランス化してアンプにつなぐだけでは不十分で、その効果を十分に引き出すにはアンプとの相性が大事なんでしょう。

 ウィルソンおやじはいま還暦ですが、ヘッドフォンにとり憑かれたのは14歳の時だそうですから、年季は入ってます。コレクションもかなりのもので、かの「オルフェウス」もある由。ベイヤーのバランス化もそういう経験と熱意の賜物でしょう。他にもアレッサンドロの MS1 をバランス化したりしていますし、いくつか公認のバランス化をすすめているものがあるそうです。

 それと『ヘッドフォンブック2012』英語版ですが、なんとか国内でも販売できるようにする予定だそうです。Hippo Cricri M が付録です。"M" は "Magazine" の "M" で、これ用に調整したもの。『ヘッドフォンブック2013』も英語版を出します。春のヘッドフォン祭にはたして間に合うか。間に合ったらご喝采。

 肝心の音楽も、個人的には聴きたいものがあふれていて、Sam Lee が来るというので舞い上がったり、1941年録音の日本の伝統音楽のCD復刻が国内発売されていたり、スーザン・マキュオンの新作がやたら良かったり、ジェリィ・ガルシア・バンドのライヴ・シリーズ第一弾がハイレゾ配信で出たり、もうてんやわんやです。アルタンの旧マネージャーでその前はダブリンの Caladdagh のマスターをやっていたトム・シャーロック編集の THE OTHERWORLD: Musc & Song from Irish Tradition という、CD2枚付きのみごとな本も出てます。これはあらためて紹介したいですが、アイルランド伝統音楽のなかでも、「あの世」、超自然をあつかったものに焦点をあててます。2枚におさめた計40曲のうたとチューンについて、曲とシンガー、演奏者、それに収集家もとりあげて解説したもの。有名な録音もありますが、ほとんどはこれでしか聴けません。すばらしい写真がたくさん入ってます。一家に一冊。

 今朝はまたいちだんと冷え、雪の予報も出てますが、近所では梅が咲きだしました。(ゆ)

 TouchMyApps というサイトにはヘッドフォンのコーナーがあって、セレクションも個性的ですが、内容も微に入り細を穿ったもので、読み応えがあります。その中に GoVibe Porta Tube+ のレヴューがあるのを、最近、発見しました。これはもう「銘器」といってよいかと思いますが、なかなか情報が少ないので、著者の了解を得て邦訳してみました。お楽しみください。なお、元記事には美しい写真がたくさんありますが、著作権の関係でここには載せられません。また、後ろの方に出てくるグラフも同様です。これらは元記事をご覧ください。

Big thank you to Nathan Wright who wrote the oritinal review for his kind permission to translate and put it up here.


PortaTube-iPhone2


 チープなことは悪いことじゃない。ぼくはチープなものを食べて、チープなものを着て、チープな冗談を言っている。もうずいぶん久しい間、Jaben がぼくのまわりに送ってきていたのは、チープなアンプばかりだった。大量生産品だね、アーメン。ところが Jaben はとうとう好みを変えたらしい。いずれ慈善事業にも手を出すことになるんだろう。いやその前にまずは Porta Tube+ だ。iPad/Mac 向けの真空管ヘッドフォン・アンプ兼DAC だ。ブルジョアが聴くにふさわしく、王様にぴったりの音を奏でる。

 どこの王様かって。GoVibe 王国のだよ。

スペック
24/96kHz アップサンプリング DAC:CIRRUS CS4398-CZZ (24/192kHz)
真空管:72 6N16B-Q
USB コントローラ:Texas Instruments TIASIO20B
一回の充電で使用可能な時間:7-10 時間
驚異的な音

 Jaben 製品ではいつものことだが、スペックを知りたいとなると、あちこちつつきまわらなければならない。探しものが見つかることもあるし、みつからないこともある。付属の文書類はいっさい無い。Jaben 製品が使っている DAC チップが何か、まるでわからない。オペアンプもわからない。Porta Tube や Porta Tube+(以下 Porta Tube/+)が使っている真空管の種類然り。事実上、わかることはなにも無い。(セルビアの Zastava のブランド)ユーゴかトヨタの部品を寄せ集めて作った1990年型現代(ヒュンダイ)自動車の車を買うのによく似ている。部品が何か、知っているのは販売店だけだ。ありがたいことに、Porta Tube/+ には良い部品がふんだんに使われている。もうひとつありがたいことに、Jaben はありえないようなスペックをならべたてたりはしていない。ダイナミックレンジが 120dB だとかぬかしているアンプ・メーカーはごまんとある。嘘こくのもいいかげんにしてくれ。いやしくも音楽信号を扱うのに、そんなことありえるか。負荷がかかれば、なおさらだ。

 先へ進む前に、Jaben の Vestamp を覚えているかな。あれも GoVibe だ。GoVibe は Jaben のハイエンド・ブランドだ。そして、こと音に関するかぎり、GoVibe はハイエンドの名にふさわしい。そうでない製品も少なくはないが、たいていはハイエンドと呼ばれておかしくはない。


造りの品質
 アルミ製のアンプというのはどれもこれも皆同じだ。Jaben も例外ではない。そう、前後は4本ずつのネジで留められている。ネジはヴォリューム・ノブにもう1本隠れている。マザーボードは2枚の波形の板にはさまれ、三連 three-cell の充電池がかぶさっている。

 出入力用ポートはマザーボードにしっかりと固定されて、3個のきれいにくりぬかれた穴に首を延ばしている。パワー・スイッチは形がいい。がっちりした金属製で、ぴかぴかの穴から亀よろしく頭をのぞかせる。

 全部で28個の空気穴が世界に向かって穿けられている。上下半分ずつだ。内部は熱くなるから、この穴がなくてはいられない。冬にはあまり頼りにならない懐炉。夏にはまるで思春期にもどったようになる。とにもかくにも、ちゃんと作動していることだけはわかる。

 Porta Tube に傷があるとすれば、ゲイン切替装置だ。こいつは例の8本のネジを延べ百回ばかり回さないと現われない。調節そのものは難しくはない。ジャンパ・スイッチのジャンパを隣のスロットに移すだけのこと。ピンセットか小さなドライバさえあればいい。左右は別々に調節できる。簡単すぎて気が抜ける。ただし、だ。そこまでいくには、フロント・パネルの4本のネジを回してはずし、次にバック・パネルのネジも回してはずし、そしてマザーボードをそっと押し出さなければならない。つまり、百回は回さなければならないわけだ。だいたいそこまで行く前に、バック・パネルにでかでかと書かれた注意書きを見て、手が止まってしまうこともありえる。
 「警告! 高電圧につき、中を開けるな!」
ブザーが鳴ってるだろ。こうこなくっちゃウソだよ。ホント、イタズラが好きなんだから。このブログを昔から読んでる人なら覚えているだろう。Hippo Box+ のツリ用のウエブ・サイト。中身が何もないアレ。ベース・ブーストとゲイン・スイッチの表示が裏返しになっていたヤツでもいい。ったく、笑わせてくれるぜ。

 ジャンパ・スイッチを前の位置に移すとハイ・ゲイン・モードになる。笑いごとではない人もいるかもしれない。いきなりネジ回しを握っても、バック・パネルで諦める人も出てきそうだ。それはもったいない。というのも、Porta Tube と Tube+ のパワーはハンパではないからだ。IEM を使っているのなら、あり過ぎるくらいで、ゲインは低く抑えたくなるにちがいないからだ。最後にもうひとつ障碍がある。ゲイン・スイッチには何の表示もない。初歩的な電気の知識をお持ちなら、プリント回路をたどればおよその見当はつくだろう。電気のことはもうさっぱりという方に、切替のやり方をお教えしよう。

 ジャンパ・スイッチを二つとも動かすと、ゲインは高くなる。ジャンパ・スイッチを「前」の位置、つまり、アンプのフロント・パネルに近づけると、ゲインが高い設定になる。他の位置では、すべて、低くなる。左右のチャンネルはそれぞれ独立に設定できる。左右の耳で聴力に差があるときは便利な機能だ。バック・パネルのジョークを別にすれば、Porta Tube にはイラつくところは何もない。そこにさえ目をつむれば、これはすばらしいアンプだ。これだけ注目されるのも無理はない。

 音量調節はどうかって。すばらしいですよ。つまみやすいし、動きもなめらか。目印の刻み目は暗いところでも、どこにあるか、すぐわかる。


エルゴノミクスと仕上げ
 ブラウザで Porta Tube+ の写真がちゃんと見えるか自信がない。このマシンは美しい。ケースのブルーは両端のシルバーとみごとな対照をみせる。ブルーの LED ライトに比べられるものは、少なくともポータブル・オーディオの世界では他にない。このライトの明るさはそれほどでもないが、夜遅く、暗くした部屋の中では、アンプの正面にテープを貼るか、またはつまらないミステリー小説かなにかでおおっておきたくなるくらいだ。

 いろいろな意味で、美しさというのはごく表面だけのことだ。700ドルの値段が付いているのなら、隅から隅までそれにふさわしくなければならない。フロント・パネルの文字はレーザーで彫られていて、硬化鋼のネジの頭はちゃんと削られて突き出していないでほしい。マザーボードに組立て工の指紋が着いていたり、フロント・パネルにすり傷がある、なんてのも願い下げだ。ゲイン・スイッチを切り替えるにはバック・パネルを開けるしかないのに、そこには「開けるな」と書いてある、なんてのもないだろう。GoVibe Porta Tube+ ではそういうことが体験できる。それもパッケージのうちだ。これにそれだけ払うだけの価値があるかどうかの判断はおまかせする。

 もっともデコボコはあるにしても、プラスもある。もう一度言うが、ヴォリューム・ノブのなめらかさは完璧だ。入出力のポートの間隔も十分で、でか過ぎるヘッドフォン・ジャックやケーブルでも余裕で刺せる。もう一つ、ヘッドフォン・ジャックが二つ付いているのも大きい。スタンダードとミニと二つ並んでいるから、音量を変えないまま、同じ音源を二つのヘッドフォンで聴ける。Porta Tube も Porta Tube+ も、少々のことでは動じない。中を覗けば、洗練にはほど遠いかもしれない。しかし、全体としては、Porta Tube+ はけっして口下手ではない。


特長
 バッテリーの保ち時間は7〜10時間、充電機能内蔵、6.3 と 3.5ミリのヘッドフォン・ジャックを装備し、それに、外からは見えないスイッチでゲイン調節ができる。Porta Tube も Porta Tube+ も、本来の機能でがっかりさせることはない。Porta Tube に700ドル出すことで、手に入るのは大馬力だ。Porta Tube と Porta Tube+ をもってくれば、ヘッドフォンの能率やインピーダンスは関係なくなる。バランス出力や静電型ヘッドフォン用ではないが、それはまた話が別だ。

 + が付く方は 24/96 をネイティヴ・サポートし、192KHz までアップサンプリングする。コンピュータで音楽を聴いているなら、これだけで買いだ。ヴォリュームの位置がどこにあっても、ノイズは比較的少ない。これだけで National アンプ をしのぐ。そして、VestAmp+ を上回るパワーを出力ポートに注ぎこむから、耳が痛くなるような音量で鳴らしても、ヘッドフォンの音が歪むことはない。そうそう、あらかじめことわっておく。Porta Tube の音はでかいぞ。


音質
 Porta Tube を初めて聴いたのは新宿のカレー屋だった。耳には頼りになる Sleek Audio CT7  をつけていたのだが、自分の顔が信じられないという表情になるのがわかった。Porta Tube の 3.5mm ジャックに伸ばした手は、何十種類ものアンプに何百回となくプラグを刺しこんだものだ。その手も、昔は一刻も早く音を聴きたくて、震えていた。んが、その日は別に特別な日ではなかったし、目の前のアンプに大いに期待してもいなかった。Tube+ も他のアンプと変わるところはない。最初は背景ノイズのテストだ。指がヘッドフォン・ジャックにプラグを刺しこむ。ヴォリュームをゼロに下げる。スイッチを入れる。ノイズはない。適切な音量になるはずの位置まで回す。ノイズはない。ヴォリュームをいっぱいに回す。ようやくノイズが洩れてきた。だが、聞こえるか聞こえないか。たぶん、こりゃカレーのせいだ。

 それが今年の1月。

 それから約5ヶ月後。届いたばかりのアンプを机に置き、窓を閉めきったぼくは唸ってしまった。これだけの馬力を持つアンプとしては、Porta Tube+ のノイズはこれ以上小さくはできないだろう。音量ゼロの時のノイズとフル・ヴォリュームの時のノイズの差はごくごく小さい。というよりも、フルの時の Porta Tube+ のノイズは The National が4分の1の音量の時に出すノイズよりも小さい。こりゃあ、たいしたもんじゃないか。

 IEM 専用アンプなら、Porta Tube+ よりノイズの少ないものはいくらもある。だけど、そういうアンプで 600オームの DT880 のようなヘッドフォンを、耳がつぶれるくらいの音量で、いっさいの歪み無しに鳴らせるようなものはまずない。

 これがどれほどたいへんなことか、おわかりだろう。IEM ユーザは苦労している。HiSound が作った、あのピカピカのゴミと、ソニーがラインナップしているりっぱなウォークマンのなりそこないを除けば、ポータブルの MP3 プレーヤーのノイズはどれもごく小さいから、その音の質を上げるはずのポータブル・アンプのノイズの方が大きいのだ。Porta Tube+ も例外というわけではない。けれど、音量を最大にしたときですら、ノイズは驚くほど小さい。異常なくらいパワフルだが、これを IEM ユーザにも薦めるのは、何よりもそのためだ。

 日本では、Cypher Labs AlgoRhythm Solo か Fostex HP-P1 に外部 DAC、アンプ、それに場合によっては信号スプリッターまで重ねて持ち歩いているマニアがたくさんいる。そこに Porta Tube+ を入れているいかれた人間も少なくない。

 もちろん問題はノイズだけじゃない。ダイナミック・レンジはどうだろう。それに空間表現も大事だ。Porta Tube シリーズの中域と高域はすばらしい。明るく、張りがあって、奥行が深い。これまで聴いた中では、タイプに関係なく、こんな明晰なアンプは他にない。明るいといっても、ぎらついたところや刺さるようなところは皆無だ。どこまでも透明で、解像度も高い。楽器の分離もすばらしく、ことに中域、高域ではっきりしている。フルオケよりは小規模コンボの方が位置関係がよくわかる。どんなヘッドフォンと組み合わせても、一つひとつの楽器の位置が手にとるようにわかる。ただ、中低域から低域にかけて、ほんの少し、にごる。このにごりと真空管特有の歪みのおかげで、温かくやわらかい音になる。

 このアンプはエネルギッシュで明るいという一方で、これはまた人なつこい音でもある。音楽性のとても高いこの二つの特性が合わさって、GoVibe Porta Tube の音は蠱惑的といっていい。

 明るさというのは、真空管特有の歪みにもめげず、高域がはっきりくっきりしている、というのが一番あたっているだろう。どんなイヤフォン、ヘッドフォンを刺しても、聞こえてくる音は実にきれいだ。高域を削ってしまうような信号やノイズをぼくは嫌いだというのは、このサイトをお読みの方はご存知と思うが、ぼくはとにかく高域に弱い。そのぼくにとっては、中域から高域へのつながりが完璧ということで、Porta Tube+ に比べられるものはなかなかない。マッシヴ・アタックの〈I Spy〉でのシンバルは、微妙な綾まで生々しい。音像は正確だ。頭の前方から出て、ゆっくりと包みこみ、後ろへ抜けるが、遠すぎもしない。つまり、中くらいの広さの部屋で、きちんとセッティングしたスピーカーで聴いている具合だ。焦点はスピーカーのドライバーにぴったり合っている。けれど、壁や家具からの微妙な反射が忍びこんで、ごく自然に硬いところがほぐれてるのだ。

 念のためくりかえすが、真空管特有の歪みと、中央にまとまって押し出してくる低域はむしろプラスに作用している。聞こえるのは、どこまでもなめらかで、ほんの少しやわらかく、気持ちよく伸びている音だ。インピーダンスの低いグラドでも完璧にドライブしてくれる。グラドでライヴの生々しさを感じとりたいと願っている向きは、Porta Tube をガイドに立てればまったく不満はなくなるだろう。ぼくのような、表情が豊かで音場の広い DT880 の大ファンにとっても、これはうれしい。DT880 はときどき高域がきいきいいうことがあるが、それがぐっと抑えられて、しかも他のアンプを通すよりもみずみずしくなる。デスクトップのシステムよりも官能的にすらなる。Porta Tube+ は、あまりに真空管真空管していないからだ。

 オーディオにはまりこんで20年になるが、その間に聴いたうちでは、Wood Audio WA3+ が、一番真空管らしい音のヘッドフォン・アンプだった。人なつこさではとびぬけているが、代償も大きい。持っているうちで、これで聴きたいと思うヘッドフォンは半分もない。Porta Tube はそれとはまるで正反対だが、良質の真空管アンプのやわらかい音は健在だ。

 音楽にもどろう。Protection のタイトル・トラック〈Protection〉では、低域ど真ん中のベースが重く正面に立ち、ドラム・マシンがシンプルにきざみ、まるで気のない女性ヴォーカルがのる。その後のトラックはどれも同じように始まるが、男性ヴォーカルが加わり、ベース・ラインはさらに重く低くなる。今度は気合いのこもった、コクのある女性ヴォーカルがゆっくりと入る。ジャズか、マッシヴ・アタックがプロデュースしているようで、リスナーはその魔法から逃れられない。これは、前にも書いたにごりのおかげだろうか。だとしても、それだけではなさそうだ。原因はもうどうでもいい。DT880 と組合せても、CK10 と組合せても、K701 が相手であってすら、Porta Tube はこの録音が秘めている艶をあますところなく描きだす。

 上にあげたのはどれもハイエンド・モデルだ。Sennheiser HD650、HD600、Fischer Audio FA-002W といった中堅どころも、Porta Tube に組み合わせる次点候補にちょうど良いだろう。これが高域のディテールを完璧に再現してくれることはもう一度念を押しておくが、その音はソリッドステートのアンプに比べれば、ほんの少しやわらかい。それをにごりと言うか、歪みと言うかは微妙なところだ。今あげた中堅モデルもこのアンプとよく合うだろう。ただし、これらのヘッドフォンのもつ、やや暗い、囲いこむような性格がいくらか強く出ることもあるかもしれない。

 このアンプには人を中毒にさせるところがあるから、一番のお気に入りのヘッドフォンでじっくり試聴されることを薦める。2、3分でも聴けば、いや2、3時間でもいいが、聴いてしまえば、この青くてかわいいやつを抱え、財布の方はだいぶ軽くなって店を出ることになるのは、まず確実だ。それだけの価値はある。


グラフについてのおことわり
 このレヴューにつけた RMAA のグラフには、iPod touch につないで、Beyerdynamic DT880 と Earsonics SM2 を鳴らした際の違いがあらわれている。ぼくの手許の装置で測っているから、他の装置で測ったデータと直接比べても意味はない。このデータはアンプのヘッドフォンやスピーカーのドライブ能力を示している。


周波数特性
 どんなヘッドフォンをもってきても、Porta Tube/+ は高いレベルの解像度で鳴らす。SM2 は質の劣るアンプだとありとあらゆる形の歪みを聴かせてくれるが、Porta Tube では何の悪さもできない。低域と高域の端が少し落ちているのがおわかりだろうが、これは元々の音楽信号がそうなっているので、アンプのせいではない。Porta Tube のせいで現われるような小さなレベル(-1.5dB)は、犬の耳でも持っていないかぎり、わからないはずだ。

負荷ノイズとダイナミック・レンジ
 Porta Tube+ のダイナミック・レンジは 90.5 dB で、CDクオリティに 6dB 足りない。ノイズ・レベルは −90.5 dB で、やはりCDレベルに届かないにしても、これはひじょうにクリーンだ。なんといっても真空管アンプなので、一筋縄ではいかない歪みとノイズが真空管の魅力を生んでいるのだ。

  真空管アンプのメリットのひとつはここにある。それで得られるのは安定した、気持ちの良い歪みで、しかも音源には左右されない。この歪みはやわらかいとか、心地良いと呼ばれることが多い。どちらもその通りとは思うけれど、Woo Audio 3 の場合とはわけがちがう。GoVibe Porta Tube の音は普通のアンプにずっと近く、ソリッドだ。入力でも出力でも歪みははるかに小さい。それでもリングはあるし、かわいらしいしみもあちこちにある。真空管の常として IMD も THD も高い。

スケーリング
 Porta Tube+ は VestAmp+ と同じ規則にしたがう。USB 入力からの信号が一番小さい。ポータブル音源からのライン入力は USB より大きい。デスクトップまたは AlgoRhythm Solo のような質の高いポータブルからの入力が一番大きく、ノイズも少なくなる。

 このアンプの増幅率はとてもいい。DT880 600Ω のようなヘッドフォンでも、入力がしっかりしてゲインが低いから、フェーズエラーはほとんど起こさない。ハイ・ゲインにするとフェーズエラーは増えるが、増えるのはとんでもなく大きくて危険な音量での話で、そんな音量で聞こうという人はいないはずだ。Porta Tube はパワーの塊だと言えば十分だろう。ALO の National とならんで、デスクトップのアンプとまったく遜色ない。

DAC として使う
 ここ2、3年、USB オンリーの DAC が花盛りだが、ぼくはあまり好きではない。ひとつには USB DAC ユニットの実装がライン入力のそれに比べると劣るからだ。実際、Porta Tube+ はライン入力の時に最高の力を発揮する。チャンネル・セパレーションも良くなり、ノイズ・フロアも低く、ダイナミック・レンジも広くなる。

 とはいえ、コンピュータとつなぐときには威力を発揮する。いやらしい USB ノイズはまったく聞こえない。プラグ&プレイも問題なく、MacBook Pro につないだとたんに認識される。USB モードでは、デスクトップを音源にする時より出力がかなり低くなる。IEM ユーザーにはグッドニュースだ。もっとも出力が低くなるとはいっても、これまでつないだヘッドフォンでパワーが足りないなんてものはひとつもない。

 面白いことに、USB 入力とライン入力は同時に使うことができる。ということはライン入力と USB 経由の音楽信号は Porta Tube+ 内部を平行して流れ、、同時に出力されているわけだ。どちらかだけを聴く時は、使わない方のソースは忘れずに抜いておこう。

iPad で使う
 Porta Tube+ を iPad 用 USB DAC として使うこともできる。ただ、ぱっとみて使い方がわかるというわけではない。iPad の USB から出力される電圧では Porta Tube+ 内蔵の DAC を動かすには足らない。これは内蔵バッテリーで動いているわけではないからだ。DAC を動かすには Porta Tube+ 付属の電源アダプタをつなぎ、 iPad をカメラ接続キットにつないでから Porta Tube+ につなぐ。つなげばすぐに使えるし、音も他と変わらずにいい。ただ、ポータブルにはならない。

 Porta Tube+ はデスクトップと言ってもいいくらいのものだから、携帯できないことはそう大きな問題ではないだろう。ただ、純粋なバッテリー駆動でクリーンな音が欲しい場合には、iPad では無理だ。ノートでは Porta Tube+ は電源につながなくても使える。

ポータブル・アンプとして使う
 正直言って Porta Tube/+ は相当に重い部類のアンプだ。かさばって、重くて、しかも熱くなる。それでもカーゴジーンズもあるし、アンプ・バッグも、肩掛けかばんもある。内蔵バッテリーは7〜10時間もつということは、このアンプさえ持っていれば、日中はだいたい用が足りるわけだ。おまけに背景ノイズは低くて、ヴォリューム・ノブのバランスもとれているとなると、能率のよいイヤフォンがあればばっちり、ということだ。

 実際、SM2 を鳴らしても、DT880 を鳴らしても、歪みや IMD は変わらない。何を刺しても、聞こえる音は同じだ。これができるアンプはめったにあるもんじゃない。Porta Tube+ は合わせるイヤフォンを選ばない。こいつはちょっとしたもんだぜ。

 少しばかり重くなることがイヤでなければ、ポータブル・オーディオとしては Porta Tube 以上のものはない。


結論
 ALO と Vorzuge という手強い競争相手はいるが、ポータブル・アンプとしてぼくは Porta Tube+ を選ぶ。闊達で人なつこいサウンドは、たいていのヘッドフォンと完璧なペアになるし、明るくてディテールを追及するタイプのヘッドフォンと組み合わせると、特に騒ぐこともなく、その実力を十二分に引き出してくれる。ご開帳ビデオで Jaben がグランプリをとることはないだろうが、連中はそれを目的にしているわけじゃない。目的を絞って、かれらはホンモノの、世界でもトップクラスのヘッドフォン・アンプ/DAC を生み出してみせた。見る目のあるオーディオ・マニアなら、これに目を丸くしないやつはいないにちがいない。


プラス
*とんでもなくパワフル
*すばらしく細かいディテール、やわらかいサウンド
*イヤフォンを選ばない
*色が美しい
*つなぐ装置をグレードアップすれば、それだけ良くなる

マイナス
*いただけない仕上げ
*無理難題な警告
*スペック、アクセサリー、マニュアルいっさいなし


 ということで、ご注文はこちらへどうぞ。

 あらためて、ご来場、ありがとうございました。ぼくは単なるヘルパーですが、それでもやはりいろいろな方が立ち寄られて、試していただくのは嬉しいものです。喜んでいただけるとなお嬉しい。

 今回は Jaben の目玉としては Biscuit でした。小さくて、ハイレゾ対応でもないし、派手な話題には欠けたかもしれません。ですが、デジタルでこそ可能なテクノロジーを注ぎこんで、音楽を楽しく聴ける安価なツールです。ハイレゾ対応の高音質プレーヤーが花盛りのご時世にこういうものを出してくるあたりが、ウィルソンおやじの端倪すべからざるところだと思います。

 Biscuit は本来はスポーツをしながら、とか、音楽だけに集中するわけではないシチュエーションでも音楽は欠かしたくないリスナー向けに造った、とおやじは言っています。そういう時にはディスプレイを見るわけではないし、頻繁に操作をするわけでもない。ですから必要最小限のミニマルな機能にする。だけど、音質では妥協せず、鳴らすべきものはきちんと鳴らす。

 実はウィルソンおやじの音に対するこだわりはかなりのもので、客の求めるものは別として、売るものは相当選んでいます。GoVibe を買ったのも、オリジナルの音が好きだったからでしょう。ですから、その後の GoVibe の展開でも、いろいろなタイプを試みてはいますが、音では一貫して一定の質を守っています。

 そのポリシーをオーディオ的にいえば、ローノイズでクリーン、色付けをせずフラットだけど暖かく、十分なパワーがある、というところでしょう。一番重視しているのはローノイズらしい。今回の祭で一番気に入ったのはマス工房のものだったようです。おやじが気に入っていたというので、俄然気になってきました。

 パワーといえば Biscuit はあのサイズにもかかわらず、並べて展示していたベイヤーの H5p のバランス仕様も余裕で鳴らせました。LCD3あたりで試してみたいところ。フジヤや e-イヤホンで試聴できたっけ。

 またミニマルな機能の故に、かえってリスニングに集中できるところもあります。iPod のおかげで、音楽を聴きながら、プログレス・バーが伸びていくのを見るのがあたりまえになってしまっていた、と、Biscuit を使って初めてわかりました。

 サイズもポイントで、その気になればヘッドフォンのヘッドバンドにマジックテープなどで付けることもできます。あんまりカッコよくはないかもしれませんが、iPod やあるいは AK100 や HM901 ではそういうマネはできんでしょう。

 もちろん欠点はいろいろあります。というより、一面から見れば欠陥だらけ。なにしろ再生の順番のコントロールができない、というのは正直ちょと困る。これはなんとかしてくれ、と何よりも強調したことではあります。例えば、PC側のファイル操作でアルバム単位あるいはミュージシャンやジャンル単位だけででもできるとありがたい。

 諸般の事情というやつで、今のところは Jaben のオンライン・ショップでお求めください。

 とまれ Bicuit は好評で、試聴された方はたいてい驚かれていました。

 今回はプレスの方も結構立ち寄ってくださいました。Barks の烏丸編集長も前回に続いて見えましたし、サンフランシスコから来たというトリオがオープン早々に来ました。このトリオは日系とヨーロッパ系の初老の男性二人に、髪を赤く染めたやはり東アジア系のお姉さんという取合せで、なかなか目立っていました。Phile-web の方も全部のブースを一つひとつ回られていたようです。e-イヤホンの岡田氏にもお眼にかかれました。秋葉原のお店に行ったことはありますが、姿はお見かけしませんでした。ただ、あの店は徹頭徹尾若者向けの造りで、あたしのような老人には長くはいづらいところがありますね。

 ブース以外の仕事があって、両日とも、午後、ブースからはずれたり、二日めの午前中は暇だったりしたので、他のところも試聴することができました。

 斜め後ろがコルグさんで、これから出るという新しい DAC/アンプを聴かせてもらいました。PCからDSDを直に鳴らすもので、まるで別世界。かぎりなく無色透明に近く、ヘッドフォンによってまるで音が違ってきます。ヘッドフォンの性格も剥き出しにします。音源の違いも出るでしょう。ある意味、恐しいハードです。音や音楽の本質をストレートに伝えてくる。一方で、夾雑物を削ぎおとして本質だけを抽出するところもあって、長く聴いているとくたびれるかな、とも思いました。アルバム1枚分くらいは聴いてみたい。

 サイズはコンパクトですが、本当はもっと小さくもできるそうで、ぼくは小さければ小さいほど良いと思いました。デジタルの強みの一つはそこでしょう。

 問題は Mac では今のところ事実上対応できないのと、音源のファイル・サイズが巨大になること。5.6MHz だと1GB で20分強というのでは、あたしの程度のライブラリを収納しようとしてもデータセンターが必要になります。

 まあ、あたしが聴きたい音源で DSD 録音はまだほとんど無いので助かってます。

 中村製作所の「パッシブ型ヘッドフォンコンディショナー AClear Porta」は、Elekit の i-Trans と同様のものかと思います。音は良くて、電源がいらないというのも魅力。ですが、円筒の形では、iPod などと一緒に持ち歩くのには不便。それを言ったら、即座に「わかってます、わかってます、事情があってその形になってるんです」という返事が返ってきましたから、その「事情」にはユーザー側の都合は入っていない、ということでしょう。それと9,800円という価格は高いと感じました。とはいえ、電池などが要らないというのは、長期的には安くなるかな。

 筋向いの Agara は100万円というヘッドフォン・アンプでした。試聴したのは PC で再生していたビートルズの〈Penny Lane〉。驚いたのは、この曲はおそろしく細かくいろいろなことを背後でやっていたこと。効果音というには手がこみすぎ、伴奏というには断片的すぎる音が、それも大量に入っているんですね。それが、いちいち耳に入ってきます。聴きとろうとしなくても自然に入ってくる。分解能が高いとか、もはやそういうレベルではない。すみずみまで見通しがきいて、しかもそれぞれが本来の位置とウエイトで聞こえる。凄いとしか言いようがない代物です。

 ですが、ではそのリスニングが楽しいか、と言われると、ちょっとためらいます。細部があまりに多すぎて、肝心のポールのヴォーカルが薄れてしまうのです。うたがうたとして聞こえない。細部の集合に聞こえてしまう。それぞれの細部は生きていても、全体は有機体として響いてこないのです。音はすばらしいが音楽ではない、というと言い過ぎかもしれませんが、そう言いたくなる。たとえば、ほぼ完璧に相手打線を抑えこむのだが、いつも1対0で負けるピッチャー。あるいはどんな場面でボールを受けても確実にゴール前まで持ちこむが、シュートは必ず外すフォワード。

 もちろん1曲だけの試聴では本当の全体像は見えないでしょう。そういう意味ではああいうイベントは、こういうのもあります、ということを示すためのものなのでしょう。実力は別の機会に、あるいは半年ぐらいかけて、いろいろなタイプの音楽、ハードとの組合せで聴いて初めてわかるものかもしれません。

 面白かったのはハイ・リゾリューションが出していた Focusrite の、それもメインの Forte ではなく、VRM BOX。ほんとうに掌にのせられるサイズながら、ソフトウェアとの組合せで、いろいろなタイプのスピーカーやシチュエーションの音をシミュレートするもの。本来はスタジオでエンジニアが使う機能なのでしょうが、これがなんとも楽しい。同じ音源が、いろいろな音に変わるのです。当のハードを買わなくてもシミュレーションでここまでできてしまう。デジタルの醍醐味ここにあり。むろん、DAC でもあって、すっぴんの音も立派。5,000円でこれだけ遊べるのは安い。

 Scarlett 2i4 は調子が悪くて聴けなかったのは残念。

 ゼンハイザーの発表会のために来日していた技術部門の責任者へのインタヴューに立ち合う機会があったんですが、IE800 はあまりの人気に試聴のチャンスはありませんでした。ただ、マスキング効果の対策を施したというところはたいへん興味深く、どこかで聴いてみたいです。というのも、やはりマスキング効果に注目して対策を施した音茶楽の Flat4粋を愛用していて、大のお気に入りであるからです。

 インタヴューの後で音茶楽のことを伝えたら興味を惹かれたらしく、後で音茶楽のブースに行かれて試聴し、たいへん感心していたそうです。技術は違うが目的は同じなので、音茶楽の山岸さんもゼンハイザーが入ってきたことで喜んでおられました。

 ゼンハイザーの方はやはりお好きなのでしょう、会場をひとまわりして熱心に試聴していました。ぼくは不在でしたが、Jaben のブースでは Porta Tube+ がえらく気に入ったそうで、ウィルソンおやじは最後に展示品をかれに贈呈していました。

 音茶楽の新製品 Flat4楓も試聴させていただきました。ヴォーカルや弦のなめらかさに一段と磨きがかかって、なんというか、吸いつくような感じはちょっとたまりません。ただ、粋もまだエージングが十分ではないし、今はあのカネは用意できないので、涙を飲んで見送り。まあ、粋でも滑らかさはハンパではありません。その意味では、IE800 や Ultrasone IQ の価格をみても、粋はほんとうに安い、お買い得だと思います。

 その IQ は試聴できました。Ultrasone は 2500 と iCans を入手して使っていましたが、今ひとつ合わなくて、結局どちらも売ってしまいました。けれど、IQ は良いと思います。すなおな中にもはなやかさがあって、ずっと聴いていたくなります。また、遮蔽性が高いにもかかわらず、耳の中で存在を主張しません。その点では ACS のものがこれまで一番でしたが、IQ は入っていることを忘れられます。また、社長が強調していたように、外に筐体が出っ張らず、入れたまま枕に頭を付けても邪魔にならないのもうれしい。

 ウィルソンおやじは月曜に来日して、あれこれ商談をしていて、ヘッドフォン祭は今回の来日の仕上げみたいなもの。直前には RMAF にも行き、この後は韓国、バンコックを経て帰るので、まだ途中でしょう。店舗も20を超えて、本人は、悪夢だ、と嬉しい悲鳴というところ。製品開発の方面でも、いくつか面白そうなプロジェクトがあり、次回の祭にはいくらか紹介されるのではと期待しています。

 今回は RudiStor の Rudi さんは来られませんでした。ヘッドフォンの新作 Chroma MD2 は聴いてみたかったんですが残念。ブースでご質問もありましたが、RudiStor の製品は公式サイトのオンライン・ショップで購入可能です。クレジットカードも使えます。価格は送料込みです。FedEx で送られますから、1週間ぐらいで着くでしょう。

 今回は初めてスタッフのパスをもらえるというので、開場前に会場入りしました。9時半頃でしたが、もうお客さんが並んでいました。

 お客さんでめだったのは子連れが多かったことです。これまでのヘッドフォン祭では見た覚えがありません。今回、いきなりどっと来た感じ。当然、迷子もありましたし、眠ってしまった子どもをかかえて階段に座りこんでいるお母さんもいました。次回からはこの辺の対策も必要ではと拝察します。女性だけのお客さんもさらに増えていて、そのうち臨時保育所も設けなければならなくなるかも。

 これも含めて、マニアではない、一般のお客さんも確実に増えて、客層は広がっています。

 ただ、こういう爆発的な拡大は、一方で怖い側面もあります。デジタル時代の性格の一つとして、ドーンと爆発してあっという間に消えるというのがあります。たとえば任天堂の Wii の失速などはその典型です。イヤフォンも含めたヘッドフォンとその周辺機器の世界はまだまだ規模が小さいですし、ゲーム機器よりは客層が多様でしょうから、ああいう悲惨なことにはならないような気もしますが、安心はできません。調子の良い時ほど、地道にヘッドフォンならではの魅力を伝えることに精を出すべきでしょう。メーカーやディストリビューターは、地に足のついた製品を供給することに意を用いていただきたい。

 とまれ、実に刺戟の多い、楽しい二日間でした。刺戟が多すぎてくたびれもしました。個人的には、これを受ける形で、もう少しおちついた環境で、腰を据えてあれこれ試聴した上で購入できる場が欲しいところです。今のところ、その点ではダイナミック・オーディオ5555でしょうか。(ゆ)

まずは、「ヘッドフォン祭 2012秋」で Jaben ブースにお立ち寄りいただきました皆さま、まことにありがとうございました。

 ウィルソンおやじからも、心より御礼申し上げる、とのことであります。

 今回は初めて晴れてスタッフのパスをもらいましたが、ブースの他にも仕事があり、両日ともブースからはずれている時間がありました。おかげで、初めて、少しは他の展示を見たり、試聴などする余裕もできました。

 ということでいろいろあったんですが、まだくたびれていて、個人的な印象などはまた後日。

 とりあえず、Hippo Biscuit と GoVibe MiniBox は大好評で、国内正式販売も近いか、という勢い。気になる方はフジヤエービックさんやeイヤホンさんやダイナミック・オーディオ5555さんはじめ、おなじみのお店にリクエストしてみてください。

 すぐ欲しいという方は Jaben のオンライン・ショップでどぞ。Biscuit はまったく同じサイズの Cricri とのペアで買えます

Mini Box 2012 edition

 今回は新製品は少なかったんですが、来年はまたいろいろ新しい動きもあると思います。「ブーム」に浮かれずに、地道にコツコツと楽しみましょう(笑)。(ゆ)

 ご来場、ありがとうございました。

 Jaben ブースの Biscuit はおかげさまで完売しました。MiniBox はシルバーが2個あります。

 明日は予約を受け付けます。予約された方には会場特価で販売します。

 バランス仕様の Beyerdynamic T1 と T5p については、ウィルソンおやじの提案により、小生が預り、販売した上、売上をチャリティに寄付することになりました。販売の方法、寄付先などは後日、当ブログでお知らせします。

 ちとくたびれました。明日もあるので、今日はもう寝ます。

 では、また明日。(ゆ)

 Jaben がらみでもう一つニュース。

 『ヘッドフォンブック2012』英語版が出ます。ウィルソンおやじがこの本に惚れこんで、ぜひ出したいというのでわざわざ出版部門をつくった由。あの本をまんま英語にしたものです。プラス独自記事も少しあります。

 日本語ネイティヴにはあまり用はないかもしれませんが、付録が違います。Head-Fi が David Chesky とつくったバイノーラル録音のCDが付きます。

 それにヘッドフォン、イヤフォンで英語を勉強したい、という向きには絶好の教材です。母語ではない言語を学ぶには、関心のあることを題材にするのがベストです。

 なお、今回だけでなく、これから毎号、『ヘッドフォンブック』が出るたびに英語版も出ます。次からはもう少し日本語版との時差が縮まるはず。

 刊行は12月中旬。日本で入手できるかはまだ未定ですが、各種オンライン・ショップには出るはずです。オンラインはどーしてもヤダ、という方はフジヤさんに圧力をかけてみてください(^_-)。(ゆ)

 明日、明後日の「ヘッドフォン祭」では、Jaben のブースで Hippo Biscuit と GoVibe MiniBox を数量限定で販売します。

 価格は各5,000円。

 にこにこ現金払いでお願いします。領収書発行はご容赦ください。

 Biscuit は 99USD、MiniBox は59USD が本来の価格ですから、これはもってけどろぼーの類。特に Biscuit は「原価割れ」(^_-)ですね。

 その場で試聴もできます。Biscuit はマイクロSDカードしか使えませんので、試聴したい音源がある場合はマイクロSDカードに入れてご用意ください。サポートしているサウンド・ファイルは MP3 と WAV のみです。カードのフォーマットは Windows の方が無難でしょう。Mac は Windows フォーマットのカードも読み書きできます。ウィルソンおやじは Chesky Records が出しているバイノーラル録音を入れたカードを持ってくるそうです。(ゆ)

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